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第六章―愛すべき人―

6−9・愛すべき人

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―――鬼の里―――

 桃矢と魔王太郎の戦いが佳境を迎えていた。桃矢が鬼の力に目覚め、戦況は五分と五分――

「ぐぐぐ……頭が……痛……い……」
「さ……早紀ちゃん!?ヒーリングデス!!」

 舞を中心に早紀、アリダ、猿鬼が青い光に包まれる。聖域に入った早紀が突然苦しみ始めたのだ。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「早紀ちゃん!!しっかりして!!」
「ぬっ!?お主はまさか!!」

早紀の頭に小さなツノが生えている……

「うそ……早紀ちゃん……早紀ちゃんも鬼の……」

舞が口に手を当て、座り込んでしまう。

「はぁはぁはぁ……」

早紀は……次郎の子。舞の聖域に入り込み覚醒してしまったのだ。

「舞……離れていなさい……力が……制御できな……コロス……」
「早紀ちゃんっ!!」

『鋳造合成……閻魔の槍……!!』

早紀の持っていた銃が光の槍に生まれ変わる。

「ぬ……魔法と鋳造の合成か!あんな物見たことがない……」
「ノア様!早紀ちゃんを元に戻して!」
「シヌガイイ……!!」

早紀が走り出し鬼の首を狩っていく……そして、首のない鬼の心臓を貫く――

グシャッ!!

ドスンッ!!!

「シネシネ……」

桃矢も早紀も鬼の形相で、周囲の鬼を狩る……地獄のような光景に言葉を失う舞とアリダ……

「ノ、ノア様……宝玉はドコニ……?」
「猿鬼さん!!良かった!気が付いて!!」
「ぬ……宝玉は太郎の心臓部に入っておる……しかしあれを取り出すには太郎の首を一度はねなければ……」
「ハァハァ……ワカリマシタ……」
「え?猿鬼さん?……いや、メイッ!?」

メイが立ち上がり、太郎に向かって歩きだす。

「ハァハァ……猿鬼。聞こえマスカ?アナタとは最悪の出会いデシタネ……」
『あぁ……メイか。何十年前だろうな。懐かしい……』
「こうしてアナタとまたご主人様の為に戦えるコト……私は誇りにオモイマス……」
『わしもだ。最悪の出会いだったが、最高のパートナーだったよ、メイ……』
「死ぬはずだったアナタの魂を……私の中に封印してくれたツクヨミ様に感謝イタシマス――」
『あぁ……そしてこれが最初で最後の――』
「そうデスネ……最初で最後ノ――」

淡鼓舞タンコブ!!』

メイの体が黒く輝き、周囲の空間が歪む……!!

「ぬ!!いかん!!あの輝きは生命を削っておる!!」
「どうして……!!皆!!行かないでっ!!」

舞の悲痛な叫びは戦場の怒号にかき消える……

「グアァァァ!!桃矢様!!早紀様!!私が魔王を抑えるのでその隙ニッッ!!」

桃矢と太郎が打ち合う後ろにメイが回り込み、太郎を抑え込む!!

「何だ!?貴様!!邪魔をするな!!」

太郎が振りほどこうとするが、メイが後ろから抑え込み身動きが取れない!!

「桃矢様!早紀様!」
「クソが!!これでも喰らえ!!」
「メイ!!離れろぉぉぉ!!!」

桃矢が叫ぶと同時に、太郎の背中から無数の剣山が飛び出しメイを串刺しにする――

「ガハッ!!」
「邪魔をするなぁぁ!!」
「メイィィィィ!!」

 太郎がメイを引き剥がそうとする。が、メイの体が真っ黒に固まっていき、太郎の背中から出た剣山ごと固まり動かなくなる……

「クソが!離れろ!!」

 元々アンドロイドの体のメイは数百キロの重さがある。簡単には動かない。

「シネ!!!!」

 隙をついて早紀が太郎の胸を串刺しにする!メイの意志を理解してたのかどうかはわからない。だが迷う事なく、太郎とメイを閻魔の槍が貫く!!

「グハッ!!」

大量の真っ赤な血が辺りに飛び散る。

「終わりだ……あの世で償うがいい……」
「待て!!や、やめろっっ!!」

『月陰……絶ッ!!』

シュン――

桃矢が振り切った妖刀の後に……太郎の首が宙を舞う。

「アガガガ……」

ドサッ……

「ノアッ!!!」

桃矢の叫ぶ声と同時にノアが大鎌を振り下ろす!!

ガキンッ!!!

「ぬ!!手応え有りじゃ!!魂よ!!選ばれし体へ戻れ!!」

 ノアが叫ぶと、太郎の体から四つの球体が飛び立つ。一つは舞の体へ、一つは早紀の体へ、一つはアリダの体へ、そして最後の一つは桃矢の体へ!!

「あっ……愛ちゃん……が入ってくる……」
「ダリア様!!」
「……ダレ?」
「チカゲ……ねぇさん……」

 そしてノアが、宝玉を太郎の首から手を突っ込み引きずり出した。太郎の体はそれと同時に地面に倒れて動かなくなる……周囲の生き残った鬼達は、ボスが死んだ事を悟り静かに森へと帰って行った。

「ぬ……チカゲ以外は無事の様だの。チカゲはこのまま取り出すと致命傷か」
「ググ……」
「早紀!!しっかりしろ!!」

 桃矢は鬼化しても意識を保てるようになっていた。しかし、早紀は初めての鬼化で自我を忘れて森へと走っていく――

「さ、早紀ちゃん!!」

 追いかけたい気持ちはあるが、もうほとんどの力を使いきった舞は動けない。

「舞!待ってろ!僕が行く!ノア、皆を安全な場所へ!」
「ぬ。わかった!」

桃矢は早紀を追いかけ森へと走っていく――

――帝国マルク城――

「ここなら隠れれる?」
「門番さん寝てるにゃ。ひひっ」
「レディスちゃん!!クルミちゃん!どぉこ!」

カチャ……
ギィィィィィ……

「千明ちゃん!!こんな所で遊んでたら危ないわよ!」
「ミーサおねぇちゃん!ごめんなさい。レディスちゃんとクルミちゃんと隠れんぼしてるんだけど、見つからなくて……」
「わかったわ、おねぇちゃんも一緒に探してあげるから向こうに行きましょう!」
「はぁい!おねぇちゃん、お母さんはいつ帰ってくるの?」
「……そうねぇ。千明ちゃんがいい子にしてたらきっと……きっと帰ってくるわ」
「ん?変なのっ!」

チカゲの命は……桃矢達の手に委ねられていた……
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