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第201話 世界の広さ

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「う…うぁ…ここは…生きている?」

『ポチ・あ、起きた起きた。おはようボス。もう朝だよ。』

 俺は周囲を見回して現状の確認をする。どうやら魔導装甲車の中らしい。シートベルトを外そうと腕を上げたのだが、体が痛む。それでもなんとかシートベルトを外して体を確認するとシートベルトの形をして鬱血している。

『ポチ・ものすごい重力だったからいろんなところがアザみたいになっているね。』

「一瞬で気を失ったからその時は痛みとかよくわからないけどな。それで…ここはどこだ?」

『ポチ・海の上だよ。確認して見て。』

 俺はため息をついて外の様子を確認する。すると確かにここは海の上だ。まさかこの魔導装甲車が水陸両用だったとは思いもしなかった。周囲に島のようなものは見えない。一体どこまで飛ばされたのだろう。俺はひんやりと冷たい魔導装甲車の車体に触れながら頭をリセットしていた。

「まず色々聞こう。飛ばされてから一体どのくらいの時間がたった?それになんで生きているんだ?かなり飛ばされたはずだ。この魔導装甲車だって壊れてもおかしくないはずだ。」

『ポチ・飛ばされてから約17時間が経過したよ。生きている理由と魔導装甲車が壊れていない理由はおそらくだけど氷神が魔力をまとわせてくれたんだと思う。車体が冷たかったでしょ?氷神の冷たい魔力がこの車体を覆っているからだと思うよ。』

 つまり信号弾をなんとか察知してくれた氷神は魔導装甲車が跳ぶ瞬間に魔力で強化してくれたってことか。ただ飛んだわずかな瞬間だけは強化されなかったので、その一瞬で俺は気を失い、体に痣が残ってしまった。そういうことになるわけだ。

「完全に助けられなかったのは煉獄が襲って来たから、そしてお前たちは現状確認中ってところだな?」

『ポチ・大正解。水上都市に残ったマリンたちに連絡を取って現在地の情報収集中。ただ急いで移動したいね。氷神の強化がいつまでもつかわからないし。それとミラルたちにも無事だって報告しておいた。それからしばらくはその場で止まるようにとも伝えておいた。迎えに来るのは無理だからね。』

「そんなに飛ばされたのか?スマホのマップアプリで確認できるか……これまじ?1万キロ以上飛んだの?17時間で?まじで?」

 氷神の強化がなかったらきっとこの魔導装甲車は空中分解して俺たちはそのまま死んでいたな。なんとも運が良いのか悪いのか。とりあえず飯でも食いながら現状報告を待っているとポチの様子が明らかにやばい感じになった。

『ポチ・や、やばいよ…どうしよボス。マリンたちに確認してもらったけどここ…9大ダンジョンの真上らしい。』

「9大ダンジョンの真上?確かダンジョンは現状金貨で覆い尽くされて進入できなくて、溢れかえった魔力で周辺環境は超危険地帯なんだよな?」

『ポチ・そう…9大ダンジョンが一つ、深海のアトランティス。その周辺環境は超危険な深海モンスターばか…』

 そういうと突如謎の浮遊感に襲われた。すぐにスマホを確認すると魔導装甲車の外でくつろいでいた使い魔たち曰く、突如噴水が上がって吹き飛ばされたらしい。それにしては衝撃が少ない。これも氷神の強化魔法のおかげなのだろう。

 そんな呑気なことを考えていると取り残された使い魔から報告が上がった。噴水の主は体長200mを超える巨大な白鯨だ。どんなものなのかは冒険者ギルドのモンスター図鑑の情報を記録してあるのですぐに何かわかった。

 通称島呑み。島ごと飲み干してしまうほどの巨大なクジラで、通常は黒い。しかし今回のような白鯨は希少種でこのダンジョン周辺にしか現れないらしい。ちなみに危険度はSSSだ。これは死ねる。

 さらに運の悪いことに飛び上がった魔導装甲車を手ごろな餌だと思ったのかそのまま追いかけて来た。これにはたまらず、魔導装甲車は着水と同時に全速力で逃げ始めた。

「フルスロットルで逃げろ!もっと早く!」

『ポチ・もうフルスロットルだよ!海の上でも大丈夫だけど海の上を走る用の装備をちゃんとつけてないからそんなに速度が出ないの!』

エン『“白鯨の姿が消えたよ?もう安全かな?”』

『ポチ・嫌な予感がする…最終手段を使おう。』

 するとポチは眷属を召喚して魔導装甲車の外に出す。一体何をしているのかというと爆弾を使ってこの魔導装甲車を吹っ飛ばすらしい。そんなことまでする必要はないとは思うのだが、ここはポチに任せておこう。

 外に仕掛けた爆弾の秒読みが始まる。そして巨大な爆発音とともに魔導装甲車は大きく吹っ飛んだ。それでもダメージがないのは氷神の魔法強化のおかげだろう。そしてスマホを確認すると海の上で未だに漂っている使い魔のエンから報告が入った。

エン『“真下から白鯨が飛び出して来て魔導装甲車のあった場所を飲み込んじゃったよ。ちなみに僕も飲み込まれた。気分はピノ◯オだね。”』

ミチナガ『“お前悠長だな…だけどポチのナイス判断のおかげで助かったってことか。”』

エン『“それはどうだろ?飛び上がった白鯨はそっちに向かって倒れこんでいるみたい。これ以上は外の様子が見えないからわからないや。バイバーイ。”』

「嘘だろ!ポチ!何か策は!」

『ポチ・流石に無理…魔法強化を信じよう。魔神の力だもん。』

「嘘だろぉぉぉぉ!!」

 俺の悲鳴など御構い無しに倒れこんで来た白鯨は魔導装甲車を弾き飛ばして100mを優に超える水柱とともに海水面に着水した。しかし幸か不幸かその衝撃のおかげで魔導装甲車は水切りの石のように海水面を跳ねるように飛んでいった。

 しかしこれで逃げられると思ったのもつかの間、白鯨はこちらを追い続けている。しかしなぜこんなにも白鯨はこの魔導装甲車を追い続けているのだろう。あの体ではこの魔道装甲車など小さな獲物だ。それが一体なぜ…

「ん?もしかして…使い魔たちを追って来ているとか?前の妖精喰いの時みたいな。お前ら落ちパクだったもんな。」

『ポチ・つまり僕たちはそれほど魅力的な餌ってことかな?いやぁ~それほどでも。』

「褒めてねぇよ、はっはっは………降りろぉぉぉ!!」

 可能性は十分ある。あの巨大魚の妖精喰いは使い魔たちにゾッコンだった。使い魔を投げれば必ず食いついてくるほど魅力的な餌だったのだ。あの白鯨が同じように思っても不思議ではない。

 しかしポチを降ろすと魔道装甲車の運転ができなくなる。こいつら自分たち仕様にこの魔道装甲車を改造しているから俺では運転できない。ここはスマホの中の使い魔たちを餌に使うしかない。

 だけどそんな暇はなさそうだ。魔道装甲車による水切りが終わったと思ったら今度は白鯨が泳いだ際に起きた津波がいくつもこちらに向かって来た。どれも10mを優に越すビッグウェーブだ。

 そのビッグウェーブに押し流され、なんとか白鯨から距離を取ることに成功した。しかし白鯨はそんな俺たちにやきもきしたのか大きく口を開けて巨大な衝撃波を打ち込んだ。

 再び吹っ飛んでいく魔道装甲車、それを必死に追いかける白鯨。その追いかけっこは数百キロ、数千キロに及んだ。途中からこの白鯨アホだろと思ったのだが、氷神の魔法強化がなければとっくに海の藻屑となり白鯨に飲み込まれていた。まじ氷神ありがとう。

 すると運転席のポチから陸地が見えたという報告が上がった。これで助かると思ったのだが、白鯨がここで海水を飲みながら俺たちを捕食しに来た。先ほどまでのように津波も起きないため、その距離はどんどん近づいていく。

 そしてついに白鯨の口の中に魔道装甲車が入ったその時、なぜか急に海水ごと俺たちを吐き出してしまった。何事かと思い、波が落ち着いて来た時に使い魔を外に出して確認させるとあまりにも予想できないことが起きていた。

『シス・白鯨が運ばれて行っているよ。背中に何か見える…グリフォンみたい。』

『ポチ・白鯨を捕食する…じゃあ多分原初グリフォンだね。終末の地に生息する危険度SSSSSのモンスター。』

「じゃあ遠くに見えた陸地って…けど終末の地って安全なように管理されているんじゃなかったっけ?」

『ポチ・数種類のモンスターだけ人類に危険はないってことで特別行動できるらしいよ。なんでもあの原初グリフォンの強さでも終末の地ではまともに生き延びられないんだって。だからこうして外に獲物を求めに来るってわけ。』

「どれだけやばいんだよ終末の地……そしてそれを作り出した神魔と神剣…」

『シス・あ、まずいかも…衝撃に備えて。』

 何事かと思い急いでシートベルトを締め直す。すると俺たちのことを諦めきれないのか、はたまた原初グリフォンから逃れるためか、急に白鯨が最大出力で衝撃波を放った。

 それは水爆並みの、もしくはそれ以上水柱を立てた。魔道装甲車はその衝撃により再び吹っ飛ぶこととなった。ミチナガは車内で今日何度目の吹っ飛びなんだろうと、もう呑気に考えることしかできない。

 世界には山ほど強い奴らがいる。そんな中で逆に世界最弱と言える力の持ち主であるミチナガは逆にすごいんじゃないかと自分のことを褒め始めていた。
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