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第五章―生と死と―
5−1・新たな課題
しおりを挟む―――マイア城―――
「桃矢様……起きてください……」
「んん……メローペ?」
「はい……お久しゅうございます。今日はご報告があって参りました……」
「え?ご報告?」
「はい……ノアリス様のごはからいで、転生してまたエルフ族として生まれ変わることが出来そうです。これは桃矢様の寿命を削ってなされたということ。あの方の子孫していずれまたお会いしましょう……」
「どういうことだ?あの方?ちょっと待ってくれ!メローペ!」
ガバッ!!
目が覚めると、僕はいつものベッドで寝ていた。
「夢……か」
「ぬ。わしはノアじゃ。ユメという名ではない」
「わっ!びっくりした!!」
枕元にノアが座っていた。
「メローペの夢を見た気がするが……何だったか……思い出せない」
「ぬ。夢とはそんなものじゃ。気にするな。それより皆が待っておるぞ」
「あぁ……すぐに行く」
帝国兵を撃退した数日後。オニノ城に帰ってきた僕達はミーサ達の到着を待っていた。物見の話では、エルバルトからムルーブを越えて、数百人規模の人数になっているとのことだった。
「ミーサ様御一行がお着きになられました!」
「着いたか。ミーサとロメリアを呼んでくれ。残りの者は東街へ案内を頼む」
「はっ!すぐに!」
しばらくするとミーサとロメリアが到着した。数日しか経っていないが、帝国との戦争を終えたことでお互いが疲労していた。
「桃矢様……お会いしたかった……」
第一声にギョッとなる。早紀の前でそんな事を言うと……
「お幸せにお幸せにお幸せに……ブツブツ……」
ほら……拗ねた……
「よ、よく来たね。ミーサ。また無事に会えて良かった。今日はゆっくり休んで明日全体会議を行うと思っているがどうかな」
「はい。桃矢様の言う通りに。私は桃矢様と同じ寝室でよろしいですか?」
「ミ、ミーサ!!それはいきなりあんまりよっ!!」
「きゃぁぁぁぁ!!」
早紀に押し倒され悲鳴をあげるミーサ……今のはミーサが悪い。どんまい。
「早紀ちゃんは桃矢くんの事、好きなの?」
天然コットン百パーセントの舞が、早紀につかぬ事をお伺いする。
「こんなの好きじゃないからね!こんなの好きじゃないからね!」
なぜ二回言ったんだ。
「じゃぁいいわよね、私は桃矢様の寝室で――」
「ちょっと!ミーサ!あんまり言うと――」
ピキッ……
『全武装ギャラクシアンデッドエンドモード発動……』
「ギャァァァァァァ!!」
「誰か早紀を止めろっ!!」
「早紀ちゃん!!駄目よ!」
「ギャァァァ!!」
悲鳴と怒号が飛び交う再会になった……
「何が起きてるか見えぬが……だいたい想像がつくの……」
「ぬ。ロメリアよ。賑やかであろう」
「はい、ノア……様。こういう時間も悪くないですじゃ」
「ぬ。フフフ。わしもじゃ」
そんな幸福な時がしばらく続く――
桃之丞を大将にした帝国兵は息を潜め、エルバルト王国は復興の兆しはなくそのまま崩壊していく。
マイア城の北に隠された転移陣があった。古い遺跡の中にあったのだ。そこはエルバルト王国の北の小島に繋がっていた。
実はあの後で調べてわかったのだが、干潮時に行くと海の中にあった転移陣に陸地から道が出来ていた。ムルーブの街とオニノ国の転移陣を繋いだ為に、マイア城とエルバルト王国が転移陣で繋がったというわけだった。これで帝国兵がマイア城の北に出現したカラクリはわかった。
ただ残された課題もあった――
――翌日。
「――ここまでの説明が昨今の帝国兵との戦争の情報だ。そして課題も残った」
「桃矢様、ここからは私が……」
ミーサが席を立つ。
「私はエルバルト王国……元エルバルト王国の第二継承権を持つミーサです。私の父エルバルト国王、王妃共に先の帝国兵侵略にて亡くなりました。ただ、私の実の母はこうしてオニノ国に迎え入れられ何不自由なく暮らしています。大変ありがとうございます」
ふぅ、と一息ついて続けるミーサ。
「さて、課題と言うのがダリアの行方です。元エルバルト王国の第一継承権を持つ彼女は私の姉でもあり、このままほおっておく事はできません。たぶん身柄は帝国に――」
顔に影が落ちる……
「しかし彼女は殺されないはずです。なぜなら……彼女は……転移陣を作れるからです」
「ぬ。それはまことか?」
「なるほどのぉ。それで帝国はダリアを奪おうとあれこれ画策しておったのか……」
「はい……一部の王族しか知り得ません。お気付きの方もおられると思いますが……」
カタン……
舞が席から立つ。
「そんな気はしていました。オニノ国にエルバルト軍が攻めて来た時、あんな大勢の兵士が誰にもバレずに海を渡るのは不可能だと思いました……そしてその中心で指揮をしていたのがダリアさんでした……」
「舞さん……気付いていらしたのですね。私達をオニノ国から遠ざけ、城を奪い、この大陸からオニ一族、ひいてはエルフ族も抹殺する計画があるとの情報もありました」
「それを裏で操っていたのが帝国と繋がっていたハリス大臣達か……」
「はい、桃矢様……おっしゃる通りです」
ミーサが重い荷物をようやく下ろそうとしている。一人、王族として誰にも言わず耐えてきたのだろう。その重圧は大変なものだったに違いない……
「話はわかった。僕は帝国を許すつもりはない。時期を見ていずれ帝国を潰す。その前に偵察隊を編成しようと考えていた。発表する――」
偵察隊にはカナデを隊長とし、身軽なエルフ族、姿を隠せる妖精族の合計十名を選抜した。
「準備を整え十日後、帝国とエルバルト王国へ向かってくれ。頼んだ」
「はい!桃矢様!」
見違えるように生き生きとしたカナデ。生かしておいて正解だったかもしれない。
「早紀とユリゲルさんはマイア城の修繕、僕とノアとメイは転移陣の書き替えを行う。舞と愛はオニノ城を頼んだ」
「うん、わかった」
こうして僕達はまた動き出す――
いつか終わりを迎えるかもしれないこの一族を救う為に、日々生きる事に全力を尽くすのみだった。
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