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第511話 懐かしき再会

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 弁当を売り終わり、少し客足が引いたところでミチナガは再びミチナガ商会を訪れた。そしてティッチの待つ奥の応接間へと入る。そこでは緊張気味のティッチがあたふたしていた。

「急にごめんね。久しぶり。元気だった?」

「お、お久しぶりです!元気です!」

 ぎこちない表情を浮かべているが確かに元気なようだ。それを知ったミチナガは満足そうな笑みを浮かべる。ただティッチしかいないというのが少し寂しい。なぜならミチナガが雇った時には三人の看板娘がいたからだ。

「元気で何よりだ。他の二人は元気にしているのかな?メリリドさんとローナさんは。」

「メリリドさんはダンジョン復活という情報を聞いて旦那さんのパーティーと一緒に巨大のヨトゥンヘイムに移住したと聞いています。ローナさんは旦那さんと一緒に他国のミチナガ商会の立ち上げに行きました。順調らしいですよ。」

「そうか…バラバラになったけどみんな元気なのか。よかったよかった…」

 より詳しい話はポチの方がよく知っている。メリリドは巨大のヨトゥンヘイムにあるミチナガ商会の従業員と冒険者の二足の草鞋を履いている。あの時生まれたばかりの子供も今では成長し、ナイトの寄付により建設された学校に通っている。

 メリリドとしては冒険者に専念したいのだろうが、子供が成人するまでは子育てにも力を入れたいらしい。冒険者個人としての実力は魔王クラスに届いていないが、パーティーと連携することでなかなかの成果を出しているようだ。

 ローナはあの十本指との戦争前に結婚したらしい。お相手はギールだ。結婚適齢期になったローナが多くの人に求婚されるのを見て、焦って猛アピールしたらしい。

 現在では子宝にも恵まれ、他国に優秀な人材を送りたいと考えた使い魔たちに誘われ、他国でのミチナガ商会の立ち上げの中心人物として参加。かなりの成果を上げ、貴族並みの贅沢な暮らしをしているらしい。

「ティッチは良い人いないのか?仕事が忙しくてそれどころじゃない?」

「た、確かに仕事が忙しくてそれどころじゃない時期もありました。メリリドさんもローナさんもいなくなって大変でしたから。けど最近…その…良い人が見つかりまして……」

「あれ、それは良かった。…仕事が忙しすぎたら少しカバーできるようにするよ。仕事も大切だけど、自分のことも大切だからね。」

「ありがとうございます。」

 どうやらティッチも順調らしい。それにしてもあの戦争で何らかの被害が出るかと思われたが、このルシュール領はこれといった被害は受けていないようだ。皆息災で何よりだ。

「ミチナガ様こそすごいですよね。その偉業の数は並の英雄では足元にも及ばないほどですから。しかし今日はなぜこちらに?」

「休暇でね。長いこと働きっぱなしだったから羽を伸ばしたくて。どこか南国の島でゆっくりとも考えたけど、こうしてまとまった休暇が取れたから思い出の地を巡ろうと思ってね。ルシュールさんはどうしているか知ってる?」

「一時期は忙しそうでしたけど、今は以前と変わらず…だと思います。定期的に伺おうとは思っているのですが、忙しくて…」

「特に変わりないのなら何よりだよ。ああ、明日伺おうと思っているから使いの人出しておいてくれる?時間は向こうに合わせるから。」

「わかりました。すぐに人を向かわせます。」

 知れた仲とはいえルシュールは貴族であり領主だ。いきなり会いにきましたというのは失礼だろう。どうせミチナガはもう数日ここにいる予定なので余裕はある。

「それじゃあそろそろ行くかな。あまり時間を取らせるのも悪いだろうし。ああ、ホテルとかとっといてくれる?」

「わかりました。…夕食のご予定はありますか?」

「特にないかな。」

「それでは夕食をご一緒させていただけませんか?まだお話ししたいこともありますし…あれからミチナガ様がどのような旅をしたかも知りたいです!」

「いいね。それは楽しそうだ。例のキノコ工場を視察してまったりするつもりだから時間はそっちに合わせるよ。」




 翌日の昼前、ミチナガは頭に手を当てながら歩いていた。昨日久しぶりに気兼ねなく楽しい夕食を取ることができたのだが、これまでの鬱憤が溜まっていたのか少し飲みすぎてしまった。飲みすぎたことを少し後悔しながらも、やはり食事はああやって楽しく取るのが一番だとも思っている。

 そんなミチナガは昨日のうちに約束を取り付けておいたルシュールの元へと向かっている。昼食の席を一緒することとなっているのだが、この二日酔い状態ではまともな会話も食事もできそうにない。

 ただ少し前に原料に世界樹の一部を用いた薬を服薬したので、あと数十分ほど経過すればこの辛さも完全に抜け切るはずだ。ぶらぶらまったり歩きながらルシュールの待つ城へと向かったが予定よりも少し早めに着いた。

「相変わらずここの城は面白いよなぁ。」

「奇妙な魔力の流れですね。気配が掴み辛い。複数の撹乱魔法を常時展開させているのですか。」

 見た目だけしか見ていないミチナガに対し、イシュディーンは内包されているいくつかの魔法に関心を寄せている。まあミチナガは魔力を感知できない。それに一般人でも樹木を城に変形させた城という見た目しか見ないだろう。

 そして少し早めに着いてしまったミチナガは応接室でルシュールの仕事が終わるのを少し待つことになった。ただ待つ間もやはり内装が気になる。足元まで生きた木で作られているというのは長年旅をしたミチナガでもあまり見たことがない。

「木を成長させれば新しい部屋もすぐ作れるのが魅力的だよなぁ…今度うちの国にも造らない?」

『ポチ・ドルイドもいるしできないことはないけど、建設業界が泣くよ。作りがいがないもの。』

「それは確かに。……別荘とか管理の面倒そうなところはどう?生きた木だから劣化とかないでしょ。」

「そういうことなら苗木を差し上げますよ。」

 突如した声に驚いて振り返るミチナガ。そこにはルシュール辺境伯の姿があった。懐かしのルシュールに喜ぶミチナガ。そんなミチナガの横でイシュディーンはルシュールを観察している。

「本当にお久しぶりです。あの頃は大変お世話になりました。」

「いえ、こちらもおかげで随分と儲けさせてもらいました。生活水準も上がってだいぶ豊かになりましたよ。それにしても…あの時の少年が今や世界一の商人ですか。」

「あはは…あの頃ももう少年って歳じゃないですけどね。…本当にお変わりないですね。いやマジで本当に何も変わってない…」

 長命種のエルフであるイシュディーンにとって10年や20年程度の歳月は誤差のようなものだ。それに魔帝クラスの上位に位置するイシュディーンは細胞が魔力で活性化しているため、他のエルフと比べても長命だ。

 そんなミチナガの言葉に笑顔を見せるルシュール。だがその視線はイシュディーンに向けられている。ルシュールとイシュディーン。どちらも魔帝クラスの実力者だ。

 それにどちらも個人の実力よりも軍を率いた戦いに向いている。似た性質の力を持つ両者はお互いが気になるのだろう。

「…この土地の領主、白幻のルシュールです。貴族位は辺境伯を賜っています。」

「セキヤ国騎士団総長、砂防のイシュディーン。今はミチナガ様の護衛に着いている。」

「なるほど、これほどの実力者がいるのであれば何の心配もいりませんね。」

「頼りになるやつですよ。人徳もありますし。周辺国にはイシュディーンがいるだけで睨みが効きます。」

 ミチナガがそう褒めるとイシュディーンは嬉しいのか僅かに体を震わせている。それを見たルシュールも良い関係を築けているのだと知り笑みを見せる。

「さて、少し早いですが食事をしながら話でもしましょう。こちらへどうぞ。」

 ルシュールは食事の会場へと案内する。ミチナガとしても薬が効いてきたおかげで二日酔いが治まり、空腹感を感じてきた頃合いだ。これから楽しい食事会が始まる。
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