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第八章―赤蛇様―
8−3・幽霊の正体
しおりを挟む―――カランデクル街道―――
桃矢達はおにぎり丸に会いにカランデクルの街へと再度向かっていた。荷馬車の中でノアが桃矢に話しかける。
「ぬ?桃矢、お主肩に何かついて……」
「あっお構いなく」
返事をしたのは桃矢ではなく、肩から生えた顔だった。
「ぬっきゅぅぅぅ!?」
「ど、どうした!!ノア!!」
「ぬふぅぅぅ!!お主の肩からの顔が生えて――!!」
「あ、皆さんこんにちは!ピクニック日和ですね!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!なんじゃこりゃっ!!」
桃矢が肩のソレを剥がそうとするが取れない。
「痛い!痛いです!桃矢様!私です!幽霊です!」
「ぐぬぬぬぬ!!」
「痛い!痛い!やめてぇ!」
「取れない……どうしよう……」
「ふぅぅ……」
幽霊が桃矢の耳にそっと息を吹きかける。
「桃矢様……私とあなたは一心同――痛い!痛い!やめれぇぇ!」
「離れろっ!!変態幽霊!!」
しばらくこのやり取りをしていたがどうも、桃矢の体を媒体にして具現化した幽霊らしかった。メイも荷馬車に戻ってきて指を差す。
「ゴシュジンタマー!!ナ二ソレー!ウケルー!」
「ノア……この幽霊をメイに移植してくれ……」
「ぬ……そんな技術わしにはない……しかしどこかでその顔……」
「ヤダーキモイー」
メイの心ない言葉に何気に傷付く桃矢だった。
―――カランデクル街―――
「桃矢様は丘の上の社にてお待ち下さい。さすがに二人頭の方は街に入れないかと」
「う……うん。そうするよ、皆頼んだよ」
「はいっ!」
鬼たちはおにぎり丸が宿泊する宿へと向かい、桃矢とノアとメイは丘の上の社へと向かう。
「ねぇ、桃矢様。このまま桃矢様の栄養で私の体が出来ないかしら?頭が生えたから次は腕?とか胸とか?」
「胸!?」
桃矢の頭脳がフル回転する。このまま上に幽霊が生えていくと、顔の横に胸がくる日がやってくる。遠くない未来に!!横を向くと常に胸がある生活……それは桃矢にとって悪くない話だった。
「胸……コホン。ま、まぁしばらくそこで生活したらいいんじゃないかな。ぼ、僕は気にしないから」
「ぬ……桃矢。明らかに胸のくだりの辺りから態度がかわったの」
「ちがっ!ノア!な、何言ってるの!」
「アハハ!ゴシュジンタマーオッパイスキー!」
「桃矢様っ!!不謹慎じゃないですか!」
幽霊に耳元で怒られる桃矢。
カツンカツンカツン……
そうこう言っている間に石段を登り社へとたどり着く。
「メイ、社の中を片付けて宿泊できる準備をしとこうか」
「ハイー!オッパイゴシュジンタマー!」
バキッ!バキッ!バキッッ!
メイが社へと上がろうとして、床がことごとく抜ける。
「あぁ、そうかメイの重さでは無理か」
「レディ二ムカッテ!シツレイナンデスーモウスグオヒルナンデスー」
「メイはロボットだから、しょうがないじゃな……ん?メイ、それ何だ?」
「ツボ」
「見たらわかるよ、どこにあった?」
「ツボ……?ドコ?ユカノシタ、アッタ」
「ぬ……それは神の封印の烙印があるの。誰かが封印をしたのかえ、どれ貸して――」
「メイチャンノミヤゲチョップ!!」
「おいっ!!メイ!何をしてるんだ!」
「ぬ!いかん!悪神なら危険じゃ!離れいっ!!」
パリンッ!!
モクモクモク……
辺りに白い煙が立ち込め三人と一首は、煙の中へと姿が消えていく。
「何も見えない!!ノア!メイ!!いるか!」
「ぬっ!わしは大丈夫じゃ!」
「メイチャンノミヤゲ……チョップ!チョップ!」
「メイ!誰かいるのか!」
「痛い!痛い!やめてぇぇぇぇ!」
「メイチャンノミヤゲ……!?」
「おいっ!やめろっつってんのが聞こえねぇのか!このヤロー!あぁん!?」
「ギャァァァ!!デタァァァ!!」
煙が徐々に引いていきノアとメイの姿が見えてくる。さらにもう一つの人影がある。桃矢は剣を構え、戦闘体制に入る。
「名を名乗れ!!悪神ならば切るっ!!」
「桃矢様!私です!剣をお収め下さい!」
そこにいたのは、紛れもない幽霊だった。
「どういう事だ?オッパイ幽霊は僕の肩に……」
桃矢が振り返ると、肩にはすでにオッパイ幽霊の首は無かった。
「くっ!!無念!」
「ぬ!桃矢!どうしたのじゃ!!やられたのかえ!」
「いや……大丈夫だ。少し夢を見ていたようだ……」
「ぬっ!!夢を操るたぐいの神か!気をつけよ!」
「お待ち下さい!ノア様!私は何もしておりません!」
ノアの目にも幽霊の姿が見えた。
「ぬ……お主は!?まさかセリか!!」
「はい!須勢理毘売命で御座います!!あぁ……ようやく戻って来れましたぁぁ……」
「ノア?お知り合い?」
「ぬ……スセリヒメ。寿命を操る死の番人の一人じゃ。しかし……幽霊の正体がお主だとはおったまげたわい」
「私もです!この本体と離れてからの記憶が曖昧で、体に戻りようやく記憶が繋がりました!あぁ愛しの我が体よ!よく無事で!」
「ゴシュジンタマー!モウチョップイラナイ?」
「あ……あぁ、敵では無いみたいだな」
スセリヒメはこの丘の社に住まう神だった。壺に封印されてからの記憶は曖昧ではあるが、死者の泉に長らく居た感じは残っていると言う。
「ぬ……セリよ。覚えている範囲で教えてくれまいか」
「はいノア様。あの日私は、社を抜け出し千年の滝のほとりで水浴びをしておりました」
「千年の滝と死者の泉は同じではないのか?」
「はい、桃矢様。千年の滝はもっと遥か上空に御座います。その滝の終着点が死者の泉なのです」
「そうなのか……すまない、続けてくれ」
「はい、その滝壺で見てはいけないものを見てしまったのです……」
「見てはいけないもの……?」
セリの怖いくらいの真顔に、桃矢もノアもメイさえも固唾を飲んだ――
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