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第78話 打開策
しおりを挟む「それで…この状況を打開する方法はあるんですか?」
あらかたの自己紹介と現状について聞き終えたので、その打開策を聞く。もう何日もこの状況なのならば何かしらの打開策は浮かんでいるはずだ。しかしその答えは俺の予想とは違うものだった。
「打開策はないわ。私たちだってそれなりに手は尽くしてみた。だけどね、そもそも近づくことすら不可能なのよ。カイはいつも魔力をあふれ流している。だからカイに近づけば近づくほどその効果は高まる。私たちのこの奴隷の鎖をつけていても城内に入っただけで洗脳されたわ。すでに何人か捕まった。」
「じゃあこの国から出て周辺の国々に救援を求めれば、」
「それも無理。この国はね、入るのは簡単だけど出るのは不可能なの。洗脳内容に出国者を捕らえるっていうのも入っているらしくてね。すでに何人も捕まったわ。国民全員が敵なのよ。そんな中で逃げるのは不可能。」
近づくだけでもアウト、逃げてもアウト、そんなももう不可能じゃないか。おまけに外に出るのは奴隷の鎖で魔力を封じないといけない。つまり魔法も使えないということだ。もうこんなの無理ゲーじゃん。
「おまけに洗脳が効いていない人間を捉えるっていう洗脳もされていてね。だからさっきあなたを見る人たちの顔すごかったでしょ。とはいえその洗脳はだいぶ弱くなっているみたい。洗脳内容もいくつも指示を出すのは難しいみたいよ。必要に応じて順次洗脳内容は変化していくみたいだから。」
もうこの国にいる洗脳から逃れている人間はいないと思っているのだろう。だからそこまで無理やり捉える必要は無くなったと言うことだ。だから下手な行動をしても注視されるくらいで済むらしい。やりすぎた場合は捕まるようだが。
「その洗脳魔法に対抗する方法はないんですか?」
「魔王ランクの魔力保持者ならなんとかなるかもしれないわ。この国にも何人かいたのだけれど国民全員が敵だからね。多勢に無勢で捕らえられて時間をかけて洗脳されたみたい。今、カイの護衛をしているのは無理やり洗脳された魔王クラスの2人よ。」
洗脳が効かないと判断されたもの、気にくわないと思ったもの、わざわざ洗脳する価値もないと判断されたものは城の牢獄に捉えられているらしい。その牢獄から仲間にできるものを脱獄させることができればなんとかできる可能性もあるが警備が厳しく、侵入は不可能らしい。
それに無理やり押し通れてもカイの護衛は魔王クラスの実力者2人に兵士の中でも精鋭揃いらしい。ここまできてしまうと本当にどうしようもないな。武力で押し通るのは不可能に近い。
「つまりは洗脳に耐えられる人間が国民全員を何とかして、その魔王クラスの護衛2人を何とかして、そのカイを殺さなくちゃいけないっていうことですか。」
「そうなるわね。あともう一つの方法は魔力タンクの魔力が尽きるのを待って、洗脳魔法が薄れてきたときに他国に救援を求める。今考えているのはこれよ。だけどそれまでに多くの被害者が出るわ。」
あと5ヶ月くらいか。それまで耐えなくちゃいけないのか。その間にまだまだ多くの被害者が出るだろうな。飯は嫌という程食っているから疲労以外で死ぬことはないとは思うけど。ん?飯?
「食料は大丈夫なんですか?この状況はまずくないですか?」
「食料?そんなの大丈夫よ。こうして毎日宴会しているんだから金がなくても食べ物には困らないわ。」
「いや、そうじゃなくて在庫の問題です。こんな毎日宴会を続け、大量の食料を消費したら半年持ちますか?仮に持ってもその後はどうです?半年間宴会を続け消費だけが加速して、生産は各村々に人が誰もいない状況なので生産率は0です。これが解決しても今度は食糧不足で餓死者が出ますよ。」
それに洗脳が解けた後はフラストレーションも溜まりに溜まっているだろう。食糧不足も相まって暴動が起こる可能性が高い。そうしたらさらに死者が増えるだえろう。最悪の場合この国は滅ぶ。
「それは!……確かにそうかもしれないわ。でもだったらどうしろっていうの?この状況を解決する方法は他にはないわ。」
誰もこの状況に気がついていなかったのか、もしくは気がついていたけど言い出せなかったのか暗い顔で落ち込んでいる。しかし俺の言ったことは事実だ。それだけはここにいる全員がわかっている。
「わしも…言い出せなかったのじゃが他国に救援を求めることもやめたほうがいいじゃろう。」
老人は静かに話し出した。もしも救援を他国に出した場合、軍を引き連れて来るだろう。そうすると洗脳された兵士たちはそれに打って出る。そうなれば甚大な被害が出るだろう。
さらに助けられた後も国家間同士の話し合いで、救援の報酬として領地の大半が持っていかれる。下手をすれば国ごと持っていかれるかもしれない。なんせ救援とは言っても軍を動かし、両国の軍が激突すればそれは戦争となんら変わりないのだから。
「つまり他国の救援は不可能。そう言いたいんだな。」
「ええ、この国を滅ぼさないためにもそれしかありません。」
詰んだな。もうこうなったらこの国が滅びる運命しかないだろう。何もしなくても勝手に自壊して、何かすれば滅ぼされて。本当にもうどうすることもできない。しかし考えてみるともっとも最悪なのは他国から軍で来られることか。
考えてみればこの国の軍との対決が終わっても国民全員が洗脳されているから子供から老人まで武器を手に戦うだろう。文字通り最後の一人まで。国民全員皆殺しにならないためにもここは少数で秘密裏にカイを殺すしかない。
「やり方としては城内に忍び込んで暗殺かな?それがもっとも最善の方法だと思うんだけど。」
「それは不可能よ。奴が城にいる限り奴は魔力タンクとつながった状態。運よく忍び込めても奴に近づいた時点で途方もない魔力で無理やり洗脳されるわ。」
「じゃあ奴を城から出して、なんならこの国から出して殺すしかないのか。」
「奴は用心深いから護衛の兵も嫌という程いるわ。それに奴がこの国から出ても私たちは出ることはできない。外部に仲間が必要になるわ。」
「外部と連絡する方法かぁ。なんかいい方法あればいいんだけ……あ!」
なんで俺はこんなことをすっかり忘れていたんだ。あるじゃないか外部と連絡を取る方法が。俺はスマホを取り出す。そして110番に電話をかけて警察を……なんてことはできないのでメッセージを飛ばす。
ミチナガ『“おい、今日は誰が店に出てる?”』
シェフ#3『“今日は俺です。どうしました?”』
ミチナガ『“店の従業員に頼んで大至急ルシュール辺境伯の所まで行ってくれ。ああ、でももうとっくに店じまいか。”』
シェフ#3『“大丈夫ですよ。ティッチが最近泊まり込みなんで。というよりもう住み込みで働いているんでいますよ。頼んでおきますね。”』
いつの間に従業員を住み込みで働かせていんだよ。俺に断りもないし。まあ今回はそれが役に立ったんだけどさ。少しくらいは相談してくれてもいいんじゃない?俺一応その店の店主だよ?まあその話はまた今度にしよう。
「おい、さっきから何をしているんだ?」
「ああ、すみません。実は外部と連絡を取る手段がありまして、それを使ってルシュール辺境伯に救援を頼もうと思いまして。」
「ルシュールだと!あの白幻の魔帝か!しかし外部の国に救援を求めるのは…いや、白幻は悪い噂は聞かない。それにあの国はここから離れているし、あの森を挟んでいるからこの国を占領するようなことはないかもしれない。それに白幻なら秘密裏に暗殺することも可能か…」
やっぱりルシュール辺境伯は有名人らしい。しかも良い方に有名だから誰も俺のこの行動を責めることはない。むしろ希望が見えたと感謝している。
しばらく待っているとルシュール辺境伯の元にたどり着いたのかシェフの眷属から連絡が来た。すでに事情まで説明してくれたらしい。話が早くて助かる。その上での回答は
シェフ#3『“残念だけど助けることはできないそうです。”』
ミチナガ『“な、なんで!?頼れる人はルシュール辺境伯しかいないのに。”』
シェフ#3『“理由は明らかな越権行為だからだそうです。洗脳されているとはいえ殺す相手は一国の王。それをむやみに殺したら重大な問題につながるので動くことはできないそうです。魔帝というのはそれなりに動けないように規則が厳しいんだそうです。同じ理由で兵を動かすことも難しいそうです。”』
「マジかよ…」
俺の一言で全員が察したようで先ほどまでの希望に満ちた顔が失われる。俺もはっきりと結果が出てから伝えるべきであった。むやみに希望を抱かせてはいけない。希望を抱けば抱くほどそれが失われた時の絶望は深いのだから。
シェフ#3『“しかしこうも言っています。私は兵を動かせないがミチナガくんの方で勝手に冒険者に依頼して救援に行くことは可能です。その際に私から一時的に洗脳魔法を撹乱する魔道具と、洗脳から身を守る魔道具を買って行ってもそれは私の問題にはなりません。私は君の商店と取引していますからね。誰かが文句を言ってもなんとでもなります。だそうです。”』
ミチナガ『“そういうことは早く言ってくれ。まったくもう……じゃあ人数を集めよう。洗脳にも耐えられそうな腕利きの人間を頼む。それに洗脳から身を守る魔道具を買えるだけ買ってくれ。撹乱する方も頼む。金はこれが解決したら前王からふんだくれるだけふんだくってやる。”』
希望が見えて来たぞ。このことを伝えると全員が歓声をあげた。このことで皆希望が見えて来た。しかしミミアンがそこで一つのことに気がつく。
「だけどどうやってやつを倒すんだ?白幻ならともかく、それ以外の人間じゃあ暗殺は難しい。そうなると奴を城から出すしかないけど…その方法はどうするんだい?」
「奴を城から出す方法には一つ考えがあります。そのためにも他にも多くの情報を集めましょう。決行までしばらく時間があります。成功する確率を上げるためにも今やれることをやれるだけやりましょう。」
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