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第340話 集いし傑物たち

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 翌朝、ミチナガは随分と遅い起床になった。あと少しで昼だ。朝食の時間はすっかり逃したらしい。使い魔達もどうやらミチナガに疲労が溜まっていると思い、無理に起こさなかったようだ。

 とりあえず風呂に入り、服を着替える。そして昼食を、と思ったらスマホに使い魔達から通知が入った。ミチナガはその通知を見て急いで部屋を出てホテルのロビーへ向かう。ロビーで待っているとアンドリューとリッキーくんもやって来た。皆これからやってくる人物を心待ちにしているらしい。

 そんな3人がロビーで待っていると急に周囲の護衛達が警戒を始めた。臨戦体制をとっている護衛達だが、その額には脂汗が浮かんでいる。ホテル側の警備兵達も足を震わせながら武器を握っている。

 ミチナガはそんな彼らを見てクスリと笑い落ち着かせようとする。しかしどんなに落ち着かせようとしても手足の震えが止まらないようだ。そんな彼らを落ち着かせているとその震えをもたらす者がやってきた。

「よ!ナイト。久しぶり。それでいきなりで悪いけどもう少しリラックスして。人が多くて緊張するのはわかるけど、みんなビビっているから。」

「む……すまない。」

 ミチナガがそういうとスッとナイトから発せられていた圧が消えた。元々隠密型のナイトは気配を消すことくらいなんてことはない。しかしここ最近連戦続きだったのと、英雄の国という世界の中でも人の多い環境に慣れず、緊張から力が発せられていた。

 ナイトから発せられていた圧がなくなりホッとする護衛、それに警備一同。しかしまだ体の震えは治まっていない。この震えが収まるのにはもう少し時間がかかるだろう。

 そんなことよりも久しぶりのナイトとの再会だ。ナイトに関しては2人とも面識がある。アンドリューはナイトに秘密の釣りスポットを教えてもらったし、リッキーくんに関しては試写会から見ているし、ヴァルドールとしても火の国で会っている。

 しかし一度会っていても驚きはする。なんせナイトは会うたび会うたび強くなっている。火の国で出会ったナイトとはすでに別物だ。その体に内包されている力は以前とは段違いだ。これには思わず興奮したリッキーくんからも力の片鱗が漏れ出す。その影響でようやく震えが治った者達が再び震えだした。

「ハハッ!久しぶりだねナイト!」

「ああ、ヴァ…リッキーくん。アンドリューも久しいな。」

「ええ、お久しぶりです。しかし…これはまた一段とたくましく…」

「そういうお前も…変わったな。」

 ナイトは皆の変化に驚く。ナイトがアンドリューと会っていた頃はまだただの釣り好きだった。それが今では世界最大の連合同盟の長である。リッキーくんもVMTランドの設立者として名を馳せている。しかしそれ以上にナイトはリッキーくんから目を離せなかった。

 ミチナガはそんなナイトに近づき、ナイトが言いたそうにしていることをこっそり聞きに行く。ナイトは膝を曲げてミチナガと頭の高さを合わせた。

「あれの中身は…ヴァルドールか?」

「そうだよ。やっぱり気になった?」

「ああ…以前とは比べ物にならない。なんだあの力は…」

 ミチナガはすでに気がついていたが、ナイトもすぐに気がついたらしい。リッキーくんことヴァルドールが内包する力が以前とは比べ物にならないことを。ナイトは十分強くなった。戦いを重ね、戦闘経験も肉体も比べ物にならないほど良くなった。

 だというのにヴァルドールは未だそのナイトを超えるほどの力を持っている。正直現在の魔神と遜色ないだろう。それほどまでにヴァルドールは強くなっている。しかしナイトにはその強くなったカラクリがまるでわからない。そんなナイトにミチナガは耳打ちしてやる。

「ヴァルくんはな、満たされたんだ。力というのは心技体、この3つが必要だ。ヴァルくんは技術と肉体に関してはすでに十分なものを持っていた。あと必要だったのは心だ。ヴァルくんはVMTランドを通じて心が満たされたんだ。だからここまで強くなった。というのが俺の見解。」

「心…精神か……確かに以前であった時はまだ精神が不安定そうに見えた。精神が安定するだけでここまで強くなるのか…」

 確かにヴァルドールは数百年規模で引きこもるほど精神を病んでいた。吸血鬼神と呼ばれようともヴァルドールの心はあまりにも脆弱であった。そんな心の脆弱さがなくなった今のヴァルドールは以前とは比べ物にならない。

 ただ今では戦いに価値を見出せないため、かつてのような戦いの日々に戻るというのはあり得ないだろう。時折作業に人手が足りなくなると世界各地から犯罪者を拐ってくるだけだ。実に人畜無害な男に変わった。

「まあとりあえず立ち話もなんだから昼飯にしよう。メリアはまだ時間かかるんだよな?」

『ポチ・到着は夕方ごろかな?まあゆったりと待っていようか。』

 ナイトを交えて4人での食事が始まる。そして話しながら気がついたのだが、ナイトだけはまだ来ていないメリアとも面識がある。つまり今日集まる5人全員と今日以前に面識があるのだ。人里から離れているナイトがこの中で唯一全員とちゃんと面識があるというのはなんというか…

 そんなことを話しながら昼食後も皆で会話を続けていると、いつの間にか日が傾き、夕刻に近づいて来た。日が沈み、あたりも暗くなるこの時間にまるで太陽のごとき輝きと人々の歓声を集めながらそれはやって来た。

「うっわぁ……ド派手だな。」

「本当ですな。あの大人しそうな子がこんなに…」

「ハハッ……いいなあれ。次のパレードの参考にしよう。」

「むぅ……奇抜…だな。」

 その光景を見ながら4人はそれぞれの感想を述べた。やって来たのはメリアの一団だ。移動には魔動装甲車を使用しているようだが、かなりデザインを変更されている。さらに大勢のモデルを引き連れているのだが、そんなモデルよりも注目を集めているのがメリアだ。

 奇抜なファッションではあるが、それが似合っている。いともたやすく着こなしているように見えるが、あれを他の人が着たらきっと笑われるだろう。メリアだからこその着こなしだ。ミチナガも自分に置き換えて考えてみるが、あまりの似合わなさにゾッとする。

 そんなメリア達一団の周囲には多くの女性達が集まっている。中には貴族の女性らしき人物まで見える。一般人に紛れて見にくるというのはよほど見たかったのだろう。そんな熱狂の渦のままメリア達一行はホテルの中に入る。

 外からは未だ興奮冷めやらぬ女性達の声が聞こえる。中には一目見ることも叶わなかったと落胆する者の姿も見られる。そんなメリア達の姿を見たホテルの従業員達はうろたえる。誰もがたじろぐような輝きを放つメリア達の元へ、ミチナガ達4人が近づいた。

 そんな近づいてくるミチナガ達の姿を見たメリアは思わずたじろいだ。周囲のモデル達も一歩引いてしまっている。

 なんせこの4人は全員魔帝クラス。しかもその魔帝クラスの中でも最上位、準魔神クラスだ。一人一人の影響力が世界を動かすほどである。対してメリアは未だ魔王クラス。一応魔王クラスの中でもほぼ魔帝クラスと言えるほどの影響力を持つ。

 しかしその程度だ。ミチナガ達とメリアの間には圧倒的な差がある。その差を一目見ただけで判断したメリアは思わず頭を下げた。圧倒的なまでのオーラにメリアは己が負けを認めたのだ。

「やあメリア。初めまして…とは言っても一応化粧品、服飾品開発の責任者に任命する時に軽く話したね。それにしても忙しいだろうに来てもらって悪いね。」

「いえ、ミチナガ様。むしろ本日は御誘いいただきありがとうございます。それに皆様もお久しぶりでございます。それから…リッキーくん、でよろしいでしょうか?お初にお目にかかります。メリアと申します。」

「やあメリア!僕はリッキーくん!よろしくね!」

「お久しぶりですなメリア嬢。こうして皆が集まれたことは嬉しく…っとその前に立ち話もなんですから。さあさあ、こちらに。」

「ありがとうございますアンドリュー様。…ナイト様、お久しぶりです。」

「ああ、元気そうで何よりだ。」

 5人は近くのソファーに腰掛ける。とりあえず夕食まで軽くおしゃべりタイムだ。緊張するメリアをリラックスさせようとミチナガは紅茶と茶菓子を用意する。それがまた気を遣わせてしまったとメリアは自己嫌悪するためなかなかリラックスできない。

 しかしもっとリラックスできないのは周囲の面々だ。5人の様子を緊張の面持ちで見つめる。しかし見つめているのも失礼になると思い、徐々に周囲に散り始める。しかし中にはこの光景を見て興奮したのか、5人からずっと離れたところで話をする者がいる。

「す、すげぇ!マジですげえよ!俺鳥肌が治んないよ!」

「お前に言われなくてもわかっているって!なんせあの5人はミチナガ商会のトップだ。」

「服飾、化粧品部門総責任者メリア様。VMTランド創設者リッキーくん。モンスター素材入手、冒険者のナイト様。名俳優にしてアンドリュー自然保護連合同盟同盟長アンドリュー様。そして…」

「それらすべてを取りまとめるミチナガ商会創設者のミチナガ様。誰も彼も世界に名を残す傑物だ。」

「そんな5人が揃って明日パレードやるんだろ?しかも俺たちは…見る側じゃない!やる側だ!」

「ああ…これだけの傑物が揃ったんだ。明日は…何が起こるんだろうな。」

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