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第522話 9つの鍵

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「にぃ…いしししし。私の歯、綺麗でしょ。」

「綺麗綺麗。俺も少し歯茎が引き締まった感じがあるな。やっぱプロにやってもらうと違うなぁ。」

 歯の治療を終えたミチナガたちはレストランに入り昼食をとることにした。店を選んだのはピクシリーだ。歯医者に行くまでの道中我慢させられた反動を抑えるための判断だ。

「リリーは暇だったろ?お昼はご馳走するから好きなもの食べな。」

「ありがとうございます。」

 ピクシリーがいるせいか猫を被っているリリー。しかしそんな普段の子供らしさが無くなり、おとなしい大人びた雰囲気にミチナガはドギマギしている。横ではしゃいでいるピクシリーがいなければ緊張でガチガチだっただろう。

「ねえミチナガ!私も好きなもの頼んで良いわよね!それから後でエルフ街で買い物したい!」

「昼食は良いが、買い物代くらい自分で払えよ。女王なんだから金あんだろ?」

「いいじゃない!あんたの要請受けてダンジョン解放してやったのは誰よ。私たちは別にダンジョン解放されても特に旨味無いんだから。」

「ダンジョン周辺の安全確保ができただろう。それにお礼に色々送ったじゃんか。ちょっとした国の国家予算…の半分くらいはあるぞ。」

「じゃあまだ半分あるじゃない。」

「国家予算丸々よこせって言うのかよ!ひどいやつだよ……ちょっとだけだからな。」

「やった!ミチナガ大好き!」

「なっ!!」

 喜んでミチナガに抱きつくピクシリーに思わず反応するリリー。その反応を見て面白かったのかピクシリーはさらにベタベタしてリリーの反応を楽しむ。すると徐々に怒気から殺気に変わり始めたので慌ててミチナガが止めた。

「リリーも後で買い物しような。ピクシリーはおとなしく座っておきなさい。」

「ちぇ~面白かったのに。……9大ダンジョンは全て解放されたの?」

「あとは煉獄のムスプルヘイムだけだ。ただ9大ダンジョンが全て解放されてもダンジョン管理のための人手が足りない。10年前と比べれば世界人口は半分以上減ったからな。どこも人が足りていない。だが人口不足が解決したら…世界はすごいことになるぞ。まあ後半世紀は先だろうがな。」

「その頃にはあんた死んでるじゃない。そんな面白そうな世界を見られないなんてかわいそうね。」

「うるせぇよ。妖精は長生きだから良いよな…っと、連絡が入った。先に食べていてくれ。」

 スマホを見たミチナガはそう言うと何処かへと歩いて行った。リリーが後を追おうとするが、ミチナガの雰囲気を感じ取りその場にとどまった。そんなミチナガはレストランに無理を言って誰もいない無人の部屋を借りるとテレビ電話を開始した。

「連絡みたぞ。おめでとうナイト。」

「ああ。楽しかったぞ。」

『ムーン・これでついに全ての9大ダンジョン解放が完了しました。しばらくは地上で休養を取るのでご用の際には一報ください。』

「ありがとうムーン。早速で悪いが…今晩良いか?」

『ムーン・ええ、それはもちろん。最後の鍵を持って向かいますよ。それでは地上に戻りますので。』

 ナイトとの連絡が切れた。ダンジョン最終階層のモンスターと戦ったのだ。ナイトの消耗もかなりのものだろう。ムーンはナイトの体力回復のためにしばらくつきっきりだろう。だがそれでもこれで全てが揃った。

「ポチ、今晩だ。招集命令を出しておいてくれ。」

『ポチ・もう出しておいた。それにしても間に合ってよかったね。』

「ああ、これで何の問題も無くなった。」

 ミチナガはその場で目を閉じて呼吸を整える。かなり興奮していたのか気がつけば呼吸が荒くなっていた。そして何とか平常心を取り戻すとリリーたちの元へと戻って行った。




 そしてその日の晩、ミチナガは屋敷からこっそりと抜け出し世界樹の根元へと来ていた。かつてミチナガがここを訪れた時には世界樹は枯れ、根元のあたりから世界樹の若木が幾本も伸びていただけであった。

 それが今では元の枯れた世界樹にまとわりつくように新たな世界樹が天高くそびえ立っている。何と堂々たる姿の世界樹だが、世界樹に触れたミチナガはその幼さを再認識する。

 この世界樹はまだ形ばかりで中身が伴っていない。今後数百年以上かけてこの世界樹は成長していき、再び9つの世界を宿らせるのだろう。ただし、その前にこの世界はエラー物質の蔓延によって滅ぶ可能性が高い。

「さて…始めるか。ちゃんと揃っているか?」

『ポチ・問題ないよ。』

「よし。それじゃあ…出てこい。バベル。」

 ミチナガの言葉に呼応してスマホから一体の使い魔が出てくる。その使い魔の名はバベル。スマホの中にあるアプリ、バベルの塔の管理者だ。そして本来はスマホから出てこられない。今は特例措置だ。

「久しぶりだなバベル。」

『バベル・ええ、お久しぶりです。本当にお久しぶりですね!!せっかく人が考えた謎解きの塔であるバベルの問題の数々をあっという間に解いちゃったから、やることなくて暇で暇でしょうがなかったですよ!!何であんな簡単に解いちゃうんですか!』

「え~…すまん。だってあの手の謎解きゲームはやり慣れているからパターン読めるし。わからない知識も使い魔たちに聞けばわかるし。…ってそんなのは良いんだよ。用意できたぞ。」

『バベル・はいはいわかっていますよ。ですがまあ…管理者として最終確認させていただきます。それでは鍵の提示をお願いします。』

 するとスマホから6人の使い魔が出てくる。この使い魔たちが一同に会するのはなかなか珍しいことだ。何せこの使い魔たちは全員魔神たちに仕えている。

『ヒョウ・9大ダンジョン極寒のニヴルヘイム完全攻略者のヒョウです。』

『ウミ・9大ダンジョン深海のアトランティス完全攻略者のウミだよ~。』

『ケン・9大ダンジョン龍巣のヨルムンガンド完全攻略者、ケン。』

『白之拾壱・9大ダンジョン魍魎のヘルヘイム完全攻略者です。その…一応…』

『名無し#1・9大ダンジョン悪戯のアルヴヘイム完全攻略者です。申し訳ない。皆さんと違い眷属で。』

『ムーン・9大ダンジョン巨大のヨトゥンヘイム、人災のミズガルズ、煉獄のムスプルヘイム完全攻略者ムーン。』

「そして俺が9大ダンジョン神域のヴァルハラ完全攻略者のセキヤ・ミチナガだ。」

 ここに7人の9大ダンジョン完全攻略者が揃った。まあ正確にはダンジョン攻略した魔神たちに付き添っただけなのだが。しかし付き添っただけでも完全攻略者は完全攻略者だ。つまり正確には違うのかもしれないが、ミチナガは歴史上数人目の全ての9大ダンジョン完全攻略者と言える。

 バベルはそんな7人を一人一人しっかりと見て確かめる。そして拍手を始めた。

『バベル・おめでとうございます。ここに9つの鍵が揃いました。そしてさらに世界樹もある。まあ少しこの世界樹は力が足りませんが…そこはこちらの世界樹を頼りましょう。』

 バベルはスマホを指差す。足りない世界樹の力はスマホの世界樹で間に合わせるのだろう。しかしこれでバベルの必要としていた全てものは揃った。

『バベル・それではバベルの塔、最終階層の鍵を開きます。神々の試練…どうぞご堪能あれ。』

 バベルはそれだけ言うと再びスマホの中へと消えて行った。そしてスマホアプリ、バベルの塔の最終階層への扉が開く。
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