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第195話 海上都市

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「今日もいい天気だなぁ…ただ日光がキツイ。海からの照り返しもあるから普段の倍キツイ。」

 船を走らせること3日。周囲に陸地は全く見えない。毎日かなりの速度で移動しているのでもうかなりの距離を移動したはずだ。客船と違い釣り船なので速度は出る。ただ普通なら燃料が持つはずはない。

 しかしここは魔法のある世界。魔力を供給できるのならばいくらでも走ることができる。速度はおよそ43ノット、つまり80キロほどの速度で走り続けている。それが3日間ということなので6000キロ近く移動している。

 そう考えるとかなりの距離を移動したものだ。わかりやすく示すなら日本からインドくらいの距離だ。ものすごく遠い。日本国内で表すと北海道2周くらい。北海道まじでかい。

 そんなことを思っていると水平線に何かが見えた。おそらく何かの島だと思うのだが何かはわからない。すると何やら漁師たちは準備を始めた。

「もしかしてあれが目的地の氷国ですか?」

「んなわけないだろ。あれは海神の治める海上都市だ。あそこから氷国の近くまで超海流で一気に移動するんだ。」

 海神、第5位の魔神だ。この海全てが海神のものだと聞いていたが、海上都市なんていうものもあるのか。そして海上都市に近づいていくと遠くに赤い煙が見えた。

 すると漁師たちは速度を落としていき、やがて止まった。こんなところで止まってどうしたのかと思うと海の中から何かが飛び出して来た。

 その何かは船上に降り立って来たのだが、見た目は魚に似ている。おそらく魚人族というやつだろう。すると漁師たちは手を上げて戦闘の意思はないことを示している。俺もそれに習い手を上げている。

「何用だ。」

「氷国へ向かう途中なんだ。時短のために超海流を利用したい。」

「船員はここにいるので全員か?」

「奥で3人寝ている。それから看病に1人ついている。それで全員だ。陸地の客人で船酔いしてな。」

 全てゴードランがやり取りをしてくれた。ちなみに寝ている3人とはミラルたちだ。あの3人は全員船酔いで眠り続けている。3日もあれば慣れるかと思ったが、ダメなようだ。ちなみに俺は全く大丈夫だ。船には強いらしい。

「氷国までの超海流は費用がかかるが問題ないか?」

「その辺のことは雇い主に聞いてくれ。そこにいるミチナガという男だ。」

「え?ああ、どうも。ミチナガです。商人であり貴族でもあります。よろしくお願いしますね。」

 そこから俺と魚人の男の話し合いが始まったのだが、超海流で氷国まで行くのなら金貨8万枚はかかると言われた。そんなに超海流を使う必要があるのかと思ったのだが、この船だと後もう4日は確実にかかるところ、超海流を使えば4時間ほどで行けてしまうらしい。

 それならば使うしかない。ミラルたちも早いところ陸に上げてやらないと可哀想だ。そこで少しでも安くするため値下げの相談をしたところ、陸地の食材を代わりに出すのなら随分と安くしてくれるらしい。そんなことで良いのならもう話は即決だ。

「では一度海上都市に立ち寄って支払いをしてくれ。ただし海上都市内に入ることはできない。それだけは守るように。」

 なぜは入れないのか不思議に思ったのだが、どうやら人間や獣人などは陸人と呼ばれ、魚人などは海人と呼ばれて区別されている。そして1年ほど前に陸人の無断侵入が確認されたため、1年間は陸人が入れないように制限されているらしい。

 なぜそんな区別を、と思ったらどうやら陸人による魚人や人魚の人身売買がかつて行われていた時の負の遺産らしい。色々と面倒だとは思うのだが、そういった歴史があるのでは俺個人では文句のつけようがない。

「約1年前ってことは帰りの時には入国できるんですかね?」

「入国制限は後一月だ。氷国にどの程度滞在するかは知らないが、入国できると思うぞ。」

 じゃあ海上都市への入国はその時まで楽しみにしておこう。船が海上都市の港に到着するとすぐに手続きが始まり、超海流を使うための金貨の代わりの食材が積み降ろされて行く。必要な物資のリストを確認したのだが、意外と米も人気があるようだ。

 しかし荷物を降ろして行く時に気がついた。そういえば人間に対しては入国制限がかかっているけど使い魔ならいけるかもしれない。屁理屈のようにも聞こえるが、そのことだけ試しに聞いてみた。するとその反応は意外なものであった。

「まあ確かに使い魔の入国は許されているな。他国からの連絡に使い魔が使われる事例はある。そういった時の場合に戦闘能力のない使い魔の入国は手続きを行うことで入国が可能だ。」

 しかし使い魔だけを入国させて何の意味があるのかと聞かれてしまった。使い魔とは基本的に与えられた命令しかこなせない。使い魔だけを入国させたからといって特に何かできるわけでもないだろうと言われた。

 いや、うちの使い魔命令しなくても勝手に色々やっているんだけど。むしろやって欲しくないことまでやっているんだけど。やっぱうちの使い魔は他の使い魔とは全く違うらしいな。

ミチナガ『“誰か海上都市に入国したい人いるか?”』

名無し『“はいはーい!いってみたーい!”』

名無し『“ああ、すみません。こいつが勝手に…。それじゃあこいつ一人だと不安なのでついていきます。”』

 どっちも名無しだと区別しにくいな。じゃあこの二人が入国するということなので元気の良い最初の方をウミ、面倒見の良い方をマリンと名付けた。

 早速この二人の使い魔の入国手続きをすると手続きを担当した魚人は何とも怪訝な表情をしていた。俺が何か悪いことをたくらんでいるのではと思ったようだ。そこで俺はこの使い魔たちの面倒を見てくれるやつはいないかと頼んでおいた。

 使い魔たちには誰か面倒を見てくれるやつが必要だし、魚人たちも面倒を見るという名目の監視がつけられたら安心するだろう。俺のこの提案には少し驚いた表情を見せたが、すぐに人を用意してくれた。

「こいつが面倒を見てくれる。全て任せると良い。」

「こ、こん…にちわ…あ…えっと…」

 話そうとして見たのだがどうにも片言だ。どうやら魚人には魚人の言葉があるらしく、彼はこちらの言葉はうまく喋れないらしい。俺はすぐにスマホの翻訳アプリで魚人たちの言葉を翻訳できる対象にする。

「そちらの言葉でも大丈夫ですよ。これから使い魔たちのことをよろしくお願いします。」

「ああ!こちらの言葉でも大丈夫ですか!よかったぁ…。ええ、もちろんお任せください。」

ウミ『“よろしくね~”』

マリン『“よろしくお願いします。”』

 これで使い魔たちのことはもう大丈夫だ。それから超海流の使用申請の書類と費用の支払いも済んだ。俺たちは束の間の海上都市の港への接岸を終え、再び海に出る。そして案内されるまま進んで行くとドーム状の建物についた。

「それではこの中に入れ。すでに超海流の行き先は氷国に変えてある。最初は少し揺れるから捕まっておくように。」

「ありがとうございました。それではまたいつか。」

 建物の扉が開き、そこへ船ごと入る。するとそこは渦潮だ。船はあっという間に飲み込まれ、ぐるぐると回り海の底へと沈んで行く。

 俺は悲鳴をあげていたのだが漁師たちはそんな俺のことを笑っている。何を悠長に笑っているのかと思ったらその答えは海の底にあった。

「な、何これ…というか生きているのか?」

「いい反応だ!初めはみんなそうなる。渦潮に飲み込まれたら普通は死ぬしかないからな。だがこれは違う。渦潮の底から繋がる海の異様な海流。それがこの超海流だ。」

 俺が今いるのは海の中だ。正確には海の中にあるトンネル状の空間。前方と後方以外全て海に囲われた空間。恐ろしくもあるがそれ以上に美しい。海の中でも随分と明るく、海の中から光が差し込んでくるのだ。

「それにしても今って移動しているんだよな?なんかそういう感覚全然ないんだけど。揺れもしないし。」

「そういうもんらしいぞ。詳しくは知らん。」

 随分と便利な移動方法だ。これなら大金を払った甲斐があるというものだ。しばらくすると徐々に気温が下がってきた。気温の変化は地上に合わせてあるらしい。つまり冷えてきたということはもう氷国に近づいてきたということなのだろう。

 そして超海流に乗ってから予定の4時間が経過した。すると超海流の先が急に開け、鉛色の空が見えた。船は勢いよく飛び出して行くのかと思ったが何とも優しく地上面の海に出た。

 すでに上着を着ているがかなり冷える。それに雪もチラついているようだ。そして前方に見えるのは巨大な氷の壁。どうやら目的地にちゃんとたどり着いたようだ。

 万年凍土、世界で最も寒い場所、氷の世界などと様々な表し方があるがここで最も正しい表し方はこうだろう。

 魔神第7位、氷神ミスティルティアの治める氷国ニブルヘイム
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