85 / 572
第84話 作戦開始
しおりを挟む「カイ国王陛下がお呼びだ。出立の準備をしてこい。」
城の一室で飯食って寝て、時々こっそりミミアンたちと連絡をとる自堕落な生活を送ること2日。ついに待ち望んだ日がやって来た。カイの出陣である。俺は軽装備をつけさせてもらい、ある程度の身の保証を得る。
正直、こんな軽装備ではそこまで意味はなさそうだが、逆にがっちりとフルプレートをつけようものなら返って動けなくなって危険にさらされるだろう。関節部分の可動域を確認し、どの程度の動きができるか調べる。うん、この程度動くのなら逃げるのには問題ないだろう。
俺の役目はカイを所定の場所まで案内したのちに逃げる。ただそれだけでいい。なんせ俺は戦闘能力皆無だ。まあいざという時のことも考えてはあるが、そうはならないことを祈ろう。
「準備が完了しました。お願いします。」
俺は案内されるままついていく。次第に物音が聞こえ始めた。その物音は次第に増していき、やがて大音量のラッパと地響きが起こるような大歓声となった。
「うっわ…まじか…」
思わず声が漏れてしまったが、この大歓声ならばこの程度のつぶやきなどかき消えてしまうだろう。しかしまさか朝早くからこんなパレードをわざわざ盗賊退治のためだけにさせるとは。バカも行きすぎたところまで行くとなんだか清々しいな。
「これより我々は憎き盗賊にさらわれた人々を助けに行く。さらに!盗賊によって貧困に喘いでいる民も助けるぞ!皆!準備はいいな!」
「「「おおお!!」」」
いや、貧困に喘いでいるのはお前が物資を送らなかったからだろ。さらわれている人々もいないしな。なんというか…滑稽な男だよ。しかもなんだよそのフルプレートは。金光りしているだけで大した意味なさそう。
いや、もともとはおそらく国王の装備なのだから防御面だけはしっかりしているかもしれない。そうなると厄介だな。いざとなったらどさくさに紛れて俺が殺すという案もある。その時のためにもその鎧をなんとかする方法も考えておこう。
「やっと来たか。さあとっとと案内しろ。俺は待つのは嫌いなんだ。」
「申し訳ありません。すぐに列に加わります。」
何が待つのは嫌いだよ。どうせ朝早くから人を集めて準備させたんだろ。それでこの観衆に酔っていたんだろうが。今もわざわざ鎧の頭の部分だけ外して顔なんて見せちゃってさ。誰かに狙撃されちまえ。そのにやけた面吹っ飛ばされろ。
その後、兵を連れて出発するのだが、街でも洗脳で人を集めて拍手喝采をさせている。ちなみにミミアンたちは全員アジトに避難している。今こうしている時も洗脳の魔力は振りまかれている。ミミアンたちが近づいたら最後。洗脳されてしまう。
それにしてもこの国から出るのに一体何時間かけるつもりだよ。それに作戦としては盗賊にバレないように少数精鋭なのにこんなにどんちゃん騒ぎしたら馬鹿でもわかるわ。大声で盗賊退治に行ってくるって言っているし。よかった、本物の盗賊退治じゃなくて。
その後、国を出たのは太陽が頂点から少し動き始めた頃だった。そんな調子だから、その日の野営地はまだ城が遠目に見える程度しか移動できなかった。ここからまだ道は長いというのに。
しかも料理にケチをつけてグダグダ文句を言っている。食材に限りがあるというのに何度も作り直させているので、かなり食料を消費している。村人に分け与えるために多めに持って来たとはいえ、そんなやり方をしていたら食材がいくらあっても足りない。
そして暗くなって来たら、自分の寝所に女性の兵士を呼んで人目も気にせずことを始めやがった。あくまでただの野営のためテントは薄く、音がダダ漏れだ。
ちょっと羨ましいとか思ってしまったが、女性たちは洗脳で無理やりやらされていると思うとなんだか悲しくなってくる。こういうシチュエーションだけなら興奮するけど実際にとなると胸糞悪くなるものなんだな。
それから道中もやれ馬に乗っているせいで尻が痛いだの。移動しっぱなしで疲れただの、飯が合わないだのずっと文句を垂れていた。その度に洗脳されている兵士たちが嬉しそうにその世話をする。そして数日後、ようやく目的地の森の手前までたどり着いた。
「ようやくここまで来たのか。なんて長い道のりだ。おい!お前は確か4~5日でたどり着くと言っていたな。それなのにすでに10日は経っているぞ。」
「申し訳ありません。あの時は命からがら逃げておりましたので日数を間違えたのかもしれません。」
お前のせいだよ!なんでこんな倍の日数がかかるんだよ。メリリドさんたちからも眷属を通じて本当に来るのかとか何かあったのかと毎日連絡来たくらいだぞ!その度に俺が何度謝ったことか。というかなんで俺が謝るんだよ。ふざけるなよこん畜生。
「ふん!これではこの森の道案内もどうしたものか。2日と言っていたがこいつの案内だと1週間はかかりそうだ。」
「ええ、全くです。」
「本当に使えない男…」
「も、申し訳…ありません…」
ぶん殴りてぇ!早くこいつをボコボコにしてやりてぇ。だけどこの怒りは我慢だ我慢。ここまで来たんだから絶対に感づかれるなよ。あー…イライラする。
「とりあえず今日のうちにもう少し進みましょう。少しでも先に進んでおいた方がよろしいかと思います。」
「ふん!そんなことはお前がいうことではない!さあ皆進むぞ!盗賊どもはこの先だ!この俺様に続け!」
「「「おお!」」」
こいつに隠密行動というものを教えてやりたい。そんな大声出せば誰だろうが気がつくわ。こっそりスマホを除くとメリリドさんたちから来たのがすぐにわかったと連絡が来た。襲撃地点まだ先なんだけどなぁ。
その後、森の中ということもあって馬もバランスを崩しやすく、なかなか先に進めない。道が悪いせいで馬の乗り心地も良くなく、すぐにカイは休憩を取らせる。この調子で目的の襲撃地にたどり着けるかなぁ…
そして陽も傾き、太陽が地平線に沈む準備を始めた頃。ようやく目的の襲撃場所にたどり着いた。メリリドさんたちはもう準備ができているはずだ。しかしどれがカイ本人か知らない。
まあこれだけ金ピカの鎧を着ている人間がいればわかりそうなものだ。しかし分かりやす過ぎて影武者だと怪しむ可能性もある。なのでここは…
「カイ国王陛下。もうじき日が沈みますのでこの先で本日は野営としましょう。」
「そんなことはわかっている!いちいちそんなことを言いに来るな!お前は黙って先導だけしていれば良いのだ。」
「申し訳ありません。」
これで誰がカイか確実にわかっただろう。あとは…
その時、森にふと目を向けた俺に見えたのは高速で移動する鉄球。いや、あれは金棒を持ったメリリドさんだ。顔がわからないようにマスクをしているがうちの従業員の顔ならなんとなくわかる。そのメリリドさんが金棒を持ったまま弾丸のように飛んできた。
向かう先はカイ。そのスピード、意外性、なんの脈絡もない攻撃は俺でも当たると確信できた。
しかし
「貴様!陛下に何をする!!」
そんな攻撃はなんでもないと守る一人の兵。彼女はこの国が誇る魔王クラスの一人、絶壁の騎士アクラ。絶壁とは彼女の持つ盾による絶対防御だ。決して体のことではない…はずだ。メリリドさんの攻撃ではなんてことないとすました顔だ。メリリドさんは凶悪そうな目をしながら合図を出す。
その合図とともに撒かれたのはルシュール辺境伯から買った洗脳を撹乱させる魔道具だ。魔道具というより薬品と言えるのだが、この魔道具はルシュール辺境伯が独自にブレンドしたもので、本来は対モンスター用に人気があるらしい。これは周囲の魔力を撹乱させて特殊な魔法を使わせなくするものだ。
その効果はてきめん。多くの兵士が洗脳に異常をきたして苦しみだした。これで安心してカイを殺せる、そう思った。しかし…
「この怪しげな粉はなに!カイ様、これは毒かもしれません。すぐにお下がりを。」
この魔道具の効果が効かないものが10名以上いる。その中にはこの国が誇るもう一人の魔王クラス、土岩の魔女ジャイリスもいた。今魔道具の影響がなかったものは女性が多い。
おそらく日頃から洗脳され続けているため、そう簡単には洗脳に異常すら出ないのだろう。若干数名の男も混ざっているようだが、それはかなりの手練れだ。身の安全を守るためにわざわざ強く洗脳にかけておいたな。
戦闘は一気に乱戦へと持ち込まれる。4対10数名か…かなりメリリドさんたちには不利だ。しかも彼らは洗脳されてこうして戦っているだけだ。だから俺もなるべく殺さないでほしいとお願いしたため、なかなか攻勢に出られない。
しかしそれでもなんとか飛び道具でカイを狙う。カイもそれに気がついたようだ。そして、
「お、お前ら動くな!この俺様に従え!!」
大量に魔力を放出させて無理やり洗脳を試みる。しかしメリリドさんたちには洗脳から身を守るため抗魔の指輪を2つも渡してある。だからきっと大丈夫だ。そう思ったのだが、何かようすがおかしい。妙にフラフラとふらついている。先ほどまでなんとか戦局を保っていたのだが、劣勢に立たされているようだ。
メリリドさんは懐からシェフの眷属を取り出す。眷属はすでに洗脳されたようでぐったりとしたまま動かない。メリリドさんはその眷属に何かを告げるとそのまま握りつぶした。
眷属は使い魔と違って復活までのスパンが短い。なので1分ほど待っているとすぐに復活し、伝えられた内容を俺に伝えられるようになるのだ。
シェフ#2『“メリリドさんからの伝言!カイの洗脳能力が予想よりも強くて抗魔の指輪じゃあ耐えられない。あんなのを食らいながら魔王クラスと戦うのは無理。だからプラン変更、時間を稼いだらこいつらはこっちでなんとかする。片付いたら残り一体の眷属で連絡ののちに合流するから!だそうです。言葉がきつかったからちょっと優しめに変えといた。”』
ミチナガ『“了解。”』
まじかよ…
9
お気に入りに追加
545
あなたにおすすめの小説
半分異世界
月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。
ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。
いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。
そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。
「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
幸せな人生を目指して
える
ファンタジー
不慮の事故にあいその生涯を終え異世界に転生したエルシア。
十八歳という若さで死んでしまった前世を持つ彼女は今度こそ幸せな人生を送ろうと努力する。
精霊や魔法ありの異世界ファンタジー。
宇宙最強の三人が異世界で暴れます。
有角 弾正
ファンタジー
異世界から強制召喚されたのは、銀河大義賊団のボス、超銀河司法連盟のバイオニックコマンドー、妖刀に魅入られし剣聖の三名であった。
魔王が侵攻するモンスターだらけの大陸でチート能力を持つ、勇者に祭り上げられた三名はどう闘う?!
どーも、反逆のオッサンです
わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。
ドグラマ3
小松菜
ファンタジー
悪の秘密結社『ヤゴス』の三幹部は改造人間である。とある目的の為、冷凍睡眠により荒廃した未来の日本で目覚める事となる。
異世界と化した魔境日本で組織再興の為に活動を再開した三人は、今日もモンスターや勇者様一行と悲願達成の為に戦いを繰り広げるのだった。
*前作ドグラマ2の続編です。
毎日更新を目指しています。
ご指摘やご質問があればお気軽にどうぞ。
蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-
星井柚乃(旧名:星里有乃)
ファンタジー
旧タイトル『美少女ハーレムRPGの勇者に異世界転生したけど俺、女アレルギーなんだよね。』『アースプラネットクロニクル』
高校生の結崎イクトは、人気スマホRPG『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』のハーレム勇者として異世界転生してしまう。だが、イクトは女アレルギーという呪われし体質だ。しかも、与えられたチートスキルは女にモテまくる『モテチート』だった。
* 挿絵も作者本人が描いております。
* 2019年12月15日、作品完結しました。ありがとうございました。2019年12月22日時点で完結後のシークレットストーリーも更新済みです。
* 2019年12月22日投稿の同シリーズ後日談短編『元ハーレム勇者のおっさんですがSSランクなのにギルドから追放されました〜運命はオレを美少女ハーレムから解放してくれないようです〜』が最終話後の話とも取れますが、双方独立作品になるようにしたいと思っています。興味のある方は、投稿済みのそちらの作品もご覧になってください。最終話の展開でこのシリーズはラストと捉えていただいてもいいですし、読者様の好みで判断していただだけるようにする予定です。
この作品は小説家になろうにも投稿しております。カクヨムには第一部のみ投稿済みです。
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる