1 / 92
プロローグ
プロローグ
しおりを挟む―――とある山小屋―――
「ねぇ、薪割りしてくんない?」
「――んん、もうちょっと寝させ――」
「桃矢くんはなまけものさんなのぉ!」
「はぁ……もう、舞、水汲みに行きましょ!まったくもぅ……」
「はぁい!」
んん……困った。昨夜、トイレに行くのを我慢しておもらしをしてしまった。早紀と舞がいないうちに洗濯しないと――
僕は早紀と舞がいなくなるのを待って、シーツとパンツを洗う。
ゴシゴシゴシゴシ……
ザァァァ――
洗濯機欲しいな……いや、今はそれより早く洗濯を終わらせないと――
「――もう早紀ちゃんったら、桶忘れたら水が汲めないのにぃ!」
「ははは!ごめん!ごめん!桃矢がイライラさせるか……ら……あっ」
「あっ……」
「あれぇぇ!桃矢くんおもらししたのぉ?」
「ち、違うよ。天気良いから洗濯を――」
「パンツとお布団だけを?」
「ギクッ」
「はぁぁぁぁ。そうならそうと言ってくれたら洗って――」
「え?そうなの?洗ってくれ――」
「下半身裸でこっちを振り向くなーー!!」
ゴンッ!!
早紀の拳がみぞおちに入り、倒れ込む僕!
「カハッ!」
「早紀ちゃんの勝ちぃ!はははは!」
「ハァハァハァ……変態桃矢!汚いモノを見せるな!」
「ず……ずみまぜん……」
僕たちは山奥の小さな山小屋で生活をし始めて一ヶ月。近くには小川があり、山小屋周辺は原っぱになっている。
少し歩くと杉林が広がり、杉林を抜けると遠くに村も見える。村まで歩くと三時間弱位だろうか。一度行ってはみたものの、言葉がわからず追い返された。身なりも違っていたし、ここがどこの国かもわからない。
早紀と舞は同級生だ。幼馴染でもあり、家も近所だった。早紀は喧嘩っぱやく、舞のお姉さん的存在。対して舞はマイペースでちょっと幼い性格だ。
僕は別にこういう不便な暮らしでも特に何も思わないが、女の子二人が率先して生活しようとするのには理由がある。
「悪かったわよ、私達があなたをここへ連れて来たんだから……ほら、パンツ貸しなさい、洗ってあげるから」
「ひひひぃ~早紀ちゃん優しい~」
◆◇◆◇◆
さかのぼること一ヶ月前の九月一日
希望高校一年生の教室――
「今日は防災の日です。全員、防災用品を持ってきましたか?」
『はいっ!』
――という流れで防災用品を持って僕たちは学校の裏山へと避難訓練を行っていた。
「舞、あそこ!ほら!」
「え!どこぉ?」
「あの岩の下に!」
集合場所に移動中、大岩の根本にウサギを見つけた早紀が、舞とコソッと列を抜け出すのが見えた。
「あいつら集合場所とは違う方向に……」
「――でさぁ、あいつったら……て、桃矢!どこ行くんだ!」
「あ!ちょっとトイレ!」
後ろで同級生の声が聞こえたが、僕は早紀達を追いかけた。そして――
――穴に落ちた。
気が付いたらこの山小屋の前に居た。捻挫をしていた早紀に習ったばかりの怪我の手当てをし、泣いている舞をなぐさめ、山小屋へと休憩のつもりで入った。
ところが数日経っても、救助は来なかった。早紀の怪我は良くなって動けるようになったものの途方にくれていた僕達三人。
集合場所で食べる予定だったお弁当とお菓子、防災用品に入ってた非常食。一週間程度はこれで何とかしのげるだろうと安心していた。しかし――
「まずいな。これだけ待って救助が来ないとなると、ここで生活をすることも考えないと――」
「そ、そうね……いい加減お風呂も入りたいし、ここでじっとしてても助けは来ないかもね……」
「うぅ……ママ……」
「舞……大丈夫。私が付いてる」
早紀が舞をぎゅっと抱きしめる。早紀と目が合った。その目は自分も泣きそうなのに我慢している顔に見えた。
「桃矢……もごめんね。私が勝手な行動しなかったらこんなことに……」
「いや、僕は……結果、何もしていな――」
早紀が、舞と一緒に僕も抱きしめる。
「ごめん……」
早紀は震えていた。助けが来ないかもしれない。そう気付き、心が折れそうなんだろう。
僕は精一杯のから元気で声をかける。
「き、きっと大丈夫だ、何とかなるから!」
自分に言い聞かせるようにそう言った。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
最弱会社員の異世界サバイバル 特殊スキルで生き残る
塩爺
ファンタジー
会社員だった俺はある事情からトラックに跳ね飛ばされて異世界に飛ばされる。
跳ね飛ばされたショックからか自分の名前が思い出せない俺を更なる悲劇が襲う。
異世界に相応しいモンスターの出現、現世ではありえないその脅威にただ逃げ惑う。
そこで出会った竜族の少女 リュオに付けられた俺の名前は『ライス』、ご飯と言う意味だ。
リュオは隙あらば俺を食べようと狙って来る。
食べられまいと抵抗する俺とリュオの異世界の冒険が始まる。
冒険を続ける中で俺達は竜徒や竜族の強敵に出会い戦う。
カイトやポーという新たな仲間達を加えてライスの旅の行き着く先は?
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる