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第112話 力の譲渡
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「ところでどうやって力を受け渡すんですか?」
「いや、俺も全くわからないんですよ。」
マザー曰く、できるらしいというだけでやり方も何も知らない。まあこういうことは使い魔たちに完全に丸投げだ。すぐに力の受け渡しを始めさせるとポチが一度スマホに戻り、何かを抱えて再び出てきた。
「それって…もしかしてマザーの眷属?」
マザーの眷属は初めて見たな。マザーと同じで自分で動くことはできないようだ。ポチに抱えられている時もぐったりとした感じだ。しかしそんなマザーの眷属を持ち出して一体何をするつもりなのだろう。するとポチは男を座らせる。
「あのこれはどうすれ、おごっ!」
「ちょ!ポチ!?や、やめなさい!マザーを人の口の中に突っ込んじゃいけません!いけな……入っちゃった…」
すっぽり、つるんと口の中に入っていっちゃった。え、どうすれば良いのこれ。入れられた方もめちゃくちゃ困惑しているし。二人してどうしたら良いかわからなくなっていると、ポチが呑気そうに明日には遺品の回収が完了するとか言い出した。いやいや、それまで体に何か問題がないか物凄く不安なんだけど。
「え、えっと…体には害がないようです…えっと…あ!歯石除去の続きやってもらっていいですか?」
「え?ああ、そう言えばそうでしたね。では…始めましょうか。」
もうどうしたら良いか分からないので、当初の予定であった歯石の除去をようやく始める。何だか色々あったけど結果としては良いかな?冬の間のスマホに力問題も解決しそうだから次の国にも出店することが問題なくできそうだ。そんなことを思いながら俺は大口を開けたまま治療を受けた。
「はい、これで終わりです。起き上がって口をゆすいでください。」
ものの10分ほどで全て終わったようだ。口をゆすぐと何とも言えぬ爽快感がある。ここまで口の中がスッキリするのなら、これからも時々やってもらいたいかも。
「それじゃあ…俺たちは近々次の国に出発しますけど、そっちはいつ頃なら出られそうですか?」
「滞納している家賃さえ払えばいつでも大丈夫です。特にこれといった荷物もありませんから。」
そう言うことならとりあえず前金として金貨10枚分の貨幣を渡しておいた。あまり大金をもらいすぎても管理が不安なのでこの金額が良いと向こうから言われた。そこで別れても良かったが、どうせなので夕食を一緒に食べないかと誘ってみると是非ともと言われたのでしばらく共に行動することとなった。
「そう言えばお互いにまだ名乗っていませんね。俺は関谷道永です。今は商店を経営しています。」
「ああ、すみません。私も感動のあまりすっかり忘れていました。葉白京介です。歯医者ですが…まあ見ての通りです。しかしそちらはなかなかうまくいっているようで羨ましいです。」
その後、葉白さんと一緒にこの家の持ち主に家賃を支払い、今日泊まる予定の宿までケックに案内してもらった。道中には多くの店々が立ち並び、見たことのないものがいくつもあった。そんな中で俺が気になったのは植木鉢を売っている店だ。綺麗な花が様々に並んでいる。
「ちょっと寄っていっていいか?すぐに終わるから。」
「大丈夫っすよ。時間はある……ちょっと待つっす。」
ケックは慌てた様子で植木鉢屋に売られている一つの花を手に取った。その花は綺麗な白い花を咲かせていた。まるで雪のようにふんわりとした花だ。
「雪告花っす。これいつ咲いたっすか?」
「ん?それは昨日咲いたばっかりだ。何だ、あんた冒険者だな?次の街に向かっているのか?だったら急いだ方がいいな。」
これはまずいと俺の手を引き急いで宿に向かう。葉白さんもいきなりのことで置いて行かれないように必死だ。宿に着くとケックは急いで部屋へと向かう。部屋の扉を開けるとのんびりとしたマックたちがいた。ガーグはすでに二日酔いで寝ているようだ。
「まずいっす!雪告花が昨日咲いたっす!急がないと雪が降るっすよ!」
「マジか!昨日ってことは…おいウィッシ!次の国までの日数は!?」
「10日…頑張れば1週間…その辺りだろう。宿泊はキャンセルだ。急いで出るぞ。」
マックたちは大慌てでガーグを起こし、荷物をまとめて、馬車に乗る。葉白さんもどう言うことかと訳も分からず大急ぎで馬車に乗せられた。そこからは大急ぎで馬車を走らせこの街を抜ける。
「お、おいケック!雪告花って何だよ!」
「雪告花は何でか知らないっすけど、雪が降る1週間前辺りに咲く花っす。つまりあと1週間で雪が降るっすよ。そうなったら馬車での移動は無理っす!」
そんな便利な花があんのかよ。と言うか最低でも1週間かかる道のりで、すでに昨日その花が咲いたってことはまずくないか?まあ雪の降り始めの日ならまだ移動することは可能か。そんな大慌てでいるとマックが葉白さんに気がついた。と言うか今まで気がつかなかったのかよ。
「あんた誰?」
「は、葉白と言います。こちらの関谷さんに次の国まで同行することになりまして…」
「セキヤ?…ああ、ミチナガのことか。じゃあよろしくなハジロ。ただかなり大慌ての移動になるから気をつけろよ。」
その日の夜、今日は暗くなってからもしばらく移動したのでだいぶ夜も老けた頃だ。新たに加わったハジロさんのために簡単な歓迎会を開いた。その中でハジロによる歯石の除去をマックたちにやってやると意外と好評だった。やはり口の中のすっきり感は誰にとっても良いものなのだろう。
「なんかガーグの口の臭いもだいぶ良くなっているっすね。」
「歯石を取ることによって口臭を抑えることができるんです。他にも舌を綺麗にすることも口臭の予防に良いんですよ。」
そこからハジロの歯医者談義に熱が入ってしまい、熱く語っていた。全員呆れていないかと思いきやどうやら割と興味が合うようだった。特にガーグは二日酔いの状態でも熱心に聞いている。ガーグのようなパワーファイターにとって歯の重要性は高いのだろう。
まあ俺は虫歯にならずにいられればそれで良いのでスマホをいじっている。すると何やら俺の知らない建物が建っているではないか。これは一体何なのか聞いてみるとこれは精霊蜂と言う蜂の巣のようだ。前にあったあの強い男についていった使い魔が招き入れたらしい。あ、それとあの二人?名前決まったんだ。仲良くやっているみたいじゃないか。
「なあ、お話中悪いけど精霊蜂って知ってる?」
「「「知らん」」」
そ、そんなぞんざいに扱わなくたって…だけど知らないならまあいいか。しかし使い魔のムーン曰く、めちゃくちゃ美味い蜂蜜らしい。ただ俺の分を残しておこうと思ったらいつのまにかなくなってしまったらしい。みんなで勝手に食いやがったな…次の蜂蜜が取れるまで時間がかかるので当分我慢のようだ。
それからあの男、ナイトの狩ったモンスターの素材が日に日に増えていっている。最近は少し落ち着いたようだが、それでもかなりの量だ。次の国についたら一度売っておかないとな。一体いくらになるんだろう…
そして翌日、再び大急ぎで馬車を走らせる。すると昼過ぎに一件の通知が来た。それは無事にハジロから遺品を抜き取ることに成功したとのことだった。マザーの眷属もスマホに戻って来たようでこれで一段落らしい。ただ、遺品は解析と分解に時間がかかるそうだ。おそらく次の国に着いてしばらく経ったら手に入るだろう。
それからさらに5日後、次の国に明日には着くだろうと思った頃、とうとう本格的な冬が到来して来た。雪だ、辺りにふわりふわりと降り注ぐ雪が降り始めてしまった。まだ雪の降り始めた初日なので深く積もることはないとは思う。しかし少し積もっただけでも野営にも影響を与える上、馬車のスリップの原因にもなる。
「どうする?今日も夜遅くまで走らせるか?」
「いや、それはやめておこう。この辺りで今日は野営をして明日の朝早くに出発しよう。そうすれば夕方ごろには着くはずだ。」
下手に時間を空けてから野営をすると地面に雪が積もってしまう。そうなったら底冷えして寝るのが大変だ。今日は早めに野営の準備を始めてゆっくりと英気を養う。もう目的地は近いのでそこまで焦る必要はない。
「今日は外の雪がひどいから全員で馬車の中で寝よう。」
「ええ~いやっす。絶対ガーグのイビキで眠れないっす。」
「あまりでかい声を出すな…頭に響くだろ…ったく、さすがに明日には治るか?…」
ガーグはまだ二日酔い、いや1週間酔いか。おそるべしだなドワーフ殺し。俺は絶対に飲まないでおこう。しかしこの馬車の中で7人が寝るのは厳しいな。3人寝るのだってやっとなのに。う~ん…何とかならないかなぁ。
ミチナガ『“おーい、なんかテントとかないか?寝る場所なくて困ってんだけど。”』
親方『“なら簡易的な小屋でも立てるっす。すぐにできるんで。”』
そう言うとスマホの中から続々と使い魔と眷属が出て来た。道の横の方の平らな空き地を見つけると一気に小屋の建築が始まった。作り方は超簡単、あらかじめスマホの中で切った木材を取り出して釘で打ち付ければ完成だ。数十体の使い魔と眷属による人海戦術でものの10数分で完成してしまった。
「あ、小屋建てたから俺はそっちで寝るわ。5人くらいは寝れそうだから別れて寝るか。」
「……お前何でもありか?」
何でもありではないだろ。俺としてはやっぱりテントで寝たかった。そっちの方が雰囲気も出るしなんか楽しい。これだと普通に山小屋で泊まる感覚じゃん。誰がどこで寝るかは話し合いの結果、マックたちが見張りとして定期的に馬車と小屋を行き来することとなった。
「とりあえずみんなで一旦飯でも食うか。外は寒いから小屋の中でな。たまには鍋でもするか。鶏肉でつみれ作ってネギに白菜、味付けは味噌だな。出汁を効かせるために焼き魚入れるのもありだな。よし!じゃあそう言うことでシェフ、よろしくお願いします。」
しかしそうなったら囲炉裏も欲しいな。だけど掘っ建て小屋なのに床板切り抜いて囲炉裏を作るのはまずいだろう。じゃあ大きめの木桶に砂利を敷き、その上に灰をたっぷり入れる。そしてその上に炭火を置く。この炭はルシュール領産だ。俺もそのうち炭焼き施設作ろうかなぁ。
それと天井の梁に鎖を取り付け簡易的な自在鉤を作る。これで鍋を引っ掛けておくのも完璧だ。そこまでの用意が終わるとシェフの眷属が食材を持って出て来た。どうやらここで作ってくれるらしい。シェフ本体はソーマから酒造りの極意を教わっているので忙しいようだ。
「さてと、じゃあ飯の準備をしてくれるらしいからゆっくり酒でも飲んで待っていよう。あ、つまみが欲しかったら漬物あるぞ。ぬか漬けと浅漬け、それに醤油漬けもあるから好きなもの食べてくれ。」
「…皆さんは普段こんな感じなんですか?」
「いや、俺らも初めてだ。こいつ今まで自重して来たんだな。何と言うか……まあ気にしたら負けか。」
たまにはこう言うのもいいだろ。普段はワイルドさを大切にして来たけど、もうこうして小屋まで建ったらその辺を気にしているのもバカらしいし。
この日は暖かい部屋で温かい鍋をみんなで食べながらワイワイやった。その結果としてマックたちは見張りをするのも面倒になってそのままみんなで寝てしまったけど、まあ何もなかったから良いだろう。楽しかったしな!
「いや、俺も全くわからないんですよ。」
マザー曰く、できるらしいというだけでやり方も何も知らない。まあこういうことは使い魔たちに完全に丸投げだ。すぐに力の受け渡しを始めさせるとポチが一度スマホに戻り、何かを抱えて再び出てきた。
「それって…もしかしてマザーの眷属?」
マザーの眷属は初めて見たな。マザーと同じで自分で動くことはできないようだ。ポチに抱えられている時もぐったりとした感じだ。しかしそんなマザーの眷属を持ち出して一体何をするつもりなのだろう。するとポチは男を座らせる。
「あのこれはどうすれ、おごっ!」
「ちょ!ポチ!?や、やめなさい!マザーを人の口の中に突っ込んじゃいけません!いけな……入っちゃった…」
すっぽり、つるんと口の中に入っていっちゃった。え、どうすれば良いのこれ。入れられた方もめちゃくちゃ困惑しているし。二人してどうしたら良いかわからなくなっていると、ポチが呑気そうに明日には遺品の回収が完了するとか言い出した。いやいや、それまで体に何か問題がないか物凄く不安なんだけど。
「え、えっと…体には害がないようです…えっと…あ!歯石除去の続きやってもらっていいですか?」
「え?ああ、そう言えばそうでしたね。では…始めましょうか。」
もうどうしたら良いか分からないので、当初の予定であった歯石の除去をようやく始める。何だか色々あったけど結果としては良いかな?冬の間のスマホに力問題も解決しそうだから次の国にも出店することが問題なくできそうだ。そんなことを思いながら俺は大口を開けたまま治療を受けた。
「はい、これで終わりです。起き上がって口をゆすいでください。」
ものの10分ほどで全て終わったようだ。口をゆすぐと何とも言えぬ爽快感がある。ここまで口の中がスッキリするのなら、これからも時々やってもらいたいかも。
「それじゃあ…俺たちは近々次の国に出発しますけど、そっちはいつ頃なら出られそうですか?」
「滞納している家賃さえ払えばいつでも大丈夫です。特にこれといった荷物もありませんから。」
そう言うことならとりあえず前金として金貨10枚分の貨幣を渡しておいた。あまり大金をもらいすぎても管理が不安なのでこの金額が良いと向こうから言われた。そこで別れても良かったが、どうせなので夕食を一緒に食べないかと誘ってみると是非ともと言われたのでしばらく共に行動することとなった。
「そう言えばお互いにまだ名乗っていませんね。俺は関谷道永です。今は商店を経営しています。」
「ああ、すみません。私も感動のあまりすっかり忘れていました。葉白京介です。歯医者ですが…まあ見ての通りです。しかしそちらはなかなかうまくいっているようで羨ましいです。」
その後、葉白さんと一緒にこの家の持ち主に家賃を支払い、今日泊まる予定の宿までケックに案内してもらった。道中には多くの店々が立ち並び、見たことのないものがいくつもあった。そんな中で俺が気になったのは植木鉢を売っている店だ。綺麗な花が様々に並んでいる。
「ちょっと寄っていっていいか?すぐに終わるから。」
「大丈夫っすよ。時間はある……ちょっと待つっす。」
ケックは慌てた様子で植木鉢屋に売られている一つの花を手に取った。その花は綺麗な白い花を咲かせていた。まるで雪のようにふんわりとした花だ。
「雪告花っす。これいつ咲いたっすか?」
「ん?それは昨日咲いたばっかりだ。何だ、あんた冒険者だな?次の街に向かっているのか?だったら急いだ方がいいな。」
これはまずいと俺の手を引き急いで宿に向かう。葉白さんもいきなりのことで置いて行かれないように必死だ。宿に着くとケックは急いで部屋へと向かう。部屋の扉を開けるとのんびりとしたマックたちがいた。ガーグはすでに二日酔いで寝ているようだ。
「まずいっす!雪告花が昨日咲いたっす!急がないと雪が降るっすよ!」
「マジか!昨日ってことは…おいウィッシ!次の国までの日数は!?」
「10日…頑張れば1週間…その辺りだろう。宿泊はキャンセルだ。急いで出るぞ。」
マックたちは大慌てでガーグを起こし、荷物をまとめて、馬車に乗る。葉白さんもどう言うことかと訳も分からず大急ぎで馬車に乗せられた。そこからは大急ぎで馬車を走らせこの街を抜ける。
「お、おいケック!雪告花って何だよ!」
「雪告花は何でか知らないっすけど、雪が降る1週間前辺りに咲く花っす。つまりあと1週間で雪が降るっすよ。そうなったら馬車での移動は無理っす!」
そんな便利な花があんのかよ。と言うか最低でも1週間かかる道のりで、すでに昨日その花が咲いたってことはまずくないか?まあ雪の降り始めの日ならまだ移動することは可能か。そんな大慌てでいるとマックが葉白さんに気がついた。と言うか今まで気がつかなかったのかよ。
「あんた誰?」
「は、葉白と言います。こちらの関谷さんに次の国まで同行することになりまして…」
「セキヤ?…ああ、ミチナガのことか。じゃあよろしくなハジロ。ただかなり大慌ての移動になるから気をつけろよ。」
その日の夜、今日は暗くなってからもしばらく移動したのでだいぶ夜も老けた頃だ。新たに加わったハジロさんのために簡単な歓迎会を開いた。その中でハジロによる歯石の除去をマックたちにやってやると意外と好評だった。やはり口の中のすっきり感は誰にとっても良いものなのだろう。
「なんかガーグの口の臭いもだいぶ良くなっているっすね。」
「歯石を取ることによって口臭を抑えることができるんです。他にも舌を綺麗にすることも口臭の予防に良いんですよ。」
そこからハジロの歯医者談義に熱が入ってしまい、熱く語っていた。全員呆れていないかと思いきやどうやら割と興味が合うようだった。特にガーグは二日酔いの状態でも熱心に聞いている。ガーグのようなパワーファイターにとって歯の重要性は高いのだろう。
まあ俺は虫歯にならずにいられればそれで良いのでスマホをいじっている。すると何やら俺の知らない建物が建っているではないか。これは一体何なのか聞いてみるとこれは精霊蜂と言う蜂の巣のようだ。前にあったあの強い男についていった使い魔が招き入れたらしい。あ、それとあの二人?名前決まったんだ。仲良くやっているみたいじゃないか。
「なあ、お話中悪いけど精霊蜂って知ってる?」
「「「知らん」」」
そ、そんなぞんざいに扱わなくたって…だけど知らないならまあいいか。しかし使い魔のムーン曰く、めちゃくちゃ美味い蜂蜜らしい。ただ俺の分を残しておこうと思ったらいつのまにかなくなってしまったらしい。みんなで勝手に食いやがったな…次の蜂蜜が取れるまで時間がかかるので当分我慢のようだ。
それからあの男、ナイトの狩ったモンスターの素材が日に日に増えていっている。最近は少し落ち着いたようだが、それでもかなりの量だ。次の国についたら一度売っておかないとな。一体いくらになるんだろう…
そして翌日、再び大急ぎで馬車を走らせる。すると昼過ぎに一件の通知が来た。それは無事にハジロから遺品を抜き取ることに成功したとのことだった。マザーの眷属もスマホに戻って来たようでこれで一段落らしい。ただ、遺品は解析と分解に時間がかかるそうだ。おそらく次の国に着いてしばらく経ったら手に入るだろう。
それからさらに5日後、次の国に明日には着くだろうと思った頃、とうとう本格的な冬が到来して来た。雪だ、辺りにふわりふわりと降り注ぐ雪が降り始めてしまった。まだ雪の降り始めた初日なので深く積もることはないとは思う。しかし少し積もっただけでも野営にも影響を与える上、馬車のスリップの原因にもなる。
「どうする?今日も夜遅くまで走らせるか?」
「いや、それはやめておこう。この辺りで今日は野営をして明日の朝早くに出発しよう。そうすれば夕方ごろには着くはずだ。」
下手に時間を空けてから野営をすると地面に雪が積もってしまう。そうなったら底冷えして寝るのが大変だ。今日は早めに野営の準備を始めてゆっくりと英気を養う。もう目的地は近いのでそこまで焦る必要はない。
「今日は外の雪がひどいから全員で馬車の中で寝よう。」
「ええ~いやっす。絶対ガーグのイビキで眠れないっす。」
「あまりでかい声を出すな…頭に響くだろ…ったく、さすがに明日には治るか?…」
ガーグはまだ二日酔い、いや1週間酔いか。おそるべしだなドワーフ殺し。俺は絶対に飲まないでおこう。しかしこの馬車の中で7人が寝るのは厳しいな。3人寝るのだってやっとなのに。う~ん…何とかならないかなぁ。
ミチナガ『“おーい、なんかテントとかないか?寝る場所なくて困ってんだけど。”』
親方『“なら簡易的な小屋でも立てるっす。すぐにできるんで。”』
そう言うとスマホの中から続々と使い魔と眷属が出て来た。道の横の方の平らな空き地を見つけると一気に小屋の建築が始まった。作り方は超簡単、あらかじめスマホの中で切った木材を取り出して釘で打ち付ければ完成だ。数十体の使い魔と眷属による人海戦術でものの10数分で完成してしまった。
「あ、小屋建てたから俺はそっちで寝るわ。5人くらいは寝れそうだから別れて寝るか。」
「……お前何でもありか?」
何でもありではないだろ。俺としてはやっぱりテントで寝たかった。そっちの方が雰囲気も出るしなんか楽しい。これだと普通に山小屋で泊まる感覚じゃん。誰がどこで寝るかは話し合いの結果、マックたちが見張りとして定期的に馬車と小屋を行き来することとなった。
「とりあえずみんなで一旦飯でも食うか。外は寒いから小屋の中でな。たまには鍋でもするか。鶏肉でつみれ作ってネギに白菜、味付けは味噌だな。出汁を効かせるために焼き魚入れるのもありだな。よし!じゃあそう言うことでシェフ、よろしくお願いします。」
しかしそうなったら囲炉裏も欲しいな。だけど掘っ建て小屋なのに床板切り抜いて囲炉裏を作るのはまずいだろう。じゃあ大きめの木桶に砂利を敷き、その上に灰をたっぷり入れる。そしてその上に炭火を置く。この炭はルシュール領産だ。俺もそのうち炭焼き施設作ろうかなぁ。
それと天井の梁に鎖を取り付け簡易的な自在鉤を作る。これで鍋を引っ掛けておくのも完璧だ。そこまでの用意が終わるとシェフの眷属が食材を持って出て来た。どうやらここで作ってくれるらしい。シェフ本体はソーマから酒造りの極意を教わっているので忙しいようだ。
「さてと、じゃあ飯の準備をしてくれるらしいからゆっくり酒でも飲んで待っていよう。あ、つまみが欲しかったら漬物あるぞ。ぬか漬けと浅漬け、それに醤油漬けもあるから好きなもの食べてくれ。」
「…皆さんは普段こんな感じなんですか?」
「いや、俺らも初めてだ。こいつ今まで自重して来たんだな。何と言うか……まあ気にしたら負けか。」
たまにはこう言うのもいいだろ。普段はワイルドさを大切にして来たけど、もうこうして小屋まで建ったらその辺を気にしているのもバカらしいし。
この日は暖かい部屋で温かい鍋をみんなで食べながらワイワイやった。その結果としてマックたちは見張りをするのも面倒になってそのままみんなで寝てしまったけど、まあ何もなかったから良いだろう。楽しかったしな!
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