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第54話 利権問題
しおりを挟むあれから1週間、未だにおはぎなどの売れ行きは好調だ。ただ、俺の店に並びにくる人は開店当初よりもだいぶ少なくなった。それなのに売れ行きが好調というのは、委託販売を開始したからだ。
このおはぎなどの人気に目をつけた喫茶店や、飲食店から、うちでも取り扱いたいという申し出に対して、大量におはぎなどを卸している。おかげで、店番が多少楽になった上に、売り上げも伸びているのだ。契約金なども含めて、この1週間で金貨100枚近く儲けている。
このスマホのおかげで経費ゼロ、店もルシュール辺境伯の口利きでゼロ。つまり俺の労力と使い魔達の労力以外に何も損はないのだ。本来なら半分以上経費でかかりそうなものなのにな。
さて、今日は1週間の売り上げをルシュール辺境伯が聞きたいそうなので、夕食を共にすることとなった。一緒に夕食を食べるのなんてファルードン伯爵の元にいたとき以来だ。
夕食は食事用の大広間で行われると思いきや、なぜかルシュール辺境伯の自室で食事をすることとなった。まあ別に豪勢な食事とかがくるとは思ってもいなかったけど、これは正直…ないなぁ。
「すみませんね。私はここにいるのが一番落ち着きますので。それに今回はやることを考えたらここが最適だったものですから。」
「い、いえ……。それにしても前から思っていたのですが、ルシュール様は豪華な食事とかはあまり取らないんですね。」
「ええ、誰か人のところに行けば必ず豪華絢爛な食事の数々が出てきますから。正直、ずっと食べていると飽きも来るし、疲れてしまうので。だから自分のところでくらいこういったものを食べたいんですよ。」
金持ち及び権力者ならではの困りごとって感じだな。ルシュール辺境伯クラスの人ならば、ほかの貴族達も変な食事は出せない。その領地の最高の食事を提供しなければ面目が立たない。確かにそんなのずっと食べていたら気疲れしそうだ。
俺も焼肉行った次の日は卵かけご飯とか食べたくなるんだよなぁ。あったかいご飯の上に醤油と鰹節かけてやったら最高だ。あと、ちょっとごま油を滴らしてやったら…たまらん!
飲みの次の日はお茶漬けとかな。あ、これじゃあまりにも考え方が庶民すぎるか。
「それじゃあ食事をとりながら簡単に話を聞きましょうか。それで米を使った新製品の売り上げはどうですか?」
「かなり順調ですよ。今は15くらいの飲食店などと契約を結びました。他にも契約を結びたい人はいますが、生産数にも限りがありますのでこれ以上は少々厳しいですね。あ、一応紙にまとめておいたのでこれを見ればすぐにわかりますよ。」
事前にメイドさんから紙をもらってそこに契約した飲食店の名前、それに日にち毎の売り上げなどをまとめておいた。色々細かく書いておいたので、情報としては申し分ないはずだ。これを作るのは意外と大変だよな。結構頑張ったはずだ……ポチたちが。
い、いやだって、俺まだまだこっちの言葉描くのに慣れてないから、全て書き上げるのに時間がかかる。そのぶんポチたちに任せれば、細かい字もポチたち自体が小さいので描くのがスムーズだ。断然俺より仕事早いな。
「これは分かりやすくてよいですね。なるほど……この売り上げはすごいですね。早い段階で量産体制に入れてよかった。」
「本当に英断だと思いますよ。これなら遅くても半年後には私以外でも生産することができるでしょう。」
「ええ、これは間違いなく私の領地の名産品になります。そこで、商売の話をしましょう。お互い知らない中ではないですから、腹を割って話しましょう。」
商売の話?だけど俺は特にルシュール辺境伯に売れるものなんてないぞ?おはぎでも買いたいのかな?そのくらいいくらでも渡すのに。しかしルシュール辺境伯の顔はいたって真面目だ。ちょっと本気になった方が良さそうだな。
「まずはもち米の苗を売ってもらいたい。私が研究している米の中にはもち米に近いものはありますが、ミチナガくんの持っているもち米と比べると味が落ちます。それに少しでも収穫を早めたいので、苗の状態で売ってもらいたい。できますか?」
苗の状態で作物を取り出すのか。やったことはないが、できないことはないはずだ。しかし確証もないのにできますというのはまずいだろう。試しにファームファクトリーを開いて苗を取り出そうとしてみる。いつもと同じ手順で何一つ問題なく取り出すことができた。
「初めて取り出しましたが、問題なくできるようです。今のうちから育て始めれば、明日の昼までには苗は完成します。どのくらいの量かも気になりますが、あまりにも大量でないなら用意できると思います。」
「量に関しては後ほど書類を渡します。それともう一つ、おはぎなどの利権を売ってもらいたいのです。」
「利権?この世界にはちゃんと利権があるのですか?」
「ええ、商業ギルドによって規定されています。小さな違反は後を絶ちませんが、大規模な商会などによる違反というのは重い罰則があるのでまずありえません。私はもち米による製品をこの領地の新たな特産品にしたいのです。そこで利権問題が起きては後々面倒ですから。」
「なるほど…けど俺はまだ商業ギルドに報告も何もしていませんけど…」
「そうですね。ですが今は返ってそれがよかったのです。今なら利権を私が奪ったということにならずに綺麗に型がつきますから。ああ、今のうちに誰かに利権をうばわれることはありませんよ。これだけ話題になっていれば、商業ギルドも何も関係ない人間が利権を主張しても無視できますから。」
なるほど、ちゃんとやってくれるんだな。だけど利権か。これは大きな金になること間違いないな。今の状態でも俺の売り上げは週に金貨100枚。今後、量産体制を整えればさらに増えること間違い無いだろう。
量産体制の目処が立ったとして単純に多めに見積もって月に金貨1000枚、年間金貨1万枚以上。そんな金のなる木の利権を売るのか。適正価格はいくらになるんだろう。これは慎重に行こう。だけど、あまり金を搾り取りすぎてこの関係性に亀裂を入れたくない。
「わかりました。少し気合いを入れないといけませんね。ではまず、もち米の件から行きましょう。もち米の苗を売るというのは簡単に聞こえますが、新品種を売り渡すということです。ルシュール様が同じものを品種改良で作ろうとしたら、時間とお金がかなりかかります。それを踏まえた上で価格設定をしてください。」
「ええ、もちろんです。品種改良は改良するまでの時間と、改良したものを安定させるまでの時間もありますからね。米の場合は一度育つまでに時間もなかなかかかりますから。」
「それとおはぎの件ですが、現在は他にもあんころ餅、うぐいす餡、きなこも売られています。しかし現在は原料の問題や生産量の問題から作れていませんが、他にも新商品があります。それも同様に利権を買い取ってもらいたいです。」
「ええ、もちろんです。ですが少しだけ話を変えたいのです。私が利権を完全に買い取ったというのでは、後々私が金にものを言わせて無理やり買い取ったと言われかねません。ですので共同開発にしませんか?その方が、人々が知った時に不信感を抱かない。それに実際私はいくらか出資していますからね。」
そういや準備の段階で設備もそうだが、結構お金もらったな。それに研究用の米とかももらったし、色々お世話になっている。確かに共同研究でも問題ない。というか、現状で共同研究ということにしていない方がおかしいような気もする。
「さて、ではもち米という新品種とそのもち米を用いたお菓子の数々の利権。これらすべてを合わせるとかなりの額になります。金貨にして数十万枚はくだらないでしょう。いや、金貨数十万枚くらいは確実に売ります。」
かなり気合が入っている。俺だけでは正直、どんなに頑張っても金貨数万枚くらいの売り上げにしかならない。しかし領主であるルシュール辺境伯が本気を出せば金貨数十万枚、いや数百万枚クラスの大事業にすることができる。
間違いなくこの領地の柱となる事業に生まれ変わることができるだろう。そんな事業には何か小さな問題も残しておきたくないルシュール辺境伯の気持ちもよくわかる。
「しかし、ここで金銭取引があったと公になったら何を言われるかわからない。私は小さな禍根もなるべく残したくないのです。そこで…決して公にならない方法を、もしも公になっても偽りだと思わせる方法をとりたいと思います。」
「そんな便利な方法があるんですか?公になっても嘘だと思わせるなんて難しいような気もしますけど。」
「通常ならこの方法は使えません。しかしミチナガくんなら問題ないでしょう。流通制限金貨を何の問題もなく使えるあなたならば、私の領地の数少ない問題でもある流通禁止金貨も使えるはずです。」
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