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第七章―鬼斬丸―
7−3・やっぱり温泉
しおりを挟む―――ジオナの屋敷―――
ガリガリゴリゴリぽちょんガリガリゴリゴリ……
チカゲを救う為、アンドロイド新書に書かれていた傷口の治し方による材料を早紀が混ぜていた。
「……もうしばらくかかるわよ。薬が出来るまで」
「そうか。少し休んでくるよ」
「えぇ、出来たら呼ぶわね」
桃矢はジオナの屋敷の客間に向かう……
「あら、桃矢殿。温泉にでもつかって来られますか?」
「あぁ、サクラさん。温泉があるのですか」
「えぇ、この角を曲がって――」
桃矢は言われるまま温泉へと向かう。頭の中ではチカゲの死を受け入れれず思い悩んでいた。
「あら、舞さん。温泉にでもつかって来られますか?」
「えっ!サクラさん!温泉があるのですかぁ!」
「えぇ!この角を曲がって――」
「うふふ!皆を誘って行ってみます!ありがとうございます!るんるん♪」
季節は夏から秋に変わろうとしていた。
秋の夜は明るく、明るく空が光る――
ちゃぽん……
「はぁぁぁ……いい湯だ……ミーサ達は元気でやってるかなぁ……」
転移門の事はまだ詳しくわかってはいない。ただ同じ時間軸ではない事は体感でわかっていた。この世界は前の世界より進んでいる……気がする。
ちゃぽん……
ガラガラガラ……
「うわぁ!広い!!」
「ん?レディスか。レディ――」
レディスに声をかけようとすると……
「レディスちゃん!待ってにゃぁ!」
「クルミちゃん走ったら危ないですよぉ。愛も早く行きましょ」
「ねぇさんタオル忘れてるよ!」
「ダリア様、お足元にお気をつけください」
「アリダ、もう様付で呼ぶでない。エルバルトはもう無いんだからな」
「マキおねぇちゃん!!早く早く!」
「あぁ、レディスちゃんちょっと待ってぇ!」
「え……?」
慌てて岩かげに隠れてしまった……どういう状況だ?女の子がいっぱいいる。
「ぬ……桃矢よ。また覗きなのかえ」
「ぶっ!!」
ノアが岩の上に腰かけ、覗き込んでくる。
「ちがっ!サクラさんに言われて来たら……ん?」
「にゅぅぅぅぅ」
「痛い!痛い!痛いっ!」
レディスがあろうことか、僕の息子の頭を引っ張っている。
「おにぃたん、これなあに?レディスちゃんには無いの」
「ん?レディスちゃん!そっちに誰かいるのぉ?」
「曲者か?アリダ行くぞ」
「はっ!ダリア様!」
ぷるるんと、ぽよよんと、ぼいん、が近づいてくる!!
ザパァァン!!
えぇい!こうなったら!!
「大変申し訳ありません!覗きではありません!成り行きでこうなりました!!」
「桃矢くんっ!?」
「桃矢様!?」
「あなたっ!!」
「おにぃたんだぁ!!」
パチィィィィン!!
マキの有無も言わせない平手打ちが僕の頬を貫く!!
「あなた!!どういうことですか!説明してください!」
「マキ!!ちょっと!これは誤解で……」
「ねぇ……桃矢くん……?あなたってどういう事なのかしら……?」
ポキポキ……
「ま、舞さん……これには深い事情というか……」
「ほぅ……桃矢様。私を差し置いてこの者共と深い関係に……」
「ダリア!!ややこしい事を言うなっ!!」
「ぬ……こうなった以上、皆にお主の素朴なジョナサンを披露せねばならぬな……ぷっ」
「素朴言うな!!」
「桃矢くんっ!!覚悟っ!!」
「わっ!ちょ!舞!!」
ザパァァン!!!
――大広間。
「で、私が頑張ってる間に皆といちゃいちゃして、のぼせたのね?ハナクソ桃矢」
「ハ、ハナクソ……す、すいません……」
「早紀殿、そのくらいで許してやってはくれないか。桃矢殿も気苦労が耐えぬのじゃ」
「はぁ……サクラさんが言うのなら仕方ないわ」
カチャ……
「さて、薬はメイの体に塗ったわ。充電も出来てる。後は魂を入れてどうなるかよ」
カタン……
桃矢がメイの手を握る。メイへの気持ち、猿鬼との思い出、そしてチカゲへの――
「やってくれ、ノア……」
「ぬ……」
ノアが深呼吸し、部屋の空気が変わる……
『常闇の惡引死――』
ドン!と僕の中から何か抜け出たような感じがし、体が軽くなった気がした。
「チカゲねぇさん……」
メイの体に魂らしき光が入っていき……消えた。
「どうなったんだ?」
「動かない……わね」
「ぬ……魂は逝ったぞよ、自分の体ではない場所で果たして定着するかどうか……」
その夜、しばらく待ってはみたがチカゲの魂と、メイの体は結局目覚めなかった……
――翌日。
「皆、話がある」
僕は皆を集めて今後の打ち合わせを行った。
「早紀と舞はオニの国へ。ダリアとアリダはエルバルトへ。マキとレディス、クルミは帝国へ行ってくれ。僕は――」
「桃矢、あんたまさか……」
「……僕はここに残る」
「桃矢っ!!」
「ぬ……そうなると契約本体に依存するわしもか……」
「ノア、すまない」
「桃矢くん!目的は果たしたわ!皆で帰りましょう!」
「わかってる。ここで待ってても、メイが生き返る保証はない。が……」
「千年の滝か……桃矢殿も誰かに聞かれたのですな」
「サクラさん……昨日、トキじいさんが立ち話しているのを……」
「そうか……別名、死者の泉。死者の魂が集まるという……」
「はい。そこへ行こうと思います」
その後は、早紀と舞が納得するまで話をした。
転移門の時間軸のズレが気になる事も、復興の進行具合も……最後には納得してくれた様だ。
ギィィィ……
鬼の里から森を抜け、太郎、次郎、三郎のお墓に皆でお参りした。そして転移門まで見送りに来る。
「桃矢、必ず帰って来なさいよ!約束よ!」
「桃矢くん!」
「おにぃたん!また会おうね!」
「あぁ、皆も元気でな!」
手を振る仲間達と一時のお別れだった。
……バタンッ!!
「……ぬ。良かったのかえ?下手したら戻れなくなるぞよ?」
「あぁ、だから皆には先に帰ってもらったんだ。転移門の力が弱まっているんだろ?」
「ぬ……気付いておったか」
転移門の力が以前より弱くなっていることに気付いた桃矢だった……
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