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第408話 復興支援

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「この書類終わったぞ。次のをくれ。」

『ポチ・いや…今ので最後。少し休憩挟んだら?』

「まだそういう気分になれないよ。それじゃあ…新しい事業のやつでもやっておくか。」

 そういうとミチナガは再び作業を開始する。その様子を見ていたポチは今終わらせた書類を回収する。そんなポチはカーテンをわずかに開けて窓の外を見た。

 法国との戦争が終わってから数週間が経過した。英雄の国では復興が進んでいる。かなりあちこちが破壊されていたが、今では細々とした部分が修復され元の姿を取り戻しつつある。

 そんな街の復興にはミチナガ商会が大きく関わっている。復興支援ということで英雄の国のみならず、支援を受け入れる多くの国に物資と資金を送っている。おかげでいくつもの国が立て直している。

 だがそんな復興を続ける街をミチナガは一度も見ていない。法国との戦争が終わり、アレクリアルや蛍火衆、白獣たちと色々なやり取りをした後から部屋にこもり毎日仕事ばかりしている。

 食事も短く睡眠も短く、風呂もシャワーだけで短く済ませている。少しでもゆっくりして色々と考えるのが嫌なのだろう。毎日仕事に没頭している。ミチナガはこれまでそんな仕事ばかりの毎日を送ることはなかった。正確に言えば自ら進んでずっと仕事をしたことがなかった。

 しかしこうしてミチナガが仕事ばかりしていると一つだけよくわかることがある。それはミチナガの優秀さだ。この数週間の間、毎日数十の国々で使い魔たちの仕事の報告書が上がってくるのだが、どんなに溜まっても半日もあれば片付けてしまう。

 ポチもミチナガが色々と考えないようにわざと今は手をつけなくても良いはずの仕事までしてミチナガの仕事を作っているのだが、それでもミチナガはすぐに片付けてしまう。こんな状況下になりミチナガの優秀さがよくわかるというのはなんとも言えない。

『ポチ・まあ僕たちの協力はあったけど、商会立ち上げて貴族になって王様になって英雄になって…スペックは高いんだよなぁ……』

「ん?何か言ったか?」

『ポチ・なんでもないよ。あ、新しい報告あがってきたよ。』

「ん?造船事業の分業化か。内部の部品なんかを復興のための仕事作りに当てる…ここまで分業しすぎると逆に手間になる。ここはまとめて…ここもまとめる。それでやっといて。」

『ポチ・はーい。』

 造船事業の分業化は復興支援の一つである。今各国で必要なのは街の復旧と荒らされた田畑の作付けである。戦争により多くの人々を失った国では復興のための人ではまるで足りていない。しかしどんなに人が足りていないと言っても戦争によって傷ついた人々の中には女子供もいる。

 特に戦争の影響で父親を失った母子、親を失った子供も生きていくために働かなくてはならない。もちろん復興支援の一種で炊き出しも行なっているが、それもいつまでもできるわけではない。

 そこで造船事業の分業を行った。もちろん船そのものや部品などを任せるのは難しいが、ちょっとした備品などは任せることができる。例えば船に備え付けの椅子やテーブル、布団などは他に任せられる。

 そういったものを他の人に任せることで、仕事の知識と技術力をつけさせることができる。そういった知識や技術は復興支援が終わってから独り立ちするのに十分役に立つ。それ以外にもミチナガ商会で取り扱う商品の一部を人に任せることで同様の効果を狙っている。

 そこで有用な人材を見つけたらヘッドハンティングするのも悪くない。というよりもそれが狙いだったりもする。

 ただの復興支援ではミチナガ商会の利益は少ない。だからこそ復興支援に際していくつか利益となることを行なっている。この人材探しもその一つである。

 さらに復興の際に新たに家を建てる時、これまでの建築方法とは少し違うものをおこなっている。今では使われていない技術、これまで使われていない新しい技術。それらをあえて使うことで実用経験を得られる。

 そして実際に作ることでこういう技術を持っているということをアピールできる。貴族の中にはこういった技術を使って屋敷を作って欲しいというものもいるため、復興支援後のミチナガ商会の新たな資金源にもなる。

 さらに大規模な復興支援は多くの人々から信用を得られる。ミチナガの地位は盤石なものとなった。これで下手にミチナガ商会に敵対すれば社会的信用も失うことになるだろう。

 それからいくつかの中堅商会を買収した。買収された側は面白くないだろうが、買収後の利益を知ると誰もが笑みを見せたという。ミチナガ商会という超巨大商会の流通網を利用できる上に社会的信用も得られる。

 しかも世界貴族、その英雄に選ばれた男の後ろ盾まで得られる。さらに売り上げもかなり伸びている。文句などつけようがない。文句をつけたのは一つの商会だけだ。

 その商会とはシンドバル商会。ラルド・シンドバルとその父親の商会だ。かなりの大商会であったが、今回の一連の騒動もあり英雄の国から正式に断罪され取り潰しに合った。なんとか逃げようとしたものたちもいたようだが、全員捕らえたらしい。

 そして取り潰されたシンドバル商会を全て今回のミチナガの功績と復興支援の功績に合わせて各国に取り計らい、ミチナガ商会に吸収した。その吸収の際にいくつかの貴族との不正の証拠を入手したため、その利用法も考えている。

 これらの商会の吸収や復興事業によりミチナガ商会はこの数週間で店舗数を倍以上に増やした。今後も増えていく見通しで、おそらく来月には戦争前の3倍に膨れ上がることだろう。

 ただ一気に店舗数を増やしたため、色々と問題が起きている。従業員の質の問題、他商会からミチナガ商会に移った従業員の素行問題。変に他の商会で長く勤めているとその商会での癖やこれまでの地位のせいで変にプライドが高くなっているのだ。

 基本的に優秀な人材なのだが他の従業員との兼ね合いが問題となり、正直現場はかなり面倒なことになっている。ただ変に解雇すればミチナガ商会の評判にも傷がつくので手をこまねいている。こればっかりはゆっくりと時間をかけて解決する他ない。

 他にも様々な問題が起きているが、今ミチナガが最も重視しているのは金の流れだ。復興支援事業で多くの国で金をばら撒き、そのばらまいた金をミチナガ商会の商品を買うことで回収している。金が動き経済が回れば国が豊かになり、国庫にも金が貯まるだろう。

 そうすれば早く復興支援を終わらせることができる。復興支援などいつまでも続けていても得はない。各々の国が自ら対処できるようになるのが一番理想的なのだ。

 ただそうはいかない国もある。それはもう滅んでいる国である。今回の法国の侵略により王族や国の重鎮が殺され、国の運営がどうしようもなくなってしまった国がいくつかある。だが滅んでしまったからもういいやというわけにはいかない。その国で暮らしていた国民はかなりの数がいるのだ。

 現状では他の国に身内がいるなど、他の場所でもやっていけるものたちはその国に送り届けている。しかし大部分は新しい土地に行ってもどうすることもできない。農民などは畑がなければ生きていけないのだ。

 他の国に農民を送り込めば土地問題が起こることだろう。みんなで仲良く使いましょうなんてそんな理想論は通用しない。一部はアンドリュー・ミチナガ魔法学園国に移り住んでもらったが、それでもまだまだ大勢いる。

 またミチナガが国でも作って解決しようかと考慮したのだが、その際にアレクリアルに相談したところ、今回の戦争の功績者に領土を与えるということになり、一部の騎士たちの新しい領地に移り住めることとなった。

 しかもその際に白獣や蛍火衆も領地を貰い、貴族位を貰っている。ただその貴族位はアレクリアルからの世界貴族ということではなく、ミチナガから爵位をもらったこととなっている。そのため白獣たちはセキヤ国子爵、蛍火衆もセキヤ国子爵という扱いになった。

 まあ貰った領地が英雄の国の方ではなく、諸王国郡の方なのでそれが妥当なのだろう。それにアレクリアルとしても世界貴族を簡単にやることはできないということだ。その流れでミチナガはセキヤ国国郡の中の一部の騎士たちに今回の戦争の功績ということで火の国の領土の一部を与えた。

 普通はそんな簡単にはいかないが、火の国の西側は崩壊しているため治安を良くするためにも割と良策であった。それに領地を賜った騎士たちは涙を流して喜んだという。セキヤ国も年々人が増えて手狭になっていたため、ちょうど良かった。

「おーい、新しい事業の草案できたから確認しておいてくれ。」

『ポチ・はいはーい。…また随分と人手が必要になりそうだね。関係各所に確認とってみるよ。』

 ミチナガ同様かなり忙しいポチだが、ミチナガの新事業のせいでさらに大変になることだろう。ただしばらくはこの忙しさがミチナガを保たせてくれるため、どこか心の中で安心している。

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