上 下
62 / 572

第61話 鳥の唐揚げ

しおりを挟む

「う、う~ん…美味いけど物足りないな。」

 あれから街で材料を揃え、鳥カラのレシピを買って、さらにシェフが鶏の解体のレシピも必要だからっていうからそのレシピを買った。レシピ購入だけでもかなりの出費となったが、ようやくの思いで鳥カラが完成した。しかしなんというか…物足りない。

 前々から薄々思っていたが、このどこでもクッキングのレシピは最も美味しい調理法で料理ができるのではなく、一般的な作り方で作ることができるようになるだけなのだ。だからどこでもクッキングで作った料理を食べても感激するほど美味い!とかは無い。

 さらに美味しく作るためには誰かが作っている光景をスマホで撮り、レシピ化するしかない。ファルードン伯爵のところでだいぶレシピは手に入っているが、まだまだ足りないだろう。

「今回、作り方を知っているのは…俺くらいか。なんとか作ってみるかなぁ…」

 メイドさんに頼み厨房を借りる。料理はそれなりにできるつもりだが、今後もこういう機会が増えるのならば少し練習しておくべきだろう。

「さてと…材料の下ごしらえは全部シェフに任せてあるから俺は混ぜてあげるだけだな。ピース、ちゃんと撮影の準備はできているか?」

 ビシッと合図を送ってくれた。取り逃がしが無いように眷属達も取り囲んで撮影にあたっている。これなら万が一のこともないだろう。

「じゃあ作業に取り掛かるか。鶏肉にすりおろした生姜とニンニクを入れて、醤油に失敗作の日本酒を少々…後ごま油を少々…ゴマとニンニクと生姜はファームファクトリーで作っておかないとな。いろんな料理に使えるし。そんで揉み込んだらスマホの醸造蔵に入れて強制的に30分間時間を立たせる。あとは小麦粉をまぶして油で揚げて…」

 あれ?俺がやったのってなんだ?混ぜて油で揚げたくらいかな?3分クッキングの出来上がったものがこちらですみたいな感じになりそう。まあいいか。

「よし完成。ちゃんと撮れていた?」

ピース『“うん!ばっちりだよ。”』

「よしよし。じゃあ試食……うーん、美味いけどなんか違う。」

 カリカリっと感もないし、ジューシーでもない。それになんか生姜とか効かせすぎていまいち。もう一回作り直すか。

「ピース、すまんけどもう一回作り直しな。次こそはうまくいくから。」




「…あれ?俺って何作っているんだっけ?鳥の…なんだっけ?あれ?これなんだ?俺は一体何してたんだ?俺は一体何をしてどこにいってどこへ向かって…」

 そこでスパァンとピースのツッコミが入る。あんまり痛くないけど正気には戻った。あれ?この目の前にある料理はなんだ?なんの肉?

「あ、危ない危ない。次こそは平気だろ。あれ、これで何回目だ?」

ピース『“85回目です…本当に大丈夫ですか?”』

「だ、大丈夫だ。そっか…63回目あたりから記憶ないや。ちょっと一回休むわ。」

 鳥の唐揚げ…おそるべしだな。ここまで奥深いものだったとは…鳥カラなんて略せないよ。鳥の唐揚げ様だよ。あれ?それもなんかおかしいような。何言ってんだ俺?

「よし、次こそは成功させてみせるぞ。」

 もうシェフに材料を揃えてもらうのはやめだ。自分で一つずつやろう。そうじゃないともうわけがわからなくなってくる。ほんと、そこの奥にあるその料理はなんだよ。なんか動いているし。きもいし。あ、なんか目があったような…

 さ、さて、まず唐揚げに新たに加えるのは牛乳だ。これで臭みを消せるというのを昔聞いたことがある。それから溶き卵を加える。これで冷えてもカリッとするって聞いたことがある。…全部聞いたことがあるだな。けどさっきやって見たらうまく行っていたしいいよね。

 それから小麦粉に片栗粉を加えた。これでもっとカリッとするはずだ。後、鶏肉は漬け込んだタレの水分をしっかりと切っておく。衣がべちょべちょになるとカリッと感が出ない。

 それから二度揚げだ。初め低温、間休ませ終わりに高温だ。これで美味しくできるはず!揚げ時間もこれで完璧なはずだ!さあ、実食!

「あ、もう食べ過ぎてよくわかんねぇや。誰かに食ってもらお。」

 その後、近くにいたメイドさんに食べてもらったところ、大変高評価をもらった。これならきっと売れるはずだ。…価格設定どうしよ。明日調べるか。もう疲れたし寝よ。



 さて翌日。鳥の唐揚げ様の価格設定もなんとか済んだので、ミチナガ商店を開店させている。まだ開店させたばかりだというのに列ができつつある。これは今日も休む暇なく売り続けないとな。ちなみに鳥の唐揚げ様の販売はまだしていない。

 しかし…これから人を雇って6人を働かせるというのにこの店の大きさで平気なのだろうか?正直、4人もいたら結構狭い。元々1人で働くつもりでルシュール辺境伯から借りていたのでこの大きさで問題はなかった。

 しかし今後のことを考えたらもっと大きい店にする必要があるな。明日商業ギルドに入ったらそこらへんも聞いてみよう。


 そんなこんなで翌日、早速商業ギルドに着くとあの受付のエルフの人が奥へと案内してくれた。案内された部屋には今回の従業員の応募書類が積み上げられていた。…これ結構な量だな。

「二日間の間だけの短い募集でしたが、それでも結構な人数が集まりましたよ。全部で137名の応募がありました。」

「そんなにですか…その中から選ぶのは大変そうだな。」

 とりあえず時間もかかることなので早速片っ端から書類を精査していく。こんな風に人を雇うことなんてしたことがないからどういう点を見ていけば良いのかわからない。見た目だけで選んでいけばいいのかなぁ…けど、それは違うよなぁ。

「すみませんけど何か人を雇うので見たほうが良い点とかありますか?経験がなくてどこを見たら良いのか…」

「えっと…すみません。私も他に仕事があるので…」

 仕事があるんじゃ仕方ないか…なんて思わないぞ。そこはあんころ餅やおはぎの甘いものづくしの賄賂で興味を引かせる。それと新しい店舗を買いたいと言ったらすぐに書類を揃えてくれることとなった。ちょろいぜ!

 しかしエルフの人は本当に他に仕事があったので、他に人を呼んで一旦退席してしまった。しかし、他のギルド職員の人が入れ替わり立ち替わりでやってきて、あんころ餅を食べながらどんどん書類の中からダメなものを抜いていった。

 さすがにギルドの職員ということはある。一人一人の細かい普段の情報までしっかりと持っている。前の店をなぜやめたか、普段の行いはどうか、仕事の働きぶりはどうか。そんな細かい情報を聴きながら書類を減らしていくと、いつの間にか残りの書類が10名分になっていた。

「じゃああとはここから面接でもして減らせば良いですかね。」

「それでも良いですが、一応全員合格にしておいても良いかもしれませんよ。他にも応募していて、ここを滑り止めがわりにしている人も多いでしょうし。」

 すると部屋に一人のギルド職員が入ってきて、書類の中から一人を抜いてしまった。その人は他に受けていたところで決まったので、こっちは辞退するとのことらしい。なるほど、確かに滑り止め扱いにされているらしい。

「今残っている人々はかなり良い人たちだらけです。なので早いうちに合否を出しておかないと、これから他のところを受けにいってしまうかもしれません。決めるのは早ければ早いほど良いですよ。」

「そうですか…まあそういうならそうしてみます。ではこの9人に合格をつたえておいてください。働き始めるのは…店舗を決めてからですね。働き始める日は後日伝えるでも大丈夫でしょうか?なるべく早くするので。」

「大丈夫ですよ。店舗はどうしますか?空き店舗の書類はすでに用意しました。」

「そうですね…」

 それから店舗探しをしたが、良さげな立地の店舗を金貨1500枚で購入することとなった。しかし使える金貨はさほどないので、金貨1000枚以上の借金となった。

 この世界に来てから定期的に借金しているな。流通禁止金貨さえ使えれば余裕で払えるんだけどなぁ…まともに使える金貨は前金でほぼほぼ無くなっちゃったよ。

 店舗は決まったが、これから新店舗の掃除や備品を揃えたりするのに時間がかかるので、1週間後、新規開店ということになった。備品揃えるのどうしよ…お金ないんだけど。明日は今の店開けて金稼ぐかぁ…
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

異世界営生物語

田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。 ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。 目覚めた先の森から始まる異世界生活。 戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。 出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

マスターズ・リーグ ~傭兵王シリルの剣~

ふりたけ(振木岳人)
ファンタジー
「……あの子を、シリルの事を頼めるか? ……」  騎士王ボードワンが天使の凶刃に倒れた際、彼は実の息子である王子たちの行く末を案じたのではなく、その後の人類に憂いて、精霊王に「いわくつきの子」を託した。 その名はシリル、名前だけで苗字の無い子。そして騎士王が密かに育てようとしていた子。再び天使が地上人絶滅を目的に攻めて来た際に、彼が生きとし生ける者全ての希望の光となるようにと。  この物語は、剣技にも魔術にもまるで秀でていない「どん底シリル」が、栄光の剣を持って地上に光を与える英雄物語である。

チャリに乗ったデブスが勇者パーティの一員として召喚されましたが、捨てられました

鳴澤うた
ファンタジー
私、及川実里はざっくりと言うと、「勇者を助ける仲間の一人として異世界に呼ばれましたが、デブスが原因で捨てられて、しかも元の世界へ帰れません」な身の上になりました。 そこへ定食屋兼宿屋のウェスタンなおじさま拾っていただき、お手伝いをしながら帰れるその日を心待ちにして過ごしている日々です。 「国の危機を救ったら帰れる」というのですが、私を放りなげた勇者のやろー共は、なかなか討伐に行かないで城で遊んでいるようです。 ちょっと腰を据えてやつらと話し合う必要あるんじゃね? という「誰が勇者だ?」的な物語。

どーも、反逆のオッサンです

わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。

蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-

星井柚乃(旧名:星里有乃)
ファンタジー
 旧タイトル『美少女ハーレムRPGの勇者に異世界転生したけど俺、女アレルギーなんだよね。』『アースプラネットクロニクル』  高校生の結崎イクトは、人気スマホRPG『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』のハーレム勇者として異世界転生してしまう。だが、イクトは女アレルギーという呪われし体質だ。しかも、与えられたチートスキルは女にモテまくる『モテチート』だった。 * 挿絵も作者本人が描いております。 * 2019年12月15日、作品完結しました。ありがとうございました。2019年12月22日時点で完結後のシークレットストーリーも更新済みです。 * 2019年12月22日投稿の同シリーズ後日談短編『元ハーレム勇者のおっさんですがSSランクなのにギルドから追放されました〜運命はオレを美少女ハーレムから解放してくれないようです〜』が最終話後の話とも取れますが、双方独立作品になるようにしたいと思っています。興味のある方は、投稿済みのそちらの作品もご覧になってください。最終話の展開でこのシリーズはラストと捉えていただいてもいいですし、読者様の好みで判断していただだけるようにする予定です。  この作品は小説家になろうにも投稿しております。カクヨムには第一部のみ投稿済みです。

処理中です...