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第一章 始まる異世界生活
浄化部隊 エイシス
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現在。
二人と行動を共にして、浄化部隊の基地の案内をしてもらっている。
元々二人は、僕と合流次第、基地の案内をする事になっていたらしいのだが、鬼の少年の暴走によってあんな惨事になってしまった。
まぁ、怪我も無かったので良しとしよう。
「俺、荻追叶多。年齢は23だ。よろしくな」
僕と同郷の異世界人。
荻追叶多と名乗った黒髪の青年は、ニカっと笑みを浮かべながら自己紹介をした。
あっ!バカ一号さん。いきなり年上マウントですか?。
あの時は空気読めとか、タメ口聞いてごめんなさい。
「私は、竹取霞紅夜。26歳だ。口は慎めよ、三下!」
「嘘つけ、お前見るからに年下だろうが!
しかも学生服だし、なんですぐにバレる嘘つく!?」
彼の年齢に負けじと、年齢を盛ったのだか、流石に鯖を読みすぎたらしい。
盛大なツッコミが、返ってきた。
だよね。すぐバレるよね、こんな嘘。
そして、もう一人のバカ。
鬼の美少年。
当初の威厳は失われ、ヒクヒクと落ち込んでいる。
彼にとってキャトンお姉様のお叱りが、相当堪えたようだ。
「ね~、アイツ大丈夫なんですか?」
「ん?八尺のことか?。
気にすんな、自業自得だ。
それに、お前は知らないだろうから教えてやるが、
キャトンは怒らせたらマジで手がつけられない、浄化部隊でも屈指の狂人だ。
アイツもそれがトラウマになってるから、キャトンを前にすると、いつもあんな感じなんだ」
あのキャトンさんが…狂人?
彼女の穏やかな様子からして、俄に信じられない。
確かに怒っている姿は多少はおっかないな~と感じたけど、言うほどだっただろうか?。
それとも別の顔が?
ちょっと気になるかも。
「ほら八尺、お前も自己紹介しろ」
「…………」
少年はまだ、キャトンさんに密告されたことを恨んでいるようで、キッと憎悪の孕んだ瞳で、叶多先輩を一瞥した。
「おっ、どうした八尺?気分悪いのか?キャトン呼んどく?」
「チッ、儂は白百合八尺じゃ」
『キャトン』というワードに味を占めた叶多を前に、八尺は渋々と口を開いた。
にしても、可愛らしい苗字ですこと。
「よろしく~…って、あれ?。でも白百合って姓…」
疑問に思った。
根源から顕現まれてくる精霊達には、親という概念がないはずなのだ。
八尺は頭部の鬼火のような角を見るからに、精霊なのは間違いないのだが、彼は姓を持っている。
僕も精霊の社会に詳しい訳ではないが、ひょっとして、彼には育ての親がいるのか?。
そんな事を考えていた時だ。
八尺は不思議そうにしていた僕を見て、何を考えているか察したようだ。
さっきまで萎れていた彼は、僅かに高揚し、得意げに語り始めた。
「なんじゃ、霞紅夜よ。儂が姓を名乗ったのが不思議か?精霊にだって育ての親を持つ者はいる。
そして、見るがいい、この美しき我が愛刀。紅葉之祝を!」
八尺は、オモチャを自慢する子供のように、持っていた刀を鞘から抜いて見せびらかしてきた。
確かに優雅な刀だ。
鍔を持たない薄紅色の滑らかな刀身は勿論のこと、特に鞘が一際目を引く。
雪色の鞘の上に、見た事のない花を模した装飾が、鮮やかな色合いで施されている。
あまりに美しいので、その刀は戦闘用では無く、装飾品などの用途があったのでは?と思ってしまった。
「儂の根源にして、かの第一部隊の隊長を務める母様から譲り受けた者じゃ。どじゃ、凄いじゃろ」
今の、『どじゃ』のドヤ顔…すごく可愛かったな、おい。
コイツ本当に男?。
にしても、精霊ってみんな自分の根源を自慢したがるのか?
テスもそうだったのだが、彼女はかつての花畑がどれだけ素晴らしかったかを、食事中など、暇がある時に毎度の如く熱弁してくる。
それはもう、耳にタコができるほどだ。
この八尺って子も根源の事を語り出すと、ものすごいエネルギッシュなっている…。
精霊ってみんなこんなのばっかなのか?。
「へー、元々は八尺のお母さんが使っていた刀なんだ」
「そうじゃ。元々は母様の愛刀の一本でな、第一部隊の隊長として名を馳せている内に、この美しい刀は母様の隊の象徴にもなっているんじゃぞ!」
「ああ、だから部隊名がファーストソードなのね」
誇らしげに語りながら、八尺はフフンと鼻を高くした。
そして、その口は止まる事は無く。
僕は八尺の自慢話を、延々と聞かされ続けることとなった。
ーー*ーー
八尺の母となった人物。
名を白百合灯花。
200年程前に、この世界に召喚された異世界人だ。
200年も前の話なら、もう寿命で死んじゃうじゃん!って思ったんだけど。
なんと彼女、妖鬼っていう人間とは異なる長命種なんだと。
流石は異世界。人間とは異なる存在だって、そりゃいるよね。
彼女は召喚された当時、この世界の事情を知るや否や、瞬く間に戦場を駆け抜けた。
彼女の奇跡はあまりにも圧倒的で、超克個体を何度も退けたそうな。
そして、気づけば第一部隊の隊長にまで上り詰めた。
言わば彼女は、聖都には欠かせない勝利の女神なわけだ。
そして、彼女が愛用していたという二振りの刀。
その中でも一際美しい紅葉之祝は、勝利をもたらした彼女の象徴として、多くの者達の目を惹いた。
そして、現在から16年前の事。
彼女が家の庭で休息を取っていた時。
彼女が肌身離さず持ち歩いていた紅葉之祝から、荒々しい光の波が溢れ、空中で人並み程の大きさの、煌々とした繭が形成された。
しばらくすると繭は、泡沫のような暖かな光を放ち、大気の中に溶けていった。
そして、繭が消え去った場所には、一人の赤子が残された。
その赤子が八尺だ。
ーー*ーー
「精霊ってそんな感じで顕現まれてくるんだ…てか八尺、僕と同い年なんだね。
そういえば、灯花さんも隊長なんでしょ?基地にはいないの?」
すると、八尺は悲しそうに眉を潜めた。
「母様は………他国に囚われておる」
「えっ……?」
第一部隊の隊長が囚われている?。
それは、深刻な状況じゃないか。
すると、さっきまで八尺の話を興味無さそうにボケーっと聞き流していた叶多先輩が、不意に会話に入ってきた。
「あー、誤解するな。
囚われてるっていうのはコイツが大袈裟に言ってるだけだ。
実際は、白百合隊長が闘気っつう身体能力を向上させる戦闘術を、神国っつう国の戦士たちに教えにいってるんだとよ。
ほら、この世界に元々いる人間は奇跡を起こせないだろ。だから、神国が無理を言って、定期的に白百合隊長を、師範として招いてるらしい」
はぁ、そうなんだ。とりあえず安心。
ていうかこの世界。
ちゃんと僕たち以外の人間もいるんですね。
で?闘気?、ナニソレ初耳なんだけど。
身体能力の向上…?。
もしかして、僕の星屑の速度に彼らが適応出来るのも、それが関係してる?。
「八尺も闘気使えるの?」
「母様に育てて貰ったんじゃ。出来て当然じゃろ」
「さっきの戦いでも使ってた?」
「当たり前じゃ」
「エンバーさんも?」
「隊長?一応使えるが、隊長は闘気が得意じゃないからのう」
すると、首を傾げた八尺の後ろから、ゾイっと顔を突き出すようして、叶多先輩が会話に入ってきた。
「それあれだ。隊長ってずっと奇跡を維持してる状態だろ。あの人の奇跡って結構複雑な性質だから、闘気に意識を割きづらいんだってよ。本人から聞いた」
「なるほど、前にエンバーさんと戦った時、
一回戦目より二回戦目の方が遥かに強かったのはそういうことか」
以前エンバーさんと戦った時。
僕が勝利した一回戦目は、奇跡のみを行使した状態。
簡単にいうと、僕はナメプされていたのだ。
そして二回戦目。
エンバーさんは、構築した2本の機械腕に自動迎撃システムをあらかじめプログラムする事で、少しでも闘気に思考を割いていたんだろう。
星屑の速度に早くも順応できたのはそういう事だったのだ。
そんな事を考えていた時。
八尺も叶多も呆然とした様子でワナワナと僕を正視していた。
「えっ、なに?気持ち悪!」
「お主、隊長と戦ったことあるのか?」
「ん?一応あるけど…」
「どっちがっ、どっちが勝ったんだ?」
僕の肩をガシッと掴み、問い正すように聞いてきた叶多に、僕は平然と答えた。
「二勝一敗で、エンバーさんの勝ちだったよ」
その言葉を聞いて、叶多は愕然と肩を落とした。
「嘘だろ。お前隊長に一勝でも勝ったの?俺一勝もできてないのに!」
「ハハ、叶多お主。新人にまで遅れを取っているぞ!。情けない。
雑ぁ魚、雑ぁ魚」
八尺…お前。属性盛りすぎでは?。
まあいいや。
にしても叶多君…結構落ち込んでるなー。
ちょっとフォローしてあげよ。
「でもほら、叶多先輩は異能も奇跡も使えるんだし、このふたつを使いこなせるようになれば、いつかエンバーさんを越えられるんじゃないですか?」
「………そうだよな。
異能はともかく、奇跡の方は全く使いこなせてねえ。
いつかは奇跡もマスターして、この世界で最強になってやる。
そして、みんなからはこう呼ばれるんだ。
『フルスロットルの叶多』って…」
「グフ」
「ブフ」
元気を取り戻したようで何よりだ。
でもさ……。
フルスロットルの叶多はない!。
唐突すぎて僕も八尺も、思わず吹き出してしまった。
「ヒヒ。のう、霞紅夜の異能は見たが、フフ、奇跡はどんなことができるんじゃ?」
僕と同様、笑いを堪えた八尺が、不意に話題を逸らした。
まあ僕もこれ以上、フルスロットルの叶多先輩の話をしていたら、笑いのダムが決壊しそうだ。
「あ~、僕も何度かやってみたんだけど、起こせなかったんだよね…奇跡」
そう、自分もなんとか奇跡を起こそうと、暇さえあれば特訓はしている。
暴発してしまったけれど、オーブを用いた奇跡の行使は一応できている。
だけど肝心の自身に内包されている奇跡は、まだ起こせていない。
「そーなの?。異世界人はみんな奇跡を起こせるんじゃなかったのか?」
「ふむ、お主の奇跡は余程強力な力なのかもしれんな。
奇跡の力が強力であればある程、より強い想念が必要になるからな。母様もそうじゃった」
「あー、そういえば、エンバーさんも似たような事言ってたな」
より強い想い……か。
どちらにしろ今の僕には難しい。
一度でも自分の奇跡を起こせれば感覚が掴めるのかもしれないけど、その一度が出来ないからな。
気儘にやってみるしかないか。
ー
そして、僕は二人に連れられるまま、基地の中を一通り視て回った。
部隊についての話もした。
部隊は全部で八部隊。
各部隊は、それぞれ各々の役割があるそうだ。
第一部隊は超克個体の討伐と魔恩の一掃。
エンバーさんの第三部隊も同様に魔恩の一掃だ。
他にも、聖都外に住んでいる民間人の救助や支援を主な役割としている。
他の部隊の話まですると話し長くなるので割愛する。
ー
僕と八尺、そして叶多先輩は基地を一週して、スタート地点である訓練場に戻ってきた。
「あー、今日は訓練サボれてラッキー」
「叶多……そんなんだから弱いままなんじゃぞ」
「うん、これじゃ道のりは遠いね」
他愛ない会話をしながら、僕はテスの検診が終わるのを待っていた。
それにしても、長い。
テス、僕の事忘れて一人で遊びに行ってるんじゃ…。
ありえそうな気がする。
行動力はあるけど、いろんなものに目移りするからなあの子。
そんなことを考えていると、施設の中から、見覚えのあるシルエットが、ノッソノッソと、くたびれた様子で出てきた。
テスだ。
彼女は辺りを見渡すと、僕を見つけるなり、ヨロヨロと歩み寄って来た。
「カグヤ~、待った~?」
「うわっ、テス…スッゴい疲れてるね。大丈夫?っと、おわっと!」
「ちかれた~」
テスは僕の前に来るや否や、ぐったりと寄り掛かって来た。
どうやら、相当お疲れのようだ。
口から生気が抜けていくのが見える。
咄嗟のことで抱き留めたけど、正直、心臓に悪い。
彼女みたいな可憐な顔が、不意に甘い香りを漂わせて近づいて来たら、誰でもドキッとなることだろう。
そう、これは思春期男子なら当然の反応なのだ。
「ちょいちょいちょいちょい!
ちょっ、霞紅夜。
誰だよ、その美少女!
どういう関係!」
すると、鼻息を荒くした叶多が食い気味で、僕達の会話に割って入ってきた。
「この子はテス。僕の恩人」
「私はテス。カグヤの御主人様だ」
その設定まだ持ってくるの?
まあいいや。
僕は彼女との出会いのあらましを、ある程度説明すると、叶多は羨ましそうに涙を溢した。
「うっ、うぐ。いーなあ。俺もせっかくなら美少女に囲まれたかったなー」
「なに言ってるんですか?。
キャトンさんがいるじゃないですか。
あと八尺も」
「おい!儂は男じゃ。美少女にカウントするでない」
八尺は両手を広げ、威嚇するかのように怒りだす。
「そういえば、テスは検診は済んだの?」
「うん。ねえ、そんなことより、早く一緒に聖都を視て回ろ。私が案内するから。
はーやーくー」
さっきまでゲッソリとしていた筈なのだか…。
彼女の表情はコロッと変わり、満面の笑顔で僕の腕を引っ張っていく。
「じゃあ、叶多先輩、八尺。
今日は基地の案内ありがとう。
またね」
僕は二人に手を振って、テスに引きずられるまま、浄化部隊の基地を後にした。
ーー*ーー
「うっ、もうあの距離感、絶対付き合ってるだろ!
……畜生!、羨ましい!」
「叶多、さっきからメソメソ五月蝿い。いい加減黙らぬか、気色悪い」
テスと霞紅夜が基地を去った後。
自信と霞紅夜の境遇の違いに、打ちひしがれていた叶多を、八尺が面倒臭そうになだめる姿が、そこにはあった。
二人と行動を共にして、浄化部隊の基地の案内をしてもらっている。
元々二人は、僕と合流次第、基地の案内をする事になっていたらしいのだが、鬼の少年の暴走によってあんな惨事になってしまった。
まぁ、怪我も無かったので良しとしよう。
「俺、荻追叶多。年齢は23だ。よろしくな」
僕と同郷の異世界人。
荻追叶多と名乗った黒髪の青年は、ニカっと笑みを浮かべながら自己紹介をした。
あっ!バカ一号さん。いきなり年上マウントですか?。
あの時は空気読めとか、タメ口聞いてごめんなさい。
「私は、竹取霞紅夜。26歳だ。口は慎めよ、三下!」
「嘘つけ、お前見るからに年下だろうが!
しかも学生服だし、なんですぐにバレる嘘つく!?」
彼の年齢に負けじと、年齢を盛ったのだか、流石に鯖を読みすぎたらしい。
盛大なツッコミが、返ってきた。
だよね。すぐバレるよね、こんな嘘。
そして、もう一人のバカ。
鬼の美少年。
当初の威厳は失われ、ヒクヒクと落ち込んでいる。
彼にとってキャトンお姉様のお叱りが、相当堪えたようだ。
「ね~、アイツ大丈夫なんですか?」
「ん?八尺のことか?。
気にすんな、自業自得だ。
それに、お前は知らないだろうから教えてやるが、
キャトンは怒らせたらマジで手がつけられない、浄化部隊でも屈指の狂人だ。
アイツもそれがトラウマになってるから、キャトンを前にすると、いつもあんな感じなんだ」
あのキャトンさんが…狂人?
彼女の穏やかな様子からして、俄に信じられない。
確かに怒っている姿は多少はおっかないな~と感じたけど、言うほどだっただろうか?。
それとも別の顔が?
ちょっと気になるかも。
「ほら八尺、お前も自己紹介しろ」
「…………」
少年はまだ、キャトンさんに密告されたことを恨んでいるようで、キッと憎悪の孕んだ瞳で、叶多先輩を一瞥した。
「おっ、どうした八尺?気分悪いのか?キャトン呼んどく?」
「チッ、儂は白百合八尺じゃ」
『キャトン』というワードに味を占めた叶多を前に、八尺は渋々と口を開いた。
にしても、可愛らしい苗字ですこと。
「よろしく~…って、あれ?。でも白百合って姓…」
疑問に思った。
根源から顕現まれてくる精霊達には、親という概念がないはずなのだ。
八尺は頭部の鬼火のような角を見るからに、精霊なのは間違いないのだが、彼は姓を持っている。
僕も精霊の社会に詳しい訳ではないが、ひょっとして、彼には育ての親がいるのか?。
そんな事を考えていた時だ。
八尺は不思議そうにしていた僕を見て、何を考えているか察したようだ。
さっきまで萎れていた彼は、僅かに高揚し、得意げに語り始めた。
「なんじゃ、霞紅夜よ。儂が姓を名乗ったのが不思議か?精霊にだって育ての親を持つ者はいる。
そして、見るがいい、この美しき我が愛刀。紅葉之祝を!」
八尺は、オモチャを自慢する子供のように、持っていた刀を鞘から抜いて見せびらかしてきた。
確かに優雅な刀だ。
鍔を持たない薄紅色の滑らかな刀身は勿論のこと、特に鞘が一際目を引く。
雪色の鞘の上に、見た事のない花を模した装飾が、鮮やかな色合いで施されている。
あまりに美しいので、その刀は戦闘用では無く、装飾品などの用途があったのでは?と思ってしまった。
「儂の根源にして、かの第一部隊の隊長を務める母様から譲り受けた者じゃ。どじゃ、凄いじゃろ」
今の、『どじゃ』のドヤ顔…すごく可愛かったな、おい。
コイツ本当に男?。
にしても、精霊ってみんな自分の根源を自慢したがるのか?
テスもそうだったのだが、彼女はかつての花畑がどれだけ素晴らしかったかを、食事中など、暇がある時に毎度の如く熱弁してくる。
それはもう、耳にタコができるほどだ。
この八尺って子も根源の事を語り出すと、ものすごいエネルギッシュなっている…。
精霊ってみんなこんなのばっかなのか?。
「へー、元々は八尺のお母さんが使っていた刀なんだ」
「そうじゃ。元々は母様の愛刀の一本でな、第一部隊の隊長として名を馳せている内に、この美しい刀は母様の隊の象徴にもなっているんじゃぞ!」
「ああ、だから部隊名がファーストソードなのね」
誇らしげに語りながら、八尺はフフンと鼻を高くした。
そして、その口は止まる事は無く。
僕は八尺の自慢話を、延々と聞かされ続けることとなった。
ーー*ーー
八尺の母となった人物。
名を白百合灯花。
200年程前に、この世界に召喚された異世界人だ。
200年も前の話なら、もう寿命で死んじゃうじゃん!って思ったんだけど。
なんと彼女、妖鬼っていう人間とは異なる長命種なんだと。
流石は異世界。人間とは異なる存在だって、そりゃいるよね。
彼女は召喚された当時、この世界の事情を知るや否や、瞬く間に戦場を駆け抜けた。
彼女の奇跡はあまりにも圧倒的で、超克個体を何度も退けたそうな。
そして、気づけば第一部隊の隊長にまで上り詰めた。
言わば彼女は、聖都には欠かせない勝利の女神なわけだ。
そして、彼女が愛用していたという二振りの刀。
その中でも一際美しい紅葉之祝は、勝利をもたらした彼女の象徴として、多くの者達の目を惹いた。
そして、現在から16年前の事。
彼女が家の庭で休息を取っていた時。
彼女が肌身離さず持ち歩いていた紅葉之祝から、荒々しい光の波が溢れ、空中で人並み程の大きさの、煌々とした繭が形成された。
しばらくすると繭は、泡沫のような暖かな光を放ち、大気の中に溶けていった。
そして、繭が消え去った場所には、一人の赤子が残された。
その赤子が八尺だ。
ーー*ーー
「精霊ってそんな感じで顕現まれてくるんだ…てか八尺、僕と同い年なんだね。
そういえば、灯花さんも隊長なんでしょ?基地にはいないの?」
すると、八尺は悲しそうに眉を潜めた。
「母様は………他国に囚われておる」
「えっ……?」
第一部隊の隊長が囚われている?。
それは、深刻な状況じゃないか。
すると、さっきまで八尺の話を興味無さそうにボケーっと聞き流していた叶多先輩が、不意に会話に入ってきた。
「あー、誤解するな。
囚われてるっていうのはコイツが大袈裟に言ってるだけだ。
実際は、白百合隊長が闘気っつう身体能力を向上させる戦闘術を、神国っつう国の戦士たちに教えにいってるんだとよ。
ほら、この世界に元々いる人間は奇跡を起こせないだろ。だから、神国が無理を言って、定期的に白百合隊長を、師範として招いてるらしい」
はぁ、そうなんだ。とりあえず安心。
ていうかこの世界。
ちゃんと僕たち以外の人間もいるんですね。
で?闘気?、ナニソレ初耳なんだけど。
身体能力の向上…?。
もしかして、僕の星屑の速度に彼らが適応出来るのも、それが関係してる?。
「八尺も闘気使えるの?」
「母様に育てて貰ったんじゃ。出来て当然じゃろ」
「さっきの戦いでも使ってた?」
「当たり前じゃ」
「エンバーさんも?」
「隊長?一応使えるが、隊長は闘気が得意じゃないからのう」
すると、首を傾げた八尺の後ろから、ゾイっと顔を突き出すようして、叶多先輩が会話に入ってきた。
「それあれだ。隊長ってずっと奇跡を維持してる状態だろ。あの人の奇跡って結構複雑な性質だから、闘気に意識を割きづらいんだってよ。本人から聞いた」
「なるほど、前にエンバーさんと戦った時、
一回戦目より二回戦目の方が遥かに強かったのはそういうことか」
以前エンバーさんと戦った時。
僕が勝利した一回戦目は、奇跡のみを行使した状態。
簡単にいうと、僕はナメプされていたのだ。
そして二回戦目。
エンバーさんは、構築した2本の機械腕に自動迎撃システムをあらかじめプログラムする事で、少しでも闘気に思考を割いていたんだろう。
星屑の速度に早くも順応できたのはそういう事だったのだ。
そんな事を考えていた時。
八尺も叶多も呆然とした様子でワナワナと僕を正視していた。
「えっ、なに?気持ち悪!」
「お主、隊長と戦ったことあるのか?」
「ん?一応あるけど…」
「どっちがっ、どっちが勝ったんだ?」
僕の肩をガシッと掴み、問い正すように聞いてきた叶多に、僕は平然と答えた。
「二勝一敗で、エンバーさんの勝ちだったよ」
その言葉を聞いて、叶多は愕然と肩を落とした。
「嘘だろ。お前隊長に一勝でも勝ったの?俺一勝もできてないのに!」
「ハハ、叶多お主。新人にまで遅れを取っているぞ!。情けない。
雑ぁ魚、雑ぁ魚」
八尺…お前。属性盛りすぎでは?。
まあいいや。
にしても叶多君…結構落ち込んでるなー。
ちょっとフォローしてあげよ。
「でもほら、叶多先輩は異能も奇跡も使えるんだし、このふたつを使いこなせるようになれば、いつかエンバーさんを越えられるんじゃないですか?」
「………そうだよな。
異能はともかく、奇跡の方は全く使いこなせてねえ。
いつかは奇跡もマスターして、この世界で最強になってやる。
そして、みんなからはこう呼ばれるんだ。
『フルスロットルの叶多』って…」
「グフ」
「ブフ」
元気を取り戻したようで何よりだ。
でもさ……。
フルスロットルの叶多はない!。
唐突すぎて僕も八尺も、思わず吹き出してしまった。
「ヒヒ。のう、霞紅夜の異能は見たが、フフ、奇跡はどんなことができるんじゃ?」
僕と同様、笑いを堪えた八尺が、不意に話題を逸らした。
まあ僕もこれ以上、フルスロットルの叶多先輩の話をしていたら、笑いのダムが決壊しそうだ。
「あ~、僕も何度かやってみたんだけど、起こせなかったんだよね…奇跡」
そう、自分もなんとか奇跡を起こそうと、暇さえあれば特訓はしている。
暴発してしまったけれど、オーブを用いた奇跡の行使は一応できている。
だけど肝心の自身に内包されている奇跡は、まだ起こせていない。
「そーなの?。異世界人はみんな奇跡を起こせるんじゃなかったのか?」
「ふむ、お主の奇跡は余程強力な力なのかもしれんな。
奇跡の力が強力であればある程、より強い想念が必要になるからな。母様もそうじゃった」
「あー、そういえば、エンバーさんも似たような事言ってたな」
より強い想い……か。
どちらにしろ今の僕には難しい。
一度でも自分の奇跡を起こせれば感覚が掴めるのかもしれないけど、その一度が出来ないからな。
気儘にやってみるしかないか。
ー
そして、僕は二人に連れられるまま、基地の中を一通り視て回った。
部隊についての話もした。
部隊は全部で八部隊。
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第一部隊は超克個体の討伐と魔恩の一掃。
エンバーさんの第三部隊も同様に魔恩の一掃だ。
他にも、聖都外に住んでいる民間人の救助や支援を主な役割としている。
他の部隊の話まですると話し長くなるので割愛する。
ー
僕と八尺、そして叶多先輩は基地を一週して、スタート地点である訓練場に戻ってきた。
「あー、今日は訓練サボれてラッキー」
「叶多……そんなんだから弱いままなんじゃぞ」
「うん、これじゃ道のりは遠いね」
他愛ない会話をしながら、僕はテスの検診が終わるのを待っていた。
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ありえそうな気がする。
行動力はあるけど、いろんなものに目移りするからなあの子。
そんなことを考えていると、施設の中から、見覚えのあるシルエットが、ノッソノッソと、くたびれた様子で出てきた。
テスだ。
彼女は辺りを見渡すと、僕を見つけるなり、ヨロヨロと歩み寄って来た。
「カグヤ~、待った~?」
「うわっ、テス…スッゴい疲れてるね。大丈夫?っと、おわっと!」
「ちかれた~」
テスは僕の前に来るや否や、ぐったりと寄り掛かって来た。
どうやら、相当お疲れのようだ。
口から生気が抜けていくのが見える。
咄嗟のことで抱き留めたけど、正直、心臓に悪い。
彼女みたいな可憐な顔が、不意に甘い香りを漂わせて近づいて来たら、誰でもドキッとなることだろう。
そう、これは思春期男子なら当然の反応なのだ。
「ちょいちょいちょいちょい!
ちょっ、霞紅夜。
誰だよ、その美少女!
どういう関係!」
すると、鼻息を荒くした叶多が食い気味で、僕達の会話に割って入ってきた。
「この子はテス。僕の恩人」
「私はテス。カグヤの御主人様だ」
その設定まだ持ってくるの?
まあいいや。
僕は彼女との出会いのあらましを、ある程度説明すると、叶多は羨ましそうに涙を溢した。
「うっ、うぐ。いーなあ。俺もせっかくなら美少女に囲まれたかったなー」
「なに言ってるんですか?。
キャトンさんがいるじゃないですか。
あと八尺も」
「おい!儂は男じゃ。美少女にカウントするでない」
八尺は両手を広げ、威嚇するかのように怒りだす。
「そういえば、テスは検診は済んだの?」
「うん。ねえ、そんなことより、早く一緒に聖都を視て回ろ。私が案内するから。
はーやーくー」
さっきまでゲッソリとしていた筈なのだか…。
彼女の表情はコロッと変わり、満面の笑顔で僕の腕を引っ張っていく。
「じゃあ、叶多先輩、八尺。
今日は基地の案内ありがとう。
またね」
僕は二人に手を振って、テスに引きずられるまま、浄化部隊の基地を後にした。
ーー*ーー
「うっ、もうあの距離感、絶対付き合ってるだろ!
……畜生!、羨ましい!」
「叶多、さっきからメソメソ五月蝿い。いい加減黙らぬか、気色悪い」
テスと霞紅夜が基地を去った後。
自信と霞紅夜の境遇の違いに、打ちひしがれていた叶多を、八尺が面倒臭そうになだめる姿が、そこにはあった。
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