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第21話
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「葛城、起きて」
木佐貫くんの声で私は目が覚めた。
そうだ私、木佐貫くんに送ってもらってたんだっけ。窓の外を見るとタクシーはアパートの前で停まっていた。
「ありがとう木佐貫くん……タクシー代だよね」
私はバッグから財布を取り出そうとすると、木佐貫くんに止められた。
「お金はいいから。タクシーから降りられる?」
うん、と頷くとタクシーを降りた。よっぽど私の足取りが頼りなかったのか、ちゃんと家に入るまで見届けなきゃ不安だから、と木佐貫くんも一緒にタクシーから降りてくれた。
木佐貫くんに寄り添われながら玄関先まで着くと、鍵を取り出そうとバッグを漁った。しかし、なかなか取り出せない。すると、木佐貫くんがバッグから鍵を取ってドアを開ける。
「ありがと……ひゃっ」
木佐貫くんはひょいと私の身体を持ち上げてお姫様抱っこをすると、部屋にあがる。
「何だか玄関先で寝てしまいそうだったから。ちゃんと寝室まで運ぶよ」
だけどお姫様抱っこは恥ずかしいかも……。そう思ったけど、送ってもらっときながらそんなことを言える立場じゃなくて、私は木佐貫くんの腕の中で身体を硬直させていた。
ベッドに寝かされた私は、息苦しさからブラウスのボタンをうつらうつらしながら外す。
すると「……無防備だな、葛城は。高坂玲に送ってもらわなくて本当に正解だった」木佐貫くんはボタンを外す私の手を止めた。
「……ん? 葛城、首筋が赤いけどこれって――……」
「何だ……ろう。虫にでも刺されたの……かな?」
瞼が重くて途切れ途切れになりながら話す。眠気に支配されていて首筋の赤みについて深く考えることもしなかった。
木佐貫くんは無言でタオルケットを私に掛けると部屋を出て行く。
御礼を言わなきゃ……。しかし、木佐貫くんに御礼を言う前に私の意識は遠のいていった。
葛城の首筋についてた痕ってもしかして――……。アパートの階段を降りながら、俺の頭の中に嫌な考えが浮かぶ。
「なんだ。本当に送り届けただけだったんだ」
聞き覚えのある声がして顔を上げると、アパートの外壁にもたれかかって腕を組んでいる高坂玲がそこにいた。
どうしてここに? まさかずっと……。
「言っとくけど後なんかつけてないからな」俺の頭の中を覗いたかのように高坂玲は答えた。「葛城さ……ほのかの家を知っているのはお前だけじゃないってことだよ」
ほのか、と言い直したのは俺よりも自分が優位に立っていることを示したいからか。それとも。昔付き合っていたことをそれとなく俺に伝えようとしているのか。どちらにしろ俺を牽制しているのがわかった。
「……葛城の首筋に赤い痕があったんですけど、それってもしかして高坂さんと関係がありますか」
「見たんだ。首筋の痕」
高坂玲は意味ありげに含み笑いをする。
「葛城は虫に刺されたって言ってたけど、あれは……」
「キスマークだよ。俺が付けたんだ昨日の残業中に」
煽るように言う高坂にカッと頭に血が昇るのがわかった。が、冷静さを失わないよう俺は深呼吸した。
「それは……葛城が望んで、ですか」
俺の問い掛けに高坂はふっと笑う。
「無理やりに、だけど」
感情を逆なでするような答えに俺の身体が動いた。
「ふざけんなっ!」俺は高坂玲の胸ぐらを掴む。「アンタのような奴に葛城は絶対に渡さないっ!」
「渡さないだと……?」高坂玲が俺の腕を掴み返した。高坂の指が俺の腕に強く食い込む。「決めるのはほのかだ」
俺と高坂玲は睨み合う。絶対に。高坂玲には絶対に負けたくない。
翌日、ぼーっとする頭を抱えながら家を出た。
昨日は木佐貫くんに迷惑を掛けちゃった。私は自分の失態を反省していると電話が掛かってきた。
「もしもし?」
『おはよう葛城』
「木佐貫くん!」私は声をあげる。「昨日はごめん。送ってくれてありがとう」
『良かった、声を聞く限り元気そうだ。……あのさ』
そこで木佐貫くんは言い淀んだ。
「どうしたの?」
『あのさ、……葛城は高坂さんに嫌なことされてないよな?』
嫌なこと――……。木佐貫くんの言葉に、私はひゅっと息を呑み込んだ。先輩の手が私の太ももを撫でる感触を思い出して、思わずスカートを握り締めた。
「……どうしてそう思うの?」
私は動揺していることを木佐貫くんに気付かれないよう落ち着いた声で話す。
『何となく、だよ』
「別に……何もされてないよ」
『ならいいんだけど。もし何か困ったことがあったら俺に言えよ』
「うん。……それじゃ私急ぐから」
そこで私は電話を切る。
いきなり先輩の話題をされてびっくりした。まるで木佐貫くんは私が先輩に何をされているか知っているような口ぶりだった。
昨日、先輩にされていたこと見られてないよね……? 不安が胸を過ぎった。
木佐貫くんの声で私は目が覚めた。
そうだ私、木佐貫くんに送ってもらってたんだっけ。窓の外を見るとタクシーはアパートの前で停まっていた。
「ありがとう木佐貫くん……タクシー代だよね」
私はバッグから財布を取り出そうとすると、木佐貫くんに止められた。
「お金はいいから。タクシーから降りられる?」
うん、と頷くとタクシーを降りた。よっぽど私の足取りが頼りなかったのか、ちゃんと家に入るまで見届けなきゃ不安だから、と木佐貫くんも一緒にタクシーから降りてくれた。
木佐貫くんに寄り添われながら玄関先まで着くと、鍵を取り出そうとバッグを漁った。しかし、なかなか取り出せない。すると、木佐貫くんがバッグから鍵を取ってドアを開ける。
「ありがと……ひゃっ」
木佐貫くんはひょいと私の身体を持ち上げてお姫様抱っこをすると、部屋にあがる。
「何だか玄関先で寝てしまいそうだったから。ちゃんと寝室まで運ぶよ」
だけどお姫様抱っこは恥ずかしいかも……。そう思ったけど、送ってもらっときながらそんなことを言える立場じゃなくて、私は木佐貫くんの腕の中で身体を硬直させていた。
ベッドに寝かされた私は、息苦しさからブラウスのボタンをうつらうつらしながら外す。
すると「……無防備だな、葛城は。高坂玲に送ってもらわなくて本当に正解だった」木佐貫くんはボタンを外す私の手を止めた。
「……ん? 葛城、首筋が赤いけどこれって――……」
「何だ……ろう。虫にでも刺されたの……かな?」
瞼が重くて途切れ途切れになりながら話す。眠気に支配されていて首筋の赤みについて深く考えることもしなかった。
木佐貫くんは無言でタオルケットを私に掛けると部屋を出て行く。
御礼を言わなきゃ……。しかし、木佐貫くんに御礼を言う前に私の意識は遠のいていった。
葛城の首筋についてた痕ってもしかして――……。アパートの階段を降りながら、俺の頭の中に嫌な考えが浮かぶ。
「なんだ。本当に送り届けただけだったんだ」
聞き覚えのある声がして顔を上げると、アパートの外壁にもたれかかって腕を組んでいる高坂玲がそこにいた。
どうしてここに? まさかずっと……。
「言っとくけど後なんかつけてないからな」俺の頭の中を覗いたかのように高坂玲は答えた。「葛城さ……ほのかの家を知っているのはお前だけじゃないってことだよ」
ほのか、と言い直したのは俺よりも自分が優位に立っていることを示したいからか。それとも。昔付き合っていたことをそれとなく俺に伝えようとしているのか。どちらにしろ俺を牽制しているのがわかった。
「……葛城の首筋に赤い痕があったんですけど、それってもしかして高坂さんと関係がありますか」
「見たんだ。首筋の痕」
高坂玲は意味ありげに含み笑いをする。
「葛城は虫に刺されたって言ってたけど、あれは……」
「キスマークだよ。俺が付けたんだ昨日の残業中に」
煽るように言う高坂にカッと頭に血が昇るのがわかった。が、冷静さを失わないよう俺は深呼吸した。
「それは……葛城が望んで、ですか」
俺の問い掛けに高坂はふっと笑う。
「無理やりに、だけど」
感情を逆なでするような答えに俺の身体が動いた。
「ふざけんなっ!」俺は高坂玲の胸ぐらを掴む。「アンタのような奴に葛城は絶対に渡さないっ!」
「渡さないだと……?」高坂玲が俺の腕を掴み返した。高坂の指が俺の腕に強く食い込む。「決めるのはほのかだ」
俺と高坂玲は睨み合う。絶対に。高坂玲には絶対に負けたくない。
翌日、ぼーっとする頭を抱えながら家を出た。
昨日は木佐貫くんに迷惑を掛けちゃった。私は自分の失態を反省していると電話が掛かってきた。
「もしもし?」
『おはよう葛城』
「木佐貫くん!」私は声をあげる。「昨日はごめん。送ってくれてありがとう」
『良かった、声を聞く限り元気そうだ。……あのさ』
そこで木佐貫くんは言い淀んだ。
「どうしたの?」
『あのさ、……葛城は高坂さんに嫌なことされてないよな?』
嫌なこと――……。木佐貫くんの言葉に、私はひゅっと息を呑み込んだ。先輩の手が私の太ももを撫でる感触を思い出して、思わずスカートを握り締めた。
「……どうしてそう思うの?」
私は動揺していることを木佐貫くんに気付かれないよう落ち着いた声で話す。
『何となく、だよ』
「別に……何もされてないよ」
『ならいいんだけど。もし何か困ったことがあったら俺に言えよ』
「うん。……それじゃ私急ぐから」
そこで私は電話を切る。
いきなり先輩の話題をされてびっくりした。まるで木佐貫くんは私が先輩に何をされているか知っているような口ぶりだった。
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