上 下
64 / 92
第七章―鬼斬丸―

7−3・やっぱり温泉

しおりを挟む

―――ジオナの屋敷―――

ガリガリゴリゴリぽちょんガリガリゴリゴリ……

 チカゲを救う為、アンドロイド新書に書かれていた傷口の治し方による材料を早紀が混ぜていた。

「……もうしばらくかかるわよ。薬が出来るまで」
「そうか。少し休んでくるよ」
「えぇ、出来たら呼ぶわね」

桃矢はジオナの屋敷の客間に向かう……

「あら、桃矢殿。温泉にでもつかって来られますか?」
「あぁ、サクラさん。温泉があるのですか」
「えぇ、この角を曲がって――」

桃矢は言われるまま温泉へと向かう。頭の中ではチカゲの死を受け入れれず思い悩んでいた。

「あら、舞さん。温泉にでもつかって来られますか?」
「えっ!サクラさん!温泉があるのですかぁ!」
「えぇ!この角を曲がって――」
「うふふ!皆を誘って行ってみます!ありがとうございます!るんるん♪」

季節は夏から秋に変わろうとしていた。
秋の夜は明るく、明るく空が光る――

ちゃぽん……

「はぁぁぁ……いい湯だ……ミーサ達は元気でやってるかなぁ……」

 転移門の事はまだ詳しくわかってはいない。ただ同じ時間軸ではない事は体感でわかっていた。この世界は前の世界より進んでいる……気がする。

ちゃぽん……

ガラガラガラ……

「うわぁ!広い!!」
「ん?レディスか。レディ――」

レディスに声をかけようとすると……

「レディスちゃん!待ってにゃぁ!」
「クルミちゃん走ったら危ないですよぉ。愛も早く行きましょ」
「ねぇさんタオル忘れてるよ!」
「ダリア様、お足元にお気をつけください」
「アリダ、もう様付で呼ぶでない。エルバルトはもう無いんだからな」
「マキおねぇちゃん!!早く早く!」
「あぁ、レディスちゃんちょっと待ってぇ!」
「え……?」

慌てて岩かげに隠れてしまった……どういう状況だ?女の子がいっぱいいる。

「ぬ……桃矢よ。また覗きなのかえ」
「ぶっ!!」

ノアが岩の上に腰かけ、覗き込んでくる。

「ちがっ!サクラさんに言われて来たら……ん?」
「にゅぅぅぅぅ」
「痛い!痛い!痛いっ!」

レディスがあろうことか、僕の息子の頭を引っ張っている。

「おにぃたん、これなあに?レディスちゃんには無いの」
「ん?レディスちゃん!そっちに誰かいるのぉ?」
「曲者か?アリダ行くぞ」
「はっ!ダリア様!」

ぷるるんと、ぽよよんと、ぼいん、が近づいてくる!!

ザパァァン!!

えぇい!こうなったら!!

「大変申し訳ありません!覗きではありません!成り行きでこうなりました!!」
「桃矢くんっ!?」
「桃矢様!?」
「あなたっ!!」
「おにぃたんだぁ!!」

パチィィィィン!!

マキの有無も言わせない平手打ちが僕の頬を貫く!!

「あなた!!どういうことですか!説明してください!」
「マキ!!ちょっと!これは誤解で……」
「ねぇ……桃矢くん……?あなたってどういう事なのかしら……?」

ポキポキ……

「ま、舞さん……これには深い事情というか……」
「ほぅ……桃矢様。私を差し置いてこの者共と深い関係に……」
「ダリア!!ややこしい事を言うなっ!!」
「ぬ……こうなった以上、皆にお主の素朴なジョナサンを披露せねばならぬな……ぷっ」
「素朴言うな!!」
「桃矢くんっ!!覚悟っ!!」
「わっ!ちょ!舞!!」

ザパァァン!!!

――大広間。

「で、私が頑張ってる間に皆といちゃいちゃして、のぼせたのね?ハナクソ桃矢」
「ハ、ハナクソ……す、すいません……」
「早紀殿、そのくらいで許してやってはくれないか。桃矢殿も気苦労が耐えぬのじゃ」
「はぁ……サクラさんが言うのなら仕方ないわ」

カチャ……

「さて、薬はメイの体に塗ったわ。充電も出来てる。後は魂を入れてどうなるかよ」

カタン……

 桃矢がメイの手を握る。メイへの気持ち、猿鬼との思い出、そしてチカゲへの――

「やってくれ、ノア……」
「ぬ……」

ノアが深呼吸し、部屋の空気が変わる……

『常闇の惡引死オヒッコシ――』

ドン!と僕の中から何か抜け出たような感じがし、体が軽くなった気がした。

「チカゲねぇさん……」

メイの体に魂らしき光が入っていき……消えた。

「どうなったんだ?」
「動かない……わね」
「ぬ……魂は逝ったぞよ、自分の体ではない場所で果たして定着するかどうか……」

その夜、しばらく待ってはみたがチカゲの魂と、メイの体は結局目覚めなかった……

――翌日。

「皆、話がある」

僕は皆を集めて今後の打ち合わせを行った。

「早紀と舞はオニの国へ。ダリアとアリダはエルバルトへ。マキとレディス、クルミは帝国へ行ってくれ。僕は――」
「桃矢、あんたまさか……」
「……僕はここに残る」
「桃矢っ!!」
「ぬ……そうなると契約本体に依存するわしもか……」
「ノア、すまない」
「桃矢くん!目的は果たしたわ!皆で帰りましょう!」
「わかってる。ここで待ってても、メイが生き返る保証はない。が……」
「千年の滝か……桃矢殿も誰かに聞かれたのですな」
「サクラさん……昨日、トキじいさんが立ち話しているのを……」
「そうか……別名、死者の泉。死者の魂が集まるという……」
「はい。そこへ行こうと思います」

その後は、早紀と舞が納得するまで話をした。
転移門の時間軸のズレが気になる事も、復興の進行具合も……最後には納得してくれた様だ。

ギィィィ……

鬼の里から森を抜け、太郎、次郎、三郎のお墓に皆でお参りした。そして転移門まで見送りに来る。

「桃矢、必ず帰って来なさいよ!約束よ!」
「桃矢くん!」
「おにぃたん!また会おうね!」
「あぁ、皆も元気でな!」

手を振る仲間達と一時のお別れだった。

……バタンッ!!

「……ぬ。良かったのかえ?下手したら戻れなくなるぞよ?」
「あぁ、だから皆には先に帰ってもらったんだ。転移門の力が弱まっているんだろ?」
「ぬ……気付いておったか」

転移門の力が以前より弱くなっていることに気付いた桃矢だった……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

最弱会社員の異世界サバイバル 特殊スキルで生き残る

塩爺
ファンタジー
会社員だった俺はある事情からトラックに跳ね飛ばされて異世界に飛ばされる。 跳ね飛ばされたショックからか自分の名前が思い出せない俺を更なる悲劇が襲う。 異世界に相応しいモンスターの出現、現世ではありえないその脅威にただ逃げ惑う。 そこで出会った竜族の少女 リュオに付けられた俺の名前は『ライス』、ご飯と言う意味だ。 リュオは隙あらば俺を食べようと狙って来る。 食べられまいと抵抗する俺とリュオの異世界の冒険が始まる。 冒険を続ける中で俺達は竜徒や竜族の強敵に出会い戦う。 カイトやポーという新たな仲間達を加えてライスの旅の行き着く先は?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...