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新年特別編 セキヤ国のお正月

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『ポチ・それじゃあみんな。いくよ?せーのっ!』

『『『使い魔一同・新年明けまして、おめでとうございます。今年もよろしくお願いします。』』』

「……あけましておめでとう。」

 まだミチナガがセキヤ国にいた頃のこと。朝起きたミチナガは昨日の大晦日の際に飲まされた酒が、少し残ったままの状態で鏡餅の飾られている広間に連れてこられた。そしてまだ軽く寝ぼけている中、一同に会している使い魔達が一斉に新年の挨拶をしたのだ。

『いやぁ…とうとう新年明けたね。セキヤ国の晴れやかな新年だよ!そうと決まったらさ…』

「お年玉は無いぞ。」

『使い魔一同・………………』

「……………………」

『ポチ・………………』

 完全にお年玉を期待していたのだろう。使い魔たちの表情はいつにも増して悲壮感が漂っている。そんな使い魔たちをミチナガは無表情でただただ見つめる。そして使い魔たちから溜息が漏れた。

『使い魔一同・新年早々シラけるわぁ……』

「うるせぇ!だいたい予想してたわ!お前ら数増やしすぎなんだよ!5000以上にお年玉渡していたら日も暮れるし金も無くなるわ!それよりも飯にしようぜ。飯飯!」

『シェフ・お年玉をくれないやつにやる飯はねぇ!』

「こ、こいつらまじかよ……」

 そう言われるとミチナガは追い出された。新年の早朝、まだ道を行く人は少ない。この世界には、というより火の国の人々には初詣などの概念はない。だから外に出る人は少ないのだ。それでも行く当てもなくただ歩いていると数人の集団を見つけ、ミチナガは駆け寄った。

「いよっ!あけましておめでとう!」

「うわっ!ミチナガ様!あ、あけましておめでとうございます…ど、どうしたんですか?新年早々……」

「使い魔達に追い出された。お年玉くれないから外で飯食えってさ。お前らのとこ少し厄介になってもいいか?」

「構いませんよ。家族も皆喜びます。」

 そういうとミチナガは声をかけた衛兵と共に歩いて行った。ちょうど今朝まで街を見回りしていたらしい。すでに家族は家で正月の用意をしてくれているとのことだ。

「火の国の正月料理なんて初めてだけど、地域によっても結構変わるのか?」

「ちょっとよくわからないです。他の地域の正月料理は食べたことがないですし……正直子供の頃から正月料理なんて食べたことなくて…」

 戦争が絶えなかった火の国では食べ物が食べられるだけ良かった。そのため正月だからと特別な料理が出ることはほとんどないのだという。だから正月料理というものを知らないものがほとんどだ。

「一応伝承の形で伝えられていたものもあったみたいですけど…聞いただけですから再現などは難しいと思います。」

「そうなのか。じゃあ…普通の食事?」

「いえ、何か女衆で会を開いてやっていたらしいですよ。正月のための料理講座らしいです。」

「へぇ…面白そうだな。」

 そうこうしているうちに家にたどり着いた。中では今も慌ただしく調理が執り行われている。そんな中ミチナガたちが帰ると家族総出で出迎えに来てくれた。もちろん突如来たミチナガにひどく驚いていたが、実に喜んで歓待してくれた。

「ミチナガ様、新年あけましておめでとうございます。」

「あけましておめでとう。今年もよろしく頼むな。それにしても急にきて悪かったな。ああ、みんなでこれでも飲んでくれ。」

 ミチナガが手土産で酒を手渡すと目を丸く見開いて驚く。それもそうだろう。なんせミチナガが取り出した酒は一本で金貨30枚はするソーマ謹製の最高級酒だ。そんなものを2本も渡された家族は大喜びで再び調理に戻った。

 それから10分後、続々と料理が運ばれてくる。運ばれてきたものは肉が中心だ。メインには豚の丸焼きがある。なんとも豪勢な料理に全員から歓声が上がる。

「お待たせしました。それじゃあミチナガ様、何か一言いただけませんか?」

「ん?ここは家主が言うべきだろ。今日の俺はただの友人として……わ、わかったわかった。それじゃあ……セキヤ国が建国してまだ間もないけど…こうしてみんなが楽しいお正月を迎えることができたことを心から嬉しく思う。また今年も多くの避難民がこの国に来ることになると思うけど…これからも誰一人見捨てずに救っていきたいと思う。そのためにも今日は楽しんで心と体を休めてくれ。それじゃあ乾杯くらいはお前が言えよ。ほら。」

「そ、それじゃあ…家族みんな…それに友達も集まっての正月を祝して…乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 乾杯の合図を皮切りに皆が一斉にご馳走にかぶりつく。ミチナガはその勢いに飲まれてしまったが、気を利かせた奥様方に料理をいくつか取り分けてもらい食事にありつく。香辛料を効かせたなかなかに手のかかっている良い肉だ。ミチナガはつい気になってこの正月料理のことを聞いた。

「この正月料理は女性たちが集まって考えたって聞いたけど、何かこの料理にした選定理由とかあるのか?」

「はじめは色々と郷土料理のようなものも考えました。しかし日頃から食べているせいであまり特別感もなくどうしようかと考え、みんながひもじかった頃に憧れた料理を食べることにしたんです。あの当時の頃を忘れず、それでいてかつての夢を叶えるような料理にしようと。」

「そっか。まあ正月から豪勢に食べて元気つけないとな。じゃあそれぞれの家庭で憧れの料理を出しているのか。」

「はい。うちは肉が中心ですけどダークエルフの方々は野菜が多いですね。ドワーフの方々は酒が中心で…」

「よし、ドワーフたちのところは近づかないようにしよう。しばらく厄介になったら他のところも回らせてもらうよ。」

「ぜひそうなさってください。皆喜びます。」

 それから1時間ほど楽しんだ後に他の家にも厄介になる。ダークエルフのダリアの家には多くのダークエルフたちが押し寄せており、新鮮な野菜を使った様々な料理が振る舞われていた。中にはシェフ監修の料理もいくつかあり、様々な料理に舌鼓を打った。

 陸魚人のクァクァトゥラの家では果物が多く提供されていた。普段は野菜を食べたり肉や魚を食べているのだが、果物というのはめったに食べられない高級品だったらしい。だから思う存分果物を頬張っていた。

 皆思い思いの正月を過ごしている。中には今でもこの境遇が信じられないと、夢のようだと言って泣くものもいる。このセキヤ国は火の国の避難民にとってそれだけの国なのだ。ミチナガは嬉しく思いながら夕焼けの町並みを帰路に着いた。

 町並みを楽しみながらブラブラと歩いていく。すると家の前にはポチが待っていた。その表情は嬉しそうだ。

『ポチ・どうだった?みんなのお正月は。』

「よかったよ。良い国になったと思った。だけどさ、みんながこうして正月を迎える料理を食べているとさ……なんというか…やっぱりね。」

『ポチ・そういうと思っておせちとお雑煮用意しておいたよ。お腹はいっぱいだろうからお餅は一個ね。』

「ありがと。毎年おせち食べていると飽きるんだけどな、だけどやっぱり食べないと新年って感じはしないし……っと、それからこれ。お年玉な。全員手渡しするのは時間かかるから勘弁したいけど、こういうのは気持ちだからな。」

『ポチ・わーい、ありがと!う~~ん…じゃあさ、配るんじゃなくて……』

 家に入り使い魔たちとおせちを楽しむ。昔ながらの日本の味はやはり落ち着く。そして腹が膨れたところで使い魔たちを集め出した。

「では正月恒例!とは言っても初の試み!餅撒きならぬ金撒きじゃぁぁい!!獲った分がお前らのお年玉だぞぉぉ!!!」

『『『使い魔一同・イェェェェェェイ!!!』』』

 ミチナガによる銀貨のばら撒き。それは国民に見せるにはあまりにも恥ずべき行為。だから決して誰にも見られぬように行われ、そこで上がったテンションは翌日まで冷めることがなかった。
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