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第84話 作戦開始

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「カイ国王陛下がお呼びだ。出立の準備をしてこい。」

 城の一室で飯食って寝て、時々こっそりミミアンたちと連絡をとる自堕落な生活を送ること2日。ついに待ち望んだ日がやって来た。カイの出陣である。俺は軽装備をつけさせてもらい、ある程度の身の保証を得る。

 正直、こんな軽装備ではそこまで意味はなさそうだが、逆にがっちりとフルプレートをつけようものなら返って動けなくなって危険にさらされるだろう。関節部分の可動域を確認し、どの程度の動きができるか調べる。うん、この程度動くのなら逃げるのには問題ないだろう。

 俺の役目はカイを所定の場所まで案内したのちに逃げる。ただそれだけでいい。なんせ俺は戦闘能力皆無だ。まあいざという時のことも考えてはあるが、そうはならないことを祈ろう。

「準備が完了しました。お願いします。」

 俺は案内されるままついていく。次第に物音が聞こえ始めた。その物音は次第に増していき、やがて大音量のラッパと地響きが起こるような大歓声となった。

「うっわ…まじか…」

 思わず声が漏れてしまったが、この大歓声ならばこの程度のつぶやきなどかき消えてしまうだろう。しかしまさか朝早くからこんなパレードをわざわざ盗賊退治のためだけにさせるとは。バカも行きすぎたところまで行くとなんだか清々しいな。

「これより我々は憎き盗賊にさらわれた人々を助けに行く。さらに!盗賊によって貧困に喘いでいる民も助けるぞ!皆!準備はいいな!」

「「「おおお!!」」」

 いや、貧困に喘いでいるのはお前が物資を送らなかったからだろ。さらわれている人々もいないしな。なんというか…滑稽な男だよ。しかもなんだよそのフルプレートは。金光りしているだけで大した意味なさそう。

 いや、もともとはおそらく国王の装備なのだから防御面だけはしっかりしているかもしれない。そうなると厄介だな。いざとなったらどさくさに紛れて俺が殺すという案もある。その時のためにもその鎧をなんとかする方法も考えておこう。

「やっと来たか。さあとっとと案内しろ。俺は待つのは嫌いなんだ。」

「申し訳ありません。すぐに列に加わります。」

 何が待つのは嫌いだよ。どうせ朝早くから人を集めて準備させたんだろ。それでこの観衆に酔っていたんだろうが。今もわざわざ鎧の頭の部分だけ外して顔なんて見せちゃってさ。誰かに狙撃されちまえ。そのにやけた面吹っ飛ばされろ。

 その後、兵を連れて出発するのだが、街でも洗脳で人を集めて拍手喝采をさせている。ちなみにミミアンたちは全員アジトに避難している。今こうしている時も洗脳の魔力は振りまかれている。ミミアンたちが近づいたら最後。洗脳されてしまう。

 それにしてもこの国から出るのに一体何時間かけるつもりだよ。それに作戦としては盗賊にバレないように少数精鋭なのにこんなにどんちゃん騒ぎしたら馬鹿でもわかるわ。大声で盗賊退治に行ってくるって言っているし。よかった、本物の盗賊退治じゃなくて。

 その後、国を出たのは太陽が頂点から少し動き始めた頃だった。そんな調子だから、その日の野営地はまだ城が遠目に見える程度しか移動できなかった。ここからまだ道は長いというのに。

 しかも料理にケチをつけてグダグダ文句を言っている。食材に限りがあるというのに何度も作り直させているので、かなり食料を消費している。村人に分け与えるために多めに持って来たとはいえ、そんなやり方をしていたら食材がいくらあっても足りない。

 そして暗くなって来たら、自分の寝所に女性の兵士を呼んで人目も気にせずことを始めやがった。あくまでただの野営のためテントは薄く、音がダダ漏れだ。

 ちょっと羨ましいとか思ってしまったが、女性たちは洗脳で無理やりやらされていると思うとなんだか悲しくなってくる。こういうシチュエーションだけなら興奮するけど実際にとなると胸糞悪くなるものなんだな。

 それから道中もやれ馬に乗っているせいで尻が痛いだの。移動しっぱなしで疲れただの、飯が合わないだのずっと文句を垂れていた。その度に洗脳されている兵士たちが嬉しそうにその世話をする。そして数日後、ようやく目的地の森の手前までたどり着いた。

「ようやくここまで来たのか。なんて長い道のりだ。おい!お前は確か4~5日でたどり着くと言っていたな。それなのにすでに10日は経っているぞ。」

「申し訳ありません。あの時は命からがら逃げておりましたので日数を間違えたのかもしれません。」

 お前のせいだよ!なんでこんな倍の日数がかかるんだよ。メリリドさんたちからも眷属を通じて本当に来るのかとか何かあったのかと毎日連絡来たくらいだぞ!その度に俺が何度謝ったことか。というかなんで俺が謝るんだよ。ふざけるなよこん畜生。

「ふん!これではこの森の道案内もどうしたものか。2日と言っていたがこいつの案内だと1週間はかかりそうだ。」

「ええ、全くです。」
「本当に使えない男…」

「も、申し訳…ありません…」

 ぶん殴りてぇ!早くこいつをボコボコにしてやりてぇ。だけどこの怒りは我慢だ我慢。ここまで来たんだから絶対に感づかれるなよ。あー…イライラする。

「とりあえず今日のうちにもう少し進みましょう。少しでも先に進んでおいた方がよろしいかと思います。」

「ふん!そんなことはお前がいうことではない!さあ皆進むぞ!盗賊どもはこの先だ!この俺様に続け!」

「「「おお!」」」

 こいつに隠密行動というものを教えてやりたい。そんな大声出せば誰だろうが気がつくわ。こっそりスマホを除くとメリリドさんたちから来たのがすぐにわかったと連絡が来た。襲撃地点まだ先なんだけどなぁ。

 その後、森の中ということもあって馬もバランスを崩しやすく、なかなか先に進めない。道が悪いせいで馬の乗り心地も良くなく、すぐにカイは休憩を取らせる。この調子で目的の襲撃地にたどり着けるかなぁ…

 そして陽も傾き、太陽が地平線に沈む準備を始めた頃。ようやく目的の襲撃場所にたどり着いた。メリリドさんたちはもう準備ができているはずだ。しかしどれがカイ本人か知らない。

 まあこれだけ金ピカの鎧を着ている人間がいればわかりそうなものだ。しかし分かりやす過ぎて影武者だと怪しむ可能性もある。なのでここは…

「カイ国王陛下。もうじき日が沈みますのでこの先で本日は野営としましょう。」

「そんなことはわかっている!いちいちそんなことを言いに来るな!お前は黙って先導だけしていれば良いのだ。」

「申し訳ありません。」

 これで誰がカイか確実にわかっただろう。あとは…

 その時、森にふと目を向けた俺に見えたのは高速で移動する鉄球。いや、あれは金棒を持ったメリリドさんだ。顔がわからないようにマスクをしているがうちの従業員の顔ならなんとなくわかる。そのメリリドさんが金棒を持ったまま弾丸のように飛んできた。

 向かう先はカイ。そのスピード、意外性、なんの脈絡もない攻撃は俺でも当たると確信できた。
しかし

「貴様!陛下に何をする!!」

 そんな攻撃はなんでもないと守る一人の兵。彼女はこの国が誇る魔王クラスの一人、絶壁の騎士アクラ。絶壁とは彼女の持つ盾による絶対防御だ。決して体のことではない…はずだ。メリリドさんの攻撃ではなんてことないとすました顔だ。メリリドさんは凶悪そうな目をしながら合図を出す。

 その合図とともに撒かれたのはルシュール辺境伯から買った洗脳を撹乱させる魔道具だ。魔道具というより薬品と言えるのだが、この魔道具はルシュール辺境伯が独自にブレンドしたもので、本来は対モンスター用に人気があるらしい。これは周囲の魔力を撹乱させて特殊な魔法を使わせなくするものだ。

 その効果はてきめん。多くの兵士が洗脳に異常をきたして苦しみだした。これで安心してカイを殺せる、そう思った。しかし…

「この怪しげな粉はなに!カイ様、これは毒かもしれません。すぐにお下がりを。」

 この魔道具の効果が効かないものが10名以上いる。その中にはこの国が誇るもう一人の魔王クラス、土岩の魔女ジャイリスもいた。今魔道具の影響がなかったものは女性が多い。

 おそらく日頃から洗脳され続けているため、そう簡単には洗脳に異常すら出ないのだろう。若干数名の男も混ざっているようだが、それはかなりの手練れだ。身の安全を守るためにわざわざ強く洗脳にかけておいたな。

 戦闘は一気に乱戦へと持ち込まれる。4対10数名か…かなりメリリドさんたちには不利だ。しかも彼らは洗脳されてこうして戦っているだけだ。だから俺もなるべく殺さないでほしいとお願いしたため、なかなか攻勢に出られない。

 しかしそれでもなんとか飛び道具でカイを狙う。カイもそれに気がついたようだ。そして、

「お、お前ら動くな!この俺様に従え!!」

 大量に魔力を放出させて無理やり洗脳を試みる。しかしメリリドさんたちには洗脳から身を守るため抗魔の指輪を2つも渡してある。だからきっと大丈夫だ。そう思ったのだが、何かようすがおかしい。妙にフラフラとふらついている。先ほどまでなんとか戦局を保っていたのだが、劣勢に立たされているようだ。

 メリリドさんは懐からシェフの眷属を取り出す。眷属はすでに洗脳されたようでぐったりとしたまま動かない。メリリドさんはその眷属に何かを告げるとそのまま握りつぶした。

 眷属は使い魔と違って復活までのスパンが短い。なので1分ほど待っているとすぐに復活し、伝えられた内容を俺に伝えられるようになるのだ。

シェフ#2『“メリリドさんからの伝言!カイの洗脳能力が予想よりも強くて抗魔の指輪じゃあ耐えられない。あんなのを食らいながら魔王クラスと戦うのは無理。だからプラン変更、時間を稼いだらこいつらはこっちでなんとかする。片付いたら残り一体の眷属で連絡ののちに合流するから!だそうです。言葉がきつかったからちょっと優しめに変えといた。”』

ミチナガ『“了解。”』

 まじかよ…

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