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⑶ 竹取の吉太くん
しおりを挟む吉太はおばあちゃんにあてがってもらった自分の部屋に、小さなパンダのぬいぐるみが落ちてることに気がついた。
「??最初っからあったかな?」
それともおばあちゃんが置いたのだろうか。
拾い上げると、毛並みがすごくふかふかで気持ちが良かった。
「かわいい。ん?手になんかついてる。…『押す』?」
ああ、スイッチがついてるヤツか、喋ったりするのかな?と思い、手を押すと、ぷにっと柔らかかった。
スイッチの手応えは無いけど、パンダは喋り出した。
「裏の竹藪には金銀財宝が採れる竹があるよ」
「…え?」
吉太は思いもよらないことを言ったパンダに驚いた。
もう一回手を押してみる。
「うりゃの竹藪には金銀財宝が採れる竹があるよ」
「うりゃ…?」
もう一回手を押す。
「裏の竹藪には金銀財宝が採れる竹があるよ」
「ああ、気のせいか…。金銀財宝の採れる、竹…?」
それってどれくらいなんだろう…父親の借金が返せるくらいかな…?
吉太の脳裏にはそんな考えががよぎる。
お金があれば、家にも帰れるのだ。
「…って、そんな都合のいい話、あるわけない、よな…」
パンダのぬいぐるみは接触不良なのか、たまに手を押しても反応しないこともある。
何種類かのバージョンを録音してあるのか、順番がちょっと違う文章で喋ることもあった。
手触りが気持ちよくてついつい吉太は何度もパンダの手を押してしまった。
そして何故か温かく感じるぬいぐるみと、吉太は一緒に寝た。
すべすべでふかふかで気持ちが良かった。
~~~~~~~~~~~~~~
「え~~!!吉太くんと同衾できるなら私がいけば良かったぁぁぁ!」
吉太の部屋の窓が覗ける塀の上から、かぐや姫はヒソヒソ声で言った。
あらかじめ覗けるようにカーテンは少しあけてあった。
「かぐや姫だったら無理でしょ」「吉太くん怖がると思う」「燃やされちゃうかも」
吉太の部屋のにいるパンタを除く、3匹のパンダちゃん達が口々に言う。
「失礼な!一斉を風靡したお人形スタイルなんだからね!」
そう言いながらかぐや姫は塀の上でパンダちゃん達にダイブした。
「もふもふ!もふもふ!」
「アァ!かぐや姫!お尻はダメだよぉ!」
餌食となったパンジは赤くなって嫌がるが、塀の上が狭くてなかなか避けられず、かぐや姫に蹂躙されてしまう。
「もふもふ!もふも…スヤァ…」
「かぐや姫?」「あー、夜遅いから」「僕たちもねよねよ」
かぐや姫を担いで撤収をパンダちゃん達が決めた。
「みんなぁ!まってよぉ~~!」
その後ろからタフタフタフタフと、吉太の部屋を、窓から抜け出して走ってくるパンタの姿があった。
~~~~~~~~~~~~~
吉太は竹藪の入り口に立っていた。
朝起きたらあの小さいパンダのぬいぐるみは無くなっていて、おばあちゃんに聞いても知らないと言われた。
夢だったのかな…?とも思ったけれど、何度も繰り返し聞いたあの言葉が気になって仕方なくて、ついついここに来てしまった。
「金銀財宝が採れる竹…」
呟いて、竹藪の中に目を凝らすと、看板が見えた。
「え?看板?」
吉太は竹藪に分け入ってその看板に書いてあることを読んだ。
「『光る竹、こちら⇨』」
矢印は竹藪の奥を指していた。
矢印の方向を進むと、また看板が出てくる。
『金が採れる竹はこっち⇨』
その通りに進むと『金銀財宝までもう少し⇨』と言う看板があった。
そうしてついに、『光る竹、これ⇩』という看板と共に、明らかに普通のものとは違う竹を見つけた。
「すごい……光ってる…」
中に高輝度のLEDライトでも仕込んでいるのか、というくらいその竹の根本は光り輝いていた。
じっと見つめていると眩しく感じるくらいだ。
そして、その竹の近くには鉈が置いてあった。
吉太にとっては、確かこれは鉈というはものだったはず、くらいの知識くらいしかなかった。
だが、ご丁寧に『鉈。これを使って切る』と書いてある紙の上に乗っていたからわかった。
「鉈なんて使ったことないし、竹なんて固いもの切れるかなぁ…」
吉太は不安だったが、ものは試しと鉈を持って竹に打ち付けてみた。
すると、驚くほど手応えなくスパリと竹が切れた。(月テクノロジー製の超高性能鉈だった為)
驚き目を見開いた吉太は、切れて倒れていく竹に、『ココを切る』という文字とラインがあることに気がついた。自分の切った位置の10cm程上だった。
「え?」
よく見ようと地面に落ちた竹に目線を向けると、コロリと切れた断面から何かが転がり落ちた。
小さな生首だった。
完。
「かっ、かぐや姫ぇぇぇ!」「た、大変だ!」「拾って!」「くっつけてぇぇぇぇ!!」
一瞬物語が終わったような錯覚に囚われた吉太だったが、その目の前にわらわらと、どこかで見たぬいぐるみが姿を現した。
「かぐや姫ぇぇ!」「いきかえってぇぇ!」「竹ドックに入れて!」「かぐや姫ぇぇぇ」
パンダのぬいぐるみ達はものすごく焦って、生首を回収し、竹の中の残っている体にくっつけている。
「前後ろ逆じゃない?」「うそ?」「ちょっと一回外して!」「この向きで大丈夫!竹ドック起動!」
自分が切ったはずの竹がみるみるうちに伸びて行く様を後目に、吉太は絶叫し、逃げた。
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