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第545話 全てを振り絞って

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「いけ…」

『いけぇ!!』

『やっちまえポチ!!!』

 ポチの怒涛の連打を前に簒奪者から数十億もの魂が霧散していく。連打は止まることはない。簒奪者はすでに反撃することを辞め、ただただ防御に徹している。しかしそんな防御ではポチの攻撃の前では無力だ。

 だがポチの大振りの一撃により大きく吹っ飛んだ簒奪者は一瞬の隙を作ることができた。そしてその隙に攻撃魔法を構築する。

「お前は確かに脅威だ」「しかしお前の力はその背後の仲間から得たもの」「ではその仲間たちがやられたらどうなるのかな?」

 簒奪者は攻撃を放つ。その攻撃はポチの上空を通り、背後にいる使い魔達の元へと向かう。そして簒奪者の読みは正しい。全ての力をポチに譲渡している現在の使い魔達はあまりに無力だ。ミチナガであってもエヴォルヴの中にいる使い魔を倒すことができるほどに。

『それを許すと思うのかい?』

 ポチは能力を発動させる。だが今度の能力は先ほどとは少し違う。今のポチは全ての使い魔から力を得た状態だ。しかし力を得られるのであれば、その逆の与えることもできるのではないか。

 全は一のために。そして一は全のために。ポチのもう一つの能力、ワンフォーオール。ザ・オールによって集約された力を他の個体へ譲渡する力。そしてその力の一部がガーディアンへと送られる。

 数十万倍まで増幅されたガーディアンの防御能力は簒奪者の攻撃を全て防ぎ切り、その全てを跳ね返して見せた。

 自身の攻撃によりその身を焦がすこととなる簒奪者。さらにそこへ力を与えられたバーサーカーが突っ込む。さらにドルイドも。

 数十万倍まで増幅されたバーサーカーとドルイドの攻撃はあまりに強大だ。簒奪者は再び防戦一方になる。このままなら押し切れる。そのはずなのにミチナガの表情は硬い。

 ミチナガは気がついてしまったのだ。ポチのあれだけの力。あれはそんな簡単にやれるものではないことを。

 ポチはもう動けないのかもしれない。もしも動けるのならば、今の簒奪者の攻撃は自分でさばききるはずだ。バーサーカーやドルイドが戦う必要もないはずだ。

 おそらく獲得したばかりの力に体が追いついていない。あの怒涛のラッシュも溢れる力を制御しきれずに、簒奪者へと発散させることで少しでも楽になろうとしたのだ。

 簒奪者もバカではない。そのことに気がついている可能性が高い。これで再び勝負はわからなくなった。ミチナガはすぐにスマホでポチへ連絡をとる。

ミチナガ『“大丈夫か?後どれだけ動ける?”』

ポチ『“問題ない…ってやせ我慢したいところだけどかなり厳しい。力の奔流に体が追いついてない。本気を出せるのは1分が限界かな。しばらくは他のみんなに任せておけば戦況を保てるけど、ずっとは無理。”』

ミチナガ『“わかった。”』

 1分で決着をつけなければこちらがジリ貧になって負ける。未だギリギリの戦いだ。いや、あの体力お化けの簒奪者を後1分で倒すなんて不可能だ。最低でも後6割は魂を削らない限り倒すことは不可能だろう。そしてその6割というのが途方も無い数字だ。

 だがその時、じっとその様子を見ていたピースが何かを考えついた。

『あ、あの…本気の総攻撃をしたらどのくらい削れますか?』

「本気……1分間で1割ちょっとはいけるはずだ。ただそれを使ったら本当に手がなくなる。」

『わかりました。僕も1分くらいしか持たないと思うので丁度良いです。一気に行きませんか?』

「策があるんだな?……まあどうせ他に手はなさそうだからな。その案に乗る。シェフ、全員に号令をかけろ。最終攻撃を仕掛ける。ポチにも能力の対象範囲を決めさせないとな。」

 ミチナガの号令のもと使い魔達が大慌てで動き出す。そして一旦ポチも下がり作戦開始まで一旦休息する。前線で戦うバーサーカーとドルイドにはもうしばらく頑張ってもらう必要がある。

「後1分以内に準備が完了する。攻撃開始はその30秒後だ。作戦の中心はポチ、シェフ、ピースの3人だ。他のみんなは支援に徹してくれ。それから…」

「ミチナガ、僕らも何かできることはないかい?」

「もう十分休息したのだ。」

 ミチナガが作戦を伝えている途中にイッシンとフェイミエラルが現れた。確かに二人の言葉通り十分戦えるほど体力が回復しているように見える。しかし神力は回復しきれていない。この二人の攻撃では簒奪者には大きなダメージにはならないだろう。

「二人は…」

『じゃあ僕と友達になろう!一緒に手を繋げばみんな友達さ。ポチさん、いけるよね?』

『神剣と神魔か。もちろんいけるよ。ただし制限時間がもう少し短くなりそうだから頼むね。』

『こちら準備完了いたしました!いつでもいけます!』

「よし、じゃあすぐに開始しよう。あの二人ももうギリギリだ。」

 すぐに作戦を開始する。すでに前線のバーサーカーとドルイドは限界が近い。後先考えずに相当無茶をさせている。そして使い魔達の軍勢の背後から出た轟音とともに作戦が開始される。

『待ってました!我ら神風特攻部隊!!いざ戦場を切り開かん!!!』

 轟音とともに打ち上がったのは特殊兵器桜花。搭乗型のミサイル兵器だ。そんな桜花が空を覆うほど飛行している。そしてあらかじめ大量の魔力を注入された桜花は一つ一つが極大魔法並みの威力を持つ。

 一度使えば再使用不可能な兵器。そしてこれがミチナガの持つ、とっておきの最終兵器だ。これだけの桜花を食らえば簒奪者の体力を1割近くは持っていけるだろう。ただしそれは一機も撃墜されなければだ。

「見てわかる兵器」「叩き落とすのも容易だ」「我々を舐めるな」

 迎撃態勢に入ろうとする簒奪者を止めようとするバーサーカーとドルイド。しかしもう迎撃を止めることもできぬほど振りは弱っている。だがそこへ3人の使い魔が突撃する。

『準備は良い?力を送り込むよ。』

『もちろんだ。ピース、FF無効も頼むぞ。』

『うん!それじゃあ…頼んだよ!』

 その瞬間、ピースはエヴォルヴを脱ぎ捨てた。この戦場で唯一の攻撃手段であるエヴォルヴを脱ぎ捨てるのはあまりに愚かな行為だ。しかしピースにとって今やエヴォルヴは必要ない。

 勢いよく飛び出したピースは簒奪者へとペトリと張り付く。まるで蚊やハエのようだ。簒奪者もピースが張り付いたことに気がつかないほどだ。しかしそれが簒奪者の命取りとなる。

『ピース・ねぇ神様』

「ん?」「なんだお前は」「本当に虫のようだな」

『ピース・虫って酷いなぁ…それじゃあ虫けらの恐ろしさを教えてあげるよ。ねえ神。いい加減僕たちのところまで……堕ちてきてよ。』

 その瞬間ピースの隠された最後の能力が発動する。ピースの能力はFF無効と能力付与…だけではない。ピースには他の使い魔にはない呪われた能力がある。それは能力半減。ピースは他の使い魔達と比べ、筋力も魔力貯蔵量も半分しかない。

 今でこそ並々ならぬ努力のおかげで他の使い魔とそこまで差がなくなったが、この能力半減さえなければピースは本当に優秀な使い魔だ。しかしこの呪われた能力が今こそ力を発揮する。

 本来のピースの魔力量ではこの能力を使用することはできなかった。しかしポチのワンフォーオールによって魔力量が激増している。今なら間違いなく使える。

 ピースはこれまでFF無効しか能力付与してこなかった。だが別にこの呪われた能力、能力半減を能力付与できないとは一度も言っていない。

 そしてそれは膨大な体力、神力を持つ簒奪者を地に堕とすことができる唯一の手段だ。現に急激に能力が低下した簒奪者は桜花を迎撃するための魔法を全て解いてしまった。

「なんだ!」「これは一体…」「やはりお前は危険だ!」「消え失せろ!!」

『ピース・そんな寂しいこと言わないでよ。君と僕はもう友達だろ?』

 張り付くピースを滅多打ちにする簒奪者。しかし今のピースは簒奪者の攻撃をFF無効で全て無効化できる。そしてピースに集中している間に空から桜花が降り注ぐ。

 簒奪者に激突する桜花は簒奪者の肉体を抉り、ちぎり飛ばす。そしてちぎられた肉体は次の桜花によって消滅する。ピースによって急に能力を半減させられた簒奪者は桜花に対する防御を一切していない。

 さらに爆炎の中、ポチとシェフが簒奪者へと襲い掛かる。二人にはピースによってFF無効が付与されているため、桜花の爆風に巻き込まれない。そしてシェフの一刀が簒奪者へと襲い掛かる。

『ちょ…これ出力高すぎ……体がバラバラになりそう。』

『1分もてば十分!だけど本当にすごい…さすがだね。』

 そんな簒奪者が爆炎に包まれる中、後方ではイッシンとフェイミエラルと一人の使い魔が手をつないでいる。

『アイムフレンズ!僕と手を繋げばみんな友達!!』

「うわ…なんか体がすごい重い…」

「あははは!魔力が空っぽになる感覚は初めてなのだ!」

 使い魔フレンズによって強制的にイッシンとフェイミエラルを友達認定させ、ポチに対する一定以上の信仰値を獲得させた。これによりイッシンとフェイミエラルの二人の力がポチのザ・オールに加えられる。

 今やシェフの一刀はイッシンと同等、いやイッシンを超えるほどとなり、ピースはフェイミエラルの膨大な魔力によって能力を遺憾無く発揮する。そしてポチも限界が近い体を無理やり動かす。

『消し飛べぇ!』

『ぶった切れろぉぉ!!』

「や、やめろ」「これ以上はダメだ!」「やめてくれ!!」「私は神になるんだ」「お前達なんかに…」

「あばよ初代神魔とそれに連なる者達よ。この世界を…返してもらうぞ。」

「やめろぉぉ!!」

 肉体を一定以上削られたことにより、内部で留めておいた神の力を抑えきれなくなった簒奪者は桜花の爆炎に包まれながら自己崩壊を始める。これで簒奪者との戦いに終止符が打たれた。
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