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第四章―苛立ちと悲しみ―

4−6・契約の代償

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―――ムルーブの街―――

 クルミのおうちでお風呂を借り、スッキリした僕と……死神ノア。
 宝物庫にあった何かを壊してしまったのだろう。死神につきまとわれるようになった。

「桃矢様、先程の話の続きですが……」
「あぁ、小島で聞いた話ではどうもエルバルト王国近くの小島らしい」
「何ですって!確かに……城から北の海に小島はあります……」
「うん、そこで間違いないだろう」
「でもどうして宝物庫と小島の海底に転移陣が……」
「ぬ。簡単ではないか。エルバルト王国がムルーブを滅ぼす為に転移陣を繋いだ。それだけじゃ」
「え……でも……いや、それなら……」
「死神さん!そんなことあるわけ――」
「ぬ。無いと言い切れまい。わしも封印されてた身。夢見でしかわからぬが、おそらく魔物を引き連れて来たのは悪魔じゃ」
「確かに悪魔にゃ……悪魔は居たにゃ」
「クルミ、見たのか」
「はいにゃ……」
「桃矢様、もう一度宝物庫を調べて見ませんか。悪魔がもし居たのなら何かを探しに来た……可能性もありますよね」
「そうだな。行ってみようか」

 外は陽が落ち、壊れた街灯が所々で点き始める。僕達は寺院のある場所へと向かう。手持ちランプを持ち、足元のガレキを越えて行くと寺院のあった場所が見えて来た。

「足元に気をつけろ。ミーサ、手を――」
「はい、桃矢様」
「ん?ごしゅじんたま、誰かいますにゃ」
「ぬ。匂うな。悪魔の死臭がするぞ」

人影が見える。二人……三人……か……中央の人影がこちらに気付く。

「誰ぞ……」
「え……嘘にゃ……」

クルミは猫族か。相手の顔が見えたのか?

「クルミ、知り合いか?」
「ごしゅじんたま……も……にゃ」
「え?僕も?」

目を凝らし、中央の人影を見つめる。相手もこちらを見ているようだ。

「……おい。どういうことだ?あれは――」

僕が言おうとした瞬間、クルミが走り出す。

「チホ様にゃぁぁぁ!!」
「クルミ待てっ!チホさんはもう――」

 トウヤチホ。寺院の管理人にて僕の身内。そして、彼女は先の魔物の襲撃で死んだはず……!?

「チホ様!!生きてたにゃぁ!良かっ――」
「お前は誰か?私に近付くな……」

そう言うと、チホさんは走り寄るクルミの胸に……

……剣を突き立てた。

「ガハッ!?」

 一瞬だった。何が起きたかわからない。剣先が月に照らされ一瞬光ったのが見えた。そしてその場に倒れ動かなくなるクルミ。

「え……」

頭が回らない。今、目の前でクルミが刺された?

「ぬ。まずいの。即死かもしれん。魂が抜けかけておる」
「なっ!?クルミィィィィィ!!」

クルミに急ぎ駆け寄る!チホさん……いや、チホ達は用事が済んだのか、その場を立ち去ろうとする。

「ミーサ!クルミの止血を!!」
「は、はいっ!」
「おいっ!!貴様っ!!待てっ!」
「貴様……?誰に言うておる?」
「お前だっ!チホ!!」
「チホ?あぁ、こやつの体か。持ち主は殺したよ。私が変わりに使ってやっている。感謝致せ――」
「黙れ!!」
「やれやれ。今日はもう疲れた。お前達こいつを殺せ」
「はっ!」

こいつら強い……あの時の力が出せれば――

キィィィィィィン!!

チリーン……

突如、頭の中に鈴音が響き歌が聞こえてくる……


どんどこどん どんどこどん

鬼が眠ったら 起これ起これ
鬼が起きたら 眠りれ眠りれ

どんどこどん どんどこどん――


「ぐぬぬぬぬぬ!!」
「ぬ。鬼が来るか……」

僕の体の中で鬼が暴れだす。しかし以前と違い、意識が保てている!

『漆黒の太刀……月陰……』

皆殺カイサツ――』

ズババババババッッッッ!!!!

「くっ!速い!」
「シネッ!」

左側の敵を剣でさばき、右側の敵をぶん殴る!!

「ガハッ!!」

ガシャァァァン!!

吹っ飛んだ相手はピクリとも動かない。

「ツギハ、オマエダ……」
「ちっ!引くぞ!!」
「ニガスカ……」
「ぬ。クルミの魂が完全に抜けてしまうぞ」
「桃矢様!クルミさんの息が!!」
「チッ……」

逃げていく敵を追わず、そのままにらみつける。

チリーン――


どんどこどん どんどこどん

鬼が眠ったら 起これ起これ
鬼が起きたら 眠りれ眠りれ

どんどこどん どんどこどん……

「ふぅ……」

深呼吸し、クルミの元へ行く。顔は青ざめ、胸から大量の血が流れていた……

「ぬ。こやつを助けたいか?」
「当たり前だ!死神ノア!助ける方法があるなら教えてくれ!」
「ぬ。それにはお主の人魚の寿命を使う……良いか」
「あぁ!構わない!」
「ぬ。潔いな……気に入った。力を貸してやる」

 そう言うと、死神ノアは何もない空間から大きなカマを取り出す。

カラン……



常闇の断舎離トコヤミノダンシャリ

ザシュ!!

大きな鎌がクルミの胸に突き刺さる!!

「おいっ!!ノア!!何をしている!」
「ぬ。まぁ、黙って見ておれ」

ドクン……ドクン……ドクン……

 鎌がクルミの傷口を吸っていく。見る見る傷口は塞がり、あっと言う間に元のクルミの姿に戻る。

「何だそれは……到底理解が及ばない……」

ミーサが口を開けたまま、ノアの行動を凝視する。

「んんん……ここは……どこにゃ……」
「クルミッ!!」
「クルミさん!?」
「ご、ごしゅじんたま……ミーサ様……みゃぁはいったい……」
「しゃべるな、今は休め」
「はい……にゃ……」

僕はそのままクルミを抱きかかえ、クルミの家まで運ぶ。

「ノア……ありがとう。君がいなかったらクルミは……」
「ぬ。契約したからの。当たり前だ」
「契約……?そういえば契約て何だ?」
「ぬ。お主の魂を頂く契約じゃ」
「え……」

ふいに言われた死神ノアの言葉に僕は言葉を失った……
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