先生、時間です。

斑鳩入鹿

文字の大きさ
上 下
6 / 15
第2章

白痴

しおりを挟む
「なんだ。またこのチラシか。」

ー太陽光パネル設置で電気代節約!

Wordで一夜漬けで作りました、と言わんばかりの頭のわるそうなデザインのチラシがポストに入っていた。

こういうのはまとめてデスク脇に置いといてと先生に言われてる。
一応、報告するのだけど。

「先生。お手紙が6通、あとチラシが数枚ささってましたよ」

「お、またその太陽光パネルのチラシ入ってるんだね!」

先生はほかの手紙に目もくれず、例のチラシを抜き取った。
コーヒーを片手にしげしげとチラシを眺めている。僕もコーヒーを頂こう。

「そのチラシ、毎回入ってますけどここ一応マンションですよね。」

「んー、そうだね。このチラシを配っているのが、障害のある方でね。僕はこのチラシというよりかはそれを配っている方に興味がある、って感じかな。」

なるほど。先生の着眼点は独特だ。

かつて、太陽光パネルが残念な代物なのだと先生は話していた。

むずかしいことは忘れたけれど、パネルを作るのにとんでもないエネルギーを使うので、二酸化炭素を生みだしてしまうらしい。
脱炭素ビジネスの闇だよ、と笑いながら話していたのを思い出した。

「障害のある方がチラシ配りをするというのは、社会参加を促進していてなかなかいい会社があるものですね。」

そうだね。
と先生はうなづいたが、すっとコーヒーカップを置いた。
おもむろに、そで机から書類を取り出した。

"障害者助成金の詐取及び虐待に関する報告書"

表紙にはそう書いてあった。

「田崎くん、田崎くんは募金はしたこあるかい?」

唐突な質問。先生の眼光が鋭くなったので少し緊張した。

「は、はい。街角の赤い羽根募金なんかはたまにお金を入れますね。」

「そうかい。もしその善意のお金が悪いことに使われているとしたら君はどんな気持ちになるかな。」

「そうですね。憤りというか騙されたというか、、それ以上に善意をふいにされた思いのやり場にこまるかもしれません」

「なるほど。そうだよね。勘のいい田崎くん。このチラシがどんな意味を持ってるか、なんとなくわかったかな?」

それは、搾取。

視点を変えて見てみると1枚の紙切れの奥が見えるのかもしれない。
先生のリフレーミングは僕の脳天をガツンと強制Rewrite書き換えしてくる。

資料を手渡されたので目を通してみる。
どうやら運営元の会社は障害のある方に労働を強いているらしい。

"-ノルマを課して達成できないと体罰を行う"

報告書の内容は信じ難い内容だったが、調査員の記述に嘘があるようには思えなかった。

表向きの福祉事業。
関係会社からも障害のある方を採用し、障害者雇用率を達成させる代わりに報酬を受け取っているようだった。

どうやら自分の意思をハッキリと述べられない方をターゲットにしている。

すっかりコーヒーが冷めてしまった。
しおりを挟む

処理中です...