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第397話 知らぬ歴史

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「右に~左に~中央前に行って~後方回り込んで~~。なんとか順調に終わりそうだな。」

『ポチ・こっちの被害も30万前後で済んだからね。まあやっぱり魔王クラスとかが相手にいると被害大きくなるね。それに向こうの方が戦闘経験豊富だし。』

 ミチナガたちは現在法国の兵の掃討戦を行っている。すでに敵の数は1~2万程度まで減少した。こちらが全滅させる気だと理解しているので法国側も死兵となって戦いを続けている。そのためこちらの被害も少し大きくなるが、使い魔たちならば死んでもちゃんと復活するので問題はない。

 問題があるとすればゲゼフから入手した法国側の情報についてだろう。なんせミチナガたちにはこの後に50万以上の洗脳された人々の解放作業がある。

「向こうは任せて作戦会議始めるぞ。敵将の情報を信じるなら洗脳された人たちの被害少なく解決できるはずだ。」

 ゲゼフは洗脳処理に関する全ての情報を得ていた。その情報全てを聞き出したためかなり対策が打てる。これに関してはヴァルドールの魔道具様様だ。ただその情報を聞き出していた光景を見ていたガリウスが気分悪そうにしていたのが少し気がかりだ。

『ポチ・洗脳されている人たちに与えられた行動は生命維持のみ。その内容は休息や食事くらい。それ以外の役割は洗脳電波みたいなのが送られて初めて実行される。そしてその中継役に改造処理された人もいる。この中継役を潰せたら新しい指示が来なくなるけど、数が多くて現実的じゃない。』

「やるとしたら大元の送信役か。しかも話によると大元は現状一人しかいないんだろ?」

『ポチ・元々は何人かいたらしいけど、これまでの洗脳された人々への指示のせいで脳が耐えられず死んだみたい。ただ…完全改造に成功したのが一人いるらしいからそれは生き残っているって話。さらにヴァルくんから洗脳電波のあらかたの解析ができたって連絡が来た。その大元さえどうにかしたら代わりに停止を指示する電波を発信してくれるって。』

「俺たちの仕事はその大元を断てば良いだけなんだな?後のことは他の誰かがやってくれる。かなり厄介な案件だけどなんとかしよう。頑張ろうな。」

『ポチ・うん!』

 ミチナガとポチは笑みを浮かべて互いの拳を軽くぶつけ合う。そうこうしているうちに法国の残存勢力はわずかになっていた。戦いからあぶれた使い魔たちは破壊されたエヴォルヴの回収に当たっている。

 この法国の兵が片付いたら一度全員スマホに戻し休息にあたらせる。その間にミチナガが洗脳された人々の元へ向かい、洗脳電波を発信している大元を見つけ出し、速攻で終わらせる。やはり大規模な部隊を迅速かつ秘密裏に動かせるのはかなりの強みになる。

 そんな中、ミチナガはもう一つの情報が非常に気がかりであった。それは法国の裏で動いていると言われる龍の国の存在だ。法神の話によるとすでに動いているとのことだが、氷国にも海上都市にも使い魔を派遣しているミチナガには龍の国の現在の情報が逐一入っている。その情報はどれも龍の国に動きはないというものだ。

「考えられるのは龍の国が法国を裏切った可能性だよな?他に理由は見当たらんし…」

『ポチ・龍の国に対して何かが牽制している可能性もないもんね。神魔も神剣も動いていないし…あと考えられるのは例の研究関連?』

「超人プロジェクトだっけ?人為的に魔王クラス以上の人間を作り出すっていう…正直今でも信じられないんだけど。遺伝子操作や人間の交配実験だろ?言いたいことはわからなくもないけどそんな簡単なものじゃないだろ?」

『ポチ・一応話によると魔王クラスを人為的に生み出すことが成功したとか…しかも稀に魔帝クラスに近い実力者も生み出せたとか……にわかには信じられないけど、もしも本当なら海神と氷神の2人でもきつい戦いだよ?どれだけの日数がかかるか知らないけど事実なら好きに使える魔王クラスがホイホイ生み出せる。』

「元々魔王クラスが多いっていう話だしな。龍族だけの部隊で…魔王クラス以上だけの騎士団が存在するんだろ?しかも2個大隊分はいるとかいないとか…。いろいろ事実関係洗ってみた?」

『ポチ・調べたけど…厳しいよ。そういった人体実験が盛んに行われていたのは100年戦争以前だから100年戦争後に生まれた英雄の国だとそんな文献は残っていない。エルフたちに聞いたけど、あの頃はエルフ狩りなんかもされていたらしくて人間との関わりは断絶していたって。龍の国で行われている超人プロジェクトの大元になる人神計画については何もわからない。』

 人神計画。それはゲゼフ曰くかつて行われた人工的に魔神を生み出すという計画だ。英雄の国が生まれるよりもずっと昔に行われていたというその計画は、あらゆる人種を掛け合わせて人間を超える人間を生み出すというものだ。

 さらに魔力による遺伝子操作、薬品による人体改造、食事や運動など全てが計算され実行されたという人権や倫理観など全てを無視して行われた計画だ。だがそんな計画うまくいくはずがないとミチナガは思う。そして実際のところ、その計画の成功率は2割にも届かなかったという。

 運良く魔王クラスが生まれることもあれば、魔力が異常に低い人間が生まれることもあった。一応魔帝クラスも生まれたらしい。確かに成功率は低いが、それでも強者が生まれることには生まれたので割とうまくいっていたのかもしれない。ただ数十年のスパンでやらなくてはならないため、かなりの年数を要したという。

 だがそんな人神計画はある時終わりを告げた。それは計画の破綻から来たものではない。彼らは生み出したのだ。人為的に魔神を。いや、彼らの研究は成功以上に成功したのだ。彼らの研究は魔神すらも超えるものを生み出した。

 神人、魔神の中でも神の文字が先に来る魔神を上回る強者。彼らは神の如き人間を生み出したのだ。そしてそこで人神計画は終わったという。

 後の情報は法国や龍の国でしかわからないだろう。法国や龍の国は英雄の国が生まれるずっと昔から存在している。両国の蔵書の中には発行されてから数百年を優に超える蔵書も数多いのだ。

「ユグドラシル国の方もダメなのか。」

『ポチ・あの国は世界樹を失ってからというもの国力が急激に落ちたらしくてね。本を作る余裕もなかったみたいで世界樹関連以外の蔵書はほとんどないよ。』

 ミチナガの伝手を使っても過去の文献を探ることは難しい。後の可能性は魔国だろう。魔国も法国や龍の国と同じくらい古い歴史のある国だ。だが魔国ではミチナガの地位はそこまで確立できていない。数百年以上昔の蔵書となれば残っているのは城に保管されている蔵書だろう。

「はぁ…考えても仕方ないか。とにかくそっちはみんなに任せよう。法国を退けたら先に龍の国だな。時間を与えたら不利になる。」

『ポチ・本当は法国にそのまま攻め入りたいところだけどそれが一番だね。』

 それからしばらく休息を挟んだのちにエヴォルヴを1万ほど残してミチナガたちはその場を後にした。この戦場の処理は彼らに任せておけば問題なく済むだろう。

 現状残っているエヴォルヴは60数万だが、蛍火衆と白獣に加え12英雄のガリウスとその部隊が加わったことで戦力は大きく増した。ただそれでも洗脳された50万もの人々を殺さずに止めるというのはかなりの無理難題だ。しかしできる限りは助けたい。

 それからミチナガたちは半日かけて洗脳された人々がいる場所の近くまでやって来た。この後は蛍火衆に敵の洗脳電波の大元を探し出してもらい、休息したのちの夜半に勝負を仕掛ける。
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