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第113話 ユグドラシル

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「ま、まじかよ…1日でこんなに積もるの?」

 翌朝、目を覚まして小屋の外に出るとそこは白銀の世界だった。木々の葉の緑や幹の茶色もわからないほど白が埋め尽くしている。綺麗な光景だがそれとともに嫌な汗がびっしょりと湧き出てくる。

「ま、マック!起きろやばいぞ!かなり雪が積もってる!」

「うえ!?!?まじか!お、おい!みんな起きろ!」

 そこからは修羅場だった。予想以上の雪の積もり方に今日の移動をどうするかなどを喚いたが、結局のところ馬車で移動する以外に方法がないので急いで馬車に乗り込む。それから馬車を走らせたのだが、案外スイスイ進んだ。

 まだ新雪なので雪が柔らかくそこまで移動の妨げにはならないのだ。多少馬車の車軸や車輪に雪がついて動きが悪くなったが、軽く叩いてやれば何とかなった。そこまで焦ることでもないようだ。しかしそれでも何が起こるのかわからないので休憩は少なめで移動した。

 それから必死に移動すること半日、雪空の向こうに何かの影がうっすら見えた。天にも届くほどのその影は動かずにただそびえ建っているようだ。どうやら目的の国まであと少しのようだ。

 さらにそこから移動すると壁が見えて来た。どうやらそこがこの国に入るための検問所のようだ。そこには多くの兵士と中に入るのを待つ多くの人々がいた。100人以上は居る。すでに何人かはもう入れないと思い野営の準備を始めている。

「まずいな、俺たちも今日のうちに入るのは厳しい。野営の準備をした方が良いかもな。」

「まじか…宿でゆっくりと寝たいのに…ん?あれは?」

 俺の視線の先にはしっかりとした服装の数十人の団体だ。彼らは並んでいる俺たちを尻目に検問所に向かう。そこで別口で話しをしているようだ。

「ああ、あっちは貴族用だ。貴族を待たせるわけにはいかないからな。別口で話を聞いてすんなり入れるんだろうよ。」

 なんて羨ましい。貴族だとそんな特典あんのかよ。俺たち平民はこうしてしっかりと並んでいつ入れるかと待っているのに。ん?貴族?

「なあマック、あれって貴族なら最下級とかでも使えるの?」

「あ?そりゃ貴族ならだれでも使えるだろうよ。それがどうした?」

「……俺も一応貴族だった。ほら、ブラント国の騎士の爵位もらってる。」

「……ああ、そうだったな。すっかり忘れてた。」

 俺たちも先ほどの貴族の集団の後ろに並ぶように移動する。するとすぐに衛兵が来て身分の確認をしてくれた。ちゃんと前にブラント国王から勲章のようなものをもらっている。それを見せると簡単な手続きを行えることとなった。まあその辺の細かいことはマックたち頼みだ。

 それからものの10分ほどで中に入ることが許された。今も並んでいる人たち、まじ申し訳ねぇ。だけどこれが俺の力よ!俺今までで一番自分のことスゲェって思うかも。ヒャッホウ!

「さてと、無事はいれたけどこのあとどうするんだ?雪解けまでこの国に滞在するんだろ?」

「ああ、そのつもりだ。その間護衛は誰か一人を代わる代わるだそう。俺たちもこの国で少し金稼ぎをしたいところだからな。暇が欲しい。」

 まあ国の中なら襲われることも少ないだろう。ちょっとした用心棒だな。すでに辺りは暗くなっているのでとりあえず宿を取る。今日はこのまま宿でゆっくりしようとしたところ、マックがこの国の冒険者ギルドでどんな依頼があるか確認するという。

「あ、なら俺もついていっていいか?ナイト…前に森であったあの強い奴が狩ったモンスターを売りたいんだ。」

「ああ、そういうことなら…だったら全員で行くか。どうせだから今日はギルドで飯でも食うか。」

 冒険者ギルドでは飲食の提供もしているのでみんなでそこで飯を食べることとなった。俺とハジロは部外者なので何とも不思議な感じだ。冒険者ギルドに行くのも久しぶりだ。マックたちに護衛の依頼を出した時以来だ。ブラント国では立ち寄らなかったからな。仕事も忙しいし。

 マックたちについて行くと冒険者ギルドの建物についた。しかしその冒険者ギルドは今まで見たギルドよりもはるかに大きかった。その大きさに圧倒されつつもマックたちとはぐれないようにピッタリとついて行く。建物の中に入ると冒険者たちの熱気にさらに圧倒されることとなった。

「す、すごいな…な、なあ、あの真ん中にあるでかい石は何だ?」

「ん?あれか。あれは現在の10人の魔神を記した石版だ。こういったでかいギルドには置いてあんだよ。俺たちがこれから向かう英雄の国の勇者神も載っているぞ。ほら、2番目に。」

 魔神の石碑とも呼ばれているそこには現在の順位ごとに魔神たちの称号が載っている。そこに載る一人一人が世界をも滅ぼす力を有した世界最強の一角だ。絶対に敵に回してはいけない相手である。

 魔神第1位神龍、第2位勇者神、第3位法神、第4位妖精神、第5位海神、第6位監獄神、第7位氷神、第8位崩神、第9位神魔、第10位神剣。この順位はめったに変わることはなく、変わった時点で世界に何か異変が起こると言われている。

「いやぁ…初めて知ったわ。こんなことになってんだな。」

「お前なぁ…ちなみに言っておくと下位3人は国を治めていない。上位の7人は国王でもあるから喋るときは最新の注意を払えよ。って言っても会うことがあるのは放浪の旅をする崩神か、いつも遊び歩いている神魔くらいのもんか。」

 ちなみにこの石碑には裏側もちゃんとあり、その裏側にはかつての魔神たちの称号と最高順位が載っている。同じ称号のものもいてわかりにくいのだが、称号のところを触れるとその名前も浮き出てくる仕組みだ。なおこの石碑は古代のアーティファクトで再現不可能らしい。

「まあそんなことよりとっとと来い。ギルドの受付に行って何を納品するか決めておけ。」

 そういやそんなことをするために来たんだったな。急いで受付に向かうと可愛らしいお姉さんが対応してくれた。やっぱギルドってこう言うところいいよな。目の保養になる。

「こんばんは。ご用件は何でしょうか?」

「代理で素材を納品しに来たんです。うちの専属の冒険者何ですけどね、以前作ったギルドカードが失効してしまって使えないんですよ。新しく作りたいんですけど本人いなくても大丈夫ですか?」

「それではこちらの紙に記入をお願いします。それから代理人様の身分を証明するものをお願いします。」

 身分を証明か。俺の冒険者カードを見せるとギョッとした表情を浮かべた。まあそうでしょうよ、俺ですもん。それから商業ギルドのカードを見せる。これには俺の運営する店舗が一覧として載っている。それを見た職員は再びギョッとした表情を浮かべた。表情をコロコロ変えさせるの面白いな。それから記入用紙にナイトのことを書いておいた。

「えっと…代理人様の身分証明は十分です。記入も問題ありません。それではこれは仮登録になりますので、本登録はご本人様がギルドにおいでください。」

「あ、モンスターの素材を売りたいんですけど、仮登録でもそれは可能ですか?」

「大丈夫ですよ。一応価格の一覧が載ったものをお渡ししますね。」

 そう言って渡された紙には様々なことが書かれていたが、どうにもおかしい。マックにも見てもらうとここに載っているのは全て下級のモンスターばかりなのだ。そんな素材は一つもないので一つ上のものをもらうが、それにも書かれていなさそうだ。

 もうどうせなのでモンスター図鑑を借りることにした。何の素材かわかっていないものも多いのでそこで調べながら持っているものを一覧に書き出し、ギルドで何を買うか決めてもらおう。

 この作業は時間がかかるので先に食事にすることにした。食べながら使い魔たちにどんどん書き込みを進めてもらう。しかしこのモンスター図鑑ではあまりたいした情報が載っていない。もっと別のモンスター図鑑を持って来てもらうように頼む。

「えっと…持ってきましたけどこの図鑑はB級以上のモンスターしか載っていませんよ?」

「あ、それでいいです。こっちなら載っているよな。どうだ?……お、こっちなら大丈夫か。」

「…それってブラッドジャイアントグリズリー…それにアースオークキングまで…」

 その後もつらつらと討伐したモンスターの名前が並んで行く。やがて飯が終わる頃には買取りを頼みたいモンスターの一覧表が完成した。しかしそれでもまだ名前が不明なモンスターの素材がいくつかある。

 まあ今日はこのくらいで済ませて、その一覧表を渡して買い取りたいものをギルド側にピックアップしておいてもらう。本格的な買取りの話はまた明日だ。それから実は今の一覧表をもう2枚作ってそれをブラント国の冒険者ギルド、ルシュール領の冒険者ギルドにも渡しておいた。これで一番高値で買ってくれる冒険者ギルドで売ることが可能だ。

 それから本当は商業ギルドで土地を見たかったのだが、今日はもう遅いので我慢しておこう。この国で必要なのは歯医者も併設できるほどの大きさの店だ。この国でもやることはいっぱいあるな。

 そんな中ふと後ろを振り返る。冒険者ギルドに入った時は雪も降り曇っていたのだが、いつの間にか雪が止み、辺りを見渡せるようになっている。俺の視線の先は国の中央にあたる部分なのだが、そこには天にも届く巨大な大樹がそびえ立っていた。

「なあ、あの木は何だ?それに俺この国の名前まだ聞いてなかった。」

「お前はマイペースだな。あれは世界樹だ。そしてこの国は世界樹の国、ユグドラシルだ。」

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