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第514話 再びのブラント国へ

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 出発してから数時間後、ミチナガは再び迷っていた。ただ今度のそれは予期していた迷いではない。本人としてもここで迷うとは思ってもいなかったらしい。

「多分この辺…あれ?違うかな…見えてもおかしくないんだけど……」

「何を探しているか知らないが、もしかしてあれか?」

 何かを必死に探しているミチナガへクラウンがそう告げた。そんなクラウンが指し示した方へ行くとそこは廃村の跡地であった。明らかに人の気配がない。

「ここ…なのかな?けど建物の跡っぽいのあるし……もしもそうだとするなら確かあっちの方に…」

 周辺を歩き回るミチナガ。するとそんなミチナガの視界に大きめの石が写り込んだ。そしてそれはミチナガが探していた物であった。その石とは墓標だ。

「やっぱりここなのか。初めてきた時はちゃんと村人居たんだけど…放棄して廃村になっちゃったか。まああのままだとマズそうだったからなぁ…」

「ここも思い出の地なのか?」

「ああ、まあ良い思い出じゃないけどな。この先の国で問題が起きていた時にきた村でかなりの餓死者が出ていたんだ。この墓の下には大勢が埋葬されている。埋葬には俺も手伝った。一度復興したって聞いたんだけど…多分例の戦争の時に放棄したんだろうな。」

 ここはかつてブラント国からの支援が届かず、大勢の餓死者を出した村だ。ミチナガがなんとかたどり着いたおかげで一部の人間は助かったのだが、どうやら今では完全に放棄されたらしい。

 今日はここで一晩過ごす予定であったのだが、こうなっては仕方ない。まだ太陽も沈んでいないので先を急いだ方が良いだろう。

 そんなミチナガたちの移動は日が沈み、周囲が真っ暗になっても続いた。これ以上夜遅くなるのであればその辺で野営しなければならないのだが、目的地まで後1時間以内につけるため無理やり進んでいる。

 すると森の切れ目からまばゆい光がチラチラと見え始めてきた。その光を見たミチナガはホッと一息ついた。どうやら目的の場所にたどり着いたらしい。

「お、おい…なんだあの光は…え?この世界ってここまで発展していたのか?」

「いやぁなんとかたどり着いたよ。すごいだろ。一応実験都市ということでミチナガ商会がかなり力を入れている国だ。国の名前はブラント国。元は農業が盛んな国だが…今じゃ世界有数の超近代国家だ。」

 森を抜けたその先にはまさに100万ドルの夜景と言えるようなきらびやかなビル群が立ち並んでいた。そこはまるで別世界であった。するとその別世界からいくつもの光がこちらへと向かってきた。

「そこの車両止まりなさい!こんな遅くに何用ですか!」

 ブラント国の警備車両に呼び止められるミチナガたち。するとミチナガたちの乗る魔動装甲車から旗が出てきた。その旗はミチナガ商会の旗印。さらにセキヤ国の旗印まで上がった。その旗印を見た警備車両は魔動装甲車の周囲を警護するように移動し始めた。

 そして検問所まで移動すると魔動装甲車を止め、話を早くつけるためにミチナガ自ら出てきた。そんなミチナガの姿を見た瞬間、その場にいた兵士たちが緊張するのが伝わってきた。

「申し訳ありません。まさかミチナガ様だとは思いもよらず…」

「久しぶりだねアクラ。本当は手前の村で一晩明かす予定だったんだけどね。しかし王の盾であるはずの君が衛兵に?」

「人手不足緩和の一環です。こちらで入国書に記載をお願いできますか?泊まるホテルの確保はできていますか?」

「大丈夫。ホテルはあいつらが用意してくれているから。書類は道中書き上げておいた。これで良いかい?」

「…はい、問題ありません。それではどうぞ。」

 さっと書類に目を通すとそのまま通行の許可が下りた。1分ほどの簡易的な手続きだが、これもミチナガの力あってのものだ。本来ならこの時間の入国は一切受け付けていない。

 そんなミチナガたちはすぐに魔動装甲車を走らせる。街では夜遅くだと言うのに多くの魔動車が走っている。他国ではまず見られない光景だ。そんなミチナガはブラント国で一番高いビルへとたどり着いた。

 そこはミチナガ商会が保有するビルだ。下層は商業施設になっているが、上層はホテルだ。そこのホテルの最上階を確保してある。すぐにホテルのロビーへ向かうとそこでは1体のエヴォルヴが待っていた。

『お疲れ様ですボス。』

「やあブラン。部屋の確保ありがとうね。それにしてもすごい発展具合だ。」

『ボスが好きにやらせてくれたおかげですよ。見てください。ここから見えるビル群の半分はブラント国の所有ですが、残りは全てうちの所有物です。』

 それを後ろで聞きギョッとするクラウン。ブラント国では数十もの高層ビルが立ち並んでいる。それの半分がミチナガのものと聞くと改めてその財力がよくわかる。

「ただ最近は人口不足で利用数減っているだろ。赤字になっていないか?」

『うちは税金免除されていますから。それに高層ビルは貴族たちも憧れのようでそこらへんのビルの上層階は全て貴族たちが借りています。何もしなくても毎月大金が入り込みますよ。』

「…改めてミチナガ商会すごいな……」

 スケールの違う話についクラウンの口から声が漏れてしまった。それを聞いたミチナガは笑みを見せる。そしてすぐに部屋へと移動する。部屋はこのビルの最上階。最上階2階分丸々使ったロイヤルルームである。

 その部屋からはブラント国の街が全て見下ろせる。さらに見上げれば満天の星空も全て自分のもののように思える。その圧巻の光景にはミチナガ以外全員が感動している。

「すごいな…これは圧巻だ…これがミチナガ商会の力…」

「ミチナガ商会っていうよりもここは4人の使い魔たちの影響だな。このブラント国はこの4人の使い魔が動かしていると言っても過言じゃない。本当によくやってくれたよ。」

『お褒めに預かり光栄です。』

「国を動かすか…その親玉がミチナガ、お前ってことなんだろ?お前はこの景色堪能しないのか?」

「え?別にいいよ。高いのそんな好きじゃないし。俺は田舎の古民家とかの方が好きだ。」

 妙にあっさりとしているミチナガ。どうやらミチナガとしては景色よりも食い気の方の優先度が高いらしい。まあこんな夜更けまで夕食を食べていなければ腹も減るだろう。するとミチナガはお湯とカップラーメンを用意し始めた。

「たまに食いたくなるんだよなぁ…まだ価格抑えられないから一般普及は難しいけど、出来はなかなかなものだぞ。何味が良い?」

「…味噌。」

 こんな高級なホテルに泊まったというのに食事はカップラーメン。なんとも不釣り合いな食事だが、カップラーメンにお湯が注がれるのを見て思わず喉が鳴ってしまう。

「国によって物価が変わるから場所によっては結構売れているんだけどね。辺鄙な村とかだとカップラーメンが高級品になったりするからそこの調整が難しいんだよ。あと味にこだわりすぎた。シェフが生麺みたいな美味しさを追求しているんだけど、俺としてはチープな麺とか好きなんだよなぁ…」

「あ~わかるわ。あれは別扱いしてほしいよな。どっちもうまいけど、チープな感じを求めるときあるよなぁ。」

「ミチナガ様…その……」

「ああ、イシュディーンはこれだけじゃ足らないよな。…俺も少し米食いたいしおにぎりでも用意するか。…唐揚げとか食いたい。」

「うわ!こんな遅くにそれは危険じゃないか?メイドさんだっているんだぞ。女性にこの時間の高カロリーは…」

「甘い炭酸も欲しいです。」

「うわ…ノリノリだった……」

「それ以上に動くから問題ないよ。…まあ栄養面も考えてサラダも出しておこうか。」
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