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第448話 ミチナガがいないために

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「30年って…この世界での30年換算なら地球だと40年以上だぞ。外に出る頃には俺ジジイじゃんか。……下手したら死んでるかも。」

「あ~…転移系はそうなのか。考えたことなかった。」

「え?お前らは違うの?」

「俺たちは転生だ。身体の作りも違うし魔力もあるから寿命はこっちの人間と同じだ。まあ俺だって30年経ったらかなりの年だぞ。還暦だ。」

 ダンジョン攻略には30年かかるというのであれば安全に攻略できたとしても寿命という命の危険がある。ただ外の1日がこのダンジョンの中では1年というのはありがたい。早く攻略できれば外では大した問題にはならないだろう。

「ただ気をつけろよ?ダンジョンが全盛期の頃が1日が1年だ。今のこの状況だとかなり話は変わってくる。もしかしたらそんな制約なくなっている頃かもしれないぞ。」

「それを先に言え…まあそれでもやることは変わりないのか。じゃあポチ、全員に声をかけて金貨の回収急がせてくれ。」

『ポチ・う、うん。みんなどんどん行って。』

 スマホから使い魔達が溢れ出てダンジョンを埋め尽くす貨幣を回収する。ダンジョンの規模がどの程度かまだわからないが、モンスターの危険もないのであればかなり早く攻略できるかもしれない。

「さて…それじゃあダンジョンが攻略できるまでの間…お前には洗いざらい吐いてもらおうか。十本指のこと、そしてお前たちの野望について。悪いが馴れ合いは無しだ。時間はたっぷりある。」

「残念だが俺は軽そうに見えるが仲間のことを話すつもりはない。やれるものならやってみな。」

 クラウンとミチナガの間に火花が散る。険悪なムードだ。これから数百日間クラウンとミチナガは生活を共にすることになる。この様子を見たポチは息を飲んだ。ダンジョン脱出するまでに殺し合いが起きないかそれだけが心配だ。



 ———3日後。
「おーいクラウン。飯にしようぜ。」

「はいよミッちゃん。いやぁ…それにしても広いな。今日はどうする?」

「映画でも見ようぜ。ミチナガ商会渾身の力作だ。」

「お!いいねぇ。そういやベビーのやつも映画見たがってたな。ベビーの野郎身体強化系の能力もちなんだけど、ちまちました作業好きだし涙もろいしで面白いやつなんだよ。前にこっちの世界の演劇見たときにはボロボロ泣いて最後にゃスタンディングオベーションまでしてたぜ。」

「面白いやつだな。じゃあうちのVMT作品見せたら面白い反応するかもな。いくつかあるから良さげなのみ作ろうか。そんで思いっきり泣かせよう。」

『ポチ・馴れ合ってるし、情報喋るし、もう仲良しじゃん。』




 一方ミチナガがクラウンによって連れ去られてから少し時間が経った頃、アレクリアルの元で待機している使い魔のユウが緊急の用件だと言ってアレクリアルと二人きりになっていた。まだこの時、ミチナガの誘拐は誰にも知らされていなかった。

「クラウンによってミチナガが連れ去られただと!ミチナガは無事なのか!」

『ユウ・わかりません。ボスが連れ去られた時から通信が途絶えました。こちらもしばらくは調査をしていましたが、これ以上はわからないと判断して伝えに来ました。』

「くっ…残念だがミチナガの捜索はできない。この状況下でそこまでの余裕は…」

『ユウ・ですがボスがいないと支援ができません。今僕たちは全員スマホとの連絡が遮断されています。スマホと繋がることができないと食料、武器などの物資が提供できません。それに…僕たち同士の繋がりも弱くなっています。情報共有も今後できなくなる可能性があります。』

 使い魔達はスマホと繋がることで能力を発揮する。しかしそのスマホと繋がることができなくなってしまった今、あらゆる面で脆くなっている。アレクリアルもそれを聞いて事態の深刻さを理解した。

「もしもこのままミチナガがいなくなれば…物資の枯渇が起きる。籠城戦もできなくなるということか。今お前達ができることはなんだ。」

『ユウ・僕たちは使い魔同士で繋がることができます。ですがそれは僕たち一人につき半径数キロ程度です。今は魔力を使ってその範囲を無理やり広げていますが、それも長く持ちません。ただ繋がっている間は繋がっている使い魔同士の情報の共有と物資の移動ができます。ただ物資の移動は戦略として用いることができるレベルじゃありません。1時間で100人分の食料を移動できるかどうか…それにあくまで他の場所の物資を移動できるだけです。』

「多少自体が良くなる程度か。各地の食料の全量はわかるか?」

『ユウ・わかりません。そういった情報を全てまとめているのはマザーです。マザーがいないと情報の精査や整理をすることができません。あともう一つ、僕たちは前線から引きます。』

「それは構わないがなぜだ?」

『ユウ・僕たちが復活できるのはスマホの中でです。スマホがない限り復活することができません。僕たちが欠ければ情報共有ができなくなります。今は一人たりとも欠けることができません。』

「そうか…では定期的に使いの者を出す。彼らに情報を伝えてくれ。」

『ユウ・わかりました。ですが魔力問題もあって次に通信できるのは4時間後です。それから物資輸送も考えるのなら8時間は待ってください。』

 スマホがないことで使い魔達に様々な制約ができてしまった。正直使い勝手はかなり悪いが、超長距離での情報共有が可能なため、まだ不要という判断はくだらない。

 しかしこの使い魔達の情報共有には弱点がある。それは使い魔一人一人が中継拠点となることだ。もしも間の一人がいなくなればその瞬間通信は断絶される。いくら死んでも問題なかった使い魔達が、絶対に死ねない立場に立たされ、これまで経験してこなかった不安に包まれている。

 そしてこの事実は一部の権力者の間でだけ共有された。多くに広めて混乱を起こす必要はない。あくまで使い魔達の身の安全さえ保障できれば良いのだ。そんな中、一番困ったのはナイトの下にいるムーンである。

 ナイトとともにいるというのは非常に危険を伴う。さらにナイトは未だダンジョン内にいるため外の使い魔達と連絡が繋がらない。ムーンだけ他の使い魔と情報の共有ができずに孤立しているのだ。

 わかるのはスマホとの繋がりが消えたことだけ。かなりまずい事態になっていることだけがわかる。そしてその事態はナイトの動きを遅くした。ナイトの何気ない素早い動きがムーンに負荷を与え、死に至る可能性も十分ある。

 さらにナイトがいる9大ダンジョンの一つ、人災のミズガルズは世界樹の薬を用いて攻略していたダンジョンだ。スマホとの繋がりが消えれば世界樹との繋がりも消える。今あるのは世界樹製のポーションが10個だけだ。これが無くなるまでにこのダンジョンから脱出しなくてはならない。

『ムーン・ちなみにあとどのくらいかかるかわかる?スマホと繋がり消えたからマップが使えない。道のりはある程度しか覚えてないよ。』

「…本来ならあと3日で出られる。しかし……1週間で考えた方が良いだろう。」

『ムーン・そうなるとポーション保たないよ。普通に呼吸するだけでも疫病に感染するような所なんだから。1日1本…は最低限飲まないと。場合によっては2本飲む必要あるよ。それにダンジョン脱出後に1本飲まないと疫病を外に持ち出しちゃう。僕は一回半量で持つけど、ナイトよりも魔力が低いから感染しやすい。朝晩半量ずつ飲む必要がある。』

「多少無理してでも早く行く必要があるか。」

『ムーン・最悪の場合は僕を見捨ててね。多分…スマホから復活できるだろうし。』

「確証はないのだろう?復活地点がない場合、そのまま消滅する可能性も高いはずだ。俺はお前を見捨てたりしないぞ。」

『ムーン・僕は僕で親友の足を引っ張りたくないんだけどね。あと可能性があるとすれば…ダンジョンアイテム。うまく解毒系のアイテムが見つかれば良いんだけど、まあそれを鑑定することができないんだけどね。普通に脱出するのが一番だろうね。』

「では急ごう。しっかり捕まっておいてくれ。…危ない時はすぐに言ってくれ。」

 ナイトは慎重に走り出す。周囲を警戒しながら最大限集中し、ムーンを守る。ただここは9大ダンジョン。ナイトほどの強者でもムーンを守りながら、制限時間まである状態でこのダンジョンを脱出するのは厳しい。
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