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第八章―赤蛇様―
8−9・鬼笛
しおりを挟む【デゼスポワール大陸】
―――双竜島―――
桃矢達はエスポワールへと繋がる転移門へと向かう。入口では赤蛇がとぐろを巻き、その行く先を見守っていた。
『ピュルルル~ピュウィィ~ピュルルル~ピュウィィ……』
どこからか、笛の音が聞こえる。桃矢は足を止め音のする方を探す。
「今の笛の音は何だ?」
「ぬ……不協和音……?」
「ノア様、もしや鬼笛かもしれませぬ。お気をつけなされよ」
「セリ、鬼笛って何だ?」
「はい、桃矢様。潜在的に眠る怒りや恨み、そういう邪悪な心を洗脳する鬼族に伝わる呪いの笛で御座います。しかしそんな物をいったい誰が……」
『ピュルルル~ピュウィィ~ピュルルル~ピュウィィ……』
笛の音が双竜島に響く。しかし桃矢達を始め、兵士達にも変わった動きはない。
「いたぞっ!!転移門の上だ!!捕らえよ!!」
兵士の呼びかけで、桃矢達も身構える。その間も笛の音は鳴り響く――心地よく、怒りや恨みなどといった感情とはほど遠い気持ちになる。
その時だった。
『グガァァァァァァァァァァ!!!』
後ろでとぐろを巻いていた赤蛇が雄叫びを上げる!!
「おいおい……嘘だろよっと。最初から赤蛇の心を支配しようとしてたのかよっと」
「ぬ……まずいの、アイツが暴れると転移門もただではすま――ぬっ!!門がっ!!どういうことじゃ!」
「なっ!!門が消えるっ!!ノア!!急げ!!」
後方では、赤蛇が暴れ出し多くの兵士が宙に舞う。砂煙が舞い上がり、血しぶきが飛び散り、一瞬で戦場と化す。赤蛇が正気を失い、転移門がその効力を失い消えかけている。
そんな中、転移門の上では鬼笛を吹き続ける者がいた。
「ハァハァ……ミナ……シネ……トキサマより預かりしこの鬼笛で……ハァハァ……赤蛇を操りこの世界を我ら……鬼斬丸の手中に!!」
『ピュルルル~ピュウィィ~ピュルルル~ピュウィィ……』
「くっ!!転移門がっ!!ノア!どうする!!」
「おいっ!桃矢!ノアリス!先に行けっ!!」
「ぬ……タケオ!!」
「桃矢様!!ここは私達が!!」
「セリ!!くっ!」
「ゴシュジンタマ!!イキマメ!オフタリノ、シニザマヲムダニシマス!」
「まだ死んでないわっと!!」
「メイ様!またお会いしましょう!」
「オウヨ!」
メイに押され、桃矢とノアは転移門をくぐる!!と同時に転移門が消えていく。
「セリ!!門の上の鬼を頼んだよっと!!」
「はい!タケミカヅチ様!!」
「オイラは……赤蛇ちゃんを少し大人しくさせてくるかねぇっと!」
桃矢達が転移門に入ってすぐだった。エスポワール大陸から転移してきたハリス公爵達が現れる。
「どこだ……ここは?大蛇……?」
「お前は何者だ!!」
あっと言う間に、カラミニクナイ国の兵士に取り押さえられるハリス公爵と護衛。
「くっ!!離せ!ワシを誰だと思うておる!」
抵抗するが兵士に拘束される。そのすぐ後に転移門からまた数人の護衛が出てくる。
「お前らもこいつの仲間か!!」
「ハリス公爵こんなところに!いいえ!違います!私達は桃矢様を探して――」
「桃矢?赤蛇様と一緒にいた三つ目の若者か?」
「三つ目……?ではないですけど、三つ目になったのかしら?それにこの赤蛇はいったい……」
少し困惑気味のミーサ。兵士に事情を説明し、誤解が解けるとカラミニクイ国の兵士はハリス公爵だけを連行する。
「桃矢様がエスポワールに戻られたのなら、私も向こうへ戻り――え?転移門が消えて……」
その時だった!!
地鳴りと轟音が辺りに響く!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
「退避!!退避!全員退避っ!!」
周辺の岩山が崩れ、土砂崩れが起きる。
「まずいなぁ……っと。世界の均衡が崩れ始めたか……」
世界の均衡――
それは古代兵器オヘビウェポンの封印が解かれ、別世界に転移してしまった事で強大なエネルギーが片方の世界に寄りかかったのだ。
本来は赤蛇がそのエネルギーを喰らい、さらに封印することで最小限にとどめていた。
一刻も早く、古代兵器オヘビウェポンを抑え封印する必要がある。
「もしかして……ミーサさん!?」
「え!その声はチカゲさん!?」
チカゲは鬼の里より、桃矢を探し双竜島へ来ていた。
「チカゲさん、良かった!ご無事だったのですね!」
「えぇ、私もまた会えて嬉しいわ。でも詳しい話は後で!!今はこの場を離れましょう!」
「えぇ、わかりました!私もエスポワールから桃矢さんを追って来ていて……でも入れ違いで桃矢様達はエスポワールへ行かれたそうです」
ミーサとチカゲは、護衛を引き連れて戦場から離れた丘を目指す。
その後ろに三人の子供の姿があった。互いに砂煙で認識はできてはいない。が、大人達が向かう方向へと着いていく。
「ねぇ!チアキ!クルミ!いるの!?」
「いるにゃ!!見えないけど!ここにゃ!」
「レディスちゃん!クルミちゃん!私もここに!」
「良い?あの大人達が向かった丘に全力で走って!!蛇には近付かないこと!!行くわよ!」
「はいにゃ!」
「わかった!!」
――この後、数年ぶりにチカゲは我が子、チアキを抱きしめるのであった。
―――カラミニクナイ国―――
「国王様!申し上げます!鬼斬丸の残党をジゴク丸様が生け捕りに!!」
「ようやく、捕まえたか……牢へ入れておけ」
「はっ!」
カラミニクナイ国では、緊急会議が行われていた。
「――五老星の話しでは、古代兵器を封印し元の洞窟へと戻す必要があると。しかし古代兵器は転移門を抜け別世界へと行ってしまった。と言う事か?」
「はっ!その様にお伺い致しました!」
「ふむ。先程の地震といい、このままでは世界崩壊が起こってしまう……何か手はないのか」
「申し上げます!ジゴク丸様のご到着です!」
「通せ」
「はっ!」
鬼斬丸を捕縛したおにぎり丸旅団のジゴク丸が王宮会議室へと入ってくる。
「国王様、ジゴク丸帰還致しました」
「ジゴク丸よ、よくやった。しかしそれより重大な事件が起きてしまっての。本来なら凱旋を祝う所じゃが……」
「めっそうも御座いません!赤蛇様と古代兵器のお話は途中で聞きましたゆえ!それより……申し訳御座いません。鬼斬丸の頭首は死亡を確認しましたが、一人取り逃がしまして……」
「うむ。一人では何も出来まい。頭首を撃っただけでも良しとせぬか」
「はっ……」
「それより、赤蛇様を何とかせぬとな」
そこへ急報が入る。
「申し上げます!カランデクル国が赤蛇様の討伐隊を派遣したそうです!」
「なんじゃと!!いかん!すぐに止めさせろ!赤蛇様をお守りするのじゃ!!」
「はっ!」
「ジゴク丸よ!!」
「はっ!ただちに赤蛇様の元へ向かいます!」
「頼んだぞ!」
双竜島では、赤蛇を止める為に戦う兵士と、赤蛇を殺す為に戦う兵士の醜い争いが始まるのであった。
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