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私の頭をそっと手が撫でる。彼の唇が目元におちて私は泣いていることを知った。あきらかな快感の涙が舌ですくわれる。
「ず……ずるいっ」
「なにが?」
「私だけ……私だけ、こんな」
乱暴にも強引にもされていない。むしろ時間をかけて私の心と体が結びつくまで待ってくれた。でもそのことがくやしかった。ほとんど知らない彼によって、一番見せたくない弱い部分をさらけだされてしまった気がしたから。二人にとって初めてのセックスでここまで丁寧にイかされたことが恥ずかしい。
「かわいかったよ。いつもどこか泣きそうで、でも気丈にふるまっていて、隙を見せないようにしているわりには無防備で。僕の前でどこまで見せてくれるかなって思っていた」
ちゅっと涙をぬぐったそれで唇に触れる。自分の涙の味がして彼を恨めし気に見上げた。言葉が甘い、唇も、指先も私を見下ろす目も。そう感じさせる彼と思いこむ私どちらが悪いかもわからない。
「本当は……途中でやめてあげようと思っていたんだ。でも……最後まで抱いてもいいかい?」
ここまでしておいてと思うのに、その彼の言葉は真実な気がした。彼自身の欲を満たすためではなく私を満たすためのもの。「僕に何を求めているの?」と聞かれた通り、ずっと自分の中で燻っていた女として疼く部分を彼になんとかしてほしかった。それをまるで汲み取っていたかのような言葉に、泣きたくなる。
彼によってイかされて、私の身体は心地よい酔いと快感でふわふわとくものうえにいる。
「一線を越えることで変わることを知っているから、あなたが望まないならここでやめてあげる」
「……どうして?」
「怖がっているから、かな」
見透かされている。そのことがくやしくてでも安堵していた。私に逃げ道を準備しているように見えて、選択肢を与えて責任を持たせる。ここまでしておいて本当にずるい。
「許可を出されたら僕は遠慮しないと思うよ。途中でやめることはできない。今だってこの熱い場所に入りたいと思っているから」
だからよく考えて……そう続けた言葉とともに視線が私を射る。ガラスに阻まれないそれは綺麗な色をしていて、かすかに汗で湿った前髪が落とす影にすぐに覆われる。眉だけが困った形になっていて私もきっと同じ表情をしている。
太腿にあたる欲をもっと近づけるために彼の首の後ろに腕をまわすと、私は彼の耳に声を落とした。
***
「あっ、あんっ」
声を出すまいと口を覆うとすぐに彼の手で引き離される。指をからめてシーツに縫い付けられてそのかわりとばかりにキスをされた。私の様子を覗っていた時とは真逆の彼の欲をぶつける行為は私を簡単にイかせる。
「一度イかせて」と言われて早々に彼を受け入れた。違和感をおぼえたのは最初だけで、じゅうぶんにほぐれていたそこはあっけないほど彼にえぐられ短時間で互いにイきあう。ほっと息をついてゴムを捨てるとすぐさま私の足首をつかんで大きく広げた。快感の余韻の中にいた私には抵抗する術もなく、今度はそこに舌が這う。私があふれさせたものを確認して彼はのみこんでいく。吸い上げるついでにとっくに赤く膨らんでいる場所も忘れず吸い付き、足りないといいたげに舌を伸ばす。恥ずかしさと激しさに拒否の言葉を漏らしても聞いてはくれなかった。ゆるやかに優しく導かれていた体はささいな刺激にも反応し、激しさも受け止められるほど貪欲さを露わにしていた。
足の間にある彼の頭をひきはなしたくておさえる。やわらかな髪が触れて、いれた力をはねかえすべく指と舌が私を壊していく。
力が抜けて声を抑えることもできず、恥ずかしいという感覚さえ曖昧になる。
「ああっ、んんっ」
イったことを教える声が響いているのに彼はそのタイミングを逃さずに、再び私の中に入ってきた。落ち着くのを待ってくれた最初とは違い、波をさらに上書きして嵐を起こす。あまりにも激しい快感に首を横に振ると涙が雨のように散った。
「やっ、動かないでっ」
「遠慮はしないって言ったよ。それにごめんね、動いていないとあなたにしぼりとられそう、っだ」
彼が上体を私にかぶせぎゅうっと抱きしめてくる。余裕のなさを露わにされればそれだけで私の中も勝手に反応して、ぎゅっと締め付ける。
彼の声がそばでくぐもって聞こえる。
壊されたいと思っていた、初めて会った夜。あれから時間はたっているのに私は今やっと彼によって壊されている。戸惑いも恥ずかしさも最初だけで、今はただ彼から与えられるものを受け止めることでせいいっぱいだった。
手をつなぐことしかできなかった背中に今はしがみついている。肌の感触が心地よくて体温が気持ちいい。何度も打ち付けられるそれは、けれど私の気持ちがいい場所を探ることを忘れない。己を吐き出すためにしごくのではなく、私をどこまでも高みにあげようとする動き。
「かわいい」そう何度も何度も言い聞かせるようにつぶやかれる言葉は、私の殻をはいでいき新しい空気を運んでくる。
「ごめん!イく」
彼の宣言に頷いて私は吸い込んだ空気を吐き出すついでに声をあげた。
***
体中が弛緩していた。水の中の浮力が全身を包んでくれる。久しぶりに与えられた心地よさは指先に満ちていてぐちぐちと疼いていた塊が綺麗な色に変わっている気がした。
ゆっくりと目をあけていく。不思議な色合いはなくなり、暖かいオレンジ色の光が部屋の隅でぼんやり滲んでいた。隣に誰もいないことは体温も体も触れないことからわかっていた。だから自分が抱かれたことが夢だったのかもしれないと一瞬思う。でも視線を動かした先に男の人が見えて、私はささやかに安堵の息を吐いた。
夢じゃない。
私を抱いたのは……あの人ではない。
あの人以外の男性に触れられるなんて怖くて気持ち悪くて絶対嫌だと過去の私は思っていた。でも現実は違う。私は抱かれることができた。気持ちよくなることができた。達することができた。残酷で甘い現実に女であることが嫌というほどわかった。
彼は一人がけのソファーに座って、少しあけられたカーテンの向こうを見ていた。最初の日、雨を確認していた時とは違う、ぼんやりした横顔に昨夜の彼を思いだした。
ああ、彼は「泣きたい」そう言っていた。「もう少しそばにいてほしい」と。私は彼に満たされたけれど彼は私に満たされただろうか。私は役に立っただろうか。
優しく開かれ激しく抱かれた。それは互いを求めあってのことではない。わかりきっていたことを改めて実感した。胸に広がってきそうになる薄灰色のものをあわててかきけす。
愛を確かめあう行為ではなく、寂しさを埋めあう行為。
ただ、それだけ。
彼の横顔を、昨夜見た悲しそうな顔を知らなければ勘違いしたかもしれない。そんな抱き方をされた気がするから。
気づかれないように、と思ったのに体が少し動いただけでベッドがぎしっと鳴った。気づいた彼が私を見て、目を細める。メガネもかけてシャツも着てズボンもはいている彼は、昨夜の行為などまぼろしだと言わんばかりにいつもと同じ穏やかさを身にまとっていた。
あんなにいやらしく言葉を吐いてきたくせに、やっぱりずるい。
「起きたね。身体は大丈夫?」
「大丈夫です。今、何時ですか?」
彼は私のバスローブを手にして、ベッドに近づくとすぐそばに腰をおろす。腕時計まできちんとはめていて、裸の自分が惨めになる。私はまだ全身に愛撫の名残を身にまとっているのに、彼は現実に戻ってしまった。
「5時半すぎ。始発も動いているね」
シーツで体を覆って起き上がる。喉がかすかに痛い。空気が乾燥していたのだろうかと何気なく思って、そうでないことを思い出した。声をあげたからだ。彼に言われるがまま、いやらしい声を。
「なんでそんな表情しているの?」
「え?」
「せっかく襲わないですむように、先に服を着替えたんだよ。そういう表情されるとまたシャツを脱ぎたくなるけど……」
把握できなかった言葉の意味がのみこめてきて、私は咄嗟にうつむいた。彼だけが日常に帰ったことが寂しかったのに、その理由を教えられて顔が熱くなる。
伸ばされた手が私の髪の先をつかんだ。そこに指をからめたまま髪をはらって私の頬をつつむと顔をあげさせる。
メガネをかけて困ったような彼の表情がそこにあって、私は近づいてくるそれにあわせて目を閉じた。唇が軽く触れ、離れては角度を変えて触れる。一瞬しか触れ合わないキスがもどかしくて私は自分からも顔を近づけた。多分無意識に舌を伸ばした。だから彼の口の中に導き入れられて、その中で舌をからめる。彼がしたように彼の歯列を内側を伸ばして探る。彼は拒むことなく受け入れる。後頭部にまわされた手は私が顔を動かすことを阻み、私は自分からキスをし続けていた。
「抵抗しなさい。そうでないとあなたを帰せなくなるでしょう?」
唾液をのみこむ隙さえ与えなかったせいで、いきなり唇を離された私は端から唾液をこぼしていた。彼は苦笑交じりにこぼれたものを手で拭う。「抵抗なんてできない」そう頭の中では言い返しても実際は恥ずかしすぎて、そばにあったバスローブを肩にかけるといそいでバスルームに入った。
拭われた唾液のあとがまだついている気がして自分でもぬぐうと、鏡には濡れた目をした女がいる。乱れた髪、腰ひもさえ結んでいないローブからのぞく胸。指を伸ばせばきっと濡れているのは目や唇だけじゃない。こんな表情で私は彼を見上げていたのだと思うといたたまれなくてすぐに目をそむけた。
いまだ物足りない。そう私の身体が発している。女の心も身体も貪欲だと知っていたのに、満たされたはずなのに、キスひとつで塗り替えられる。
一線を越えることで変わることを知っている。
私は変わるのだろうか。それとも変わったのだろうか。
駅まで送ってくれた彼に、私は結局名前を聞かなかった。彼にも聞かれなかった。
「ず……ずるいっ」
「なにが?」
「私だけ……私だけ、こんな」
乱暴にも強引にもされていない。むしろ時間をかけて私の心と体が結びつくまで待ってくれた。でもそのことがくやしかった。ほとんど知らない彼によって、一番見せたくない弱い部分をさらけだされてしまった気がしたから。二人にとって初めてのセックスでここまで丁寧にイかされたことが恥ずかしい。
「かわいかったよ。いつもどこか泣きそうで、でも気丈にふるまっていて、隙を見せないようにしているわりには無防備で。僕の前でどこまで見せてくれるかなって思っていた」
ちゅっと涙をぬぐったそれで唇に触れる。自分の涙の味がして彼を恨めし気に見上げた。言葉が甘い、唇も、指先も私を見下ろす目も。そう感じさせる彼と思いこむ私どちらが悪いかもわからない。
「本当は……途中でやめてあげようと思っていたんだ。でも……最後まで抱いてもいいかい?」
ここまでしておいてと思うのに、その彼の言葉は真実な気がした。彼自身の欲を満たすためではなく私を満たすためのもの。「僕に何を求めているの?」と聞かれた通り、ずっと自分の中で燻っていた女として疼く部分を彼になんとかしてほしかった。それをまるで汲み取っていたかのような言葉に、泣きたくなる。
彼によってイかされて、私の身体は心地よい酔いと快感でふわふわとくものうえにいる。
「一線を越えることで変わることを知っているから、あなたが望まないならここでやめてあげる」
「……どうして?」
「怖がっているから、かな」
見透かされている。そのことがくやしくてでも安堵していた。私に逃げ道を準備しているように見えて、選択肢を与えて責任を持たせる。ここまでしておいて本当にずるい。
「許可を出されたら僕は遠慮しないと思うよ。途中でやめることはできない。今だってこの熱い場所に入りたいと思っているから」
だからよく考えて……そう続けた言葉とともに視線が私を射る。ガラスに阻まれないそれは綺麗な色をしていて、かすかに汗で湿った前髪が落とす影にすぐに覆われる。眉だけが困った形になっていて私もきっと同じ表情をしている。
太腿にあたる欲をもっと近づけるために彼の首の後ろに腕をまわすと、私は彼の耳に声を落とした。
***
「あっ、あんっ」
声を出すまいと口を覆うとすぐに彼の手で引き離される。指をからめてシーツに縫い付けられてそのかわりとばかりにキスをされた。私の様子を覗っていた時とは真逆の彼の欲をぶつける行為は私を簡単にイかせる。
「一度イかせて」と言われて早々に彼を受け入れた。違和感をおぼえたのは最初だけで、じゅうぶんにほぐれていたそこはあっけないほど彼にえぐられ短時間で互いにイきあう。ほっと息をついてゴムを捨てるとすぐさま私の足首をつかんで大きく広げた。快感の余韻の中にいた私には抵抗する術もなく、今度はそこに舌が這う。私があふれさせたものを確認して彼はのみこんでいく。吸い上げるついでにとっくに赤く膨らんでいる場所も忘れず吸い付き、足りないといいたげに舌を伸ばす。恥ずかしさと激しさに拒否の言葉を漏らしても聞いてはくれなかった。ゆるやかに優しく導かれていた体はささいな刺激にも反応し、激しさも受け止められるほど貪欲さを露わにしていた。
足の間にある彼の頭をひきはなしたくておさえる。やわらかな髪が触れて、いれた力をはねかえすべく指と舌が私を壊していく。
力が抜けて声を抑えることもできず、恥ずかしいという感覚さえ曖昧になる。
「ああっ、んんっ」
イったことを教える声が響いているのに彼はそのタイミングを逃さずに、再び私の中に入ってきた。落ち着くのを待ってくれた最初とは違い、波をさらに上書きして嵐を起こす。あまりにも激しい快感に首を横に振ると涙が雨のように散った。
「やっ、動かないでっ」
「遠慮はしないって言ったよ。それにごめんね、動いていないとあなたにしぼりとられそう、っだ」
彼が上体を私にかぶせぎゅうっと抱きしめてくる。余裕のなさを露わにされればそれだけで私の中も勝手に反応して、ぎゅっと締め付ける。
彼の声がそばでくぐもって聞こえる。
壊されたいと思っていた、初めて会った夜。あれから時間はたっているのに私は今やっと彼によって壊されている。戸惑いも恥ずかしさも最初だけで、今はただ彼から与えられるものを受け止めることでせいいっぱいだった。
手をつなぐことしかできなかった背中に今はしがみついている。肌の感触が心地よくて体温が気持ちいい。何度も打ち付けられるそれは、けれど私の気持ちがいい場所を探ることを忘れない。己を吐き出すためにしごくのではなく、私をどこまでも高みにあげようとする動き。
「かわいい」そう何度も何度も言い聞かせるようにつぶやかれる言葉は、私の殻をはいでいき新しい空気を運んでくる。
「ごめん!イく」
彼の宣言に頷いて私は吸い込んだ空気を吐き出すついでに声をあげた。
***
体中が弛緩していた。水の中の浮力が全身を包んでくれる。久しぶりに与えられた心地よさは指先に満ちていてぐちぐちと疼いていた塊が綺麗な色に変わっている気がした。
ゆっくりと目をあけていく。不思議な色合いはなくなり、暖かいオレンジ色の光が部屋の隅でぼんやり滲んでいた。隣に誰もいないことは体温も体も触れないことからわかっていた。だから自分が抱かれたことが夢だったのかもしれないと一瞬思う。でも視線を動かした先に男の人が見えて、私はささやかに安堵の息を吐いた。
夢じゃない。
私を抱いたのは……あの人ではない。
あの人以外の男性に触れられるなんて怖くて気持ち悪くて絶対嫌だと過去の私は思っていた。でも現実は違う。私は抱かれることができた。気持ちよくなることができた。達することができた。残酷で甘い現実に女であることが嫌というほどわかった。
彼は一人がけのソファーに座って、少しあけられたカーテンの向こうを見ていた。最初の日、雨を確認していた時とは違う、ぼんやりした横顔に昨夜の彼を思いだした。
ああ、彼は「泣きたい」そう言っていた。「もう少しそばにいてほしい」と。私は彼に満たされたけれど彼は私に満たされただろうか。私は役に立っただろうか。
優しく開かれ激しく抱かれた。それは互いを求めあってのことではない。わかりきっていたことを改めて実感した。胸に広がってきそうになる薄灰色のものをあわててかきけす。
愛を確かめあう行為ではなく、寂しさを埋めあう行為。
ただ、それだけ。
彼の横顔を、昨夜見た悲しそうな顔を知らなければ勘違いしたかもしれない。そんな抱き方をされた気がするから。
気づかれないように、と思ったのに体が少し動いただけでベッドがぎしっと鳴った。気づいた彼が私を見て、目を細める。メガネもかけてシャツも着てズボンもはいている彼は、昨夜の行為などまぼろしだと言わんばかりにいつもと同じ穏やかさを身にまとっていた。
あんなにいやらしく言葉を吐いてきたくせに、やっぱりずるい。
「起きたね。身体は大丈夫?」
「大丈夫です。今、何時ですか?」
彼は私のバスローブを手にして、ベッドに近づくとすぐそばに腰をおろす。腕時計まできちんとはめていて、裸の自分が惨めになる。私はまだ全身に愛撫の名残を身にまとっているのに、彼は現実に戻ってしまった。
「5時半すぎ。始発も動いているね」
シーツで体を覆って起き上がる。喉がかすかに痛い。空気が乾燥していたのだろうかと何気なく思って、そうでないことを思い出した。声をあげたからだ。彼に言われるがまま、いやらしい声を。
「なんでそんな表情しているの?」
「え?」
「せっかく襲わないですむように、先に服を着替えたんだよ。そういう表情されるとまたシャツを脱ぎたくなるけど……」
把握できなかった言葉の意味がのみこめてきて、私は咄嗟にうつむいた。彼だけが日常に帰ったことが寂しかったのに、その理由を教えられて顔が熱くなる。
伸ばされた手が私の髪の先をつかんだ。そこに指をからめたまま髪をはらって私の頬をつつむと顔をあげさせる。
メガネをかけて困ったような彼の表情がそこにあって、私は近づいてくるそれにあわせて目を閉じた。唇が軽く触れ、離れては角度を変えて触れる。一瞬しか触れ合わないキスがもどかしくて私は自分からも顔を近づけた。多分無意識に舌を伸ばした。だから彼の口の中に導き入れられて、その中で舌をからめる。彼がしたように彼の歯列を内側を伸ばして探る。彼は拒むことなく受け入れる。後頭部にまわされた手は私が顔を動かすことを阻み、私は自分からキスをし続けていた。
「抵抗しなさい。そうでないとあなたを帰せなくなるでしょう?」
唾液をのみこむ隙さえ与えなかったせいで、いきなり唇を離された私は端から唾液をこぼしていた。彼は苦笑交じりにこぼれたものを手で拭う。「抵抗なんてできない」そう頭の中では言い返しても実際は恥ずかしすぎて、そばにあったバスローブを肩にかけるといそいでバスルームに入った。
拭われた唾液のあとがまだついている気がして自分でもぬぐうと、鏡には濡れた目をした女がいる。乱れた髪、腰ひもさえ結んでいないローブからのぞく胸。指を伸ばせばきっと濡れているのは目や唇だけじゃない。こんな表情で私は彼を見上げていたのだと思うといたたまれなくてすぐに目をそむけた。
いまだ物足りない。そう私の身体が発している。女の心も身体も貪欲だと知っていたのに、満たされたはずなのに、キスひとつで塗り替えられる。
一線を越えることで変わることを知っている。
私は変わるのだろうか。それとも変わったのだろうか。
駅まで送ってくれた彼に、私は結局名前を聞かなかった。彼にも聞かれなかった。
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