上 下
534 / 572

第515話 ブラント元国王

しおりを挟む
 翌朝、早い時間に起きたミチナガはゆっくりと風呂に入っている。昨日は疲れてそのまま寝てしまったが、それが返って良かったかもしれない。窓際に配置された風呂から周囲の景色を満喫できる。朝日に照らされた景色は格別だ。

「景色の良い風呂はやっぱり良いなぁ。海岸の温泉とか山の上の温泉とかも良いけど、空の上の温泉とかもあったら良いな。一層の事天空の温泉とかできないかな?」

『ポチ・高いところにあって開放感のある風呂ってこと?そうなると飛行機とかは違うんだろうから…気球とか?それ怖くない?』

「……それはちびるな。何事もほどほどが一番だな。今日はどうすっかなぁ…朝メシ食ったら……王様に会いに行くか。」

 街で観光するのも良いかと一瞬思ったが、それは叶わないだろう。何せミチナガはこの国ではカイの洗脳から人々を救った英雄だ。下手に街中を歩けば大勢の人々が群がることだろう。

 するとポチに一つの連絡が入った。その連絡の内容は驚くものであった。その内容をミチナガに伝えるとミチナガは一周回って呆れてしまった。そしてすぐに風呂を出ると着替えを始めた。

 そして着替え終わる頃、ミチナガたちの元へ来訪者があった。それはブラント国王その人であった。

「お久しぶりですブラント国王陛下。」

「よしてください。すでに隠居した身です。それに今や地位はミチナガ様、あなたの方がはるかに上ですから。」

「それでもかつての恩人を無下にはできませんよ。」

 こんな早朝だというのに元ブラント国王はミチナガに会うために大急ぎでここまでやってきた。すでに王としての地位を息子に譲り渡したからこそのフットワークだろう。

「とりあえず朝食でもどうですか?これからなので。」

「おお、それは良いですな。是非とも御一緒させていただきます。」

 かつて自分が頭を下げた相手が自分より下の地位にいるというのがなんとも言えぬ気持ち悪さを生んでいる。ただ朝食を共に食べ、少しずつ場が和やかになると言葉も少しずつ砕け始めた。

「しかしブラントさんが今や王位を退いて国のご意見番ですか。その上うちの商会の役員までやっているとは。」

「はっはっは。王としての務めで一生終えるつもりであったが、こういうのも実に面白い。王として国の大きな指標を決めるのも良いが、その指標に合わせ街を変えて行くというのはまた違った良さがある。あそことあそこのビルの建設には私が大きく携わっているのですよ。成果が目に見えてわかるというのは実に良い。」

「へぇ…しかし大きなビルばかり建てるのも良いですが、綺麗な街並みを作るのも大切ですよ。緑と噴水を組み込んだあそこなんてすごく綺麗じゃないですか。」

「おお、あそこも関わっていますよ。とはいえあの頃まだ王として関わっている段階でしたが。ちなみにあそこの中心地にはミチナガ様の巨大な銅像が建てられていますよ。」

「はい?ど、どういうことです??」

 なんとミチナガの知らぬところでミチナガの銅像が建てられていた。しかも大きさは10mを越すという。困惑するミチナガの横でクラウンは面白そうだと笑みを見せ、イシュディーンとメイドは素晴らしいと満面の笑みを見せている。

「どういうことも何もこの国ではミチナガ様は英雄。さらに英雄の国でも英雄と認められている。ならば銅像の1つや2つ建ててもおかしくはない。むしろ建てない方がおかしい。」

「1つや2つって…1つもいらないし2つなんて……」

「ものの例えです。正確な数は知りません。国として配置したのは6個、ミチナガ商会が店舗ごとに飾っていますし、一般店でも飾っているところはあります。」

「そんなにいっぱい……嘘でしょ………」

 2つもいらないと思っていたらすでに数十個以上銅像があるらしい。そんなのもうありがたみも何もないと思うのだが、ミチナガ像巡りなんていうイベントを定期的にやるほど人気らしい。ブラント国ではミチナガ商会商会長という肩書きよりも、英雄ミチナガとしての知名度の方が高いらしい。

「ミチナガ様がこの国を救った話など数万部のベストセラーです。劇にまでなっていますよ。最近フレイド出版から売り出されたミチナガ様の英雄譚も取り寄せ待ちが起こるほど売れています。」

「ちょっと待て!それは聞いていない!」

「そうなのですか?私はすでに手に入れましたが…」

「そんなものが売りに出されているなんて…イシュディーン、知っていたか?」

「もちろんです。すでに2冊は手に入れました。しかも初版本です!我が家の家宝にしていますよ。」

「ああ、俺も持ってるぞ。暇だったし全部読んだ。」

 メイドの方にも目をやると、もちろん持っていますと嬉しそうにしている。しかしミチナガは一切このことを知らなかった。最近本屋には行っていなかったし、それ以前に忙しくて暇がなかった。

 しかしミチナガが話していないのに一体どうやって書いたのか。どこからの情報源か。それは隣でパンを頬張っているこの白いのが知っているだろう。

「ポチ…お前か…」

『ポチ・正確には僕たちね。僕だってそんなに暇があるわけじゃないから。あ、一応内容は全て確認してあるよ。多少大げさに表現してあるところはあるけど、嘘はないよ。』

「……どこまで載ってるの?」

『ポチ・とりあえずシェイクス国でマクベス助けたところまで。その後の話は法国とか関わるし、なかなか内容が厄介だから。すごい人気だから印税もがっぽりだよ。』

 ミチナガは恥ずかしさで悶えている。そんな中イシュディーンは自分のことが描かれているのを誇りに思っているとうっすら涙目になっている。メイドは自分のことも書かれたいと思い、そして今の旅のことがもしかしたら話になるのではないかと気づき、慌てて身だしなみを確認し始めた。

「このブラント国のことも書かれているのでおかげで観光客が増えました。今後もよろしくお願いしますよ、英雄殿。」

「やめて…恥ずかしくて死んじゃう……あ、そういえば道中あそこの村に寄ってきたんですよ。殺虫剤を定期的に撒くための村。俺が助けたあの村です。廃村になっていましたけど……」

「ああ、あの村ですか。世界樹復活の影響で昆虫系モンスターが湧かなくなりましてね。殺虫剤を撒く必要がなくなったんです。それならルシュール領とブラント国を繋げる街道に村を作った方が便利だということになりまして、そちらに移動したんです。」

「ルシュール領と?私たちルシュール領からきましたけどそんな村なかったですけど…」

 なぜか話が噛み合わない。どういうことか理解するために地図を広げて確認するとルシュール領からブラント国までミチナガたちは最短距離で来たが、今ある街道は大回りする道のりなのだ。

 わざわざ大回りするなんて面倒だと思ったが、既存の村を宿場町として使うことも考えて作られた街道らしい。それに最短距離の街道を作るのには大きな問題がある。

「最短距離の街道を作るためにはこの辺りに村を作る必要があるのですが、この辺りに惑わしの森があるのですよ。森に慣れているものでも迷ってしまうということなので、村人が被害にあわぬようにわざと離してあるのです。まあ事実確認はしていませんが、村人が不安がるのではしょうがありません。」

「あ~~…そうですね。…正しい判断です。ちなみにあの村人たちは元気にしていますか?」

「ええ、新しい村を作るということで若い衆が張り切っているそうですよ。村がしっかりと完成したら前の村から遺骨を運ぶ予定らしいです。来年には完成予定なのですぐですな。」

「そうですか…良かった。忘れ去られたわけじゃないんだ。本当に良かった……」

 かつて助けた人々が楽しく暮らしている。それを聞けるだけで満足だ。ただ顔を見たかったという心残りはあるが、元気にやっているならそれで良い。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

【完】真実をお届け♪※彷徨うインベントリ※~ミラクルマスターは、真実を伝えたい~

桜 鴬
ファンタジー
スキル無限収納は、別名を亜空間収納といわれているわ。このスキルを所持する人間たちは、底無しとも言われる収納空間を利用出来るの。古の人間たちは誰もが大気中から体内へ無限に魔力を吸収巡回していた。それ故に誰もが亜空間を収納スペースとして利用していた。だけどそれが当たり前では無くなってしまった。それは人間の驕りからきたもの。 やがて………… 無限収納は無限では無く己の魔力量による限りのある収納となり、インベントリと呼ばれるようになった。さらには通常のスキルと同じく、誰もが使えるスキルでは無くなってしまった……。 主を亡くしたインベントリの中身は、継承の鍵と遺言により、血族にのみ継承ができる。しかし鍵を作るのは複雑て、なおかつ定期的な更新が必要。 だから…… 亜空間には主を失い、思いを託されたままの無数のインベントリが……あてもなく……永遠に……哀しくさ迷っている………… やがてその思いを引き寄せるスキルが誕生する。それがミラクルマスターである。 なーんちゃってちょっとカッコつけすぎちゃった。私はミラクルマスター。希少なスキル持ちの王子たちをサポートに、各地を巡回しながらお仕事してまーす!苺ケーキが大好物だよん。ちなみに成人してますから!おちびに見えるのは成長が遅れてるからよ。仕方ないの。子は親を選べないからね。あ!あのね。只今自称ヒロインさんとやらが出没中らしいの。私を名指しして、悪役令嬢だとわめいているそう。でも私は旅してるし、ミラクルマスターになるときに、王族の保護に入るから、貴族の身分は捨てるんだよね。どうせ私の親は処刑されるような罪人だったから構わない。でもその悪役令嬢の私は、ボンキュッボンのナイスバディらしい。自称ヒロインさんの言葉が本当なら、私はまだまだ成長する訳ですね!わーい。こら!頭撫でるな!叩くのもダメ!のびなくなっちゃうー!背はまだまだこれから伸びるんだってば! 【公開予定】 (Ⅰ)最後まで優しい人・㊤㊦ (Ⅱ)ごうつくばりじいさん・①~⑤ (Ⅲ)乙女ゲーム・ヒロインが!転生者編①~⑦ 短編(数話毎)読み切り方式。(Ⅰ)~(Ⅲ)以降は、不定期更新となります<(_ _*)>

異世界営生物語

田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。 ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。 目覚めた先の森から始まる異世界生活。 戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。 出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

チャリに乗ったデブスが勇者パーティの一員として召喚されましたが、捨てられました

鳴澤うた
ファンタジー
私、及川実里はざっくりと言うと、「勇者を助ける仲間の一人として異世界に呼ばれましたが、デブスが原因で捨てられて、しかも元の世界へ帰れません」な身の上になりました。 そこへ定食屋兼宿屋のウェスタンなおじさま拾っていただき、お手伝いをしながら帰れるその日を心待ちにして過ごしている日々です。 「国の危機を救ったら帰れる」というのですが、私を放りなげた勇者のやろー共は、なかなか討伐に行かないで城で遊んでいるようです。 ちょっと腰を据えてやつらと話し合う必要あるんじゃね? という「誰が勇者だ?」的な物語。

どーも、反逆のオッサンです

わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。

蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-

星井柚乃(旧名:星里有乃)
ファンタジー
 旧タイトル『美少女ハーレムRPGの勇者に異世界転生したけど俺、女アレルギーなんだよね。』『アースプラネットクロニクル』  高校生の結崎イクトは、人気スマホRPG『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』のハーレム勇者として異世界転生してしまう。だが、イクトは女アレルギーという呪われし体質だ。しかも、与えられたチートスキルは女にモテまくる『モテチート』だった。 * 挿絵も作者本人が描いております。 * 2019年12月15日、作品完結しました。ありがとうございました。2019年12月22日時点で完結後のシークレットストーリーも更新済みです。 * 2019年12月22日投稿の同シリーズ後日談短編『元ハーレム勇者のおっさんですがSSランクなのにギルドから追放されました〜運命はオレを美少女ハーレムから解放してくれないようです〜』が最終話後の話とも取れますが、双方独立作品になるようにしたいと思っています。興味のある方は、投稿済みのそちらの作品もご覧になってください。最終話の展開でこのシリーズはラストと捉えていただいてもいいですし、読者様の好みで判断していただだけるようにする予定です。  この作品は小説家になろうにも投稿しております。カクヨムには第一部のみ投稿済みです。

処理中です...