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第267話 足止め

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 海岸線にたどり着いたミチナガ一行はそのまま海岸線沿いに移動する。すぐにでもスマホの中に収納されている船を浮かべて出発したいところだが、このあたりは遠浅で船を浮かべることができない。もう少し海の深い場所を求めて移動しているのだ。

 やがて半日ほど移動すると漁村が見えた。あまり栄えていないが、別に衰退しているわけでもない。この世界ではごく普通の漁村といった感じだろう。あまり大人数で押しかけると混乱を招く恐れがあるのでミチナガと数名のものだけで近づくことにした。

 村に近づくと数人の男達が現れた。おそらく村の代表だろう。魔道装甲車のエンジン音などですでにミチナガたちの来訪には気がついていたようだ。すぐに話をして、商人だということを知らせると喜んで招き入れてくれた。

 どうやらあまり行商人なども来ない村のようで、いくつも欲しいものがあるらしい。歓迎されたミチナガと数名のものはそのまま村長の家に招かれてしばらく話をすることになった。村長の家に入るとそこには大量の魚がつるされている。

「魚くさいところで申し訳ない。この時期はこいつがよく獲れるもので、どこの家も冬に備えて食料を蓄えておるのです。」

「鮭…ですか。この辺りはよく遡上してくるので?」

「ええ、もう少し行ったところに川がありましてこの時期になると川を登って行くのです。よくご存知で。」

 どうやらこのあたりは鮭が遡上してくるらしい。セキヤ国近くにも川はあるのだが、今まで見たことがなかった。彼らは捕まえた鮭を家の中に吊るして干し鮭を作っている。家の中で暖房のために火を焚いて、その煙で燻していることでかなりの期間、保存が可能なはずだ。

 さらに村長の奥さんが口に合うかどうかわからないがと、カラカラに乾いた鮭の細い切り身を持ってきた。固そうなその鮭は北海道で有名な鮭とばだ。そのまま食べても良いし、少し火で炙っても美味しい。

 ミチナガは一口咥えてみるが、あまりの硬さに噛みちぎれそうにない。もう半分くらいに割いてから食べればよかったと少し後悔するが噛めば噛むほど味が染み出してくるのでそのままかみ続けた。

 なお同行している者達は普通に噛みちぎっていた。さすが獣人というだけあって顎が強いのだろう。もしくはミチナガがあまりにも弱いだけか。

「それで…皆様は海を渡りたいということでしたね?残念ですがしばらく待ったほうが良いでしょう。もう渦の季節になってしまいましたから。」

「渦の季節?渦潮ができるんですか?こんな開けた海で?」

 渦潮は入り組んだ地形の場所で複雑な海流によってできる。鳴門海峡の渦潮が有名だが、ここは開けた海だ。そんな渦潮などできそうな気配がない。

「魚が渦潮を作るんです。この時期は海に出るとその渦潮に巻き込まれて船が沈みますからね。渦潮が引くのを待って再び船を出して漁をします。1月ほどは渦が続きますのでそれまでは海に出ないのが賢明です。」

「マジですか……」

 しかもどうやらモンスターによるものでもなく、ごくごく普通の魚が作り上げる渦潮らしい。そのためいつその渦潮ができるかもわからない。そんな話をしていると外から渦ができたという声が聞こえてきた。

 ミチナガも確かめに行くと確かに沖の方にいくつか渦潮ができている。数にして3つほどだろうか。大きさもまちまちで今一番大きいのは直径10mほどの渦潮だ。すると村の男たちは大急ぎで動き始めた。何かするらしい。

「これから一体何をするんですか?」

「あの渦潮に浜から釣り糸を投げ入れるのです。あの渦潮の中は大量の魚がいますからそれを釣り上げるわけです。以前入手した…あそこにある投石機を使って投げ入れるわけです。なかなか美味しい魚ですよ。食べていきませんか?」

「是非共お願いします。ああ、どうせならお手伝いさせていただきます。」

 ミチナガたちは漁の手伝いをすることになったのだが、しばらくは手を出さずに様子を見るだけだ。やり方は簡単。投石機に釣り糸を結んだ重りを乗せ、それを渦潮めがけて発射させるだけだ。これが意外と簡単なようでかなり難しい。

 重りが重すぎては魚を傷つける。だからなるべく軽くするのだが、軽いと海風に煽られて何処かへ流されてしまう。なかなかに技術のいる作業なのだが、この村の男たちは一発で成功してみせた。

 そして5分ほど待つと引き上げ作業に移る。しかしこれがなかなかに大変だ。渦潮に飲み込まれる勢いのせいでなかなか引き上げられない。それでも村の男たちとミチナガの護衛総出で引き上げること30分。ようやく魚が引き上げられた。

「あれ?これ……ホッケか?」

「この魚も知っておられるのですか。普段は海の底におるのですが、なぜかこの時期になると渦を作って海面まで上がってくるのです。」

 見事なホッケだ。体長40cm以上はある丸々と太ったホッケは脂が乗っていてうまそうである。実はホッケはホッケ柱と呼ばれる渦を作る。今では滅多に見られないものだが、生息数が多かった昔はよくホッケ柱を作っていたらしい。

 ただ普通のホッケ柱の渦は小さなものだ。異世界のホッケ柱にもなると船を飲み込むほどの大きさになるらしい。そしてこの時期のホッケは産卵に向けて脂が乗る。ミチナガは早速シェフを呼んで調理してもらう。

 スマホにホッケを収納して簡易的な一夜干しを作る。やはりホッケは焼いて食べるのが一番だ。さらにホッケのフライに鮭とホッケのちゃんちゃん焼きも作る。そんな様々な料理をつくるのだがやはりどれも酒に合う。そうなってしまうと村総出で大宴会が始まる。

 今夜は魚尽くしなのだが、漁師たちは肉や野菜に飢えているらしい。そこでサラダやステーキなどもご馳走すると大喜びしてさらに盛り上がりを見せる。

「商人ミチナガ様のご厚意に感謝して…かんぱーい!」

「「「かんぱーい!!」」」

「一体何回乾杯するんだよ…」

 かなり飲んでいる。もうこれは明日二日酔い確定だろう。そんな中一人気まずそうな表情をした村長がミチナガのそばに寄ってきた。

「ミチナガ様…これほどのことをしてもらってなんですが……その…我々にはこれに対するお返しができません。なんとお詫びしたら良いか…」

「村長。そんなことは気にするな。これは俺のおごりだ。お返しも何にもいらないよ。……あ、でも船が出せないんじゃしばらくこの村に厄介になりたい。船が出せるまでの間だけでも…頼めるか?」

「もちろんです!その程度のことでしたらいくらでもいてもらって構いません。毎日できる限りのもてなしをさせていただきます。」

「まあ気負わないで。ああ、それからこの辺りのことも教えてくれ。初めてきた土地で知らないことばかりなんだ。まあ細かい話は今度にしよう。それにしても村長、あなたは飲んでいないみたいだが酒は嫌いか?」

「いえそんな…大好きです。」

「それじゃあ飲もう。何も気にせず飲んでくれ。あとからとやかく言うような真似はしないよ。」

 そう言うと村長は安心したようで酒を飲み始めた。そして一度飲みだすとどんどんどんどん飲み始める。どうやらなかなかの酒豪らしい。安心仕切った様子の村長をみてミチナガもホッとする。

「しかしこんな釣りもあるなんてな。アンドリュー子爵に教えたら飛んできそうだ。あの人今どうしているんだろうなぁ…ミラルたちと合流してかなり経つけど仲良くやっているのかなぁ……」

『ポチ・あ~…ボス?そのアンドリュー子爵なんだけど……ちょっとやばいよ。』

「……俺…変なフラグ立てちゃった?」
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