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第434話 メリアと女王
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「…これだと少し発色が悪いわね。もう少し加えましょうか。」
目の前のガラス瓶の中へほんの一滴薬品を入れる。それにより起こるわずかな色の変化をみたメリアは満足げに頷く。ここはとある国の空き家だ。今はメリアが調合を行うために借りている。
そんなメリアはいくつかの薬品を目の前にしてホッとしたため息をついて、それらをアタッシュケースの中にしまうと部屋を出る。部屋の外ではチームメリアと呼ばれるブランドMELIAの精鋭たちが各々作業にあたっている。
「みんな順調?」
「はい!予定通り明日の謁見までには終わる予定です!」
「こちらも問題ありません。ですが一応確認だけお願いします。」
「わかったわ。………今の所完璧な仕上がりよ。その調子でお願い。」
「ありがとうございます!」
メリアに褒めてもらい嬉しそうな表情を浮かべる従業員の一人はそのまま残りの作業に取り掛かる。その後もメリアは他の進捗状況を見ながらわずかな口出しだけをしたのちに休息をとった。
メリアが今いるのは英雄の国から随分離れた南方にある国。英雄の国との間には9大ダンジョン巨大のヨトゥンヘイムがある。むしろ英雄の国より氷国の方が近いのではないかと言われるほどの場所に位置する国だ。
そしてそんな場所にもメリアの名は広まっている。ただこの辺りに名前は広まっても、ミチナガ商会の勢力外である。あまりにも辺境の地であるため交易なども盛んではないのだ。
そしてそんな辺境の地であるこの一帯を治め、仕切っているのがメリアが今いる王国だ。辺境とはいっても文化の発展していない野蛮な国ということではない。むしろ氷国の影響が強いのか芸術や街並の美しさで言えば英雄の国より優っているかもしれない。
そんなこの国はかつて絶対なる女王が君臨しており、国王よりもはるかに女王の方が権力を握っていた。しかしここ最近ではその女王は公の場には出ていない。今はその女王の息子が国を運営している。だがそれでも今尚国民の中ではその女王は絶対なる王だ。
そしてメリアはそんな女王から秘密裏に依頼され、こうして空き家を使って化粧品の調合と衣服の裁縫を行っている。今回はかなり大きな仕事だ。なんせもう巨大のヨトゥンヘイムは解放された。
つまりこの辺境の地と呼ばれた王国と英雄の国の間を遮るものはないのだ。むしろ巨大のヨトゥンヘイムは今後ミチナガの統治の下、発展していく。ミチナガの治める国とこの辺境の王国は隣国の関係になるのだ。
ここでメリアによって友好関係が築ければミチナガにとって大きなプラスになる。そして逆にメリアによって関係が悪化すればミチナガにとって大きな痛手だ。故に失敗できない。そしてメリアたちは緊張の中、昼前に王城へ向かった。
この王城は女王によって改築されているということでその女王の色が出ている。男ならば力強い城にしたことだろう。しかしこの城は女性らしさがふんだんに出ている。世界でも類に見ないような城だろう。なんとも細やかな装飾が施されている美しい城だ。
そんなメリアたちは城の中でも離れた場所にある塔へと向かう。ここがかつて絶対なる女王が住んでいる場所だ。しかし先程までの綺麗な装飾をされた城と同じ場所なのにどこか雰囲気が違う。それになぜか妙に薄暗い。
そしてその薄暗さは塔を登っていくにつれてさらい増していく。灯を持たなければ塔を登る階段を歩くことも難しい。そしてそんな階段を登った先の重い扉の先にかつての女王がいた。
「女王陛下、メリア様たちが来られました。」
「ありがとう。よく来てくれましたね。さあこちらへ。」
「失礼いたします女王陛下。」
メリアは歩みを進める。そしてベッドの上で上半身をあげた女王の前まで近づく。薄暗い部屋の中で女王は顔を布で隠したままメリアを待っていた。肌が一切見えないように徹底的に衣服で隠している。
なぜここまで衣服で肌を隠すか、なぜこんなにも薄暗い部屋なのか、なぜここにメリアを呼んだのか。それはたった一つの問題からだ。
この女王が女王として公の場で政治を取り仕切っていたのはもう数十年前になる。かつては絶世の美女として男だけでなく、女までも魅了した。誰もが女王の美しさの前に全ての異論をいうことをやめた。この女王は美しさだけで王として全てを取り仕切っていたのだ。
しかしその美しさもかつてのこと。女王の美しさに影が差したのは女王の夫である国王が亡くなってからだ。その国王は女王のおまけ、運の良い男としてしか評価されていなかった。むしろこの女王ならば他にも良い男はいっぱいいるだろうと言われた。
しかし女王はこの冴えない国王を愛していた。そしてそんな国王が亡くなったことによるショックによりしばらくの間寝込んでしまった。そしてその時気がついてしまったのだ。年齢による自身の美貌の衰えに。
この女王の心を支えて来たのは国王とその美貌だ。そのどちらも失われ始めたと知った時、もうかつての女王はいなかった。自身の全権を息子に委ね、自分はせめてかつての美貌だけでも取り戻そうと誓った。
しかしどんなに願っても、どんなことをしてもかつての美貌を取り戻すことはない。むしろ年々増えていくシワや皮膚のたるみに恐怖した。もうかつての自分はいない、もうかつての自分に戻ることはできない。そのショックがさらに老化を悪化させた。
そして今では自分の老いから目を逸らすために肌を隠し、鏡のようなものは一切なくし、部屋を暗くしてしまった。もう全てから逃れようとした。しかしちまたで美の女王と呼ばれ始めたメリアの存在を知り、わずかな希望にかけた。
メリアは秘密裏に国に呼ばれ、10日前ほどに女王と謁見を行いこうして今日、この女王のためだけに化粧品と衣装を作成して来た。正直10日ほどでできることではない。本来ならばもっと時間をかけて行うべきだ。しかしそれでもメリアは今日までに準備を終わらせてみせた。
「それでは女王陛下、これより施術と化粧を行なっていきます。衣服を全て脱いで横になってください。」
「………わかりました。メリア、あなたに全てを賭けます。」
女王はしばらくのためらいの後にメリアの指示を受け入れた。衣服を全て脱いでいく女王は衣服を脱ぐにつれてわかる自身の老いに絶望する。それでも全ての衣服を脱ぎ、ベッドの上にうつ伏せになった。
メリアはその女王の裸体を見てわずかに顔をしかめる。女王は長い間日にも当たらず、不摂生な暮らしを続けて来た。それが髪の毛にも肌にも顕著に表れている。
髪の毛は栄養不足と不摂生により毛羽立ち、触れるだけで軋む音を立てている。肌も似たようなもので触れるとまるで砂のようにガサガサしている。まるで浮浪児のようだ。
「陛下、まずはポーションを使い肌荒れから治していきます。それから他にも様々な施術を行いますので時間がかかると思います。眠くなったら寝てしまって構いません。」
「なんでも良いわ。好きにしてちょうだい。」
メリアは女王の許可を得るとすぐに自身のチームに指示を出す。まずは光を取り入れるためにカーテンを開き、窓を開ける。窓さえ開ければここは塔の天辺だ。あかりは十分なほど入ってくる。それに淀んだ空気もあっという間に換気できた。
そこからようやく施術が始まる。相手はこの国の女王。金は十分にあるため使用する薬品も金に糸目はつけない。ミチナガ商会で一番の世界樹製のポーションを湯水のように使用する。これさえ使えば肌荒れ程度はあっという間に治る。
ただ栄養不足や体の中に老廃物が溜まっている。体の内側のケアもしっかりとしなければならない。世界樹の薬効が加わった特別な点滴で体内の栄養バランスを整え、マッサージを行い体の老廃物を押し出す。
その後も様々な施術が行われる。健康体を取り戻す頃には夜は老け、朝日がのぼり始めていた。しかしこれだけ行えば体は見違えるように綺麗になった。髪はかつてのような美しく絹のような滑らかさを取り戻した。皮膚も滑らかでツヤのあるしっとりとしたものに変わった。
だが老化だけはどうしようもない。張りのあるシワのない肉体というのは取り戻すことはできない。いや、一応皮下注射をして肌のハリを取り戻そうという案もあり、実際準備もしておいた。しかし直前になりメリアがそれをやめたのだ。
「女王陛下…あなたはかつての美貌を取り戻したいと言いました。しかし過去は過去です。過去に戻ることはできない。けれどあなたは今が最も美しい。それがわかるように私たちは魔法にかけるだけです。」
女王は眠ったままだ。そんな女王に対し、メリアはようやく本番だと言わんばかりに準備に取り掛かる。これからメリアの本領発揮だ。これよりメリアの化粧という魔法が女王にかけられる。
目の前のガラス瓶の中へほんの一滴薬品を入れる。それにより起こるわずかな色の変化をみたメリアは満足げに頷く。ここはとある国の空き家だ。今はメリアが調合を行うために借りている。
そんなメリアはいくつかの薬品を目の前にしてホッとしたため息をついて、それらをアタッシュケースの中にしまうと部屋を出る。部屋の外ではチームメリアと呼ばれるブランドMELIAの精鋭たちが各々作業にあたっている。
「みんな順調?」
「はい!予定通り明日の謁見までには終わる予定です!」
「こちらも問題ありません。ですが一応確認だけお願いします。」
「わかったわ。………今の所完璧な仕上がりよ。その調子でお願い。」
「ありがとうございます!」
メリアに褒めてもらい嬉しそうな表情を浮かべる従業員の一人はそのまま残りの作業に取り掛かる。その後もメリアは他の進捗状況を見ながらわずかな口出しだけをしたのちに休息をとった。
メリアが今いるのは英雄の国から随分離れた南方にある国。英雄の国との間には9大ダンジョン巨大のヨトゥンヘイムがある。むしろ英雄の国より氷国の方が近いのではないかと言われるほどの場所に位置する国だ。
そしてそんな場所にもメリアの名は広まっている。ただこの辺りに名前は広まっても、ミチナガ商会の勢力外である。あまりにも辺境の地であるため交易なども盛んではないのだ。
そしてそんな辺境の地であるこの一帯を治め、仕切っているのがメリアが今いる王国だ。辺境とはいっても文化の発展していない野蛮な国ということではない。むしろ氷国の影響が強いのか芸術や街並の美しさで言えば英雄の国より優っているかもしれない。
そんなこの国はかつて絶対なる女王が君臨しており、国王よりもはるかに女王の方が権力を握っていた。しかしここ最近ではその女王は公の場には出ていない。今はその女王の息子が国を運営している。だがそれでも今尚国民の中ではその女王は絶対なる王だ。
そしてメリアはそんな女王から秘密裏に依頼され、こうして空き家を使って化粧品の調合と衣服の裁縫を行っている。今回はかなり大きな仕事だ。なんせもう巨大のヨトゥンヘイムは解放された。
つまりこの辺境の地と呼ばれた王国と英雄の国の間を遮るものはないのだ。むしろ巨大のヨトゥンヘイムは今後ミチナガの統治の下、発展していく。ミチナガの治める国とこの辺境の王国は隣国の関係になるのだ。
ここでメリアによって友好関係が築ければミチナガにとって大きなプラスになる。そして逆にメリアによって関係が悪化すればミチナガにとって大きな痛手だ。故に失敗できない。そしてメリアたちは緊張の中、昼前に王城へ向かった。
この王城は女王によって改築されているということでその女王の色が出ている。男ならば力強い城にしたことだろう。しかしこの城は女性らしさがふんだんに出ている。世界でも類に見ないような城だろう。なんとも細やかな装飾が施されている美しい城だ。
そんなメリアたちは城の中でも離れた場所にある塔へと向かう。ここがかつて絶対なる女王が住んでいる場所だ。しかし先程までの綺麗な装飾をされた城と同じ場所なのにどこか雰囲気が違う。それになぜか妙に薄暗い。
そしてその薄暗さは塔を登っていくにつれてさらい増していく。灯を持たなければ塔を登る階段を歩くことも難しい。そしてそんな階段を登った先の重い扉の先にかつての女王がいた。
「女王陛下、メリア様たちが来られました。」
「ありがとう。よく来てくれましたね。さあこちらへ。」
「失礼いたします女王陛下。」
メリアは歩みを進める。そしてベッドの上で上半身をあげた女王の前まで近づく。薄暗い部屋の中で女王は顔を布で隠したままメリアを待っていた。肌が一切見えないように徹底的に衣服で隠している。
なぜここまで衣服で肌を隠すか、なぜこんなにも薄暗い部屋なのか、なぜここにメリアを呼んだのか。それはたった一つの問題からだ。
この女王が女王として公の場で政治を取り仕切っていたのはもう数十年前になる。かつては絶世の美女として男だけでなく、女までも魅了した。誰もが女王の美しさの前に全ての異論をいうことをやめた。この女王は美しさだけで王として全てを取り仕切っていたのだ。
しかしその美しさもかつてのこと。女王の美しさに影が差したのは女王の夫である国王が亡くなってからだ。その国王は女王のおまけ、運の良い男としてしか評価されていなかった。むしろこの女王ならば他にも良い男はいっぱいいるだろうと言われた。
しかし女王はこの冴えない国王を愛していた。そしてそんな国王が亡くなったことによるショックによりしばらくの間寝込んでしまった。そしてその時気がついてしまったのだ。年齢による自身の美貌の衰えに。
この女王の心を支えて来たのは国王とその美貌だ。そのどちらも失われ始めたと知った時、もうかつての女王はいなかった。自身の全権を息子に委ね、自分はせめてかつての美貌だけでも取り戻そうと誓った。
しかしどんなに願っても、どんなことをしてもかつての美貌を取り戻すことはない。むしろ年々増えていくシワや皮膚のたるみに恐怖した。もうかつての自分はいない、もうかつての自分に戻ることはできない。そのショックがさらに老化を悪化させた。
そして今では自分の老いから目を逸らすために肌を隠し、鏡のようなものは一切なくし、部屋を暗くしてしまった。もう全てから逃れようとした。しかしちまたで美の女王と呼ばれ始めたメリアの存在を知り、わずかな希望にかけた。
メリアは秘密裏に国に呼ばれ、10日前ほどに女王と謁見を行いこうして今日、この女王のためだけに化粧品と衣装を作成して来た。正直10日ほどでできることではない。本来ならばもっと時間をかけて行うべきだ。しかしそれでもメリアは今日までに準備を終わらせてみせた。
「それでは女王陛下、これより施術と化粧を行なっていきます。衣服を全て脱いで横になってください。」
「………わかりました。メリア、あなたに全てを賭けます。」
女王はしばらくのためらいの後にメリアの指示を受け入れた。衣服を全て脱いでいく女王は衣服を脱ぐにつれてわかる自身の老いに絶望する。それでも全ての衣服を脱ぎ、ベッドの上にうつ伏せになった。
メリアはその女王の裸体を見てわずかに顔をしかめる。女王は長い間日にも当たらず、不摂生な暮らしを続けて来た。それが髪の毛にも肌にも顕著に表れている。
髪の毛は栄養不足と不摂生により毛羽立ち、触れるだけで軋む音を立てている。肌も似たようなもので触れるとまるで砂のようにガサガサしている。まるで浮浪児のようだ。
「陛下、まずはポーションを使い肌荒れから治していきます。それから他にも様々な施術を行いますので時間がかかると思います。眠くなったら寝てしまって構いません。」
「なんでも良いわ。好きにしてちょうだい。」
メリアは女王の許可を得るとすぐに自身のチームに指示を出す。まずは光を取り入れるためにカーテンを開き、窓を開ける。窓さえ開ければここは塔の天辺だ。あかりは十分なほど入ってくる。それに淀んだ空気もあっという間に換気できた。
そこからようやく施術が始まる。相手はこの国の女王。金は十分にあるため使用する薬品も金に糸目はつけない。ミチナガ商会で一番の世界樹製のポーションを湯水のように使用する。これさえ使えば肌荒れ程度はあっという間に治る。
ただ栄養不足や体の中に老廃物が溜まっている。体の内側のケアもしっかりとしなければならない。世界樹の薬効が加わった特別な点滴で体内の栄養バランスを整え、マッサージを行い体の老廃物を押し出す。
その後も様々な施術が行われる。健康体を取り戻す頃には夜は老け、朝日がのぼり始めていた。しかしこれだけ行えば体は見違えるように綺麗になった。髪はかつてのような美しく絹のような滑らかさを取り戻した。皮膚も滑らかでツヤのあるしっとりとしたものに変わった。
だが老化だけはどうしようもない。張りのあるシワのない肉体というのは取り戻すことはできない。いや、一応皮下注射をして肌のハリを取り戻そうという案もあり、実際準備もしておいた。しかし直前になりメリアがそれをやめたのだ。
「女王陛下…あなたはかつての美貌を取り戻したいと言いました。しかし過去は過去です。過去に戻ることはできない。けれどあなたは今が最も美しい。それがわかるように私たちは魔法にかけるだけです。」
女王は眠ったままだ。そんな女王に対し、メリアはようやく本番だと言わんばかりに準備に取り掛かる。これからメリアの本領発揮だ。これよりメリアの化粧という魔法が女王にかけられる。
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