10年後の君へ

ざこぴぃ。

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2学期

第13話・勘違い

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――2010年9月9日木曜日。

 猿渡の屋敷は朝から賑やかだった。僕は皆の隙間をかいくぐり、学校へと向かう。

「いってきまぁ――」
「お嬢様!わしらは病院の警護で――!」
「お嬢様!では千家様の用心は私めが――!」
「お嬢様!白子の捜索隊の準備が――!」
「えぇぇい!!やかましい!!猿渡よ!何とかせい!」
「はっ!有珠様!申し訳ありません!じぃ!少し静かにせぬかっ!!」

 猿渡夢夢の里に応援を求めた所……「有珠様の命令とあらば行かぬ訳には!」という村人が押し寄せた。総勢50名はいるだろうか。10名程が病院の警護、10名程が僕達の用心棒、そして残りの30名が柏木白子の捜索隊として出発した。

………
……


「ふぅ……疲れたでござる」
「夢夢、お疲れ様。はい、バナナジュース」
「千家様、恩に着るでござる」

 学校の屋上でお昼ご飯を食べながら、猿渡夢夢と話をしていた。僕には猿渡夢夢と部下2名が付いている。有珠達も同じく猿渡家の者が用心棒として付き添う。

「今日は学校帰りに病院に行くのと、ちょっと調べて欲しい事があるんだ」
「はい、何なりと」
「うん、2年生に転入生がいるんだけど……名字が『山羊やぎ』なんだ。珍しい名字だからたぶん看護師のメリーの子供なんじゃないかと思ってる。それと職員室にある鈴のキーホルダー。これもメリーが持っていた。今回の事件に関係しているのかはわからないが、何かひっかかると言うか……」
「わかりました。有珠様には報告せず、千家様に報告したのでよろしいのですね?」
「話が早くて助かる。頼むよ」
「はっ!午後から調査しておきます。もう少ししたら部下の凛子りんご美甘みかんも来ますので――」
「ありがとう」
「ところで千家様。昨日、こんな写真が出回ってるとお聞きしましてどうしようかと悩みましたが一応ご報告をしておきます」
「写真?」
「はい。写メールとやらで生徒の間で回ってまして、千家様が写っておったので入手致しました」
「入手って……どうやっ――え?」

 夢夢の持つ携帯の画面には、僕と抱き合う女の子が写っている。一瞬頭がパニックになる。相手は北谷美緒だ。

「いや、これは合成写真だ。病院で美緒と抱き合った記憶はある。確か真弓の手術の時に待合室で……」
「しかし背景がホ、ホ、ホ、ホテルの前かと!!」
「だから背景が合成写真なんだ。参ったな、いったい誰がこんな嫌がらせを……」

 しかしこれで終わらなかった。昼食を終え教室に戻ると美緒が泣いている。

「春彦……!良雄が……!良雄が!」
「良雄がどうしっ――!?」
「春彦っ!!お前っ!!」
「えっ!?」

ガッシャーン!!

 それは急な展開すぎて僕自身にも何が起きているのかわからなかった。
 良雄が僕を殴り飛ばしたのだ。机や椅子をなぎ倒し僕は床に倒れ込む。

「千家様っ!」

 夢夢がどこからともなく現れてすかさず良雄の首を掴み、あろうことか良雄を体ごと持ち上げる。

「がはっ!!」
「きゃぁぁぁぁ!!」

教室に女生徒の悲鳴が響く。

「貴様……下郎の分際で千家様に手を上げるとは……殺すっ!!」

夢夢が腰に帯刀していた剣を引き抜こうとする。

「夢夢!やめろ!もういい!」
「千家様!しかし……!」
「命令だ!下がれ!」
「は……はい……」

生徒の悲鳴はいつしか不審者を見つけた声へと変わる。

「誰かっ!!先生を!!」
「不審者だ!」
「夢夢、逃げろ!」
「しかし!」
「僕は大丈夫だ!」
「わ、わかりました……御免!」

 夢夢は窓を開け、そのまま飛び降りる。校舎の三階から――

「きゃぁぁぁ!飛び降りた!」
「救急車を!」

 夢夢はこれで大丈夫だろう。怪我などしないはずだ。しかし驚いた。あの細い腕で100キロ近くある良雄の体を片手で持ち上げるなんて……猿渡一族の力に正直、恐怖すら感じる。

「春彦、大丈夫?」
「あぁ……」

美緒が駆けつけ起こしてくれる。

「良雄の馬鹿!!あんた何て事をするの!!あの写真は作り物だって言ってるじゃない!!」
「ぐっ……ごほごほ……」

首にアザが出来た良雄は座ったまま答える。

「浮気だ……あれは浮気現場の……ごほ」
「もういい!マジ良雄最低!――春彦、保健室行こ!」
「あぁ……」

 座ったまま床を向き、何か言いたそうな良雄を残し保健室へと向かう。

「どうしてこんな事になったんだ?」
「あの写真よ……クラスの女子グループに『no name』で投稿されて……最低。春彦も真弓に早く言った方がいいよ、たぶん見てるはず」
「あちゃ……それは最悪だ。せっかく仲直り出来たのに……」
「それより、良雄よ!あいつ!私が浮気なんてするはずないのに……馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿……!」
「ちゃんと話そう。あの時は僕だって誰かに寄り添いたかったのは本当だ……」
「そだね。馬鹿良雄にも言って聞かせないと」

 保健室で殴られた痕に薬を塗ってもらう間、窓の外から夢夢が様子を伺っていた。あの強さだ、心配はしてないが大丈夫そうで安心はした。
 放課後、不審者騒動で職員室に呼ばれたが知らぬ存ぜぬで押し通す。そこのとこは有珠達に任せよう。しかし有珠達は2学期になってからほとんど学校には来ていない。いつもどうやって休んでいるんだろう……そんなどうでも良い事を考えながら病院へと向かう。

――県立中央病院510号室。

コンコン!

「真弓、調子はどうだ――」
「春彦君……?帰って……」
「はぁ、やっぱり。写真を見たんだろ?あれは合成写真――」
「帰って!!不潔!」
「あ、いや……はぁ……わかったよ。またな」
「あっ……ばか……」

 予想通り、真弓にも写真を見られしばらく時間を置くことにした。病院の警戒も猿渡一族が面倒を見てくれている。しばらくは大丈夫だろう。
 僕はロビーでジュースを買い、いつもの中庭のベンチで一息付く。夕方になるとまた病院のロビーは混み始めていた。
 ジュースを飲み終わったら帰ろうと思っていた矢先、いつもの刑事がタイミング良く現れる。

「やぁ、千家君。ご機嫌よう」
「片桐刑事……こんにちは。僕が来るのを見張っています?」
「はははっ!そんな事はないよ。隣、いいかな?」
「はい」

 片桐刑事は煙草に火を点ける。それを見て思い出す。まだこの頃は屋内でも煙草が吸えたんだな……と。少しだけ干渉に浸る。

「千家君。君に聞きたい事があってね」
「はい。わかる範囲でしたら――」
「……南小夜子君の事故、西奈真弓君の事故、歩道橋での飛び降り自殺未遂、それから柏木白子君の……」
「柏木白子君の?」
「あぁ、先日ここで私に会ったのを覚えているかね?」
「はい、院長先生に呼ばれたとか――」
「そうその日。厳密にはその前日なのだが、柏木白子君の頭部が無くなっていたのだよ」
「えぇぇ!」
「しっ!千家君、声が大きい!」
「すいません……」

 それは柳川緑子で、本当の柏木白子が逃げてるのですよ。と言いたいが知らないフリをする。

「そこで君に聞きたいのだよ。どういうわけか夢希望高校の生徒を中心にこの1ヶ月、事故が起きている。解決出来ていれば特に気にならないのだが、妙な事に全て未解決。君が教えてくれた柏木望の逮捕以外、何の進展もないのだよ」
「そうなんですね、それは偶然が重なってますね」

言葉少なく片桐刑事に返答をする。

「なぁ、千家君。教えてくれないか。君が犯人だとは思っていない。しかし、全く無関係だとも思えない」
「え?」
「千家君……君は何者なんだ?」

 ドキッ!と心臓が動いた気がした。まるで本当の僕を探すように、目を直視してくる片桐刑事。言えるわけがない。未来から来たトラベラーだなんて。頭がおかしいと思われる。

「僕は……その……」
「はっはっはっ!冗談だよ。半分ね……さて、千家君。何か思い出したらまた連絡でもしてくれ。悪いようにはしないから、それでは失礼するよ」
「はい、お疲れ様でした」

軽く会釈をし、片桐刑事が中庭を出ていく。

「千家様、あやつは危ないですね。気を付けないと」
「うわっ!びっくりした!」

 夢夢が、僕の座ってるベンチの隙間からこっちを見ている。

「どこから見てるんだよ……びっくりした……」
「すみません……」

 この日は病院を後にすると、夢夢と買い出しをし屋敷へと無事に帰れたのだった。
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