上 下
267 / 572

第258話 初めての邂逅

しおりを挟む
「我が王よ。どうでありますか?」

「すげぇ!いい出来じゃん!これが初作品?やっぱヴァルくん才能あるよ。10分アニメが5本か。どれもストーリーも良いし、子供に好かれる事間違いないよ。」

「そ、そうでありますか。なんだかむず痒いですな。しかし1年がかりでこれではまだまだです。」

「まあテーマパーク建設も並行してやっているからね。ただ…しばらくはアニメの方に力を入れて欲しいな。それに絵本も欲しい。とにかく作品を世に広めて、認知度とともに人気を高める。そこでテーマパークを開園してファンの子達の心を鷲掴みにするんだよ。人気がないとテーマパーク作っても人が来ないからね。」

「ええ、私もそう思います。今は長編も考えておりまして…それに絵本も作業に取り掛かっております。」

 戦争に勝利した翌日の昼過ぎ、突如現れたヴァルドールはミチナガに話があると言って部屋に連れ込み、アニメ鑑賞とその意見交換をしていた。アニメの出来が素晴らしいものであったのでミチナガは高評価を出すとヴァルドールは嬉しそうにしている。

 ヴァルドール自身、このアニメにはよほど自信があったようで鑑賞し終えた後の話が止まらない。どこの作画を自分が手がけて、どこのアニメーションの変化が難しかったなど話したいことが山積みなのだろう。

 そんな中部屋をノックするものが現れた。すぐに使い魔が扉を開けるとそこにはイシュディーンとナイトがいた。2人は今までシェイクス国周辺で敗残兵が野盗化しないように見て回った後だ。

 しばらくはミチナガの安全ためにシェイクス国に残っているナイトだが、街にいると人が集まるのでこうして抜け出している。そんなナイトはヴァルドールと目を合わすとミチナガは二人の間に揺らめく何かを感じた。

「…強いな……」

「ほう?これほどの実力者…我が王のご友人で?」

「ああ、そういや紹介したことなかったっけ?こっちはナイト。俺の昔からの友人だ。モンスター討伐が得意でな、うちにモンスターの素材を卸してくれている。それでこっちはヴァルドール。こっちも俺の友人でうちのテーマパーク建設の責任者をやっている。アニメ産業の未来を担っているな。」

 ナイトとヴァルドールはミチナガの説明を聞いてお互いに歩み寄る。その距離はすでに1mを切った。その様子を見ているイシュディーンは顔を青ざめさせて失神しそうである。そしてナイトとヴァルドールは互いに腕をあげ……硬く握手を交わした。

「…ナイトだ……」

「我が名はヴァルドール。親しいものにはヴァルくんと呼ばれている。我が王の友人であるのであれば是非ともそう呼んで欲しい。そうだ!二人も是非とも我が作品を見ていってくれ。」

 ヴァルドールはすぐに見てもらおうと新しく2人分のアニメ鑑賞の準備を始める。飲み物に食べ物にと準備は万端だ。そんな準備をしているヴァルドールに気がつかれないようにイシュディーンがゆっくりとミチナガに近づき、コソコソと話し出した。

「ミチナガ様…もしやあの男……本物のヴァルドールですか?」

「あ~…やっぱ知っている?」

「……吸血鬼神、虐殺神、血の神…呼び名は様々ありますがどれも一貫して彼の凶悪性を表すものばかりです。…その……大丈夫なんですか?」

「ん~…かれこれもう1年は付き合っているからね。最初はビビったけど今じゃもう全然。普通に優しいやつだよ。人殺しだってしていないし。」

「準備が終わりました。こちらへどうぞ。」

 こそこそ話をしていたミチナガとイシュディーンは少し離れたところからヴァルドールに声をかけられてドキッとする。すぐに何事もなかったかのように案内されるまま座ったイシュディーンであったが、ヴァルドールに見られて思わず唾を飲んだ。

「かつての私の行いは確かに人々を恐怖させるものであった。過去のことだから忘れて欲しいとは言わぬ。ただ…これからの私の行いも是非とも知って欲しい。」

「き、聞こえて……あ…も、申し訳ない。その…つい……」

「いやいや、気にしてはいない。イシュディーン殿が話したことは全て事実。私を貶めるべく嘘をついたわけでもないのだから怒ってはいない。これからは人々を楽しませるために働きたいと思う。」

「……だが、血の匂いがするぞ。最近のものだ。しかも濃い。」

 急に声を出したナイトにびくりとするヴァルドール。その表情は強張り、冷や汗も流れている。そしてナイトの発言を聞いたイシュディーンは血の気を引かせる。そんな中ミチナガはなんてことないようにヴァルドールの元に近づいた。

「ナイトはああ言っているけど…何かしたのか?」

「実は…後ほど話そうと思ったのですが……ナイト殿は鼻が良いようだ。ではアニメを見る前にご報告を。実はここに来る道中、海上に法国のものと思われる船団を見つけまして…」

「法国!まさかもう進行して来たのか!!そ、それで奴らは!」

「我が野望と我が王の邪魔になると思い処分しました。」

「……へ?………数は?」

「10数万人程度でしょうか?手練れも多く少し時間がかかってしまいました。」

「10!……全滅させたの?」

「はい。ついでに我が血を与えて食屍鬼に変貌させ、法国に送り返しておきました。これで奴らも少しは懲りたことでしょう。」

「…………ヴァルくん…」

「はい。」

「……グッジョブ。」

「我が王のお役に立てたようなら何よりです。それではアニメ鑑賞に戻りましょうか。」

「え?…え!?それで終わり!?軽すぎませんかミチナガ様!」

 そんなイシュディーンの訴えは退けられ、アニメ鑑賞が始まる。もちろんアニメ鑑賞前の驚きが大きすぎてイシュディーンは頭に入らなかったようだが、その程度のことは気にしないナイトはアニメをしっかりと見ている。そんなナイトの瞳は若干輝いているように見えた。

 そして1時間も経たずに全てのアニメ鑑賞を終えるとナイトから拍手が送られた。

「実に良かった。良いものを見せてもらい感謝する。」

「おお!ナイト殿もお気に召してくれたか!これは嬉しい。やはり戦いよりもなんと充実し、なんと楽しく、なんと喜ばしいのだろうか!」

 喜色満面で小躍りするヴァルドールはすぐにナイトと今のアニメ談義に入る。言葉数少ないナイトだが、一言一言が心から出る本心であるため、ヴァルドールは本当に嬉しそうにしている。

 ヴァルドールもナイトもお互い孤独であったため、意外と気があうのかもしれない。そんな2人を見てミチナガも使い魔のムーンもヨウも嬉しそうだ。そんな中、イシュディーンだけはミチナガを見ている。

「準魔神クラス2人を保有する国など魔神が納める国以外に聞いたことがない。それこそ、そこらの大国など目ではない。どれだけすごいことか……おそらくよくわかっていないのだろうなぁ…」

『ポチ・まあ保有っていっても2人とも自由気ままだしね。こうやって2人揃うのも初めてだし。』

「ああ、ポチ殿。聞いていましたか。たとえ自由気ままでもいざという時にこうして集まってくれるのであれば頼もしいではありませんか。彼ら2人がいれば敵は数で攻めて来ても意味をなさない。準魔神クラスの実力者が敵にならない限り負けることはありません。」

『ポチ・でもナイトは基本、人苦手で森の奥に引きこもるし、ヴァルくんは下手に戦場に出ると各国から討伐軍組まれるよ。』

「………まともな戦力が欲しい。」

『ポチ・まあフリーな準魔神クラスなんてこんなもんだよ。』

「お前ら何話してんだ?そろそろマクベスが父親と話し終える頃だろうから行くぞ。早いうちに勝利パレードやるらしいからその打ち合わせもしないと。」

『ポチ・はいはーい。』
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

異世界営生物語

田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。 ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。 目覚めた先の森から始まる異世界生活。 戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。 出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

幸せな人生を目指して

える
ファンタジー
不慮の事故にあいその生涯を終え異世界に転生したエルシア。 十八歳という若さで死んでしまった前世を持つ彼女は今度こそ幸せな人生を送ろうと努力する。 精霊や魔法ありの異世界ファンタジー。

とある中年男性の転生冒険記

うしのまるやき
ファンタジー
中年男性である郡元康(こおりもとやす)は、目が覚めたら見慣れない景色だったことに驚いていたところに、アマデウスと名乗る神が現れ、原因不明で死んでしまったと告げられたが、本人はあっさりと受け入れる。アマデウスの管理する世界はいわゆる定番のファンタジーあふれる世界だった。ひそかに持っていた厨二病の心をくすぐってしまい本人は転生に乗り気に。彼はその世界を楽しもうと期待に胸を膨らませていた。

どーも、反逆のオッサンです

わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。

ドグラマ3

小松菜
ファンタジー
悪の秘密結社『ヤゴス』の三幹部は改造人間である。とある目的の為、冷凍睡眠により荒廃した未来の日本で目覚める事となる。 異世界と化した魔境日本で組織再興の為に活動を再開した三人は、今日もモンスターや勇者様一行と悲願達成の為に戦いを繰り広げるのだった。 *前作ドグラマ2の続編です。 毎日更新を目指しています。 ご指摘やご質問があればお気軽にどうぞ。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

処理中です...