先生、時間です。

斑鳩入鹿

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第2章

白痴-2-

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先生の事務所から南西に数キロのところにチラシの配布主がいるらしい。

「ハートフル福祉作業所」

Dooodleマップのストリートビューには
ちゃんと登録してある。

かなり古びた黄色の塗装がされた雑居ビルで、所々にヒビが入っている。

ホームページを見てみた。
WAX.comで作ったのだろうか。
上のところに
"ホームページを無料で作りませんか"
と書いたバナーがついている。
安くあげてるようだ。

「軽作業請け負います」
「障害者に仕事を」

この辺は違和感のない福祉施設の印象。
ところが雨で色が抜けた看板を映した写真以外に写真の掲載はなく、何となく暗い雰囲気だ。

20名定員とあるので、最大20名の利用者がいるだろう。

今回の件のいわゆる元締めの会社は、坂本エレクトロン株式会社という中小企業だ。
太陽光発電の営業で利益をあげているらしいが、高齢者を狙った営業で苦情が寄せられている。

調査記録には、認知症の高齢者宅に営業をかけて、半ば強引に印鑑を押させたという事例もあった。

噂が噂を呼んで、というか事実が回り回って悪評となっているらしい。

社会的弱者を狙ったビジネス。

あからさますぎて可笑しい。

こんな案件を斑鳩先生が動かなくても、そのうち公安が摘発しそうなものだが。

「先生、あらかた資料は拝見しました。この案件、少ししょぼい気がするんですけど先生は別の案件で忙しいのではないでしたか?」

素朴な疑問。
先生が書類を捌きながら答える。

「あぁ、まあね。他の案件は金持ちが焦ってるだけだから、カネに詳しい友人に準備を頼んだよ。
この案件は地味だけど根深い部分があってね。それは"被害者がいない"ということなんだよね。」

「被害者がいない?それはどういう意味ですか。」

「被害というのはね、明るみになるまで被害とは言えないんだよ。田崎くんが、ゴロツキにボコボコにされても、階段で転んだといえばそれは周りからなんの手助けもできない。強姦被害なんかもそういう面があるだろう。
口の聞けない人を食い物にしてるからね。認知症を患っていたり先進の発達障害で言葉が話せないとか。
悲しいことだけどね、弱者の声というのはなかなか社会に出てこないんだよ。」

僕は思わず言葉に詰まった。

たしかに、DV被害なんかでも被害があった事実を口に出来ずに何年も苦労されている方がいるというし、泣き寝入りというか、言葉を話せない方や認識すらできない方は搾取されるだけだ。

「とはいえ、善悪の認識がなく発信しない方を勝手に助けるのが正しいのかどうかはむずかしいね。それって偽善だもの。僕の価値観を押し付けるみたいになるからね。公正さ、平衡感覚。僕の先生がそんなめんどくさい話をしていたけれど。
目の前で虐げられてる人がいたらね。助けるのが人ってもんでしょう。」

ははは、と軽快に笑って先生は書類を破り捨てた。
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