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第五章―生と死と―

5−7・魔王降臨

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―――神の山―――

「ぐっ……メズ……生きているか……」
「兄様……な、何とか……」
「もういいか……時間がおしい、お前らでは僕には勝てない」
「くっ……鬼の分際で悪魔に説教か!」

ドスッ……

桃矢が剣の柄でオズの腹部を一突きする。その一突きでオズは気を失う……

「さて……ノア!そっちは大丈夫か!」
「ぬ。誰に物を申しておる。こっちも片付いたわぃ」
「ふっ……さすが死神」

 ノアの足元には地面に倒れ込むチホさんの姿があった。
 そして悪魔が捧げた祭壇には球体が光っている。それを守るようにチカゲさんが僕らを見ていた。

「……」
「チカゲさん、なぜこんな事を?」
「……魔王様を復活させるには、四人の魂と大勢の生命エネルギーが必要なんです」
「どういう意味だ?」
「愛、ダリア、マキ……そして私の……」

そう言い残し、チカゲさんはおもむろに首に短剣をあてがい、そのまま――

「待て!やめろっ!!」

ザクッ……

ポタポタポタ……

「おい……チカゲさん!?」

そのままチカゲさんは倒れ込み、おびただしい血が祭壇に流れる。

「ノア!助けてくれ!間に合わなくなるっ!!」
「ぬ。やれやれ、ワシをこき使うのはそなたくら――!?」

ゴゴゴゴ……

その瞬間地鳴りがし始め、立っていられないくらいの地震が起こる!!

ゴゴゴゴ……グラグラグラグラッ!!
ズドォォォォォン!!

落盤が起き、目の前が砂煙で見えなくなる。

「くっ!せめて愛だけで……も……!!」

愛の姿どころか、縛られていたダリアもマキさんの姿も見えない。

「クックック……いい気味だ……」
「メズ!お前っ!」
「皆……魔王様の生贄にしてくれる……クックック!!」

ゴゴゴゴ……

「ぬっ!いかん!桃矢!逃げるぞ!」
「だけど!愛がっ!」

ズドォォォォォン!!

 洞穴は地震により、落盤が次々と始まり天井から岩や砂が降ってくる。目の前はおろか、真横にいたノアの姿を探すのも危うい。

ズドォォォォォン!!

「くっそ!!」

僕とノアはぎりぎりの所で外へ飛び出す!

ズドォォォォォン!!

後ろで大きな落盤の音がした……

「くっそぉぉぉぉぉ!!」

 もう少しの所で間に合わなかった――その後も地震は続き、危険な状態の神の山からノアと下山する。

「ぬ。そなたのせいではない。できる限りの事はしたのだ。悔いるでない」
「でも……目の前の仲間を……」

悔しくて涙が流れる。

「ぬ……感傷に浸ってる暇はないみたいじゃの……」
「くっ……」

 山頂に悪魔らしき者の姿が見える。そして、いつの間にか周囲に大勢の魔物が押し寄せて来ていた。
 雨は降り続く……時々鳴る稲光に山頂にいる悪魔の後ろ姿がチラつく……

「アイツが魔王……」
「ぬ……過去の異物か……」

キィィィン!!

「どうして……こんな事に……」

ザシュッ!!

「ぬ……鬼族の……運命やもしれぬの……」

 神の山から下山しながら、魔物を次々と斬っていく……一旦、マイア城まで引くことを選んだのだ。

「うわっ!?」

雨で足元がすべり、尻もちを着いてしまう。

「ぬ!避けろっ!!」

ノアの声が聞こえ、見上げると剣を振りかざす悪魔と目が合う……

「グギャァァァ!!」
「ちっ!!」

キィィィン!!

間一髪の所で転がり、悪魔の剣は空を斬り岩にぶつかる。

「痛っ!?」

足を挫いてしまい、思うように立ち上がれない!

わかっているんだ……ショックが大きすぎて、僕は自暴自棄になっている。まったく戦闘に集中出来ない……

「愛……マキ……チカゲさん……すまない……」
「ぬ!桃矢!!死にたいのか!!集中せぬか!!」

あぁ……もう……いいや……僕は無力だった……

「ガフッ!!」

魔物の蹴りを食らい、そのまま倒れ込む。

「ぜぇぜぇぜぇ……」

その時、寒気を覚える気配がし振り返る。

「アドヴァン……なのか?」

もうチホさんの姿は原型がない。チホさんの体は洋服のように破れ、中から悪魔が姿を現している……

「クシュシュシュ……いい気味だなぁ……鬼よ。我ら悪魔に仇なした事に後悔するがいい……」
「貴様……貴様がいなければ!!」

キィィィン!!
ザシュ!!

「ガハッ……」
「ぬ!?桃矢!!おいっ!!」

アドヴァンの剣が僕の……腹を貫いた……

「クシュシュシュ……シネ……!!」
「ガハッ……ゲホッ!!」

僕の異世界生活もここで終わるのか……

走馬灯の様に山小屋や皆の顔が浮かぶ……

早紀……舞……ごめん……

力が入らない……

僕は生きる事を諦め、目を閉じる――

「ぬ!!おいっ!小僧!!諦めるな!!くそっ!どけっ!!この雑魚共めっ!!」

ノアの声が聞こえる……

最後に聞こえるのが死神の声とは……な。

ズシャ……

アドヴァンが腹部から剣を抜き、僕の首に冷たい剣先を押し当てたのがわかった……

「クシュシュシュ!!滅びよ……鬼ッ!!」
「……さようなら、みんな――」

キュイィィィン――

甲高い音と共に鮮血が舞い、首が地面に転がった。

ザァァァァ――

………

……



僕は空を見上げている。

雨はまだ止まない。

顔に当たる雨粒ひとつひとつが冷たい。

体中が痛む。

もう動けない。

だけど……

「ヒーリングデス!!」

だけど……

まだ……生きている……

「アルティメットレーザー!!!」

キュイィィィン!!!

ズドォォォォォン!!!

「ご主人様!!お迎えに上がりまシテ!!」
「猿鬼!!桃矢を守ってて!!舞!回復を急いで!」
「もうやってるから!早紀ちゃんも早く魔物を倒してぇぇ!!」
「カナデ!!援護をお願い!!ウォォォリャァァ!!」

ズダダダダダダッ!!

機関銃の音が辺りに響き渡る。

「ぬ。ぎりちょんであったの……アドヴァンの首はわしが葬っておいてやろう」

首と胴体が離れたアドヴァンにノアは少し寂しげな表情を浮かべたのだった……
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