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第247話 生き残りを賭けた戦いの始まり

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「戻ったかマクベス。とりあえず今日の戦闘が終わって指揮官全員集めた。それからこの国の情報とかも全部集めさせてもらった。色々勝手にやらせてもらったぞ。これから明日からの作戦の話し合いを行う。」

「わかりました。始めてください。」

 ミチナガにマクベス、それに護衛としてマックたちにこの国の戦場の指揮官5人が集まった。明日は全軍突撃の予定であったが食糧問題が片付いた今、その作戦は取りやめになり新しい作戦を立てる必要がある。

「まずは現状だ。今使い魔たちが集計してくれているが…この国の残存勢力は2万を切った。当初の5万から大きく減ったな。そして敵はというと…4万を切ったところだな。」

「戦力差は倍ですか……だけど…籠城ができるならまだ可能性はありますよね?」

「そう言いたいんだが…まずい情報が入ってきた。落ち着いて聞いてほしい。」

 ミチナガがこの国にやってきた時、零戦に乗ってやってきた。この零戦は使い魔のサクラの魔法能力によって召喚されたものなのだが、ミチナガを降ろした後、零戦は魔力が続く限りこの国周辺を飛び回った。そのおかげでこの国周囲200キロを偵察することができた。

 そしてそれによって知りたくもない事実がわかってしまった。それは今も向かってきている敵の増援だ。いくつかの軍団に別れているが、上空からその敵の総数が全て判明した。

「そ、総勢6万の増援!そ、そんな!どこにそんな戦力があるんですか!だって…すでにリア国は4万近くの兵士がこれまでの戦闘で失われたのに…」

「リア国じゃない。他国からの援軍だ。数は2万くらいの兵士が3つに別れていた。おそらく…1週間もあれば全員この国に到着するだろうな。そうなったら…10万の敵に対して2万に届かない兵士で戦う。速攻で負けるな。」

 現場に悲壮感が漂う。光明が見えたと思ったらさらなる絶望に落とされた。しかしそんな中ミチナガだけは今でも諦めずに作戦を立てている。マクベスはそんなミチナガを信頼している。マクベスは何か作戦があるらしいミチナガに策を求めた。

「3倍差までだ。戦力が3倍以上の差ができない限り可能性はまだある。つまり敵が6万までならなんとかできる。敵の増援の第1陣は明後日到着する予定だ。増援が合わされば6万いないくらい。つまりなんとかできる。そこでうまく潰して半数まで減らして…3万にする。さらに全軍集合する前にもう1万減らせば…物資の保つこの国は勝てる可能性がある。」

「確かに攻城戦なら3倍差ならどうにかできると言いますけど…そんな上手くいきますか?敵はもうこちらの食糧切れを待っています。攻め込んでくれなくちゃ…」

 マクベスの言う通り敵が攻め込んでくれなくては攻城戦も3倍の戦力差も何も関係ない。それこそ敵は全軍到着するまで待機してから攻め込んできてもなんの問題もない。しかしこれに関しては一つの可能性があった。

「マクベス、お前が敵の気持ちになって考えてみろ。目の前には敵がいる。城壁の上にはヘロヘロの兵士ばかり。戦力差は3倍近い。お前なら攻めるか?攻めないか?」

「攻める…と思いますけど、増援が来るなら待つかもしれません。」

「じゃあ…その前日、丸一日敵は大した防衛もすることなく100人くらいが頑張るくらいだったら?さらに敵の食料はすでに無くなっていると言う情報も入っている。」

「それは……」

「さらに増援が来ると言ってもその増援は他国だ。早めに攻め込めば…手柄は自分だけのものになる。少し待てば増援は来るかもしれないが……戦後、ヘロヘロの敵を相手に全軍到着するのを待っていた弱虫などと誹られる。手柄は新しくきた増援だけのものになるだろうな。それなら?」

「それなら…!」

「食料の配給は終わらせたがみんな静かだろ?使い魔たちは全員に腹一杯飯を食わせた代わりに絶対に騒ぐなと命令させておいた。敵からしたらどう見える?あいつらは食うものも食えずに悲壮感漂っていると思うだろうな。さらに今日俺たちがきてから大量の武器を使った。奴らからしたら明日突撃する前に攻城戦で使えるものを全部使ったと思っただろうな。つまり明日敵は強く攻めてこない。待っていれば突撃して来ると思っているからな。」

「明日は敵が強くせめて来ずに終わる…そして翌日増援が到着したところで一気に攻め込んで手柄を自分たちのものにする!」

 ミチナガは敵の得ている情報を逆手にとって作戦を立てた。敵はミチナガという一国の物資全てをまかなえる怪物が来たことを知らない。いや、そんなのがいると思ってもいない。敵からしたら当初得ている情報通り食料がなくなったという情報を信じるだろう。

 そして全軍突撃して来るという情報も得ている可能性が高い。ならばわざわざ城攻めをせずに敵が出て来るのを待てば良い。そうすれば最小限の労力で勝つことができる。だから明日はわざわざ攻め込んでこない。

「指揮官全員に命令する。明日は丸一日100人程度を交代させながら戦わせろ。基本的には兵士の休暇にあたらせるんだ。本番は明後日、敵の総攻撃を命がけで阻止しつつ敵の数を半分以上減らすんだ。わかったな!」

「「「はっ!!」」」

 なんとか綱渡り的な戦場の維持ではあるが、作戦通りいけば負けずにこのままの状態を維持できるかもしれない。そうしたら敵の方が先に食料がなくなり退却する可能性もある。攻めずに守り続ければなんとかなるかもしれない。

 少しでも光明が見えたことで戦意は取り戻せそうだ。戦争において重要なのは兵士たちの気持ちだ。士気が高ければ高いほど少数の味方だけでも大勢の敵と戦える。こういった防衛戦では士気を保つことが重要になる。勝てる可能性があることを示すことが重要になる。

 そして翌日、ミチナガの予想通り敵は攻勢に出てこなかった。こちらの様子を伺うような、こちらを疲れさせるだけのような攻撃しかしてこなかった。おかげで少数の味方で対処することができた。

 兵士たちは戦場で疲れた肉体や精神を回復させ、十分な休息がとれた。さらに翌日の防衛戦の説明を行い、明日の戦いの重要性を理解させることで士気も維持することができた。準備は万端だ。

 そして翌日、今後に関わる重要な戦いの火蓋が切って落とされる。午前中までは敵も特に攻勢には出てこない。それどころか完全に下がっている。そして正午を過ぎたあたりに2万の増援がやって来た。

 敵の総勢は6万に届かないくらい。それでもこちらより3倍近い戦力だ。城壁の上で隠れている味方は敵の数に息を呑む。しかし誰も戦意を喪失していない。ここにいる皆、実に良い戦士だ。そこらの雑兵ならば恐怖に顔を歪ませているだろう。

 そして敵の増援が到着してから2時間後、敵はこちらの攻撃が届かない位置まで集合したのちに一斉突撃を開始した。6万の敵兵の突撃は城壁の上にいる兵士たちまでその突撃の揺れを感じさせた。

 6万の人間が突撃すればこれほど強固な城壁も揺らすという事実が兵士たちの心臓の鼓動を早める。しかしその6万の兵士に対応しているのは今も100名ほどの兵士だけだ。敵を十分に引き寄せるために他の兵士は城壁の影に隠れて合図を待っている。

 突撃して来た兵士たちが城門にたどり着いた。しかしまだ動かない。城壁にハシゴをかけ出した。それでも動かない。もっと敵を引きつける。敵が慌てて撤退するのを少しでも遅らせるためにまだ動かない。

 やがて城壁周辺に敵兵が押し寄せてハシゴを登る順番待ちを始め、城門を破壊するのを待ち始めた。そしてついにハシゴを登り切ろうとした敵兵が現れたその時、ついに号令がかかる。

 城壁の上に突如現れた2万弱の兵士に敵兵は驚きを見せる。しかしそれでもまだこちらのことを弱っていると錯覚している。しかしこちらの兵士たちは十分な食事をとり、一日、さらに今日の半日以上休むことができた。

 さらに武器も大量に備えてある。ミチナガ商会特製の武器が文字通り、火を吹いた。

『黒之弐十弐・やれぇ!汚物は消毒じゃーい!!』

「「「おお!」」」

 突如巨大な火柱を上げるそれは魔導装甲車に備え付けられていた火炎放射器だ。初登場の際はあの巨大ダンゴムシになんの成果もあげられなかったが今回は違う。大量の粘性のある燃料はすぐに燃え尽きることなく城壁の下に待機している敵兵に降り注ぐ。

 この世界においてどんな攻撃も魔力を帯びていなければ意味がない。しかしこの火炎放射器の燃料は元々モンスターなどの生物の死骸が何万年とかけて石油となったものだ。その石油には大量の魔力が宿っている。

 城壁の下で待機していた敵兵の頭上から降り注ぐ火炎放射は、その粘性のある燃料を敵の頭部に付着させなおも燃え続ける。その温度は実に1000数百度はある。頭部を燃やされた敵兵はもがき苦しんで死んでいく。

 その死因は熱による焼死もあるが、燃料が燃えた際の有害物質を多量に吸い込んだことによる中毒死も多い。さらに火炎放射器の数が足りない場所には特製の火炎瓶を大量に配布してある。一人当たり100本以上投げられた火炎瓶は城壁の下を火炎地獄にする。

 登りあがる煙が城壁の下の惨状をありありと知らせてくれる。これだけの煙ならば敵兵も中毒死で多く死んでいるはずだ。もちろん城壁の上にも煙は登っているため、こちらにも被害が出そうなものだが、そこは風魔法で煙を弾いている。

 敵も同じように風魔法で煙を追いやっているものもいるが、そんなことをすれば逆に火に風を送り込むことになるので火の勢いは増していく。水をかけて消そうとしているものもいるが油に水を注いだところでそう簡単に火は消えない。

 この大惨事に敵も混乱を起こしている。これではまずいとすぐに撤退の指示を出しそうなものだが、なかなか撤退しない。それもそのはずだ。敵の指揮官は集中的に狙われて倒されている。

 突撃して来た際に使い魔達が指揮官と思われるものに目星をつけてマーカーをつけておいた。そのためこの混乱の中でも、この煙の中でも使い魔達には敵の指揮官の居場所がよくわかる。それを周囲の兵士に伝えて集中的に火炎瓶を投げたり、弓矢を射ったりしている。

 おかげで指揮官を失った部隊は混乱し、そのまま火炎瓶の餌食となる。ミチナガ商会の最大の兵器とも呼べる火炎放射器だが、それだけではなく今日のために使い魔達は新たなる兵器を入手していた。それは英雄の国で開発された、まだ実戦投入されたことのない兵器。

『親方・こっちのボルトは締めたっすよ。そっちは?』

『スミス・問題なしっすね。それじゃあお披露目といきましょう。』

 大事そうにかけられていた布を取り外す。するとそこには巨大な大砲が置かれていた。一般的には魔導砲と呼ばれる兵器なのだが、魔力効率や威力の問題から普通に魔法使った方が良いという理由で全く使用されていない兵器だ。

 しかしそんな兵器を英雄の国の兵器研究部門が新たに研究し直すことでその可能性を見出し、使えるように改造することに成功した。使い方は魔力を注ぎ込み、銃口を相手に向けて発射するだけだ。早速近くの兵士に魔力を注ぎ込んでもらい、発射準備をする。

『親方・もう少し右右…ちょい上…そこでオッケーっす。』

『スミス・では敵の指揮官に向けて…発射!』

 打ち出された魔力弾は雷撃を帯びており、超高速で目標に到達。目標に着弾し、5mほどのクレーターを生み出した。威力は問題ない。これは成功…と思ったのだが…

「ま、魔力が半分以上なくなって…」

「3人がかりでこの成果だと…」

『親方・成人3人の魔力半分使って10人ほどしか倒せないっすか。』

『スミス・威力は十分だけど…費用対効果から考えるとまだまだっすね。』

 どうやらまだまだ成功には程遠いらしい。後この兵器が3門あるのだが、お蔵入りになりそうだ。これの購入費用はかなりのものなのだが、これからクーリングオフ可能か頭を悩ませることになりそうだ。
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