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第122話 ミチナガとリリー
しおりを挟むあれから3日が経った。俺はまだリッカーの屋敷に泊まっていた。すぐに帰ろうとも思ったのだがリカルドの娘、リリーに随分と気に入られてしまった。リリーは数年間ベッドで眠っていた時間を取り戻すように今も庭を駆け回っている。
俺はそんなリリーと一緒に庭を走り回っている。しかし数年間ベッドの上に寝ていたリリーは身体能力が著しく低下しているため、すぐに疲れてしまうようだ。今もこうして…
「り、リリーちゃん…い、一旦休もう……もうお兄さん……限界…使い魔と遊んでて……」
「え~~…もっと遊ぼう!」
前言撤回。リリーちゃん体力無尽蔵。しかしリッカーやリカルド曰く普通の子供たちと比べるとやはり身体能力は落ちているということだ。つまり俺はそれよりも身体能力の乏しい雑魚です。じゃあ前言撤回する必要ないか。俺がクソ雑魚なだけです。ごめんなさい。
俺は一度使い魔達に任せてリカルド達と共に椅子に座って休憩する。しかし6年間も寝ていたのにここまで元気とは。魔力による強化かと思ったがそうではないらしい。それはドルイド曰く、世界樹によって肉体そのものが強化されて治されたらしい。世界樹の加護が常に働いているので今後は病気しらずで生きていけるとのことだ。
しかもリリーは今も世界樹の木の棒を持っているのだが、その木の棒を使って世界樹の魔法が使えるとのことだ。その魔法はもうはるか昔に世界樹がこの世界から失われた時に共に失われた魔法なのだが、かなり強力らしい。
ちなみにどんな魔法かは古い書物にしか載っていないので詳しいことはわからないとのことだ。ただ、世界樹と意思の疎通ができるドルイド曰く簡単に説明するとドルイドの師匠の大精霊と同じことができるとのことだ。つまりは魔神クラスの力を行使できる。
それをリカルド達に伝えると10年、20年後は魔神の一角かもしれないと笑いながら話していた。いやいや、それはもう笑い事じゃないんだけどな。しかしその力を十全に行使するためには俺のスマホの世界樹が近くにないといけないとのことだ。そう考えると結構大変だな。
「そうだ、そろそろ俺も帰らないと。孤児院周辺の開発が進んでいるんで、そろそろ取り掛からないといけないんですよ。」
「ほう、孤児院というとあの教会のか。開発というとどんなことをしているんだい?」
リカルドは本来評議会の一員なのでそこら辺の話も知っているはずなのだが、ずっと屋敷にこもっていたため何も情報が入っていないらしい。まああんな老人と見間違えるくらいの様子だったからな。今は完全回復して若々しくなっている。本人曰く魔力と娘の力らしい。この親バカめ。
そんなリカルドに現在の評議会の状態を含めて色々話してやるとなんとも呆れかえっていた。まあ今の有様は結構ひどいと思う。そんなリカルドに一つの書類を渡してやる。それは以前裏組織の隠れ家を潰した際に入手した貴族や現評議員達の裏組織の関わりの証拠となる資料だ。
「本当はこの資料を使って色々とやろうかと思ったんですけどリカルドさんの方がうまく使えると思うので渡しておきます。そろそろ職場復帰して色々とまとめてください。」
「う、うむ…しかし…娘ともっと一緒にいたいからな…もう評議員はやめようかと…」
「リリーちゃん!お仕事頑張るパパのことどう思う?」
俺はすかさず最終兵器、娘に頼るを発動させる。するとリリーは嬉しそうにこちらに駆け寄り俺の膝の上に座る。その愛らしい行動と表情にその場にいる全員が魅了される。
「リリーちゃん、今パパがお仕事しないから他のお仕事している人たちが悪いことしているんだよ。だからパパにそんな人たちをどうにかしてほしいよね。そんなパパかっこいいよね?」
「パパは正義のヒーローだよ!パパはかっこいいもん。パパがんばってね。」
「うんリリー、パパがんばっちゃうぞ。」
よっしゃちょろいぜこの親父。まあ俺でもこんな可愛い娘がいたら同じようになっちゃうかもしれないな。今から断言できる。俺も将来親バカになる。…そのためには相手を見つけないと。将来…どうなってるんだろうなぁ…
「じゃあリリーちゃんは将来パパみたいにかっこよくなりたいね。リリーちゃんは大きくなったら何になりたい?」
「ミチナガくんのお嫁さん!」
「え?…」
子供の可愛い発言。ただの戯言だ。誰かのお嫁さんになるなんて小さい頃なら何度も言ったことがあるだろう。それにリリーは6年間も寝たきりだったので精神年齢はまだ4歳程度だ。そんな子供の戯言だというのにリカルド、そんな人が死ぬような殺気を飛ばさないでくれ。
思わず固まっちゃったじゃん。かるーく受け流す予定だったのにもうこれ以上言葉が出てこない。なんかマジで受け取ったみたいになっているからその殺気を早く抑えてください。娘が可愛いのはわかったからその殺気を抑えてくれリカルド!
「…ミチナガくん。君には娘を助けてもらった恩がある。しかし娘を私から奪うというのなら…」
「ちょ!ちょっと待ってくださいよ。まだ子供ですよ。子供の可愛らしい発言じゃないですか。ね?」
「パパ!ミチナガくんいじめないで!パパ嫌いになっちゃうよ!」
「ごめんね~リリ~。パパいじめてないから大丈夫だよ~」
マジで怖かった。ノミの心臓なんだからそんな殺気飛ばされたら俺死んじゃうよ。だけどリカルド、今度はそんな泣きそうな顔で見ないでくれよ。それはそれで怖いから。リッカーは呆れた様子でそれを見ている。
「ミチナガくんはどんな子が好き?」
「ええ~そうだなぁ…家庭的で優しい人かなぁ。一緒にいるだけで楽しくなれるようなそんな人が良いなぁ。」
「じゃあママみたいなのが好きなんだ!リリーもママ大好き!……ママに会いたいな…」
やめろその表情は俺に効く。というかここにいる全員に効く。リカルド泣いちゃったし。リッカーも泣いている。かくいう俺も泣いている。そして周りにいる使用人達も泣いている。もうリリーは母親には決して会うことができない。そう思うとさらに涙が溢れてくる。
「ママみたいになったらミチナガくんのお嫁さんにしてね。」
「え?う、うん。そうだね。そのためにはいっぱい頑張らないとね。」
「やった!リリー頑張るね。」
リカルド、だからそんな表情で見るな。というかその表情なんなのかよくもう分かんないよ。それは怒っているの?それとも泣いているの?なんなのさ、もう。しかもリッカー今のやりとりでなんかため息ついちゃったし。そんな呆れることか?
「ミチナガくん。今のやり取りを子供だからと簡単にとらえちゃいけないよ。その子の母親はね、うちの息子と結婚するために平民から努力して魔帝になってしまうほどの一途さだ。一度心に決めたらそれを成し遂げてしまう母親の血が入っているからね。」
「え?ま、マジですか?い、いやだって…結構年の差もありますよ。まだまだこの子はこの先いろんな人と出会うから…ね?」
「その子にとっては大した障害にはならない。それに君だってブラント国の男爵になったんだろう?身分的にも全く問題ない。…ちなみにこの家系は浮気にも厳しいぞ。」
な、なんか俺の将来設計が今まさに決められようとしてる。そんな簡単に決まっちゃう?俺だってこの先いろんな出会いあると思うよ?今までは酷いけど。だけどきっとあるはずだよ?ある…あるよね?
そしてその翌日、ようやく俺はリッカーの魔動車に乗って孤児院へと戻った。その際にリカルドも評議会に復帰した。リリーは泣きついてくるかと思ったが、意外にも涙を目に貯めるだけで済んだ。なんでも将来のために立派な淑女になるから頑張るとのことだ。そ、それは良いけど俺のことは忘れてくれていいんやで。
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