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第242話 マクベスの話1
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「おーい、マクベス坊ちゃんよ。こいつはここでいいのか?」
「ぼ、坊ちゃんはやめてくださいよ、マックさん。それはそこで大丈夫です。だけど…本当に逃げなくていいんですか?」
隣国のリア王国による開戦の宣誓がされてから数日、シェイクス国では来るべき戦争に備えて住民の避難と物資の移動を始めていた。マックたちはこの国の人間でないので、すでに退去勧告が出されている。しかしマックたちは逃げようとするそぶりさえ見せない。
「まあミチナガのやつに約束しちまったからな。お前を助けてやるってよ。それにお前みたいなガキが逃げないのに俺たちだけ逃げるわけにはいかないだろ?おっと、ガキとは失礼しました王子様。」
「や、やめてくださいって…本当に扱いは使用人よりも下なんですから……」
「すまんすまん。ちょっとからかいすぎた。だけどおかげで今回の戦争でもそこらへんでゆっくりできるってもんだろ?いざとなったら逃げられそうだし…って逃げる気は無いんだっけな。物好きなやつだ。」
「こんな僕でも…故郷を見捨てて逃げるのは嫌なんです。それにミチナガさんに顔向けできませんから。」
マクベスとマックたちは丸一日中荷物を運び続けている。また明日も同じような作業を繰り返すのだろう。なんとも面倒な役目だが、前線に出ないだけましだ。マックたちは冒険者として常に生き残り続ける選択をする必要がある。兵士のように国のために名誉のために戦うということは特に気にしていない。
しかしマクベスとマックたちの待遇はひどいものだ。配給される食事は全部で数個のパンと野菜クズだけ。これではまともに働くのも厳しい。しかしマクベスたちの食卓には毎日豪勢な食事と酒が並んでいる。
『ヘカテ・今日もお疲れ様。他のみんなも揃っているから早く食べよっか。』
「お!今日も豪勢だな。へへっ、城のやつらは俺らのことなんて気にしていないから好きなだけ食えるぞ。ケック、お前らの方の仕事はどうだった?」
「相変わらずっすよ。馬車を使って城壁近くまで武器を移送するだけっす。一番良いのはウィッシっすよ。こういう時の土魔法使いは便利っすね。」
「それでも毎日魔力が尽きるまで働かされるのは勘弁してほしいものだ。敵の突撃を止めるために城壁周辺に落とし穴や沼地を生成するのも一苦労だぞ。」
「みなさんすみません…あの…本当に今からでも…」
「それはもう言わない約束だろ?ほら、仕事の愚痴はここまでにしよう。ああ、それからヘカテ。またいつものだ。今日はあまり無いがな。」
『ヘカテ・さすが元盗賊のナラームは手癖が悪いね。だけど別にこんなお金のことは気にしなくて良いのに。』
「いいんだよ、あいつら給金を渡さないんだからな。それにガーグが酒を飲みすぎる。」
「あ?こんだけ働いたんだから酒くらい飲ませろ。ほら、とっとと食うぞ。」
今日もマクベスとマックたちは楽しげに食事をする。ここは元々王城で働く庭師が使用していた離れの小屋なのだが、母親の死後マクベスはずっとここで一人暮らしていた。今ではマックたちも加わりなんとも楽しげに食事をしている。
マクベスにとって嫌な思い出しかない場所であったのだが、今ではそんな過去を塗りつぶすように楽しい思い出が積み上がっていく。そしてこの日からほんの数日後、シェイクス国とリア国の戦争が開戦された。
「衛生兵!衛生兵はどこだ!」
「マックさんこっちです!」
まだ戦争が始まってから二日。ゆったりと始まる戦争かと思いきや開戦直後から激しい衝突が起きた。すでに怪我人が多すぎるため診療所はパンク寸前だ。それでも魔力のあるこの世界では魔力による自然治癒が発動するため、ある程度の怪我ならば半日休めば前線に復帰できる。
そして前線に戻ったものの行く末は死体になるか再び怪我人として診療所に戻れるかだ。これだけ激しい戦闘になるとは思ってもおらず、ガーグのような力持ちは前線に物資を供給し続けている。毎日戦闘が終わった後も翌日の分の物資の補充でマックたちは休む暇もない。
マックやマクベスが休めるのは日を跨ぎ、夜明けの数時間前だ。そこで無理やり食事を詰め込み寝床につく。マックたちはまだ数日なので耐えられるのだが、マクベスはすでに疲労困憊で倒れそうだ。マックたちはマクベスが少しでも休めるようにサポートを続けている。だがそれでも人手が足りなさすぎる。
ヘカテもそんなマックたちを助けるために眷属を用いて情報のやり取りをしている。そのおかげで多少は楽になっているらしく、マックたちは感謝している。しかし開戦から数日でこの調子ではマックたちの体が持たない。
しかしそれ以前におかしなことにマックたちは気がついた。そしてなんとか早めに切り上げ、久しぶりにゆっくりと食事をとり、風呂に入ったところでマックたちは切り出した。
「何かおかしいだろ。これは…攻城戦だろ?攻城戦はどうしても時間がかかるものだ。ここはゆっくりと時間をかけて攻めるべきだ。そして敵が疲弊したところで一気に攻め入る。」
「そうっすね。なのにこれじゃあ敵の方が疲弊してすり潰れるっすよ。第一…向こうの方が兵力少ないんすよね?どうなんすかウィッシ。城壁周辺の罠作っていたんだからそういう情報も入っているっすよね?」
「ああ、間違いなく少ない。これは勝ち戦だ。だが…マックの言うとおり何かがおかしい。城壁周辺の物資が足りなくなったのもここまでの攻勢に出ると思っていなかったからだ。現に聞いたところによると敵の数はすでに半分まで減っているらしい。」
「あ?じゃあもうこの戦争終わんのか?なんだよオイ。楽なもんだな。」
「まあガーグの言うとおりこのままじゃ本当に楽に終わる。だけどあまりにも楽に終わりすぎる。……明日一日休みをくれ。調べてみる。」
『ヘカテ・僕もナラームを手伝うよ。眷属を使えば人間では入れないところに入って調べられる。それに…もしもの時、すぐに情報が送れる。』
「決定だな。今日は休んで…日の出前に行動する。明日で開戦から1週間か…」
「何事もないといいんですけど……ぼ、僕もいざと言うときは頑張ります!」
そして翌日、運命の1週間目を迎えた。マクベスは早朝、まだ誰も動き出していない時間に一人墓地にいた。そこにはマクベスの母親のお墓があった。マクベスを産んでから5年ほどで流行病にかかり亡くなってしまった母親。記憶に残っているのはほんの2~3年の出来事しかない。
しかしその2~3年の間にマクベスは母親からあふれんばかりの愛情を受けた。その母親の愛情があったからこそマクベスは今まで生きてくることができた。マクベスは母親のお墓に植えられている花に水をやる。
本当は切り花を持ってこられたらよかったのだろう。しかしマクベスにそんな余裕はなかった。だから母親の生前に大切にしていた花の苗をここに植え替えた。その花はカランコエと呼ばれる多肉植物。マクベスの大好きな花だ。
赤い花、黄色い花、白い花と様々ある。小さな花で密集してたくさんの花を咲かせる。マクベスは小さな花が一生懸命咲き誇るこの花が大好きだ。そして植物について勉強し、この花言葉を知った時にもっと好きになった。
マクベスはいつものように水をやり、祈るように手を合わせた。ナラームに何事もないように、この戦争が何事もなくこのまま終わるようにと。しかしそんなマクベスの願いは叶うことはなかった。
その日の昼過ぎ、まだ外で戦闘音が鳴り止まない中、突如城壁の中で火の手が上がった。戦闘音で皆気がつくのが遅れて対処しきれなかった。そんな中マクベスは近くにいたマックと使い魔のヘカテによって連れられて逃げた。
「な、何が…」
「わからん!だが…何かまずいことが起きている……ヘカテ…お前ならわかるか?」
『ヘカテ・待って…よし、ナラームは大丈夫そう。裏切りだよ。第3王子、第4王子、第2王女、第3王女、第4王女の5人が裏切った。大きなことをやろうとしたところでナラームが妨害してさっきの火の手が上がった。眷属全員やられたけどナラームの無事は確保できた。ってマック!前!』
マックの目の前から裏切り者の王族の手下と思われる兵士が現れた。マックはマクベスを守りながらでは戦えないと判断してすぐに逃げ出したのだが数が多い。するとヘカテが足止めのために収納されている食料やらなんやらを大量に放出して道を塞ぎ時間を稼いだ。
マックはマクベスを連れてそのまま逃げる。少し離れてしまったヘカテは回収することができず、そのまま見捨てることにした。しかしヘカテは死んでもすぐに復活できる。だから見捨ててもなんの問題もない…はずであった。
「ぼ、坊ちゃんはやめてくださいよ、マックさん。それはそこで大丈夫です。だけど…本当に逃げなくていいんですか?」
隣国のリア王国による開戦の宣誓がされてから数日、シェイクス国では来るべき戦争に備えて住民の避難と物資の移動を始めていた。マックたちはこの国の人間でないので、すでに退去勧告が出されている。しかしマックたちは逃げようとするそぶりさえ見せない。
「まあミチナガのやつに約束しちまったからな。お前を助けてやるってよ。それにお前みたいなガキが逃げないのに俺たちだけ逃げるわけにはいかないだろ?おっと、ガキとは失礼しました王子様。」
「や、やめてくださいって…本当に扱いは使用人よりも下なんですから……」
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「こんな僕でも…故郷を見捨てて逃げるのは嫌なんです。それにミチナガさんに顔向けできませんから。」
マクベスとマックたちは丸一日中荷物を運び続けている。また明日も同じような作業を繰り返すのだろう。なんとも面倒な役目だが、前線に出ないだけましだ。マックたちは冒険者として常に生き残り続ける選択をする必要がある。兵士のように国のために名誉のために戦うということは特に気にしていない。
しかしマクベスとマックたちの待遇はひどいものだ。配給される食事は全部で数個のパンと野菜クズだけ。これではまともに働くのも厳しい。しかしマクベスたちの食卓には毎日豪勢な食事と酒が並んでいる。
『ヘカテ・今日もお疲れ様。他のみんなも揃っているから早く食べよっか。』
「お!今日も豪勢だな。へへっ、城のやつらは俺らのことなんて気にしていないから好きなだけ食えるぞ。ケック、お前らの方の仕事はどうだった?」
「相変わらずっすよ。馬車を使って城壁近くまで武器を移送するだけっす。一番良いのはウィッシっすよ。こういう時の土魔法使いは便利っすね。」
「それでも毎日魔力が尽きるまで働かされるのは勘弁してほしいものだ。敵の突撃を止めるために城壁周辺に落とし穴や沼地を生成するのも一苦労だぞ。」
「みなさんすみません…あの…本当に今からでも…」
「それはもう言わない約束だろ?ほら、仕事の愚痴はここまでにしよう。ああ、それからヘカテ。またいつものだ。今日はあまり無いがな。」
『ヘカテ・さすが元盗賊のナラームは手癖が悪いね。だけど別にこんなお金のことは気にしなくて良いのに。』
「いいんだよ、あいつら給金を渡さないんだからな。それにガーグが酒を飲みすぎる。」
「あ?こんだけ働いたんだから酒くらい飲ませろ。ほら、とっとと食うぞ。」
今日もマクベスとマックたちは楽しげに食事をする。ここは元々王城で働く庭師が使用していた離れの小屋なのだが、母親の死後マクベスはずっとここで一人暮らしていた。今ではマックたちも加わりなんとも楽しげに食事をしている。
マクベスにとって嫌な思い出しかない場所であったのだが、今ではそんな過去を塗りつぶすように楽しい思い出が積み上がっていく。そしてこの日からほんの数日後、シェイクス国とリア国の戦争が開戦された。
「衛生兵!衛生兵はどこだ!」
「マックさんこっちです!」
まだ戦争が始まってから二日。ゆったりと始まる戦争かと思いきや開戦直後から激しい衝突が起きた。すでに怪我人が多すぎるため診療所はパンク寸前だ。それでも魔力のあるこの世界では魔力による自然治癒が発動するため、ある程度の怪我ならば半日休めば前線に復帰できる。
そして前線に戻ったものの行く末は死体になるか再び怪我人として診療所に戻れるかだ。これだけ激しい戦闘になるとは思ってもおらず、ガーグのような力持ちは前線に物資を供給し続けている。毎日戦闘が終わった後も翌日の分の物資の補充でマックたちは休む暇もない。
マックやマクベスが休めるのは日を跨ぎ、夜明けの数時間前だ。そこで無理やり食事を詰め込み寝床につく。マックたちはまだ数日なので耐えられるのだが、マクベスはすでに疲労困憊で倒れそうだ。マックたちはマクベスが少しでも休めるようにサポートを続けている。だがそれでも人手が足りなさすぎる。
ヘカテもそんなマックたちを助けるために眷属を用いて情報のやり取りをしている。そのおかげで多少は楽になっているらしく、マックたちは感謝している。しかし開戦から数日でこの調子ではマックたちの体が持たない。
しかしそれ以前におかしなことにマックたちは気がついた。そしてなんとか早めに切り上げ、久しぶりにゆっくりと食事をとり、風呂に入ったところでマックたちは切り出した。
「何かおかしいだろ。これは…攻城戦だろ?攻城戦はどうしても時間がかかるものだ。ここはゆっくりと時間をかけて攻めるべきだ。そして敵が疲弊したところで一気に攻め入る。」
「そうっすね。なのにこれじゃあ敵の方が疲弊してすり潰れるっすよ。第一…向こうの方が兵力少ないんすよね?どうなんすかウィッシ。城壁周辺の罠作っていたんだからそういう情報も入っているっすよね?」
「ああ、間違いなく少ない。これは勝ち戦だ。だが…マックの言うとおり何かがおかしい。城壁周辺の物資が足りなくなったのもここまでの攻勢に出ると思っていなかったからだ。現に聞いたところによると敵の数はすでに半分まで減っているらしい。」
「あ?じゃあもうこの戦争終わんのか?なんだよオイ。楽なもんだな。」
「まあガーグの言うとおりこのままじゃ本当に楽に終わる。だけどあまりにも楽に終わりすぎる。……明日一日休みをくれ。調べてみる。」
『ヘカテ・僕もナラームを手伝うよ。眷属を使えば人間では入れないところに入って調べられる。それに…もしもの時、すぐに情報が送れる。』
「決定だな。今日は休んで…日の出前に行動する。明日で開戦から1週間か…」
「何事もないといいんですけど……ぼ、僕もいざと言うときは頑張ります!」
そして翌日、運命の1週間目を迎えた。マクベスは早朝、まだ誰も動き出していない時間に一人墓地にいた。そこにはマクベスの母親のお墓があった。マクベスを産んでから5年ほどで流行病にかかり亡くなってしまった母親。記憶に残っているのはほんの2~3年の出来事しかない。
しかしその2~3年の間にマクベスは母親からあふれんばかりの愛情を受けた。その母親の愛情があったからこそマクベスは今まで生きてくることができた。マクベスは母親のお墓に植えられている花に水をやる。
本当は切り花を持ってこられたらよかったのだろう。しかしマクベスにそんな余裕はなかった。だから母親の生前に大切にしていた花の苗をここに植え替えた。その花はカランコエと呼ばれる多肉植物。マクベスの大好きな花だ。
赤い花、黄色い花、白い花と様々ある。小さな花で密集してたくさんの花を咲かせる。マクベスは小さな花が一生懸命咲き誇るこの花が大好きだ。そして植物について勉強し、この花言葉を知った時にもっと好きになった。
マクベスはいつものように水をやり、祈るように手を合わせた。ナラームに何事もないように、この戦争が何事もなくこのまま終わるようにと。しかしそんなマクベスの願いは叶うことはなかった。
その日の昼過ぎ、まだ外で戦闘音が鳴り止まない中、突如城壁の中で火の手が上がった。戦闘音で皆気がつくのが遅れて対処しきれなかった。そんな中マクベスは近くにいたマックと使い魔のヘカテによって連れられて逃げた。
「な、何が…」
「わからん!だが…何かまずいことが起きている……ヘカテ…お前ならわかるか?」
『ヘカテ・待って…よし、ナラームは大丈夫そう。裏切りだよ。第3王子、第4王子、第2王女、第3王女、第4王女の5人が裏切った。大きなことをやろうとしたところでナラームが妨害してさっきの火の手が上がった。眷属全員やられたけどナラームの無事は確保できた。ってマック!前!』
マックの目の前から裏切り者の王族の手下と思われる兵士が現れた。マックはマクベスを守りながらでは戦えないと判断してすぐに逃げ出したのだが数が多い。するとヘカテが足止めのために収納されている食料やらなんやらを大量に放出して道を塞ぎ時間を稼いだ。
マックはマクベスを連れてそのまま逃げる。少し離れてしまったヘカテは回収することができず、そのまま見捨てることにした。しかしヘカテは死んでもすぐに復活できる。だから見捨ててもなんの問題もない…はずであった。
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