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第203話 後を任せられた使い魔達

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『トーラ・…ということでこれを本館の着工に携わってくださった皆さんへの感謝の言葉とします。それでは…ちょうど開店時間1分前になりましたね。それではみなさん、ミチナガ商会最大店舗、獣人街店を開店いたします!』

 今日より数週間前、ついにゴウ族の号令のもと着工が始まったミチナガ商会が完成した。大きさは2.4ha、東京ドーム半分ほどの大きさだ。ただ階数が4階建ということで、客が入れる面積としたら東京ドーム2つぶんはあるだろう。

 正直こんなに大きくても扱いきれないし、手に余る。そのため、なんとか知恵を振り絞って、建物の一部を闘技場にして、賭博を始めた。獣人は血の気の多い人物が多いらしく、この闘技場の建設には大いに喜び、盛り上がった。リカルドになんとか許可を得るのは実に大変だったんだけどな。

 この闘技場で建物の一部を使うおかげでなんとかギリギリ手に余らないくらいの建物になった。しかし闘技場を併設するということで、それに伴う設備の拡充や商品配置の変更、さらには賭博のためのイカサマを防止するシステムを作るなど、店舗完成から開店まで随分と時間がかかった。

 そして開店した本日、すでに闘技場は満員御礼となった。街でスカウトした闘技者達なのだが、ゴウ氏族も関わっているためそれなりの武芸者が集まったらしい。初戦から1試合で金貨1000万枚が動くほどの人気だ。

 試合が始まると観客の声は建物を揺らすほどの大歓声だ。中にはヤジや罵倒もある。そして試合が進み、勝敗が決する。勝者には拍手喝采、敗者にはわずかばかりの慰めの言葉しかない。勝てばビックマネーと名声を得られる。

 ミチナガ商会としてのやることは客からの賭け金の精算をしたのちに残った売上の4割を勝者に、1割を敗者に与える。さらに1割を怪我の治療費にあてる予定だ。

 つまりミチナガ商会が得られる儲けは残りの4割。いや、運営費やスタッフ代などを考えたら微々たるものだろう。しかしそれでもこれだけの好条件を闘技者に与えるのには理由がある。

 それは人材の確保だ。ミチナガ商会は、というより世界貴族としてのミチナガ伯爵は戦力が圧倒的に足りない。だからこの闘技場という餌を使い、より良い闘技者をミチナガ商会で雇うのだ。獣人は貴族嫌いが多いということで貴族に雇われていない魔王クラス、準魔王クラスの実力者がいるはずだ。

 それに賭博ではあまり儲からないが、観客に売る飲み物や食べ物でそれなりに稼げている。帰り際には儲かった客が併設店舗で散財までして行く。つまり闘技場賭博の副次収入で十分稼げているのだ。

『トーラ・首尾は上々…今日の売り上げも全ミチナガ商会の中で3本の指に入るほど…これはたまらないね。お前達、闘技者の確保は順調か?』

「へい親分!上玉が一人確保できました。それから前座が3人ほどです。」

「すでに対戦表も出来上がっています。明日の試合も間違いなく盛り上がりますよ。」

 この二人は以前ミチナガに料理をぶっかけたやつらだが、すでに使い魔のトーラに心酔している。なかなか手荒く扱ったつもりなのだが、それでも付いてきたこの二人をトーラは気に入ってしまった。今では闘技場の運営、及び闘技者のスカウトをこの二人に任せている。

 この二人は人を見る目はなかなかあるようで、強そうな闘技者をどこからともなく確保してくる。初日の大成功もこの二人のおかげだろう。良い拾い物をしたものだとトーラは自画自賛しているが、何か色々違う気がする。




『ドルイド・…順調……必要なもの……』

『ハジ・ああ、ドルイドさん。今のところ順調ですよ。新しい住居の建設も賢者の石の採集も滞りなく進んでいます。必要なものは…他の経由でなんとかなっていますね。ああ、子供達のために花壇を作ろうかと思っているんですが、花を咲かせてもらえますか?』

『ドルイド・…理解……』

 現在白獣の村には使い魔のハジとジュウが在留している。ハジは主にこの白獣の村の設備や建物の管理を担当し、この場にいないジュウは賢者の石の採集に助力している。ドルイドは白獣の村周囲を覆う森を管理する精霊になったため、時折問題がないか聞き込みに来る。

 今回は花壇を作って欲しいという依頼なのでハジの案内の元、場所を移動するとハジの眷属達がせっせと花壇を作っていた。そこには子供達もいる。子供達は花などの植物がすっかり好きになってしまったようで、花壇を作ることを大いに喜んで眷属達を手伝ってくれている。

「あ!精霊様だ!」

「使い魔の精霊様だ!こんにちは!」

『ドルイド・…こんにちは……花…』

『ハジ・ほらみんな、ドルイドさんがみんなのためにお花を咲かせにきてくれたよ。』

 わっと喜ぶ子供達の前でドルイドは種を蒔き、そこに息を吹きかける。すると種はみるみると生長を始め、あっという間に花を咲かせてしまった。これには子供達も大喜びだ。

 どっと疲れがきたドルイドであったが、初めて精霊魔法を使った時よりもだいぶ楽になった気がする。まだ精霊として半人前のドルイドは早く慣れるために毎日様々な精霊魔法を行使している。一人前の精霊になるために日々努力を惜しまないドルイドをハジは尊敬している。

『ハジ・お見事です。しかしいつ見ても精霊魔法はすごいですね。僕たちは普通の魔法が使えないので羨ましい限りです。…そういえば他の大精霊様に連れて行かれたあのお二方はどうしていますかね?』

『ドルイド・フラワー…いつも通り……ファーマー…泣いている……』

 時折、精霊の先輩としてドルイドの元に花の大精霊の元へ弟子入りしたフラワーと、草の大精霊の元へ弟子入りしたファーマーから連絡が入る。フラワーはいつものようにほんわかした感じなのだが、ファーマーは助けてくれと泣きついてくる。

 どうやら草の大精霊はかなりのスパルタらしい。まあ世界有数の危険地帯を収める大精霊を師事しているのだから仕方ないのかもしれない。二人ともまだまだ修行が必要なようだが、そのうち立派な精霊に昇華できることだろう。

『ジュウ・あれ?ドルイドさん来ていたんですか。あら、立派な花壇までできちゃって。』

『ハジ・お疲れジュウ。休憩?作業は順調に進んでいる?』

『ジュウ・もち!ただね、この賢者の石なんだけどなんか…不思議なんだよね?まあ研究者じゃないから何が変とかはいえないんだけど…』

『ドルイド・…時期に…わかる……きっと…』

『ジュウ・…そうっすね。ああ、考え事していたらお腹減っちゃった。よかったらお茶しません?』

『ハジ・良いね。じゃあみんなで花壇のお花で花見をしながらおやつ食べようか。』

 使い魔達とその眷属と子供達と、騒ぎを聞きつけてお菓子を食べにきた大人達とみんなでお茶を飲みながらお菓子を食べる。やがて一人の大人が酒を持ってきてしまい、まだ日も暮れていないのに酒盛りが始まってしまった。

 どうやら今日の仕事はここまでのようだ。大人も子供も精霊も使い魔も眷属もみんなで歌い、騒ぐ。今日も白獣の村は平和で幸せのようだ。




『ウミ・だーかーらー!なんでもっとアピールできないかな。好きなんでしょ?その子のこと。』

「そ、そうですけど…僕みたいな男じゃ釣り合わないというか…なんて話しかけても良いかわからないし……」

『マリン・その気持ちはわかります。ですがやはり気持ちは行動で示さないと相手に気がついてももらえませんよ。大丈夫です、まだ出会って間もないですがジョーは優しくて良い男です。自信を持ってください。』

 ここは海上都市のとある居酒屋。現在、ミチナガ商会をこの海上都市に出店する予定なのだが、手続きに時間がかかっており店舗も用意できていない。今はその手続きが完了したという返事を待ちながら恋愛相談に乗っている。

 使い魔達に恋愛相談をしているのはミチナガがこの国で使い魔達の世話を頼んだジョーイマリアスという魚人だ。名前が長いので使い魔達はジョーと呼んでいる。使い魔達はこのジョーの実家に泊めてもらっている。

 おかげでかなり親睦が深まり、こうして恋愛相談に乗っているのだが、いつの間にかミチナガ商会よりもジョーの恋路の方が気になってしまっている。

 ちなみにジョーの好きな女の子は真珠販売をしている店の一人娘。この海上都市では宝石というと真珠というイメージが強い。ただ値段はそこまで高くない。誰もが持っている宝石の一つだ。

 真珠販売という仕事は一生安泰と言える仕事で、家柄としても問題ない上にその女の子は人魚なのだがとても可愛い。やはりジョーのように好きになっている男は多いらしい。ただジョーは他の男よりも少しだけ有利な点がある。

『ウミ・元幼馴染ってことで気軽に話しかけるんだよ。もっと自信持って!』

「そ、そうは言ってもたったの2~3年のことだよ。うちの父親と彼女の父親が一時期取引していただけで…」

『マリン・だけどその時から好きなんでしょう?良いんですか?このままだと他の男に取られてしまいますよ?』

「そ、それは嫌だけど……ただ彼女がそう望むなら…僕は……」

『ウミ・あ~~!もうっ!じゃあ僕たちできっかけ作るから!うちで彼女の家と契約結ぶからその時に話かける!僕たちの保護者なんだから良いね!じゃあ行こう!』

『マリン・待ちなさい。うちはまだこの国での取引は禁止されていますよ。手続きが終わらないとダメなんですから。それまで落ち着きなさい。』

『ウミ・もうもうもう!早くしろ!ジョー!お前の先輩に早く仕事しろって言ってこい!』

「そんな無茶な。」

 白熱したやり取りになっている。しかしあえて言おう。このやり取りはすでに3回目だ。酒が入っているので使い魔達もジョーも同じ話を何回もしている。

 そして後日、ようやく海上都市での商売の許可が下りた。ウミとマリンは約束を果たすためにジョーを連れてその好きな女の子の親の店に取引に行く。

 ガチガチに固まったジョーはその女の子と無事話すことができるのか、その女の子と付き合うことができるのか、そして海上都市で出店する予定のミチナガ商会はいつになったら開店するのか。その話はまたいつか…

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