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第366話 解析と研究と発見と

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「こっちの解析は終わったぞ。次のやつをくれ。」

「おい!これの解析やったのは誰だ!他にも機能が残ってたぞ!」

「新しい解析品届いたぞ~…休みないな……」

 英雄の国の研究所。そこでは今日も日夜9大ダンジョン巨大のヨトゥンヘイムから送られてくるダンジョン産の魔道具を解析し続けている。ダンジョン産の魔道具は単純な能力のものから複雑なものまで様々だ。

 ただ水を生み出す魔道具かと思いきや、生み出された水にはモンスター除けの効果があったり、魔力を通すと切れ味の上がるナイフは実は他の魔道具と組み合わせると特殊な魔法剣になったりと、細かく調べなければわからないことだらけだ。

 研究者たちも最初のうちはダンジョン産の魔道具だと言って興奮し、寝る間を惜しんで解析に当たった。しかしダンジョンから魔道具が送られてから数ヶ月が経過した。すでに解析の手は間に合っておらず、解析待ちの魔道具がどんどん山のように積み上がって行く。

 同じことがユグドラシル国の特別魔道具解析所でも起きている。情報を共有しながら必死にやっているがそれでも全く間に合っていない。特に最近送られてくるダンジョン80階層以降の魔道具に関しては数名が数日間徹底的に解析しないとまるでわかりそうにない。

「ごめん…ちょっと……休憩……」

「お~い、こっちで倒れたから連れて行ってくれ。あ、もう一人…と言うか俺も頼む……」

 バタリバタリと次々に倒れて行く。さすがに限界が近い。と言うよりもすでに誰もが限界なのだ。だからどこかで1日ちゃんとした休みを取りたいところなのだが、それができない。なぜなら研究員たち自身、休む気がないからだ。

 ダンジョン産の魔道具は未知のアイテムばかりだ。独自の魔力制御機構を備えており、従来のものとはまるで違う。それを解析するのが楽しくて楽しくてしょうがない。だから無理をしてでも仕事をしてしまう。休んでいる時も頭の中で解析していた魔道具のことでいっぱいになってしまうのだ。

 研究者というのは難儀な生き物で一度気になるとそれが知りたくて知りたくてしょうがないようだ。だから倒れたものたちから魔法を用いて十分な回復と休息を取らせている。そんな彼らの元にさらなるものが届けられた。

『社畜・解析品を届けに来たのである。85階層のボスドロップである。巨大であるので隣の部屋に置いておいたのである。』

「ボスドロップだと…気になる……」

「こっちの解析はまだ終わってないけど……僕、気になります!」

 ぞろぞろとゾンビのように隣の部屋へと移動して行く研究員たち。そこで研究員たちは目の前にある巨大な魔道具を見ると急に気力が回復したのか元気になって駆け始める。ぞろぞろと群がる姿は本当に生者を求めるゾンビそのものだ。

「なんだこの複雑さは…1部品ずつにそれぞれ魔法陣が刻み込まれているぞ。」

「ここまで巨大な魔道具は初めてだ…一体どういう効果が…」

『社畜・これを使っていたボスモンスターの映像があるのであるが見るであるか?』

「「「「見せろ!!」」」」

 研究者たちは目の下に真っ黒なクマを作った状態で映像に見入る。ボスドロップ品は基本的にボスの持っていたものや能力に依存することが多い。だからボスの行動を分析すれば能力がある程度わかるのだ。

 研究員たちは所々で映像を止めながら紙に情報を書き上げている。それから2時間ほど映像を見続けたのちに実物を見て解析する。それから約3日後、いくつかのレポートが完成した。社畜はすぐにそれを確認する。

『社畜・ふむふむ…なるほどなのである。つまりこの巨大魔道具はこのままでは作動しないということなのであるな。』

「ボスは自身の体内魔力を変質させることでこいつを動かしていた。その変質数は10を超える。しかも膨大な魔力を消費するぞ。今まで入手した魔道具を組み合わせればいけるかもしれんが、さすがにそこまで調べる時間はない。こいつの解析の間に山のように解析品が溜まったからな。」

 つまりこの魔道具は一度に十数個の異なる強力な魔法を動力源にしないと動かないということだ。それにこの大きさでは複数人が使用する城砦などの固定砲台的な役割だろう。もっと解析に時間をかければ詳しいことがわかりそうなものだが、さすがに一つのものに時間をかけている暇はない。

「というかよ、お前も少しは手伝え。お前ら何人もいるんだろ?」

『社畜・無理なのである。こっちも人手不足でかつかつなのである。白金貨がもっとあれば良いのであるが、ダンジョンからも今の所全然でないのである。』

「ああ…なんか白金貨が如何のこうの言っていたな。白金貨は基本的に産出数が少ないからな。白金貨だけは流通制限や禁止指定されてない。今のダンジョンから出ない理由はおそらく白金貨は全部持ち帰られているからだろうな。……知り合い何人か当たってみよう。多分白金貨が少しならあるはずだ。」

『社畜・本当なのであるか!』

「確実かどうかはわからんぞ。ただお前らの優秀さはよくわかっているつもりだ。お前らが増えてくれればこっちも助かるんだ。」

 研究員たちは滞っているダンジョン産魔道具解析のために知り合いに白金貨がないか探し始めた。その成果は微々たるものではあるが、いくらか白金貨が入手できた。

 そしてこの時にミチナガ商会が白金貨を求めているという情報が一部の貴族に出回り、ミチナガとコネクションを作ろうと考えた貴族たちが挨拶代りと言って、使用人に白金貨を持参させた。中にはミチナガ商会でしか取り扱っていない商品をなんとか回してくれないかと白金貨をもってやってくるものもいた。

 おかげで着々と白金貨が集まりつつある。それにより深刻化していた使い魔不足が少しずつ解消し始め、ダンジョン解放と魔道具の解析が進んでいった。




 その頃、スマホの中では大規模な研究と開発が行われていた。開発されているのは人型魔導科学兵器である。第1世代から第5世代まであり、従来は第4世代まで完成していた。そして今日ついにその日がやってきた。

『社畜・完成なのである!!』

『スミス・ようやくっす…第5世代、完成型。魔力供給に不安があったっすがそれもダンジョン攻略で解消。戦力として大きく活躍できるはずっす。』

 使い魔たちの目の前には身長2mの人型魔導科学兵器がある。従来のものと比べてもはるかに強そうだ。さらにその周囲にはいくつもの専用装備が置かれている。専用装備の開発はまだこれからもやっていくつもりだが、今後はこの人型魔導科学兵器の増産を行う予定だ。

 みんなして今夜は祝いだと祝杯の準備をしている横で何やらピースが設計図を取り出してじっと眺めている。その様子に気がついたポチはピースへと近づく。

『ポチ・どうかした?』

『ピース・あ、えっと…なんでもないです。……いや、その…設計図見てたら元のヤマダさんが残してくれたものとは変わっているんだなぁって思って…』

『社畜・あれは余分なパーツが多かったので改良して増産しやすくしたのである。今だって問題なく動いているのである。だから設計図を変えた問題はないのである。』

『ピース・そ、そうなんだけど…こんなにすごい設計図を残してくれたのに余分なパーツとかわざわざつけるのかなって…それにほら、この第1世代と第3世代、それに第5世代のここの余った部分重ねると…なんかパーツっぽくないかなって。』

『社畜・そんなわけ…ない…ので……あ…る………祝杯は中止である。設計図全部持ってくるのである。余分だと思っていたパーツの部分を書き出すのである。』

 社畜や他の使い魔たちは全員で余っていたと思われるパーツを書き出し、それを重ね合わせる。やがてそれは人型の兵器設計図へと成りつつあった。

『ポチ・あ~あ…真実にはさらなる真実が隠されていたってことね。第6世代…完成強化型。まだまだ先は長いらしいね。』

 使い魔たちはさらなる力を求めて再び研究を開始する。もう二度と無力な自分たちを嘆かないため、自分たちが守りたいものを守るために。そして…やがてくる戦いのために。
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