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十話

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今日は十二月十四日。

木曜日な訳ですが……仕事が休日の日なんですよ。

やったぁ!

今日はグータラゴロゴロし放題だぁ!

朝寝もできたし、無理にご飯食べなくていいし、好きな事し放題ですよ~。

まぁ、とか言っても残り数時間しかないですけど。

そもそも、休日になる度に部屋に引きこもってるとかニートかって感じですけどね。

えぇ、仕事辞めたら絶対にニートになりそう。


(……あ、そろそろ新刊出てるかな…)


お金は無いけれど、どうにか貯まったポイントで一冊分は買えそうな気がしたぞ。

しかし、部屋から出るのかぁ。

面倒くさいけど……なにせ本は私の心の支えだ。

今行かないでいつ行くって話だよ。

ですよね?

そうと決まれば!

早速行きましょうかねぇ。

重い腰を上げて、支度を終えると一服してから私は家を出た。

けれど、まさかそんな偶然があるなどと私は思ってもいなかったのだ。

紀ノ国屋書店に行くと私はすぐさま新刊コーナーを覗く。


(うっわ!これめっちゃ欲しい!……でも、値段がねぇ…ギリギリ届かない…)


幾つか新刊が出ていたのだけれど、本当に一冊分しかなくてどれを買おうかお悩み中。

花夢なら余裕で買えるけれど、スクウェアになると厳しい。

うーん、どうしようかな。

悩みに悩んだ結果、今一番読みたい本を購入する事に決めた。

悩み過ぎて一時間以上が経つくらい悩んで!

他のはまた次にと諦めてレジへと一冊持って行くと男性店員の誘導で幾つかあるレジの一つへと向かった。


「お待ちのお客様ー、こちらへどうぞ~」


普段となんら変わらない光景に私は素直に従う。

けれど、そこに辿り着くと同時に顔を上げた私は直ぐに後悔したさ。


「………っえ?」

「やっと気付きましたか?お客様♡」

「はっ、えぇ…えぇー!?なななっなんで貴方がここにっ!?」


ニッコリと笑う男性店員、その正体はまさかまさかの三神アキトだった!

しかも三日続いての偶然!

なんてこったパンダこっただよ!!

パニック状態です。

何故、彼がここに居るのでしょう。

そもそも今まで何度か来た事がある本屋で彼を一度でも見たことがなかった。

え、ガチのストーカーなんですか。

恐ろしくって言葉もでませんよ。


「いやー、またまた偶然でリナと会えるなんて……もうこれって運命だと思わない?」

「思いません!あと、そのニヤけた顔やめて下さいっ」

「えー?折角リナに会えたのに~」

「しょんぼりしたって無駄ですからね。早く会計して下さいよ!」


何故ここに居るのかは分からないが、早く会計を済ましてこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。

運命?

そんなものある筈がない。

私は信じませんよ。


「つれないなぁ。そんな事言う人には売ってあげませーん」

「っ………責任者呼びますよ」

「残念でしたー。只今責任者は留守でーす」

「~~~~~憎たらしい人ですねっ」

「アハハハ~。俺とデートしてくれたら売ってあげるよ♡」


ちくしょう……本気で売る気がないな。

だからといってデートなんかしたくないし、この人に関わるのも嫌だ。

どうしたものかと悩んで居ると、奥から優しそうな男性店員がチラッと此方を見てくるのが分かって私は視線で助けを求める。

そりゃあもう、今にも泣きそうな顔をして。


「…アキトさん、何してるんですか?」

「あぁ?邪魔しないでくれます?今めっちゃお取り込み中なんだけどー」

「お客様が困ってます。見過ごすの僕にはできないので早く会計をしてあげて下さい」


おぉー!

ここにもメシアさんが居たよ!

そうだ、もっと言えー。

こうゆう人を王子様って言うのかと思うくらいまた顔の整った人が、負けず劣らずに奴に言ってくれる。

奴といえば、それを言われて不服そうな不機嫌そうな顔で王子様のような店員を睨み付けていた。

いや、アンタが早く会計してくれりゃいい話だよ?


「…なんなら、僕が代わりに会計をしてもいいんですよ?」

「チッ…わーったよ!ちゃーんとしますんでお構いなくー」


ヒラヒラと手で虫でも払うように奴は王子様のような店員に嫌そうな顔でジト目でみながらそう言う。


「そうですか?すみませんお客様、長らくお待たせさせてしまって…」

「い、いえ!助かりました。有り難う御座いますっ」


呆れたような表情で奴をみたあと、その店員はニコリと微笑み申し訳なさそうに謝罪をしてくるものだから私はお礼を言い頭を小さく下げた。

本当に本物の王子様みたいな店員さんだった。

でもまぁ、ああいう人程裏の顔があったりするんだろうけど。

今は早くこの場から脱出できる事に感謝しないとなね。


「…なんか、嬉しそうだね?リナ」

「えっ?当たり前じゃないですか」

「………何、ああいうのがタイプなの?」


何を言っているんだ、こやつは?

不満だと言わんばかりに聞いてくる辺り、なんとなく理解したけれど……どっちに答えても面倒くさい事になりそうで答えたくないな。

でも、否定したら多分……。


「違いますよ」

「本当?」


ほらやっぱり。

ちょっと嬉しそうに機嫌が治った。

目が輝いてるよ?

しかし、残念ですが貴方もタイプではないですからね。


「はい。あと、貴方もタイプじゃないです」

「……そんなハッキリと言わなくても」


あ、さっきより更に落ち込んだ。

ガックリと肩を落とす奴に私は予想していた反応だったからかつい笑ってしまった。

だってあまりにも分かりやすい落ち込み方をするものだから。

クスクスと笑う私に、奴は何故か頬を赤らめてそっぽを向いてしまう。

けれど、そのせいか耳も赤くなっているのがハッキリと見えて私は更に笑った。


「なんで否定されてるのに顔が赤いんです?やっぱりドMなんですか」

「ち、違うからっ…。ちょっと暑くなっただけだからっ」

「へぇー?ふぅーん?まぁ、別に言い訳しなくてもイイので早く会計して下さいね」


なんだかんだと、こうしてからかうと面白い反応をするから完全には嫌いになれないのだ。

不思議な事に私は奴をからかうので楽しんでいたりする。

というより、チャラそうな見た目をしているのにこっちから仕掛けたら余裕を無くす奴が新鮮だからかもしれない。

普段は自分がからかわれたりする側だが、たまにはこうゆうのも悪くないですね。

まぁ、かといって奴を恋愛対象にするかどうかはまた考えものですけど。


「~~~リナ、意外と意地悪なんだね?」

「そうですか?案外普通だと思うんですけど」

「…でも、嫌いになれないから。なるつもりも、絶対ないから。覚悟しとけな?」

「さぁー、それはどうでしょうね。あ、支払いはこのカードでお願いします」

「ん。……てか、話逸らした?」

「いやいや、そんなまさか。私は今、お客さんとして来ているので逸らすも何もこれが普通の“店員”と“お客”の会話ですよ」


ニッコリ笑って誤魔化す私に、奴はまた不服だと言わんばかりに眉を寄せてなんとも云えない表情をする。

納得したくないという顔をするが、奴はそれなりに真面目に会計をしてくれた。

いや、してくれたってなんだ。

してくれなかったから困ってたんだけど。

駄目だ……若干マヒしてたわ。

正気に戻るには奴から離れるのが一番だな、うん。

丁度、支払いが終わったのか会計の出来た本の袋とレシートを受け取ると、私はすぐさま奴の側から離れた。


「あっ、ちょっリナ!?」

「では私は急いでいるのでっ」


振り返る事もしないまま走って逃げる私に、奴は慌てて追い掛けようとするが次のお客様に捕まり渋々とレジに留まった。

これで三度目の正気、奴に会う事はないだろう。

………多分。



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