上 下
47 / 572

第46話 新しい挑戦

しおりを挟む

「見えて来ましたよ。この辺りからが私の領地です。」

「え!?もうですか!ちょ…早すぎ。」

 馬車で出発してからおよそ4…時間。もう着いてしまった。想像以上に早すぎる。馬車で3時間ほど移動した地点から転移を行い、一気に移動した。

 そこからゆっくりと1時間ほど移動したら、もう領地についた。本当は自身の城まで一気に転移することもできたのだが、どうせなので、自身の領地の周辺の視察も行うとのことだ。

 マジで何か良い商売の案を考えていたのに、考える暇もなかった。領内に入り村に入ると、ルシュール辺境伯の馬車を見た村人達が全員集まって来た。集まって来た村人達はルシュール辺境伯の馬車の道沿いに集まると全員頭を下げた。

 その光景は日本人の俺にはとても異様な光景に見えた。人気があって人々が群がり、ワーキャー騒ぐのならよくわかる。しかし声も出さずに集まって頭をさげるというのは、信じられない光景なのだ。ある種のカリスマ性がなせる技だろう。

「みなさん、ご苦労様です。それといつも言っていますが、別に集まる必要なんてないんですよ。」

「何をおっしゃいますかルシュール様。この村の発展と平和が守られているのはあなた様のお力のおかげです。いくら感謝の言葉を述べても足りないくらいなのです。だからせめてお目にかかれた時はこうすることをお許しください。」

 す、すっげぇ…こんなことって本当にあるんだ。一瞬、宗教の教祖的な感じがしたけれど、そうではない。領主として正しい行いと発展を遂げたおかげで、こうして皆から慕われているんだ。

「ええ、わかっていますよ。では少し最近の話を聞かせてください。それと少し作物と土の様子も見ておきたいですね。ミチナガくんも一緒に見ませんか?」

「ありがとうございます。では少しばかりご一緒させていただきます。」

「ではこちらへどうぞ。足元にお気をつけください。」

 馬車から降りて案内されるままついて行く。土壌の説明から入っているが正直よくわからない。試しに土を手に取ってみたがしっとりとしていてボロボロとしている。良い土なのかなぁ…

「今のところ虫の心配はありませんか?」

「はい、同じ作物を連続して育てないように輪作形態をとっているので問題ありません。それに枯れた作物を集めて野焼きも行なっているので虫も病気も何も心配ありません。」

「それは何よりです。では研究の方はどうですか?」

「今年は新たに3品種が作れましたが、どれもイマイチですね。試食の準備をさせておきますので、先に稲の方を見てください。」

「稲?もしかして米を作っているのですか?」

「ええ、この村は米の研究、開発をしているんですよ。あなたにとっては懐かしいですか?」

 そりゃ懐かしいですとも。この世界に来てから米なんて一食たりとも食べていない。今までずっと我慢していたが、それが食べられるのか!

 移動して行くと、なんとも言えない匂いがして来た。田舎の田んぼ特有のあの匂いだ。青臭いような言葉で表現しにくい、あの不思議な稲特有の匂い。さらに進むと細い水路がいくつも張り巡らされた田んぼが見えて来た。

 収穫にはまだ時期が早いので、青々しい稲が力強く並んでいる。風になびいた時のサラサラと硬い葉の擦れ合う音が故郷を思い出す。あ、俺生まれも育ちも都会っ子だ。全く故郷関係ないじゃん。けど親戚の家は田んぼあったな。

「こちらがエルフ米の5代目です。品種改良による味のばらつきも完全に落ち着きました。隣の田んぼは、さらに香りと粘りのあるものを掛け合わせたものです。しかし病気に弱いので今後も改良が必要です。」

「もう少し代を重ねる必要がありますか…新品種はハウスですか?」

「ええ、こちらです。」

 案内されたのは大型のビニール…いや、これガラスハウスだ。おそらく強化ガラスの温室なのだろう。この辺りはものすごい近代的っぽいんだけど。何これスゲェ。

「このハウスの米は香りを重点的に改良した品種です。香りに関しては申し分ないと思います。味の方は…ひどいものですが。」

「香り以外はダメなんですか?なんでそんなものを…」

「私が依頼しておいたものですよ。改良は常に全て良い結果だけを求めていてはいけません。その逆をあえてすることで、より品種改良の知識に役立てるんです。それにこの米もいずれは他のものと掛け合わせて、香りの良い米を作るのに役立ちますから。」

 そういうものなのかなぁ。品種改良とかは全く知らないのでなんとも言えない。ただ、そういうものなのだと思っておこう。

 その後もいくつも説明を受けたが、よくわからない。ただ役に立ちそうな話なので、スマホで録音だけはしておいた。一通りの説明を受けたのちに試食会が始まった。これがいちばんの楽しみだ。

「えー…では本日、ルシュール様がおいでになられたので品評会を始めます。まずは平均的な味を覚えていただくために、エルフ米から始めたいと思います。ではお願いします。」

 合図とともに運び込まれて来たのは、茶碗によそられた純白の白米。茶碗を受け取り間近で見てみるとその特徴がよくわかる。少し細長い米で、色艶はよく、香りもなかなかに良い。

 我慢できずに一口食べてみると衝撃で鳥肌がたった。この米はまさしく日本の米と同じだ。もっちりとしていて甘みもある。あまりの懐かしさにうっすらと涙まで出て来た。あまりの感動にすぐに飲み込むのがもったいなくて何度も咀嚼する。ああ、この味だよ…うますぎる。

「今年も良い出来ですね。各村に手配してありますか?」

「はい、すでにこの米の量産体制は整っております。全ての民に行き届くことでしょう。」

 それから続々と新しい米が届く。どの米も最高だ。しかしなんというのだろうか。この米の味は俺が地球で普段食べていたものより少しいい程度だ。正直に言えば、めちゃくちゃうまい米というわけではない。まあ日本の米に対する努力は凄まじいからな。そうそう追いつけないだろう。

 しばらくすると最後に一つの米が少量だけ盛られて来た。その米はなんというか…美味しくなさそうだ。米がばらけていて、パサパサしてそう。

「えー…では最後になります。こちらが新品種になります。味はダメですが、香りは良いのでそこを評価してください。」

 ああ、あのハウスで育てていた米か。紹介された時も先に美味しくないと言っていたからな。最後にこんな米を食べるのは正直嫌だが、まあこれも仕事みたいなものだ。

 配られたそばから食べ始めているが、先ほどもでの米と比べて皆、嫌そうな顔をしている。よほど美味しくないのだろう。待っていると俺にも渡されたので、香りだけに集中して一口食べてみる。

 口に入れただけで美味しくないのがよくわかる。噛めば噛むほどその欠点がよくわかる。ボソボソしているし、何か硬い。確かにいやそうに食べる気持ちがよくわかる。

 しかしなんだろうか。何か懐かしいような気がする。何か…昔食べたことのあるような…どこだったかな。確か…そうだ。あの田んぼのある親戚の家に行った時だ。親戚のおじさんが嬉しそうに俺に食わせて、嫌がる姿を見て笑っていた。あの時の米の味だ。あの米は確か…

「あ、これ酒米だ。」

「ミチナガくん。この米を知っているのですか?」

「ええ、故郷で酒を作る時に使われていた米です。確かこんな味でした。」

 酒米とは酒専用の米だ。コシヒカリやななつぼしのような一般的に食べられる米というのは酒造りには向かない。酒米は通常の米よりも米の粒も大きく、でんぷん質が多い。だから酒の味を損なう雑味の部分が少ないのだ。

「米の酒…もしや口噛み酒のことですか?」

「あ、それもそうなんですけど。この米を加工して酒を作るんです。ちゃんと作れれば美味しいお酒になりますよ。」

 口噛み酒はこの世界にもあるのか。まあ日本でも最古のお酒といえば口噛み酒も出てくるからな。ただこのご時世に口噛み酒は売れないだろ。…まあ噛む人によるけど。人によってはバカ売れするけど。

「それは興味深いですね。作ることはできますか?」

「い、いやぁ…どうでしょうか。他にも必要な材料も設備もありませんし、私も作り方まではちゃんと知りませんので。なんともいえません。」

 このスマホで作れればいいけど、酒蔵なんてないからな。だけどやりようによってはスマホで作れないこともないような気もする。何かこなせばアンロックされるみたいなことないかな?

「どうせですから少しもっていきますか?ルシュール様の連れて来たお客様に何も持たせずに帰らせるというのも忍びないですから。それに採れても誰も食べませんから家畜の餌くらいしか使い道もありませんし。」

「ではやれるかどうか試してみます。いつになったら出来上がるかわかりませんが、出来上がったら必ず持ってきます。」

 どうやらこの街で何をするかは決まったようだ。酒はいくらあっても、いらないなんてことはないだろ。高く売れるし、商売としてはバッチリだ。どこまでできるか挑戦だな。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

男女比1/100の世界で《悪男》は大海を知る

イコ
ファンタジー
男女貞操逆転世界を舞台にして。 《悪男》としてのレッテルを貼られたマクシム・ブラックウッド。 彼は己が運命を嘆きながら、処刑されてしまう。 だが、彼が次に目覚めた時。 そこは十三歳の自分だった。 処刑されたことで、自分の行いを悔い改めて、人生をやり直す。 これは、本物の《悪男》として生きる決意をして女性が多い世界で生きる男の話である。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

とある中年男性の転生冒険記

うしのまるやき
ファンタジー
中年男性である郡元康(こおりもとやす)は、目が覚めたら見慣れない景色だったことに驚いていたところに、アマデウスと名乗る神が現れ、原因不明で死んでしまったと告げられたが、本人はあっさりと受け入れる。アマデウスの管理する世界はいわゆる定番のファンタジーあふれる世界だった。ひそかに持っていた厨二病の心をくすぐってしまい本人は転生に乗り気に。彼はその世界を楽しもうと期待に胸を膨らませていた。

どーも、反逆のオッサンです

わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。

蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-

星井柚乃(旧名:星里有乃)
ファンタジー
 旧タイトル『美少女ハーレムRPGの勇者に異世界転生したけど俺、女アレルギーなんだよね。』『アースプラネットクロニクル』  高校生の結崎イクトは、人気スマホRPG『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』のハーレム勇者として異世界転生してしまう。だが、イクトは女アレルギーという呪われし体質だ。しかも、与えられたチートスキルは女にモテまくる『モテチート』だった。 * 挿絵も作者本人が描いております。 * 2019年12月15日、作品完結しました。ありがとうございました。2019年12月22日時点で完結後のシークレットストーリーも更新済みです。 * 2019年12月22日投稿の同シリーズ後日談短編『元ハーレム勇者のおっさんですがSSランクなのにギルドから追放されました〜運命はオレを美少女ハーレムから解放してくれないようです〜』が最終話後の話とも取れますが、双方独立作品になるようにしたいと思っています。興味のある方は、投稿済みのそちらの作品もご覧になってください。最終話の展開でこのシリーズはラストと捉えていただいてもいいですし、読者様の好みで判断していただだけるようにする予定です。  この作品は小説家になろうにも投稿しております。カクヨムには第一部のみ投稿済みです。

マギアクエスト!

友坂 悠
ファンタジー
異世界転生ファンタジーラブ!! 気がついたら異世界? ううん、異世界は異世界でも、ここってマギアクエストの世界だよ! 野々華真希那《ののはなまきな》、18歳。 今年田舎から出てきてちょっと都会の大学に入学したばっかりのぴちぴちの女子大生! だったんだけど。 車にはねられたと思ったら気がついたらデバッガーのバイトでやりこんでたゲームの世界に転生してた。 それもゲーム世界のアバター、マキナとして。 このアバター、リリース版では実装されなかったチート種族の天神族で、見た目は普通の人族なんだけど中身のステータスは大違い。 とにかく無敵なチートキャラだったはずなんだけど、ギルドで冒険者登録してみたらなぜかよわよわなEランク判定。 それも魔法を使う上で肝心な魔力特性値がゼロときた。 嘘でしょ!? そう思ってはみたものの判定は覆らずで。 まあしょうがないかぁ。頑張ってみようかなって思ってフィールドに出てみると、やっぱりあたしのステイタスったらめちゃチート!? これはまさか。 無限大♾な特性値がゼロって誤判定されたって事? まあでも。災い転じて福とも言うし、変に国家の中枢に目をつけられても厄介だからね? このまま表向きはEランク冒険者としてまったり過ごすのも悪く無いかなぁって思ってた所で思わぬ事件に巻き込まれ……。 ってこれマギアクエストのストーリークエ?「哀しみの勇者ノワ」イベントが発動しちゃった? こんな序盤で! ストーリーモードボス戦の舞台であるダンジョン「漆黒の魔窟」に降り立ったあたしは、その最下層で怪我をした黒猫の子を拾って。 って、この子もしかして第六王子? ってほんとどうなってるの!?

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

処理中です...