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第75話 夢の国

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「ようこそカイ王国へ、皆様を歓迎します。」

 城門へたどり着くなり、門番がにこやかに大きな声でそう発した。しかし俺たちが来たのはブラント国のはずだ。これは一体どう言うことだ?

「もしかしたら王が変わったのかもな。小さい国じゃ無い話じゃない。むしろ王が変わるとともに名前が変わるのはよくあることだ。しかしブラントは家名のはずだ。全く別の家のやつが王になったのか?」

 その後、ピースが言った通り、検問もされることなくすんなりとブラント国へ入ることができた。普通は最低でも簡単な確認くらいはあるものだ。旅人に寛容な国になったのかもな。もしくは昔からそうだったか。

 検問所を抜けるとそこはお祭り騒ぎだった。昼間から酒を飲み、歌って踊る。これは明らかに祭りのようだが、よく見ると祭りらしい催し物はない。よく見ているとただ楽しくてそうしているだけのようだ。

「なんとも楽しい国じゃねぇか。最高の国だ。決めた、俺はこの国に住むぜ。」

「いいっすね。この国は最高の国っす。ガーグもたまにはいいこと言うっす。」

「おいおい、そんなに勝手に決めんじゃねぇよ。まあしかし、俺も賛成だな。この国はいい国だ。」

 ガーグもケックもナラームも全員してこの国に住むとまで言っている。まあ確かに明るくて楽しい国だ。冒険者というのはこういう国が好きなのだろう。

「とりあえずマックたちと合流しましょうか。すでに宿を取ったと言うことなのでそこに行きましょう。」

 そのまま移動するが、ガーグたちは早く馬車から降りて遊びに行きたいようだ。しかし仕事は仕事だ。最後まできちっとやってもらわなくては。

 ピースの現在位置から宿を突き止め、馬車を止めて宿に入る。今すぐにでも遊びに行きたいガーグたちをなんとか引き止め部屋に入る。するとマックはすでに酒を飲んで出来上がっており、ウィッシは少し無理をしすぎたのかベッドで横になっている。ピースもすでにこの国を満喫したようだ。

 まあもう問題はないのでしばらく自由行動ということにするとウィッシ以外の全員があっという間に街へと繰り出して行った。ピースもついていこうとしたのでそこは止める。しかし止めるといつもと違ってものすごく暴れる。

 ピースはなんとか俺の手から抜け出すとそのまま窓から飛び出す。しかしこの部屋は2階だ。そのまま地面に叩きつけられ死亡する。まあ10分経てば普通に復活するので特に気にしない。復活に金貨が消費されるのは痛いけど。

 俺は寝込んでいるウィッシの看護…とも思ったが、まあそんなヤワじゃないだろう。それに今は情報が欲しい。マックたちは絶対に遊んでいそうなので情報収集は期待できないな。あいつら盛り上がっていたからなぁ。

 俺は街に繰り出すと辺りを見回す。さっきは馬車の中でよく周りが見えなかったからなぁ。周囲を見渡しながら歩いていく。するとなんというか…

「これって…オセロだよな?ものすごい人気なんだけど。」

 俺の隣で大の男が遊びに興じているのは間違いなくオセロだ。近くでは将棋もやっているな。金をかけてやっているらしい。それを眺めに何人もの人間が集まっている。たかがオセロで大盛り上がりだ。まあ金かけているし多少は盛り上がるか。

「う、うまいぞ!これならいくらでも食べられる!これほどうまいものは食べたことがない!」

 いや、それただのハンバーグだと思うんだけど。それに色々並んでいるけど日本食とかが多いな。確かに俺にとっちゃ美味しそうだけど、こっちの国の人の口にも合うのか。前の国だと、安さと物珍しさからでしか売れなかったからな。この国だと結構商売の可能性がありそうだ。

 あれだけ美味しいと感動しているということは素材がいいんだろうな。日本食は素材の味に大きく左右される。この国の食材の生産方法を少し調べておくのは今後のためにはいいかもしれない。

 その後、大通りの活気の高さと人の多さにやられ、少し疲れたのでそれなりに人の多そうな路地へと入る。人気の少ない路地はさすがに危険と不安が高すぎる。路地にいる人たちもなんとも楽しそうだ。何人かは座り込んで俯いているが、おそらく飲みすぎだろう。こんな昼間っから遊びすぎだ。

 路地の奥には井戸があり、そこに奥様方が何人も集まっていた。これが本当の井戸端会議である。初めて見たわ。ちょっと感動ものだ。そこにいる奥様方は井戸についているポンプで水を組み上げると歓声を上げている。

「本当に便利ね。これのおかげで水を汲むのが本当に楽だわ。」

「これを作り上げたカイ様は本当に素晴らしい方だわ。」

 そうなのか?前の国だと魔力を流せば普通に水を組み上げられる井戸とかあったぞ。俺は魔力ないから使ったことないけど。それに何より、水道も通っていたし。魔力流せば水出てきたし。まあ俺は魔力ないから蛇口式のやつ使っていたけど。

 しかし、魔力式のものは値段が張るのかもしれない。この国ではまだ簡単につけることができないのだろう。だからこうして手動式の組み上げポンプを使っている。今までがバケツを使っての手動だとしたら大きな変化だ。

 しかしカイという名前、井戸から汲み上げるポンプ。おそらく異世界人だろう。それに多分、日本人。日本食をここまで流行らせ、国王になるとは…
 俺とは大違いだなぁ。

「羨ましいことだ。まあ俺は国王になって雑務に追われるのなんて真っ平御免だけどな。そう思うと今の商人はまだ自分にあっている気がする。本当は働きたくもないけど。」

 働かないとスマホを活用できないなんて世知辛い世の中だ。そのうち9大ダンジョンとかいう金貨で埋め尽くされたダンジョンへ行きたいな。そうすれば金の問題もすべて片がつくのに。

 しかし周囲の村々のあの無人の状況は一体どういうことなんだろう。この国がこれだけ盛り上がっているからみんなで遊びにきた?なんか違う気がする。情報を調べようにもとっかかりがないから何にもできないな。

 再び大通りに戻り、どっかの店で食事でもしながら情報を収集することにした。こういう時は居酒屋のようなところが良いのだが、みんな酔っ払いすぎて話がまともにできる状態じゃないだろう。

「こういう時は落ち着いた喫茶店の方が……どこもかしくも賑わいすぎて落ち着ける場所がないな…」

 こういう時、馬鹿騒ぎしているのは困るな。喫茶店が見つかっても賑やかすぎるので情報収集がしにくそうだ。それからいくら探しても落ち着けそうな場所が見当たらないので、もう適当に決めた店の中に入ってみることにした。

「いらっしゃい!お好きな席にどうぞ。何かご注文は?」

「何か軽い食べものを。飲み物は酒じゃなくてジュースで。」

「こんなに楽しいのにお酒を飲まないなんて。安くしとくよ?」

 安くされてもいらないと何度か断りを入れているのだが、それでも勧めてくる。しかし酒を飲む気にはならないと頑なに断り、なんとか注文を通した。

 なんていうのだろうか。別に酒を飲んで情報収集しても構わないのだが、周りがこれだけ変に盛り上がりすぎていると逆に冷めるという感じだ。むしろ冷静にさえなってくる。こんな馬鹿みたいに騒いで何が楽しいのだろう。なんか無理やり騒いでいる気がする。あ、この考えってもしかしてコミュ障?確かに元コミュ障だけどさ。

「あれ?でもなんでそんな風に思うんだ?俺は別に騒ぐのは嫌いじゃないのに。なんというか…このノリに合わせたくない感じが…」

 感覚で言えば、楽しくないのに上司の付き合いで無理やり付き合わせられている感じ。だけどなんでそんな風に思うんだ?この人たちは別にそんな無理に騒ぐ必要はないのに。
 まあそんなことを考えていてもしょうがない。とりあえず腹ごしらえしながら情報収集するか。

 料理を待つ間、耳をそばだてて聞いているといくつかの情報が入ってきた。とはいえ特に新しそうな情報はない。カイ様、国が発展した、いい国王だ、これからの未来も安泰だ。具体的に何がどう良くなったのかはいくら聞いていてもわからなかったが、まあ良くなってきたのだろう。

「日本料理の並ぶ店、組み上げポンプ…それにカイって名前か。これ以上新しい情報はなさそうだな。しかしここで同郷の人間に出会えるとは。いくつか話をしてみても良いかもな。国王に謁見するのもあの村長の手紙さえあればなんとかなりそうだし。」

 これだけ慕われているんだから、いきなり襲ってくることはないと思う。しかし油断は禁物だ。とりあえず街で聞き込みを続けて情報を集めよう。

「お待ちどうさま。さあ、たんと食べな。」

「ありがとうございます。それにしても随分と活気の良い国ですね。何かあったんですか?」

「そりゃあカイ様のおかげだよ。なんでもあのお方は異世界から来られたらしいんだけど、現れた2ヶ月前からこの街は良くなっているよ。本当にカイ様は偉大だね。そのおかげでこうして毎日お祭り騒ぎさ。」

「毎日?そんなに毎日こんな状況なんですか?こんなに毎日騒いでいたら食料だって無くなるし、労働力も減って大変なことになりませんか?」

「大丈夫だよ。なんていったってカイ様にかかればどんなことも解決するよ。」

 そういう女将の顔は、どこか無理やり作ったような貼り付けた笑顔のように俺には見えた。

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