48 / 279
幼少期編:王国 大改修中
海岸線で
しおりを挟む
ーーーこの世界での海とは人間のものではない。
支配権を握っているのは陸の生物ではなく、海で暮らす者達だ。
この世界ではそもそも人類の、というより陸に住む生物の大多数は、海に出る事を許されていない。
それは海に住む亜人種達の影響によるものだ。
王国周辺の海には、長い時を生き続け単体としては海の中でも強者に分類される海老種と、巧みな魔法と様々な効果を付与する歌声を操る深海種が住み着いている。
この二種族が王国周辺の海域を制圧しているため、気安く海に出る事も出来ないのだ。
とは言っても海産資源は両種族と結んでいる契約のおかげで安定して供給できるので、海老種や深海種とは王国もそこまで仲が悪いわけでも無い。
だがだからといって取引先であるだけで海岸沿いに街が作れるほど仲が良いわけでもなく、完全に人の手のつけられていない海岸沿いを歩きながら、エルピスはフィトゥス達が到着するのを待つ。
波風が久しぶりに頬に当たり、前世以来の感触にエルピスは目を細める。
優秀な彼らのことだ、あまり待つ時間は必要ないだろう。
そう思っていたエルピスの思いが通じたのか、複数の砂を踏む音が聞こえる。
「ーーここでしたかエルピス様」
一番最初にエルピスに対して声をかけてきたのはフィトゥスだ。
普段とはまた違った装いの彼は黒い大きなコートを着用しており、対魔法用の術式が組み込まれているのが確認できる。
暗闇に紛れるフィトゥスの姿はさながら悪魔そのもので、事実そうなのだが普段とは違う雰囲気の彼に、エルピスはいつも以上の心強さを感じていた。
もちろんそれはフィトゥスだけではなく膝をついてこちらを見つめるアルヘオ家の僕達全員に当てはまるのだが。
「どうやらみんな揃っているようだね、敵のおおよその位置は分かった?」
「もちろんです。敵は二手に分かれており片方は我々で既に潰しております、銃など確認できましたのでアウローラ様を襲った方はこちらの部隊かと。残りの敵は海老種の支配海域であるええっと……ここですね」
フィトゥスが腰の辺りに付けていた地図を取り出し、エルピスに見せるようにしながら指を移動させていく。
小さな孤島が連なる辺りに指を持っていくと、フィトゥスが不意にピタリと手を止める。
数十個ある島の内の大体中間地点ほどであり、おそらく敵はここで一旦休息を取っているのだろうという事が分かった。
「エルピス様。イロアス様やクリム様もこちらに向かっているとの事ですので、少し待ってから出撃した方がよろしいかと」
「悪いけどその案は却下だリリィ、敵の居場所が分かった以上一秒たりとも無駄には出来ない」
「ーーですがエルピス様、敵がどの様な能力を持っているのかも分からないのに闇雲に突撃しては、犠牲者が出る可能性があります。いくらエルピス様の頼みと言えそれは承諾しかねます」
この場所は王国の端であり、この先には人間の国は無い。
言わばここはまだ人類生存可能領域と呼ばれる範囲だ、ここから先には人類が生存できる保証など何一つなく、そしてそれは亜人種も同じだ。
だが逆に言ってしまえば普段は周りに被害が及ばない様にと制限している神の力も、この先の領域ではためらう必要がないのだ。
いまはまだ一つしか開放出来ない神の力、だが一つだけでも足りるだろうと思っていたエルピス対してのリリィの反論は戦士として正しい。
正確にいうのならばリリィはエルピスが神の称号を持っている事は知らないので、戦力について正当な評価ができているかと聞かれれば疑問点は残るが、行っていることに関して言えばエルピスに反論できる要素など一つもない事は誰の目にも明らかだ。
その目からは何がなんでも行かせないという意思を感じ、エルピスは渋々一人で行くのを諦めてその場に座り込む
「分かったよ……父さん達は後どれくらいでこっちに来るの?」
「予定では後二分貴族向けの演説が有りますので、三分もすればこちらに来るかと」
「演説終わって一分でここまで来るの!? ならそれまでに出来ることはしておかないとな」
いくら四大国と呼ばれる国に比べれば小さいとはいえ、王国は数ある国の中でもかなり大きい部類の方に入る国だ。
その国の首都からこの辺境の地まで1分足らずで来れる両親の力は、やはりエルピスをしても測り知る事はできない。
ただ一つ言える事は、そんな両親は言うまでもなく頼りになる。
たった三分とはいえ時間を無駄にすることなどできるはずもなく、エルピスは目の前にいる召使達に指示を飛ばす。
「まず三人ほど海に住んでる奴らに手出ししてこない様に言ってきて。ええっと、そこの君と君、あと君が行ってきてくれ頼んだ。もし面倒な事を言い出す様なら僕が後で直接出向いて話つけるからとりあえず時間を稼ぐだけでいい」
「「了解しました」」
「次は今回の件に関わった王国貴族に対しての制裁だけどーー」
「ーーその件に関しまして既に調べが付いております。リストは既に作成し、アルヘオ家の情報網で回しています」
「ならそれをアルさん達近衛兵に。こちらは任せて反乱の芽を摘む様言って来ておいて」
ああ、優秀な部下のなんと素晴らしいことか。
言わずともこちらの指示を事前に把握し行動、そして結果だけを伝えてくれる。
さすが父と母の元に集った人達であり、だからこそエルピスも安心して仕事を任せる事ができる。
王国内でこの件に関わった貴族は明日の朝にはおそらく家財も奪われ良くて追放、下手をすれば投獄あるいは死罪だろう。
元より今回の件に関わった人物は全員身包みを剥いで死ぬより辛い目に合わせようと決心しているので、そいつらがどうなったところでエルピスの知るところではない。
「ーーさて、これで一通り必要なところに人員が回っている事は把握できたし次の話に移ろう。どうやらここから〈技能〉を使用して探った結果敵は六十八人で来てるようだ」
「六十八ですか、どうやら数だけは一丁前な様ですね」
「こら、僕が言えた義理じゃないけれど、油断するんじゃないフィトゥス。相手の強さは元から計画網を知っていたとはいえ王国の宮廷魔術師達が作った包囲網を突破するレベル、それを頭の中に入れてーー」
「ーーすいませんエルピス様……」
「どうしたリリィ?」
「先ほどの話に矛盾するようなので言いづらいのですが、この場にいる全員が宮廷魔術師程度ならば制圧する事が可能な実力を持っています。エルピス様からすれば誤差程度でしょうが、この場にいる面々は各地から選りすぐられたエリートなんですよ、これでも」
そう言われてしっかりと個人個人の魔力量を見返してみれば、なるほど宮廷魔術師程度話にならない力を感じる。
最低でも近衛兵クラス、さすがにアルやマギアに勝てると断言できるほどの実力者はいないが、宮廷魔術師や上位の冒険者程度ならば手玉にすることも可能だろう。
この世界に来て平均の値をアルヘオ家に設定していたことを今更ながら恥ずかしく思い、エルピスは少し顔を赤くする。
「もう、せっかくかっこよく鼓舞してみんなのやる気出させようと思ってたのに」
「まぁまぁ、ここは一つ無かった事にしてお願いしますよ。僕らもそれがあったほうがやる気出しやすそうですし」
改めてこちらを見ながらフィトゥスがそう言うが、そう言われると少しこっぱずかしい様な気がしてくるのだから不思議だ。
咳払いを一つついてからエルピスはフィトゥス達に向かって声を投げかける。
「ーーいいか諸君! 敵がいくら強かろうと圧倒して殺せ! 幸い今回の敵は数だけは揃えてきてくれているらしい、的が増えて嬉しいだろう? 我らの誇りを踏みにじったゴミ虫共には鏖殺すら生易しい! 奴らは龍の尾を踏み荒らした! ならば我が母と父の名の下に、その魂の一欠片も残すな! 良いな!?」
「ええもちろんです、我等はアルヘオ家に仕える者。たかだか共和国の暗部程度、殺せずしてどう致しましょう
か」
「さくっと終わらせて祭りの続きをしましょう! まだ食べてないものいっぱいありますから」
「食い意地張ってるなお前は本当に。雰囲気を壊すんじゃない」
「エルピス様本当に成長なされて…このヘリア、一生ついていきます」
言葉をみんなに投げつけながら、エルピスは自らの体内で膨大な魔力を作り上げ無理やり封じ込めていた神の称号を解除する。
エルピスがいま現在解除出来る神の称号は一つだけ。
だが逆に言えば、一つだけならば権能も含め完全に神の力を使用する事ができるのだ。
精霊神、盗神、鍛治神、魔神、邪神、龍神と六つある神の称号。
その中でエルピスが解放した称号は、龍神の称号。
この世に存在する全ての龍の祖であり親でありそして子でもある。
龍という生物の可能性の全てを持ち、そしてこの世に存在する全ての龍の力を操り、何者も汚せない純白の鱗を持つ龍神は数千年ぶりにこの世に生まれ落ちた。
透き通った白い魔力はエルピスの身体を徐々に包み、その姿を変えていく。
皮膚はゆっくりと龍の鱗に覆われ、背中からは魔力によって白亜色の翼が形成されていく。
神人として半人半龍の特性を捨てたエルピスの体は、だが神になることで再びその力を蘇らせる。
龍神の能力に呼応して龍の魔眼はその真の力を発揮し、溢れ出る魔力は止まる事を知らないようにエルピスの周囲へと漏れ出ていく。
「それが本気の時の姿かエルピス?」
「もう来たんだね父さん、母さん。そうだよ、これが今の僕に出せる全力」
龍の力を得た事で少なからず外見に違いが出ているのにも関わらず、イロアスは一瞬の間すら置かず目の前の少年がエルピスだと見抜いた。
それはクリムも同じ事で、エルピスの翼を優しい手つきで触りながらエルピスに声を投げかける。
「……綺麗な翼ね、ダレンにも見せてあげたいくらいだわ」
「ダレン叔父さんが今の僕を見て僕って気づくかな…?」
「ダレンなら気付くわよ。それにアウローラちゃんもね、待たせて悪かったわ。行きましょうか」
翼を生やしたクリムは、エルピスにそれだけ伝えると早々に移動を開始する。
それに続く様にして全員が移動を開始し、エルピスも移動を開始する。
移動とは言っても翼は使わない。
この翼は魔法によって生成された物であり、魔神やその他の称号を完全に使用不可にしている今の状況では細かなコントロールが難しいからだ。
ただ一歩、敵がいる島に向けて、ゆっくりと足を踏み出す。
ーー瞬間、景色は当の本人であるエルピスですら知覚出来ないほどの速度で、瞬きより速く駆け抜けていく。
理不尽を嘲笑う程の理不尽、不条理を捻じ曲げるのでは無く、不条理に対する不条理になる者。
それが神たるが故に。
八つある島の内、最も手前の島にまるで隕石が落ちたのかと思わせる大穴を開けて、エルピスは移動を終える。
純粋で無垢であるが故に狂気を孕んだ笑みを浮かべて、エルピスは小さく呟く。
「お前達のお遊びはここで終わりにしてもらおうか」
英雄の子は笑う。
自らの友に手をかけんとする敵に。
その姿に英雄らしさは無く、そしてその周りに仲間はいない。
後に人類史上最強と歌われる英雄は、敢えて仲間と離れた位置に降り立った。
自らの獲物を、他人に取らせはしまいとでも言いたげに。
支配権を握っているのは陸の生物ではなく、海で暮らす者達だ。
この世界ではそもそも人類の、というより陸に住む生物の大多数は、海に出る事を許されていない。
それは海に住む亜人種達の影響によるものだ。
王国周辺の海には、長い時を生き続け単体としては海の中でも強者に分類される海老種と、巧みな魔法と様々な効果を付与する歌声を操る深海種が住み着いている。
この二種族が王国周辺の海域を制圧しているため、気安く海に出る事も出来ないのだ。
とは言っても海産資源は両種族と結んでいる契約のおかげで安定して供給できるので、海老種や深海種とは王国もそこまで仲が悪いわけでも無い。
だがだからといって取引先であるだけで海岸沿いに街が作れるほど仲が良いわけでもなく、完全に人の手のつけられていない海岸沿いを歩きながら、エルピスはフィトゥス達が到着するのを待つ。
波風が久しぶりに頬に当たり、前世以来の感触にエルピスは目を細める。
優秀な彼らのことだ、あまり待つ時間は必要ないだろう。
そう思っていたエルピスの思いが通じたのか、複数の砂を踏む音が聞こえる。
「ーーここでしたかエルピス様」
一番最初にエルピスに対して声をかけてきたのはフィトゥスだ。
普段とはまた違った装いの彼は黒い大きなコートを着用しており、対魔法用の術式が組み込まれているのが確認できる。
暗闇に紛れるフィトゥスの姿はさながら悪魔そのもので、事実そうなのだが普段とは違う雰囲気の彼に、エルピスはいつも以上の心強さを感じていた。
もちろんそれはフィトゥスだけではなく膝をついてこちらを見つめるアルヘオ家の僕達全員に当てはまるのだが。
「どうやらみんな揃っているようだね、敵のおおよその位置は分かった?」
「もちろんです。敵は二手に分かれており片方は我々で既に潰しております、銃など確認できましたのでアウローラ様を襲った方はこちらの部隊かと。残りの敵は海老種の支配海域であるええっと……ここですね」
フィトゥスが腰の辺りに付けていた地図を取り出し、エルピスに見せるようにしながら指を移動させていく。
小さな孤島が連なる辺りに指を持っていくと、フィトゥスが不意にピタリと手を止める。
数十個ある島の内の大体中間地点ほどであり、おそらく敵はここで一旦休息を取っているのだろうという事が分かった。
「エルピス様。イロアス様やクリム様もこちらに向かっているとの事ですので、少し待ってから出撃した方がよろしいかと」
「悪いけどその案は却下だリリィ、敵の居場所が分かった以上一秒たりとも無駄には出来ない」
「ーーですがエルピス様、敵がどの様な能力を持っているのかも分からないのに闇雲に突撃しては、犠牲者が出る可能性があります。いくらエルピス様の頼みと言えそれは承諾しかねます」
この場所は王国の端であり、この先には人間の国は無い。
言わばここはまだ人類生存可能領域と呼ばれる範囲だ、ここから先には人類が生存できる保証など何一つなく、そしてそれは亜人種も同じだ。
だが逆に言ってしまえば普段は周りに被害が及ばない様にと制限している神の力も、この先の領域ではためらう必要がないのだ。
いまはまだ一つしか開放出来ない神の力、だが一つだけでも足りるだろうと思っていたエルピス対してのリリィの反論は戦士として正しい。
正確にいうのならばリリィはエルピスが神の称号を持っている事は知らないので、戦力について正当な評価ができているかと聞かれれば疑問点は残るが、行っていることに関して言えばエルピスに反論できる要素など一つもない事は誰の目にも明らかだ。
その目からは何がなんでも行かせないという意思を感じ、エルピスは渋々一人で行くのを諦めてその場に座り込む
「分かったよ……父さん達は後どれくらいでこっちに来るの?」
「予定では後二分貴族向けの演説が有りますので、三分もすればこちらに来るかと」
「演説終わって一分でここまで来るの!? ならそれまでに出来ることはしておかないとな」
いくら四大国と呼ばれる国に比べれば小さいとはいえ、王国は数ある国の中でもかなり大きい部類の方に入る国だ。
その国の首都からこの辺境の地まで1分足らずで来れる両親の力は、やはりエルピスをしても測り知る事はできない。
ただ一つ言える事は、そんな両親は言うまでもなく頼りになる。
たった三分とはいえ時間を無駄にすることなどできるはずもなく、エルピスは目の前にいる召使達に指示を飛ばす。
「まず三人ほど海に住んでる奴らに手出ししてこない様に言ってきて。ええっと、そこの君と君、あと君が行ってきてくれ頼んだ。もし面倒な事を言い出す様なら僕が後で直接出向いて話つけるからとりあえず時間を稼ぐだけでいい」
「「了解しました」」
「次は今回の件に関わった王国貴族に対しての制裁だけどーー」
「ーーその件に関しまして既に調べが付いております。リストは既に作成し、アルヘオ家の情報網で回しています」
「ならそれをアルさん達近衛兵に。こちらは任せて反乱の芽を摘む様言って来ておいて」
ああ、優秀な部下のなんと素晴らしいことか。
言わずともこちらの指示を事前に把握し行動、そして結果だけを伝えてくれる。
さすが父と母の元に集った人達であり、だからこそエルピスも安心して仕事を任せる事ができる。
王国内でこの件に関わった貴族は明日の朝にはおそらく家財も奪われ良くて追放、下手をすれば投獄あるいは死罪だろう。
元より今回の件に関わった人物は全員身包みを剥いで死ぬより辛い目に合わせようと決心しているので、そいつらがどうなったところでエルピスの知るところではない。
「ーーさて、これで一通り必要なところに人員が回っている事は把握できたし次の話に移ろう。どうやらここから〈技能〉を使用して探った結果敵は六十八人で来てるようだ」
「六十八ですか、どうやら数だけは一丁前な様ですね」
「こら、僕が言えた義理じゃないけれど、油断するんじゃないフィトゥス。相手の強さは元から計画網を知っていたとはいえ王国の宮廷魔術師達が作った包囲網を突破するレベル、それを頭の中に入れてーー」
「ーーすいませんエルピス様……」
「どうしたリリィ?」
「先ほどの話に矛盾するようなので言いづらいのですが、この場にいる全員が宮廷魔術師程度ならば制圧する事が可能な実力を持っています。エルピス様からすれば誤差程度でしょうが、この場にいる面々は各地から選りすぐられたエリートなんですよ、これでも」
そう言われてしっかりと個人個人の魔力量を見返してみれば、なるほど宮廷魔術師程度話にならない力を感じる。
最低でも近衛兵クラス、さすがにアルやマギアに勝てると断言できるほどの実力者はいないが、宮廷魔術師や上位の冒険者程度ならば手玉にすることも可能だろう。
この世界に来て平均の値をアルヘオ家に設定していたことを今更ながら恥ずかしく思い、エルピスは少し顔を赤くする。
「もう、せっかくかっこよく鼓舞してみんなのやる気出させようと思ってたのに」
「まぁまぁ、ここは一つ無かった事にしてお願いしますよ。僕らもそれがあったほうがやる気出しやすそうですし」
改めてこちらを見ながらフィトゥスがそう言うが、そう言われると少しこっぱずかしい様な気がしてくるのだから不思議だ。
咳払いを一つついてからエルピスはフィトゥス達に向かって声を投げかける。
「ーーいいか諸君! 敵がいくら強かろうと圧倒して殺せ! 幸い今回の敵は数だけは揃えてきてくれているらしい、的が増えて嬉しいだろう? 我らの誇りを踏みにじったゴミ虫共には鏖殺すら生易しい! 奴らは龍の尾を踏み荒らした! ならば我が母と父の名の下に、その魂の一欠片も残すな! 良いな!?」
「ええもちろんです、我等はアルヘオ家に仕える者。たかだか共和国の暗部程度、殺せずしてどう致しましょう
か」
「さくっと終わらせて祭りの続きをしましょう! まだ食べてないものいっぱいありますから」
「食い意地張ってるなお前は本当に。雰囲気を壊すんじゃない」
「エルピス様本当に成長なされて…このヘリア、一生ついていきます」
言葉をみんなに投げつけながら、エルピスは自らの体内で膨大な魔力を作り上げ無理やり封じ込めていた神の称号を解除する。
エルピスがいま現在解除出来る神の称号は一つだけ。
だが逆に言えば、一つだけならば権能も含め完全に神の力を使用する事ができるのだ。
精霊神、盗神、鍛治神、魔神、邪神、龍神と六つある神の称号。
その中でエルピスが解放した称号は、龍神の称号。
この世に存在する全ての龍の祖であり親でありそして子でもある。
龍という生物の可能性の全てを持ち、そしてこの世に存在する全ての龍の力を操り、何者も汚せない純白の鱗を持つ龍神は数千年ぶりにこの世に生まれ落ちた。
透き通った白い魔力はエルピスの身体を徐々に包み、その姿を変えていく。
皮膚はゆっくりと龍の鱗に覆われ、背中からは魔力によって白亜色の翼が形成されていく。
神人として半人半龍の特性を捨てたエルピスの体は、だが神になることで再びその力を蘇らせる。
龍神の能力に呼応して龍の魔眼はその真の力を発揮し、溢れ出る魔力は止まる事を知らないようにエルピスの周囲へと漏れ出ていく。
「それが本気の時の姿かエルピス?」
「もう来たんだね父さん、母さん。そうだよ、これが今の僕に出せる全力」
龍の力を得た事で少なからず外見に違いが出ているのにも関わらず、イロアスは一瞬の間すら置かず目の前の少年がエルピスだと見抜いた。
それはクリムも同じ事で、エルピスの翼を優しい手つきで触りながらエルピスに声を投げかける。
「……綺麗な翼ね、ダレンにも見せてあげたいくらいだわ」
「ダレン叔父さんが今の僕を見て僕って気づくかな…?」
「ダレンなら気付くわよ。それにアウローラちゃんもね、待たせて悪かったわ。行きましょうか」
翼を生やしたクリムは、エルピスにそれだけ伝えると早々に移動を開始する。
それに続く様にして全員が移動を開始し、エルピスも移動を開始する。
移動とは言っても翼は使わない。
この翼は魔法によって生成された物であり、魔神やその他の称号を完全に使用不可にしている今の状況では細かなコントロールが難しいからだ。
ただ一歩、敵がいる島に向けて、ゆっくりと足を踏み出す。
ーー瞬間、景色は当の本人であるエルピスですら知覚出来ないほどの速度で、瞬きより速く駆け抜けていく。
理不尽を嘲笑う程の理不尽、不条理を捻じ曲げるのでは無く、不条理に対する不条理になる者。
それが神たるが故に。
八つある島の内、最も手前の島にまるで隕石が落ちたのかと思わせる大穴を開けて、エルピスは移動を終える。
純粋で無垢であるが故に狂気を孕んだ笑みを浮かべて、エルピスは小さく呟く。
「お前達のお遊びはここで終わりにしてもらおうか」
英雄の子は笑う。
自らの友に手をかけんとする敵に。
その姿に英雄らしさは無く、そしてその周りに仲間はいない。
後に人類史上最強と歌われる英雄は、敢えて仲間と離れた位置に降り立った。
自らの獲物を、他人に取らせはしまいとでも言いたげに。
0
お気に入りに追加
2,387
あなたにおすすめの小説
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第二章シャーカ王国編
スキル【特許権】で高位魔法や便利魔法を独占! ~俺の考案した魔法を使いたいなら、特許使用料をステータスポイントでお支払いください~
木塚麻弥
ファンタジー
とある高校のクラス全員が異世界の神によって召喚された。
クラスメイト達が神から【剣技(極)】や【高速魔力回復】といった固有スキルを受け取る中、九条 祐真に与えられたスキルは【特許権】。スキルを与えた神ですら内容をよく理解していないモノだった。
「やっぱり、ユーマは連れていけない」
「俺たちが魔王を倒してくるのを待ってて」
「このお城なら安全だって神様も言ってる」
オタクな祐真は、異世界での無双に憧れていたのだが……。
彼はただひとり、召喚された古城に取り残されてしまう。
それを少し不憫に思った神は、祐真に追加のスキルを与えた。
【ガイドライン】という、今はほとんど使われないスキル。
しかし【特許権】と【ガイドライン】の組み合わせにより、祐真はこの世界で無双するための力を得た。
「静寂破りて雷鳴響く、開闢より幾星霜、其の天楼に雷を蓄積せし巍然たる大精霊よ。我の敵を塵芥のひとつも残さず殲滅せよ、雷哮──って言うのが、最上級雷魔法の詠唱だよ」
中二病を拗らせていた祐真には、この世界で有効な魔法の詠唱を考案する知識があった。
「……すまん、詠唱のメモをもらって良い?」
「はいコレ、どーぞ。それから初めにも言ったけど、この詠唱で魔法を発動させて魔物を倒すとレベルアップの時にステータスポイントを5%もらうからね」
「たった5%だろ? 全然いいよ。ありがとな、ユーマ!」
たった5%。されど5%。
祐真は自ら魔物を倒さずとも、勝手に強くなるためのステータスポイントが手に入り続ける。
彼がこの異世界で無双するようになるまで、さほど時間はかからない。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです
こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。
異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。
最強付与術師の成長革命 追放元パーティから魔力回収して自由に暮らします。え、勇者降ろされた? 知らんがな
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
旧題:最強付与術師の成長革命~レベルの無い世界で俺だけレベルアップ!あ、追放元パーティーから魔力回収しますね?え?勇者降ろされた?知らんがな
・成長チート特盛の追放ざまぁファンタジー!
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】
付与術のアレンはある日「お前だけ成長が遅い」と追放されてしまう。
だが、仲間たちが成長していたのは、ほかならぬアレンのおかげだったことに、まだ誰も気づいていない。
なんとアレンの付与術は世界で唯一の《永久持続バフ》だったのだ!
《永久持続バフ》によってステータス強化付与がスタックすることに気づいたアレンは、それを利用して無限の魔力を手に入れる。
そして莫大な魔力を利用して、付与術を研究したアレンは【レベル付与】の能力に目覚める!
ステータス無限付与とレベルシステムによる最強チートの組み合わせで、アレンは無制限に強くなり、規格外の存在に成り上がる!
一方でアレンを追放したナメップは、大事な勇者就任式典でへまをして、王様に大恥をかかせてしまう大失態!
彼はアレンの能力を無能だと決めつけ、なにも努力しないで戦いを舐めきっていた。
アレンの努力が報われる一方で、ナメップはそのツケを払わされるはめになる。
アレンを追放したことによってすべてを失った元パーティは、次第に空中分解していくことになる。
カクヨムにも掲載
なろう
日間2位
月間6位
なろうブクマ6500
カクヨム3000
★最強付与術師の成長革命~レベルの概念が無い世界で俺だけレベルが上がります。知らずに永久バフ掛けてたけど、魔力が必要になったので追放した元パーティーから回収しますね。えっ?勇者降ろされた?知らんがな…
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる