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第九章―世界の向こう側―

9−5・トメト村

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【エスポワール大陸】
―――トメト村―――

ギィィィィ――

「愛が封印されてた棺の下にこんな所が……」
「えぇ。そういえば村長さんが言ってたわ。ここは神の間――」

カツン……カツン……カツン……

「先の地震で村の点検に来た所、棺がズレていまして。棺の下に階段を見つけました」

 村に点検にやって来ていたバナナ街の人の話では、偶然地下への階段を見つけ、降りた所に鬼の装飾が施してある門があったそうだ。

「あったわ……桃矢、これは転移門だわ」
「あぁ、鬼が出るか蛇が出るか」
「ぬ……お主は両方持っておるではないか」
「ノア、やかましい」
「ぬぬぬ……」
「僕とノアで行ってくる。皆はトメト村で待っててくれ」
「チョ!メイチャンモイキタ――」
「メイは留守番」
「グググ……」
「じゃぁ、行ってくる」
「気をつけてね、桃矢くん」
「あぁ舞、大丈夫だ。さぁ、デゼスポワール大陸へ繋がっていてくれよ……!!」

 桃矢とノアは転移門へと足を進める。二人は光の中へと吸い込まれて行った。

―――とある山の中―――

「――着いたのか?ここは……どこだ?」
「ぬ……滝かぇ?」
「まさか……ここはセリの言ってた……千年の滝か?」

ザァァァァァァ――

 転移門は滝壺の後ろにあった。セリが赤子を食べた鬼を見たという場所だった。足元には幾人かの人骨が転がっている。

「こんな所にあったのか……しかし妙だな。ここに元々あったのなら、鬼たちは気付いていたはずだ」
「ぬ……いや、これは鬼とて気付かぬな。通って来た門を見てみよ」
「なっ!?門が無い!?」
「ぬ……門が無いわけではない。見えぬだけじゃ。この岩に魔法の痕跡がある」
「誰が何のために……」
「ぬ……わからぬ。だが、エスポワールとデゼスポワールを行き来していた者がやったのだろうな」
「陽子先輩の様にか?」
「ぬ……おそらく」

カツン……カツン……カツン……

 桃矢とノアは滝壺から外へと出る。眼下には山と森が広がり、太陽の眩しい光が世界を照らしていた。

「おそらくこの下が死者の泉か。ノアこのまま双竜島まで行き、赤蛇に封印の壺を先に渡そう」
「ぬ、了解した」

桃矢達はそのまま、双竜島を目指す。

【デゼスポワール大陸】
―――鬼の里―――

ガラガラガラ――

「サクラお母さん……ちょっといい?」
「ん?サユキか。どうしたんじゃ?」
「気になる事があって……」
「ん?なんじゃ?」

チャポン……

 サクラとサユキは親子水入らずで、温泉に浸かっていた。

「実はね。前にも話したんだけど、転移門の前で拾った子供を育ててた時期があったのね」
「そう言えばそんな事言ってたのぉ」
「うん……その時ね。時々、夢で見てたの。あの子の記憶らしき断片……」
「ほぅ……不思議な事もあるもんじゃな」
「うん……その夢はたぶんエスポワール大陸にあの子がいた記憶。そしていつも出てくるお父さんらしき人物がいたの」

チャポン……

「なんじゃ?そこまで言ったら話さぬか。気になるではないか」
「うん……その顔がね。何度思い出しても……あのトキおじいさんにそっくりでね――」

ザバァァァン!!

「なんじゃと!?」
「ちょ!お母さん!声が大きい!もう!」
「あぁ……すまぬ」
「もう……トキおじいさんは悪い人だったのは知ってるし、顔も写真で確認した。だけど似てるんだけど……何か雰囲気は違うなぁ……て思ってて、人違いかな?と思ってさ……ずっと気になってるんだ」
「うぅむ……まさかエスポワールにトキの親兄弟がいたのか……?」
「わからないわ。そもそもあの子の記憶なの。本当かも確認できないもの」
「はっきりするまでそれは他言無用じゃ。桃矢殿が居てくれたら確認のしようがあるのじゃがのぉ……エスポワールに戻ったまま、転移門は閉じてしもうた」
「そうだったんだね……お母さん。転移門は他に無いのかな?」
「うむ……探させてはおるがの……」
「そっかぁ……」

カポーン――

「……?桃矢様!?」

ガタンッ!

「ミーサさんどうしたの?」
「チカゲさん……今、桃矢様の声が聞こえた気がして……」
「ミーサお姉ちゃん大丈夫?レディスがいいこいいこしてあげようか?」
「フフ、レディスありがとう。大丈夫よ。そんな気がしただ――」

バタン!!

「ミーサさん!!」
「ミーサお姉ちゃん!」
「誰か来てっ!!」

 ミーサは疲労でその場に倒れこんでしまう。ここ数日間、寝ずに転移門の報告を待ち、桃矢の事を考えていたのだ。

数時間後――

「もう大丈夫そうじゃな。ぐっすり眠っておる」
「お母さん、お水ここに置いとくわね」
「あぁ、サユキ。ありがとう」
「ミーサさん寝ずに報告を待ってたものね……」
「無理をしすぎたのじゃな……少し休ませてやろう」
「うん……」

 ミーサは夢の中で桃矢に出会った。それは偶然なのか、虫の知らせだったのか。必死で手を伸ばすが桃矢に届かない。目の前ですり抜けていく……夢の中で幾度となくそれを繰り返す。そして目覚める前にもうひとつの不思議な夢を見る。

ザァァァァァァ――

「薫?どうしたの?」
「お姉ちゃん……?薫?私はミーサ……」
「おかしな子ね……漫画の読みすぎよ。あなたは……」

ザァァァァァァ――

「お姉ちゃんっ!?」
「ひゃっ!?ミーサ様!?ミーサ様がお目覚めになられました!!」
「ここは……?」
「気が付いたか。ミーサ殿、少し疲れが出たようじゃの」
「サクラさん……私……行かなきゃ……!」
「待ちなさい、まだ体が本調子ではないのじゃぞ!」
「いいえ!もう大丈夫です!桃矢様が……桃矢様が来てるんです!私も行かないと!」
「桃矢殿が?しかしそんな報告は来てないはずじゃが?」
「……私にはわかるんです。双竜島へ向かいます」
「はぁ……ミーサ殿はまったく……」
「ミーサお姉ちゃん起きたの!大丈夫?」
「レディスおいで……ありがとう。双竜島へこれから行くのだけど、レディス達はどうする?」
「ミーサお姉ちゃん行くならあたしも行く!クルミちゃんも呼んでくるね!」
「わかった。準備が出来たらおいで」
「はいっ!」

 こうして、ミーサはレディスとクルミを連れて双竜島へと向かう。

「……チカゲさんや。本当に行かなくていいのか?チアキちゃんもお友達がいなくなって寂しいだろうに……」
「サクラさん……ありがとうございます。でも私は桃吉さん……いえ、弟とは別の世界で生きていくべきなのです……」
「……そういうもんなのか?人間のしきたりはようわからぬが」
「はい……そうですね。そういうしきたりなんです」
(桃吉さん……さようなら。私は父の育ったこの世界を選びます。そしてあなたの子をきっと育てます……ありがとう)

 それはまだエスポワールとデゼスポワールの大陸が繋がっていた頃のお話。
 ずっとずっと……昔のお話……。
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