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第146話 植物展3

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「さて、ではそのお祝いをしないとですね。どうせだったら…お酒でも飲みますか?」

「ええ、こんな祝い日になら森隠しでも飲みたいところですが、まあそんな夢のようなことは言えません。何か人の飲む酒をお願いしましょう。」

 森隠しとは一体なんなのかと思い聞いてみると、かつて動物たちが木のウロに隠しておいた果物が発酵し酒になったものがある。ある意味世界最古の酒とも呼べるその酒だが基本はマズい。衛生面も何もかも最悪なその酒の中にある特別なものがある。

 精霊たちが気まぐれに、いたずらで果物を木のウロに隠したことがあった。それはまるで森が隠しているかのように基本的に誰にも見つけられない。だがそれでもまぐれで見つけることがある。その果物は精霊の力を浴びて特殊な発酵を起こす。そして出来上がった酒のことを森隠しと呼ぶのだ。

「森隠しは精霊信仰のあるものの中では伝説の酒です。精霊によって味が違うのでいつまでも楽しめるそうです。私もかつて1度だけ見つけたことがありますが…その時は子供で飲ませてもらえなかった。」

「そんなお酒が…なんともすごいものですね。う~ん…シェフ、ソーマは森隠しを…まあ造れないよな。精霊じゃないし。」

『シェフ・森隠しなら確かあったぞ。大精霊は酒好きだから何か作ったものが…少し探してくる。』

 おいおいマジかよ。エルフたちも森隠しが飲めると聞いて思わず喉を鳴らしているぞ。ルシュール辺境伯もそんなエルフの様子を見て驚いている。エルフは基本的に食事には無頓着で、とりあえず信仰の問題にならず、新鮮に食べられるものならなんでも構わないのだ。それが酒一つで喉を鳴らすとは異常事態だ。するとスマホに通知が入った。

サラマン『“なんか森隠し飲みたいって聞いたんだけど、必要ならうちのも持って行こうか?”』

ミチナガ『“え?あんの?”』

サラマン『“うちはフルーツ農園にいる精霊だよ?供えられた果物が酒になっているから、話つけたら持っていくね。”』

 おいおいマジかよ。精霊によって味が違うからいきなり2種類も楽しめちゃうのか。エルフたちにこのことを伝えるとさらにそわそわしだした。なんか俺らいなかったらその場で舞い上がって踊りだしそうだぞ。それから10分ほどしてシェフとサラマンがそれぞれ酒を持って現れた。

『シェフ・お待ちどうさま。とりあえずこっちは3種類持って来た。去年のと、10年ものと…100年ものなんてあったらそれも貰って来た。』

『サラマン・こっちはどれもいつの酒か分からないや。その代わり10壺持って来た。どれも味は違うよ。』

「ありがとうな。後でお礼しとかないと。ああ、お待たせしました。それではグラスに注いでいくので、どうせでしたら飲み比べでも。」

「こ、こんな贅沢は許されない!だ、だが…断るのも失礼だ。し、仕方ない。本当に仕方ない。」

 後で知ったが、エルフは贅沢をしないというのが当たり前というか暗黙の了解のようになっている。しかし人に勧められた場合には失礼のないようにするというものもある。今回は後者を優先したようだ。

 そこからのエルフたちはもう止められない。酒を一口飲むたびに感激し、祈り、次の酒を飲むというエンドレスが続く。ルシュール辺境伯もこの光景にドン引きだ。普段の彼らは物静かでエルフとしての誇りを重んじる。普段の行動は規則に従った堅苦しいものだという。

 しかしそんな彼らは今や顔を真っ赤にして歌いながら酒を飲んでいる。かなりの上機嫌だ。酒の肴に聖霊蜂の蜂蜜をなめているのだが、もう味なんてわかっていなさそうだ。彼らにとってこの状況はどんな御馳走を振舞われるよりも、どんな催し物よりも素晴らしいようだ。

「ミチナガ!お前は本当に良いやつだ!頭を撫でてやろう!よ~しよしよし!いつでも我らの里に来い!最高のもてなしをしてやる!」

「ちょ、トゥルーリヤさん!?もうキャラ全然違いますよ!最初のあの硬い感じはどうしたんですか!」

「あれは親しくない者に対してだ!お前はもう我らエルフの盟友だ!さあ、酒を飲もう!まだまだ夜は長いぞ!」

「氏族長!どうせでしたら彼にあれを渡しておいたらどうでしょうか。」

「おお、そうだな。ミチナガ、これを受け取れ。」


 真っ赤な顔をしながら少し真面目な顔をしたトゥルーリヤに手渡されたのは木彫りの紋章だ。一体なんなのかというと盟友の証だという。これさえ持っていれば俺の身分はトゥルーリヤ氏族によって保証される。どんなエルフでもこれを見せれば心を開いてくれるとのことだ。

「しかし我々のお前に対する礼はこの程度では返せない。何かないか?我らエルフにできることならばなんでもするぞ。」

「え、えっと…ならうちの使い魔を連れて行ってもらうこととかできますか?旅をさせたいんですよ。それにうちの使い魔がいるといつでも連絡も取れるようになりますから。」

「おお!そんなことならいくらでも構わない。他にもまだないか?ん?遠慮せずにどんどん言え!」

 そんなこと急に言われてもなかなか考えつかない。俺の目的としては使い魔さえ送れればそれで問題ない。リカルドの方を見てみるが何もないようだ。そのまま考えてみるがなかなか上手いのが思いつかない。あ、そういや目的もう一つあったな。

「実はですね。英雄の国で世界貴族というやつになろうと思うんですよ。そうするといろんな国に遊びに行けるので。それの推薦みたいのって……できますか?」

「世界貴族の推薦か…ふむ……ああ、知り合いの甥っ子が確かやっていたな。12英雄の1人だっただろ。」

「そう言えばそんなことを聞いたような……彼に頼んで見ましょう。戻り次第氏族長同士の話ができるよう連絡を取ります。お任せください。」

 その瞬間リカルドが思いっきり咳き込んだ。まあ頼めるのなら頼んでおこう。すぐにというわけにはいかないので、話がまとまったら依頼状を書いて使い魔に渡してくれることとなった。それ以上は何かないかとまだ聞いてくるので何かあった時はお願いしますと言っておいた。さすがにこれ以上は本当に何もないぞ。

 結局その日は日を跨ぐまで酒を飲み、エルフたちはだらしなくその場で眠ってしまった。こんな状況になってしまったが、ホテルのレストランなので部屋まで運ぶのは簡単だ。ただ、1人冷静を保ったルシュール辺境伯がエルフの名誉のためと誰にも見られないようにとお願いされたのでそれだけが難しかった。

 エルフといってもイビキをかくし、寝言を言うし、寝ているのによく動く。それを隠しながら部屋まで運ぶのは大変だった。よかった、リリーには先に食事を取らせて部屋に戻しておいて。

「ミチナガくん、少し良いですか?」

「なんですかルシュール様……わかりました。私の部屋にどうぞ。」

 もうこんな夜中なので俺もすぐに寝たいと思っていたのだが、ルシュール辺境伯の真面目な表情を見たら明日にしてほしいなんて事は言えなかった。俺はすぐに自分の部屋に案内するとルシュール辺境伯はすぐに結界を張った。よほど重要な話なのだろう。

「…以前、生命の実の種を渡したのを覚えていますか?世界樹を持つミチナガくんなら育てることが可能です。生命の実は本来世界樹の力を吸収して成長する植物。世界樹がなかった我々は人工的に世界樹の力を模倣した環境を作り、育てようとしていたんです。」

「そ、そうなんですか。なんだか世界樹ってすごいですね。」

「すごいのはその世界樹を持っているミチナガくん、あなたですよ。そして警告します。護衛を雇いなさい。それも魔王クラスの護衛です。今は確かマックたちでしたね。君の価値を考えたら彼ら程度では力が足りない。もう君は以前のままではいられない。もう…君はそれだけの存在となってしまった。」

 あまり気にもしていなかった。俺という人間の価値を考えればルシュール辺境伯の言っていることは正論だ。マックたちも別行動が多い今では俺の護衛なんてほとんどいない。俺自身護衛がいると言う環境に慣れていないせいもあるのだろうが、身の安全というものに関して俺はあまりにも無関心だ。

 一応俺はナイトという保有戦力がある。ナイトの実力ならば大抵の暴漢には対処できるだろう。問題はそのナイトが普段俺のそばにいないということだ。拐われた場合ならなんとかしてくれるかもしれないが、その場で殺されてしまえば何もできない。

 するとスマホから使い魔たちが出てきた。そして俺の前に並ぶとまるで自分たちが戦力だと言わんばかりに胸を張っている。なんとも誇らしい彼らだが、はっきり言ってなんの頼りにもならない。彼らに俺を守る力はない。

「…今までの君の価値ならなんとか隠せた。今までの君ならマックたちでも十分守ることは可能だった。だがもう違う。マック達でもこの使い魔たちでも守れない。信用できる魔王クラスの実力者を雇いなさい。それができないというのなら……きっと君とはもう会えなくなるだろう。」

『ポチ・ルシュール様、確かに僕たちは弱いです。ですがそれでも自分たちの守りたいものは守ります。僕たちは一度自分たちの愚かさと弱さを知りました。絶望を知りました。だからもう絶望から逃れるために力をつけます。いずれ…あなたすら超えるほどの力を。』

「それは頼もしいですね。しかし何か当てはあるのですか?ないのならそれはただの妄言です。そしてその妄言は彼を殺す。」

「ルシュール様、ご忠告感謝します。それからこいつらの非礼を詫びます。あなたの忠告はもっともです。とりあえず信用できそうな強者を探します。こいつらに心配かけないためにも俺も頑張らないといけませんね。」

「わかってもらえてよかった。それから何かあったら連絡してください。力になります。」

 ルシュール辺境伯はそれだけ言い残すと結界を解除して部屋を出ていった。俺はそれを見送ると使い魔たちの方を向く。威勢の良いことを言ったが彼らに力がないのは明らかだ。守ることは難しいだろう。

 ただ気持ちだけは嬉しかった。だから俺は頭を撫でて一言感謝を述べる。下手な言葉は慰めではなく侮辱になる。この程度で良いだろう。俺はそのままベッドに横になる。また明日も早いのだ、早いところ寝てしまわないとダメだ。俺はベッドの上でスマホを少しいじった後に眠った。





ポチ『“…ボスはどんどん成長していく。だけど僕たちには守る力がない。…力が欲しいよ。”』

スミス『“俺らだっていつまでも同じじゃないっす。能力は増しているっすよ。”』

シェフ『“それでも力がないことには変わりない。俺らじゃゴブリン一体にも勝つのは厳しいだろ。…ピース、お前またそれ読んでいるのか。”』

ピース『“う、うん。この日記読んでいるとなんか僕にもできそうな気がするんだ。あ、ごめんね。みんなが話しているのに…”』

親方『“ポチのこれは癖みたいなもんだから気にしないほうがいいっすよ。さて、仕事に戻るっす。俺らには今できることをするほうが大事っす。”』

 そういうと解散しそれぞれの作業に戻っていく。ポチも作業に戻るのだが、その背中からは歯がゆさを感じさせる。そんなポチにピースは話しかけて気を紛らわさせる。そうでもないと思いつめてしまって仕事にならないからだ。

ポチ『“ありがとピース。今やれることをやらないとね。それにしてもその日記何回読んだの?あのゼロ戦のあったとこで見つけたやつでしょ?”』

ピース『“も、もう結構読んだから回数も覚えてないや。読んでいくとね、この人の気持ちがわかる気がするんだ。相手の人をどれだけ大切に思っていたかとか。あ、でも時々書き間違いがあるんだ。せっかちさんなんだよね。”』

ポチ『“僕も今度読んでみようかな。さてと、仕事に戻るよ。ほら、それはしまっておきな。”』

ピース『“うん。”』



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