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第100話 再びの旅立ち
しおりを挟む翌朝、気がついたら馬車の中にいた。頭がガンガンする。昨日ミミアンをからかった辺りからの記憶がごっそり抜け落ちている。なんとか這いつくばるように馬車の外に顔を出すとまだ出発はしていないようで外ではマックたちが最終確認をしていた。
従業員たちもマックたちを手伝っている。営業時間前にとっとと行こうと思ったのだが、逆にみんなを働かせてしまうこととなってしまった。これは悪いことをしたな。何人かが顔を出した俺に気がついたようで苦笑いしながら手を降っている。
俺はそれに対して手を振り返すだけの気力もない。というかみんな元気だな。とりあえず水でも飲みながら一息ついていると俺に気がついたミミアンがこっちに近づいて来た。ゴミを見るような目で。
「あんなに言いふらしたこと絶対に忘れないからね。」
「お、俺はお酒のせいで忘れちゃったなぁ~…なんて。」
スパンッと1発頭を叩かれる。やめろミミアン、その攻撃は俺に効く。再び、だらんと酔いつぶれながら作業を眺める。すると作業を終えたマックたちが馬車へと乗り込んで来た。とうとう出発の時である。すると従業員たち全員が横一列に並んだ。
「ミチナガ!あんたのおかげでこの国は救われた!この恩は一生忘れない。あんたがいない間もこの店はしっかりと守るから安心していってらっしゃい!」
「「「いってらっしゃい!」」」
「いって来ます。」
全員が頭を下げている。思いがけないことで目が潤んでしまう。決して二日酔いで気持ち悪くて潤んでしまったわけではないぞ。ちゃんと感動してだ。マックが馬車を発進させる。すると全員が頭を上げて手を降って見送ってくれる。
俺はそんな彼らに弱々しくも手を振る。横を見るとポチやシェフたちも手を降っている。使い魔みんなが手を降ってお別れをしている。しかし今生の別れというわけではない。必ずここに戻ってこよう。その時はもっと胸を張れるようなほどすごいことを成して。
しばらく街の中を進む。まだ朝も早いので人は少ない。ゆっくりと30分ほど進むとこの国を出る門のそばまで来た。マックたちが関所で手続きを行なっている。事前にある程度話は通しておいたようですぐに終わった。
最後にこの国を見納めておこうと馬車から顔を覗かせる。するとその場にいた兵士全員が敬礼をしているではないか。思わず目があってしまったので敬礼で返す。そんなことで思わず笑みがこぼれる。馬車は進んで行く。当分この国に戻ることはないだろう。しばらくの別れを告げる。
馬車は徐々にスピードを上げて行く。どんどん離れて行く。離れるたびに思い出が一つ一つ思い返される。悪いことも良いこともあった。どの思い出も遠い昔のようにも思えるし、ついさっきのようにも思える。
俺はそんなことを思いながら遠い目をする。胸のうちからこみ上げて来たものが溢れ出しそうになる。俺はそれを我慢する。しかし街が離れて行くに従いそれは我慢できなくなって行く。そして
「お、おぇ…オロロロロロロ…」
「だ、大丈夫っすか?二日酔いなら吐いた方が楽になるっすよ。」
「ありがとうケック。な、なんか馬車の揺れと相まって気持ち悪さが…オロロロロ…」
「街から離れるに従って道も悪くなるっすからね。まだまだ揺れるっすよ。」
そ、そんな…頼む。出発は明日にしよう。だから一旦街まで、街まで戻ってくれぇぇ…
この日は結局一日中吐いては眠ってを繰り返していたら夜になっていた。最悪な1日だ。マジでしんどい。昼飯も喉を通らなかった。夜はさすがに食べないとまずいということでおかゆを作ってもらいそれを流し込んだ。なんとも染み渡るうまさだ。
「それで明日からだが道は西の方向で良いんだな?」
「うん…そっちに前に行くって言った街があるんだ。この辺りじゃ珍しい南国のフルーツを栽培しているらしくてな。是非とも入手したい。あ、ポチお代わりちょうだい。」
ポチに器を渡すとポチの口から、でろりとお粥が出てくる。正直見た目はきつい。まあ慣れてしまった今では全く問題はないけどね。口から物を出し入れできる使い魔なのだからしょうがない。鶏の糞と卵が同じところから出てくる総排泄膣と同じ原理だろ。あ、そう思うとなんか汚い。
「じゃあ少し迂回するルートにはなるな。しかし南国のフルーツか。食べたことはないな。」
「この辺りで育てるのは難しいからな。マックが知らないのも無理はないさ。好みは分かれるけど好きな奴はかなりハマるぞ。」
そういう俺はあんまり得意ではなかったりする。南国系のフルーツというと柔らかくてどろってしているイメージだ。もちろんバナナやパイナップルのようなものもある。それは好きだ。しかしパパイヤやマンゴーなどはあまり好きではない。
しかし南国系のフルーツというと高級品のイメージがある。商品として取り扱えればうちの目玉商品になること間違いなしだろう。俺が苦手だろうがなんだろうが関係ないのだ。
「そういえばこれから寒くなるんだよな?この辺りは結構雪は降るのか?」
「どうだろうな…なあウィッシ。」
「英雄の国はそれなりに雪が降るらしい。移動するペースは落ちるだろうな。下手をしたらどこかで一冬過ごしてから出発ということになるかもな。」
なかなかに面倒だな。本当は冬前に着く予定だったらしいが、ブラント国でゆっくりしすぎた。そのせいで大幅に日程がずれたらしい。なんかすいません。
「とにかくだ。一冬過ごすのならできるだけ大きな街で過ごしたい。寄るところは寄るが、そこまでゆっくりしない方が得策だろう。」
簡単な話し合いは終わった。あとの道はマックたちが決めてくれるとのことだ。俺はとりあえず少し休んでおけとのお達しなのでそうさせてもらいます。さすがに明日にはこの二日酔いもなくなって馬車酔いもなくなると信じたい。
そんなことを思いながら寝袋の中に入りスマホを操作する。そういえば今日ちゃんとスマホを操作するのは初めてかもしれない。今日は丸一日ダウンしていたからな。
すると新しい使い魔が増えているではないか。名前はマザーというらしい。昨晩入手したらしいのだがまるで覚えていない。しかも右上にバッテリー表示が追加されている。今までバッテリーなんてなかったというのに。
ミチナガ『“えっと…はじめましてじゃないんだよな。ごめん昨日の夜の記憶はすっぽりなくなっているんだよ。”』
マザー『“問題ありません。改めてはじめまして、私はマザー。管理者です。”』
ミチナガ『“よろしくなマザー。それで管理者っていうのはなんなんだ?”』
マザーの話を聞くと管理者とはすべての使い魔の見聞きした情報を統合するもののことらしい。例えば今まではミチナガ商会の収支はそれぞれの使い魔が情報を出してそれを使い魔たちでまとめてから俺に報告してくれていた。
しかしマザーという管理者がいればその使い魔がいくら使っていくら儲けたのかをリアルタイムで把握し、支出のある使い魔が複数いた場合でもその情報を全てまとめて結果を出してくれるとうものだ。使い魔の数が増えてきた今だからこそ役に立つ能力だ。
ミチナガ『“そいつはすごいな。これからよろしく頼むよ。それともう一つ聞きたいんだけど右上のバッテリー表示はなんなんだ?今までそんなものはなかったし。それに残量が24%になっているんだけど。”』
マザー『“それに関しては皆で一度話し合うべきでしょう。事の重大性は想像の範疇を超えています。”』
マザーはそういうとどれだけ現状が危険かというのをわかりやすいようにするために俺に倉庫を見るように促してきた。
しかし倉庫の中を見てもそこまで大きな問題はないように思える。するとマザーはもっと細かく見るように促してきた。すると一つのものが目に入り、俺は思わずスマホを手から滑り落とした。
そこには本来5億枚の流通禁止金貨があるはずなのに、すでに残りが3億枚を切っていた。
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