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第四章―苛立ちと悲しみ―
4−4・クルミにゃ!
しおりを挟む―――ロメリアの屋敷―――
「起きたかえ?」
「あぁ……ロメリア。その……へぺの事、ありがとう」
「ん?あぁ、魂が抜けてしもうたか。仕方ないの。別の人形が必要か?」
「……いや。僕にはへぺの気持ちだけでもう十分だ」
「そうか、まぁ、また人形が欲しくなったら言うがよい。さて、食事の準備が出来ておる」
「あぁ、ありがとう。すぐ行くよ」
目が覚めると、へぺはもうメローペの姿ではなく魂が抜けてしまい、動かない人形だった。へぺ……ありがとう。君のおかげでメローペにまた会えた。
ギシ……
「へぺ、ゆっくりおやすみ……」
そう言うと、僕は食堂へ向かった。
バタン……
◆◇◆◇◆◇
「桃矢様!!」
「ミーサ!お母さんの具合はどうだ?」
「はい……はい……もう……大丈夫……」
声をかけるとミーサは泣き出してしまった。まずい、今は涙腺が緩いからちょっと違う話をしよう……
「ダリヤと、カナデの様子はどうだ?」
「……あぁ……はい。姉上はまた部屋にこもられています。カナデは牢に入れて処罰待ちです。私もどうしていいかまだ……決まっておりません」
「そうか……」
ビルの顔をチラッと見てみると、気まずそうな顔をしている。やはりカナデが気になるのか……
「ミーサ、ちょっと提案なんだが――」
二人の処遇について思うことを話してみる。
「桃矢様はそれでよろしいのですか?」
「あぁ、僕は構わない。あとはミーサが決めてくれ」
「わかりました、検討してみます」
「頼んだよ」
――翌朝
コンコンッ……
朝食を取っていると、エルバルト王国の近衛兵がやって来た。
「朝早くにすいません!ミーサ様!お伝えしたいことが――」
「何ですって!!わかったわ、ありがとう」
「はっ!」
神妙な面持ちになるミーサ。
「桃矢様……ムルーブの街が……魔物に襲われ、壊滅したと……」
「何だって!?」
「詳細は不明です。急ぎ、向かうべきかと」
「わかった。僕は先に向かう。ミーサはエルバルト王国に残り、後始末を頼む」
「はい、どうかお気をつけて」
「何じゃ、もう行くのか?」
「はい、あの街は僕の――」
ロメリアに挨拶し、食事を終えた僕はそのままムルーブへと向かう。
エルバルト王国が気にはなるが、今はムルーブの方が優先だ。こちらはミーサ達に任せよう。
ザザザッ……
「しもー、あれ?もしもーし」
「ますかぁ?舞です」
「あぁ、早紀、舞、ちょっといいか?」
「どうしたの?こんな朝早くに――」
「ムルーブの街が魔物に襲われ、今向かってる」
「何ですって!」
「桃矢くん大丈夫なの?一人?」
「あぁ、二人は城の警備を厳重にしといてくれ。何があるかわからない。状況がわかり次第また連絡する」
「わかったわ、桃矢も気を付けて!」
「うん、また連絡ください」
「あぁ……」
カチャン……
早紀と舞に注意を促し、僕はムルーブの街へと向かう。そしてその惨状にあ然とするのだった……
◆◇◆◇◆
―――ムルーブの街―――
「桃矢様……」
「あぁ、確か寺院に出入りしていた――」
「はい、クルミと言いますにゃ」
街の入口には寺院で良く見かけたクルミの姿があった。ムルーブの街の大半は燃えてしまい、特に寺院周辺は何も残っていないと言う。
「それでチホさんは?無事なのか?」
「それが非常に言いにくいのですにゃ、見て頂いた方が早いかにゃ……」
嫌な予感しかしない……僕は急ぎクルミと寺院に向かう。
カツン……カツン……カツン……
「チホさん……?なのか……」
「はいにゃ……チホさんはここにゃ……」
涙を流すクルミ。
「チホさん……」
チホさんは、キシボジン像を守るようにして……すでに亡くなっていた。
「どうして……こんな……」
「みゃぁは郊外に住んでいますので助かりましたにゃ、この辺りの方々は皆さん魔物に襲われ……」
「クルミ、すまないが手が空いてる者でチホさんを埋葬してあげてくれないか?」
「……はいにゃ。桃矢様?大丈夫ですにゃ?」
「あぁ……」
不思議と涙は流れなかった。それよりも怒りが勝っていたのだろう。また鬼化してしまいそうなほどの怒り。
しかしどこの誰がやったのかわからない。僕はその痕跡を探すことにした。
―――二日後。
ミーサ達が軍隊を引き連れて追いかけてきた。その数千人余り。魔物の姿はすでに無いものの、警戒と復興に人手を充てるには十分だった。
「桃矢様、遅くなりました!」
「ミーサ!ありがとう、助かるよ」
「いいえ、いつも助けて頂いてばかりでこのくらいさせて下さいませ!」
「ありがとう。ビルと……カナデも来てるのか」
「はい、二人にはこれからムルーブの復興の舵取りを任せる事にしました。あの日、桃矢様が許してくれなかったらカナデは……カナデ!こっちへ来なさい!」
「はい!桃矢様……先日は大変ご無礼を致しました。何とお礼を言っていいのやら……」
「もう済んだことだ。ただひとつだけ……カナデ。胸を張れる生き方をした方がいい」
「はいっ!」
「うん、いい顔だ。ビルとこれからも仲良くな」
「そ、それはその……」
真っ赤になるカナデ。
「さて、ミーサこっちへ来てくれ」
「はい、桃矢様。カナデ、ビルの事お願いね!」
「は、はいっ!」
カツン……カツン……カツン……
僕とミーサとクルミは寺院のキシボジン像の裏にあった地下階段を降りる。
昨日クルミが発見したのだ。あの日からクルミは僕の身の周りのお世話をしてくれている。人間と猫族のハーフらしく、周囲の異変にすぐに気付く。身寄りもないためそのままそばに置くことにしたのだ。
「桃矢様、この地下はどこまで続くのですか」
「もう着くよ」
地下の底は空洞になっており、部屋がひとつだけあった……
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