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第九章―世界の向こう側―

9−10・転生の夜明け

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――数日後。

 『桃矢とノアが何者かに襲われ、連れ去られた』と言う噂を愛が流した。噂は大陸中に広まり、捜索隊が結成された。しかしいつまでたっても見つけることは出来なかった。

 それから一年経ち、二年経ち……いまでも桃矢の捜索は続く。
 いつしかウィンダの街の墓地には、ジオナの像の横に桃矢の像も立っていた。

 桃矢がいなくなって、間もなくしてから舞と愛もこつ然と姿を消えた。桃矢の失踪の後だったためか、人々は『神隠し』にあったのだと恐れた。

――数年後。

深夜、トメト村の祭壇の前にノアリスの姿があった。

バチバチ……

「ようやく……見つけたよいっと。全部話してもらおうか……ノアリス。いや……鬼子母神。返答によってはお前を許さない」
「……タケオよ。少し長くなるがな……全部話そう。わしもそろそろ天界へ帰ろうと思っていたのでな……」

 神々は鬼の存在を許さなかった。あの日、桃矢が死なずとも数日後には天兵により殺される運命だった。それはまた鬼と神との争いの種になる。

「そうだったのか……僕はてっきり桃矢を見捨てたのかと思ってたよっと……」
「愚かな。わしの孫ぞ?みすみす神らに殺させたりはせぬわ。美しい魂のまま……新世界で生かすと決めていたのじゃ。案ずるな、近い将来、桃矢の魂は現世で必ず蘇る……」

『きっとまた桃矢に会える……』そうタケオに話すノアリスは背を向けたまま涙を流していた。

――更に数年後。

 神々は『鬼狩り』を始める。これによりエスポワール大陸の鬼達はほとんどが息絶えた。
 しかしデゼスポワール大陸の存在を知らぬ神達は鬼の子孫が繁栄している事に今もまだ気付いてはいない。
 早紀を始め、鬼の血の流れる者はタケミカヅチの教えで転移門をくぐる者もいた。
 死神ノアリスの最後の仕事、桃矢の魂の一部を生贄として使い、トメト村の地下深くに転移門を作っていた。それはしばらくの間、デゼスポワール大陸と繋がっていたという。

――鬼の里。

「サクラさん、うちの子見なかった?」
「いや、早紀様のお子さんは見てはおらぬが?」
「そう……どこに行ったのかしら?あっ!チカゲさん!うちの子知りませんか?」
「あぁ、早紀さんそれならさっきうちの子と一緒にチョウチョを追いかけて――」

――出雲の国。

「お前が鬼の子孫か」
「おじちゃんだぁれ?」
「これはこれはスサノオ様!我が家にいったいどのようなご要件でしょうか!」
「お主が……零か?爺さんには興味はない。この子の名は?」
「はい、冬矢と言います。五つになりまして、わしの孫です」
「トウヤか……十五になったら俺の元へよこせ。修行を積んでやる」
「は、はい。ですがこの子の親にも聞いて見ないと……」
「俺の命令は絶対だ。心せよ」
「は、ははぁ!」」

――更に数十年後。

 マサミカ大陸にある『エルフの森』に一人の人間の男が迷い込む。

「ここはどこだ……?地図にも無い。迷ったか……」

男は迷いながらも森を進む。

「ん?何か聞こえた?」

男は耳を澄ませる。

「歌……?」

森の中の泉から美しい歌が聞こえた。


――とぅ……とぅ……とぅ……

堕ちてくあなたの手の平を
忘れることが出来ずに 今思う
伸ばしたあなたの鬼の手は
わずかに届かず地獄へ 墜ちる――


 男はしばし、その歌に心をとらわれる。妙に懐かしく、涙が自然と流れた。


――あの日から何かを忘れぬようにと
神に願い 
あの日からお前を忘れぬようにと
何を憎む

舞いあがれ 咲き乱れ
桜吹雪よ
散りゆく花よ もがき遊べ
命の灯よ

今夜限りは……

とぅとぅとぅ……とぅとぅとぅ――


歌が終わると、男が話しかける。

「あの……すいません……その歌はいったい……?」
「キャッ!ニンゲン!?」
「あっ!すいません、驚かせてしまって……僕はトウタ・ヤウロと言います。森で迷ってしまって気が付いたらここに……」
「……ヤウロさん?変わったお名前ね」
「はは……良く言われます。君は……エルフ族?」
「えぇ、エルフ族のクラウドエリサ・メローペと言います」
「えぇと……クラウド……?」
「皆には、エリサとか、メローペとか呼ばれるわ。フフフ」
「メローペ……さん、初めて会った気がしないんです」
「まぁ、お上手!そうやっていつも女性に声をかけるんですか?」
「そ!そんな事ないです!あなたの歌に……何て言うか心を奪われてしまって……」
「冗談ですよ、ヤウロさん。ありがとうございます。あの歌は『鬼の唄』と言ってこの世界にまだ鬼がいたとされる頃の歌なんです」
「鬼……僕も母から聞いたことあります。おとぎ話ですが。何でも悪さをする鬼を退治するお話でしたね」
「フフ、いいえ。鬼さんは悪くないんですよ。中にはきっと強くて優しい鬼さんもいたはずです。言い伝えによれば、中でも異世界から来た鬼さんは、おにいたんと呼ばれ――」

 二人は日が暮れるまで話し込み、また会う約束をする。どこかお互いに惹かれ合い、どこか懐かしい感じのする時間だった……。

【天界・陣の国】

「無事に会えたようじゃのぉ……」
「鬼子母神様、あの二人はお知り合いですか?」
「ふふ、お主も良く知っておる二人じゃよ……」
「私が?知っている二人?」
「遠い遠い時間をかけてようやく結ばれるのじゃ。尊いのぉ……」
「ぷっ!鬼子母神様、それはジョークと言うやつですか?」
「ぬ?マイアよ、からかうでない。わしは――」
「もう、鬼子母神様。また口癖の『ぬ』が出てますよ!」
「ぬっ!はっ!いかんいかん……」
「さっ、もう行きますよ。天照大神様のお勉強を見るお約束をされているのでしょう?」
「あぁ……そうじゃな……」
(元気でな……桃矢よ。またいずれ………)

二人は、神の社へと帰って行く。

「鬼子母神様、結局あれは何でしたの?」
「ん?ふふ……マイアよ、あれはのぉ……」

『世界が切り放される時、私は復讐を誓う』

そうあれは若い頃にわしが書いたんじゃった……。

『私とあなたの恋によって、世界が切り放される時が来ても私はあなたを愛し続けるわ。もしあなたが裏切るような事があれば、私はあなたに復讐を誓うわ。いい?ジオナ、約束よ』

「マイアよ、あれはのぉ……内緒じゃ」
「もう!鬼子母神様!教えてください!」
「ふふふ……いやじゃ」

――これはずっとずっと昔のお話。

鬼の子が神と恋をし、世界を変えていく。

今はもう昔。鬼と神の恋物語。

―完―

著・雉川マキ




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